いふ時。一同に云けるは名主年寄へ申す。今夜村中打寄一夜の大念佛を興行し。かさねに手向たまはゞ。かれが成佛。疑ひなし。しかるに彼者廿六年流轉して。冥途の事をよく知つらんなれば。我〻が親兄弟の死果生所をも。たつね聞度侍るとあれば名主聞てよくこそいゝたれ此事。我等も聞度候へば。今日はもはや日も暮ぬ。明日早〻寄合んと各〻約諾相究。みな我が屋にそ帰りける
- 羽生村の者とも親兄弟の後生をたつぬる事
去ほどに二月廿七日。ひがんの入にあたりたる辰の上刻より村中の男女とも。与右衛門が家に充満し。四方のかこひを引はらひ。見物すもうの場のことく。前後左右に打こぞり亡魂の生所をたづねんと。一〻次第の問答は。前代未聞の珍事なり。其時名主三郎左衛門すゝみ出て。あわふき居たる菊にむかひ。かさね〳〵とよばわれば。菊が苦痛たちまちしづまり。起きなをりひざまついてぞ居たりける。さて名主のいふやうは。今日村中あつまる事別義にあらず昨晩やくそくの通り。今夕一夜別事の念佛を興行し。すみやかに汝をうかべん。しかるに廿六年このかた。當村の男女共。冥途におもむくあまたあり。だん〳〵にたつぬべしくわしくかたりて聞せよといへば。灵魂答ていわく。地獄道も数おゝく。其外四生の九界無邊なれば。趣く衆生も