來る事も有べきか。そのやうだいを見たく思ふに。こよひ一
夜番をすへて。替る事も有ならば。早〻我に知らせ
てたべと有ければ。名主年寄畏て。我〻兩人直に罷
有らん。御心易く思召とかたく領定仕れば。悦びいさん
で和尚を始め。以上八人の人〻。皆〻寺へぞ帰られける。
是時いかなる日ぞや。寛文十二年三月十日の夜。亥の
刻ばかりに。累が廿六年の怨執。悉く散じ。生死
得脱の本懐を達せし事。併是本願横帋をさくの
利益。只恐は决定信心の導師の手にあらんのみ
- 菊人〻の憐を蒙る事
去程に祐天和尚。餘りの事のうれしさに。仮寝の夢も結
びたまはず。まだ夜ふかきに寮をたち。惣門さして出給ふ
門番あやしみ夜もいまだ明ざるに。いづ地へかおはしますと
いへば和尚のたまわく。我は羽生へ行なり。夜中に何
共左右やなかりしかと問たまへば。門守がいわくされば夜前
の仰により。随分心懸待候へ共。いまに何のたよりも御座
なく候。羽生への道すがら。山狗もいで申さん。それがしも御供
仕らんとぞ申ける。和尚のたまはく汝をつれゆけば跡の
用心おぼつかなし。とかふせば夜も明なんに。行さきは別義
あらじ。かたく門を守り居れとて。只一人すご〳〵と羽生
村に行着件の所を見たまへば。菊を始め二人のばん
衆前後もしらず臥して有。和尚立ながら高聲に