はしり行き。彼の女に近付んとあらそひ行に。林の切かぶさながらつるぎにて足をつんざき。あるひはゆん手め手の。木かやの葉にさわれば。はだへをやぶり。しゝむらをけづるまた空よりは風のそよふくに。剱の木の葉はたへずおちかゝつて。首をくだきなづきをとをすゆへ。五体より血を流す事いづみのわき出るごとく。道も木草も血しほにそみ。谷の流れもそのまゝ。あかねをひたせるに同じ。かくからくしてやふ〳〵行付くと見れば。あらぬ野山の刀の木の梢にうそぶき。さきのごとく。人をまねきたぶらかす。かやうに男は女にばかされ。おふなはおのこにたぶらかされてたがひに身を刄にかけ。かばねに血をそゝくを見れば。かはゆくもあり又おかしくも有しといへば。又問ていわく。さて其剱刄は。汝が身にはたゝざるや。其外には何事か有しといへば。菊こたへていわくさればにや彼つるぎ。我身にかつてあたらず。しげれる中をわけて行くに。道の木かやも外になびき空よりふる刄も。我が身にはかゝらず。すべていかなる故やらん。おそろしき事少もなかりき。さて其山を過て。びやう〴〵たる野原を行けば。向に當てけつかう成。門がまへの屋あり。番衆とおぼしき人よき衣装にて。あまた居られしに近付き。事のやうをたづねければ爰は極楽の東門と仰せられし。ゆかしさのまゝ。さし