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別れの辭を述ぶ。終りて、屍體の服裝を正裝に改め生前同樣として、入棺するので有る。尙入棺の際は刀劍一、椀一、火打及煙草入の外、生前使用の物一通りを屍體の脇に入れる。此の入棺の際は必ず死者の近親者が自ら手を下す事で有るなり。

 入棺式終りて老若男女が集つて、チカリリベ、多く山間の珍味を各人に供し酒を共に各人に進ず。哀別式と食事終れば出棺に掛る。棺は前列より少しく遲れ續いて親族知己、老人婦女子は最後に墓地に向ふのである。墓地に至れば棺を下し暫時休息し土を掘り終れば棺を納め歸宅するのである。其歸道ルウトンバ道を止るを行ふ、之は死者の此村に再び來らざるを示したるものにて、路邊の木又草を少しく道路に橫たへ置くのである。而して家に歸りて皆の慰勞を謝する爲め酒と種々の御馳走をなし近親者又は親密の知己を殘し一同歸宅す、葬式は之で終了するので有る。


二〇、ノツトロ(西能登呂)

 ノツトロの意義ノツは岬、トロは所の意義なり。例へば東部に於けるノツサン、西部のノタツサン野田寒、久春內以北のノツサンと云ふが如く、サンは突出と云ふ意味なり、此ノツトロは明治初年頃は