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ヌが見付けたので有つた。

 彼は直ちに隣の者に報じて云ふ。今此裏に人間らしき物を見た。あれは慥に(ヌチヤ)露人に相違ない、彼れは若し此處へ出て來て部落に弊害をしては困るから殺さうではないかと、云ひしに皆が、不賛成で有つた。彼れ是言つて居る內に(ドルシン)露西亞の義勇兵と云ふのが一人、二人と順々に出て來たのが二百人の一隊彼等は榮濱に駐屯、豐原方面の戰況不順の爲め榮濱より、內淵の白鳥湖に注ぐ「ヤラケブシナイ」小川の奧に潜伏し夫れより山間北部に向つて進行し、小田寒の裏に出沒したのである。順々出沒したのを一方は餘念なく漁に夢中の連中が、夫ら露助が來た、逃げろと云ふと諸共に繫止したる漁船に飛び乘つたが余り、急激の爲め船の繫止綱を解く事を忘れ、夢中に船を漕ぎ出さうとしても綱を解かざる故に船は出ず、其內一人が綱を解船を漸く出したが、彼等露兵等は隊長の「ウテー」の號令と共に一聲射擊に打出す砲彈は霰の如く船を纏ふのである。瞬く內に一人倒れ二人倒れて其內の一人は海に飛び込み本船に(沖)向つて泳ぎ出したと云ふ。併して終に船には人が一人も見えなくなつて只船のみ水の上に流れてゐたと云ふ。

 一方部落の四棟の老幼、婦女子は南方の川を渡つて逃げると云ふ大騷ぎ、又坪澤六助氏に彼の密