力本願の称名ゑかうによつて亡魂すみやかにさり人〻安堵の思ひをなすのみぎり又明る二月廿六日の早朝より。彼灵來て菊に取付。責る事前のごとし時に父も夫も大きにさわぎ。早〻名主年寄にかくと告れは。兩人おどろきすなはち彼か家に來て三郎左衛門問ていわく。汝かさねが怨灵なるが。すでに其方が望にまかせ菩提所の住持を請し。其外地下中打寄念佛をつとめ其上惣村のあわれみを以て五錢三錢の志をあわせ。一飯の斎を僧に施し。重苦抜済頓證菩提のゑかうすでに畢て聖灵得脱するゆへに菊まさに本復せり。今何の子細有てか妙林爰に來らんや。おそらくは累が灵魂にあらし狐狸の所以成るべしとあらゝかにいへば菊が苦痛たちまち止むで。起直りいふやう。いかに名主との。此間の念佛興行斎の善根。村中の志。慥に請取悦ひ入て候去ながら。仏果はいまだ成せず。その上一つの望有て來る事かくのごとしといへば。年寄問ていわく。汝実のかさねならば。心をしづめて能聞け。夫本願の称名は。一念十念の功徳によつて。いかなる三従五障の女人もすみやかに成仏し。其他八逆謗法無間墮獄の衆生も。必ず往生すと。智者学匠達の勧化にもたしかに聞傳へたり。しかるに先日一挺ぎりの