ならず是成名主との。よき若衆にてありし比。しうとめ
御ぜんのいとおしみ。あわせをぬふてきせんとて。嶋木
綿を手折にし。さらしてほしおかれけるを汝が親ぬすみ
とる。是をばたれ〳〵見しかども。若告たらば汝が親。火を
つけそふなるふぜいゆへしらぬよしにて居けるとき
名主どの腹を立て。村中をやさがしせんと有ければ
そのおき所なきまゝに。名主のうらのみぞぼりへひ
そかにふみこみおきたるが。其後日でり打つゞゐて。水
の淺瀬にかの木綿。五寸ばかり見へたるを。引あげて
見られければ。みなぼろ〳〵とくさりたり。是はむら
中に。かくれなし。さてその外に人の知らぬつみとが。い
くらといふ数かぎりなしと。又もいわんとする所に名主大
声あげて。みな〳〵たわことせんなし。各〻も聞べからず
日も暮るに。念佛いざやはじめんとて。法蔵寺を請
じ。一夜別時を開闢する時。きくが苦痛少しやみけれ
ば。人〻悦ひきくよかさねは帰れりやと尋ぬるに。きくが
いわくいなとよそのまゝ我がむねに居たりと答ふ。かく
のごとく折〳〵問ふに。其夜中は終にさらず。夜も明
ゑかうの時にいたつて。きくがいふやうかさねはいづくへか行
きし。見へずといゝしが。しばらくありて又來りわきにそふ
て居るといへば。法蔵寺も名主年寄も。皆〻あきれ
て居られたる内に。麁菜の斎を出しけれども。三人目と