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至極に聞ゆれ共。願（ねが）ふ所はかなひがたき望也。凡（およそ）起（き）立（りう）塔像（とうざう）の事善（じぜん）を修（しゆ）するには。相應（さうおう）の財産（ざいさん）なくては成就（じやうじゆ）せず。与右衛門が家（いゑ）まづしくして少分（せうぶん）のたくわへなき事は。汝が知て今いふ所也。此上は名主殿の下知（げち）を以て。㝡前（さいぜん）のとをり村中のこらず。五錢（せん）十錢のさしつらぬきをなさるゝとも。人のこゝろざし不同（ふどう）にしてあるるひはおしみあるひは腹（はら）たち。あるひはめいわくに思ふものあらば。是清浄（しやう〴〵）の善にあらず。しからば汝が遠き慮（おもんはかり）も。おそらくは相違せんか。只おなじくはまづはやく成仏（じやうふつ）して。一切滿足（まんぞく）の位（くらゐ）を得。思ひのままに報恩（ほうをん）し心にまかせて人をも導（みち）びけ。自證（じせう）もいまた埓（らち）あかて。いわれざる報恩（ほうおん）化他（けた）の願望（くわんもう）。せんなし〳〵。といひければ。怨灵（おんれう）こたへていわく。其事よ庄右衛門どの自證（じせう）とくだつのためにこそ。かゝる化他（けた）の願（ねが）ひもすれ。且又貧者（ひんじや）のかなわぬ望とは。心得られぬ仰かな。与右衛門こそひんじやなれ。かさねは正しく七石目の田畑（てんばく）ありこれを代（しろ）替（かへ）。石佛領（りやう）になしてたべといふ時。庄右衛門息（いき）をもつがせずさてこそよかさねどの。ほうおんしやとくは違（ちが）ひたり。汝已（すで）に地獄（ぢごく）をのがれ出て位（くらゐ）を増進（ぞうしん）する事。ひとへに菊（きく）が恩（おん）ならずや。しからば菊（きく）をたすけおき。衣食を与（あた）へめぐむならば。報恩（ほうおん）ともいゝつべし。その上田畑（でんばく）資財（しざい）は本より天地の物にして。定（さだま）れる主なし。時に