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ひ婚緣を欲せざるを以て大半は解約する事あり。以上の如く幼少時代の婚約は解約する事あるも、靑年時代の婚約は三者合意上の婚約なるが故に大抵成立する。從つて、家庭も圓滿である。又ウオスラ離婚も稀なり、樺太アイヌは文化に馴れざる關係か人情に深い。從つて、離婚者も稀である。又色情に依る犯行者も稀にして、樺太島にては維新此方アイヌ間の殺人犯は一人もなく、又は色情による姦通罪二三と色情に依る自殺者男二三あるのみなり。又飮酒に付いて左に述ぶ。前記に述べたる如く家道具の內に酒具も備へ有り又アイヌの大半は酒を好むが、往時のアイヌは其當時酒の拂底の關係上(酒の規律)がよい。又前述の如く結婚式には酒を用いる事なく山海の珍味を以て簡單に、結婚式が終るので有るなり、往昔より尙今日迄酒を用いらるゝ儀式は(熊祭)(熊贈り)(先祖祭)又は(年祭)及(葬式)との儀式にのみ酒を用いらるゝ、然して(葬式)に酒を用いるは最近なり。

 熊祭をイナウカラ又はヨーマンテと云ふなり

 先祖祭又は年祭をシンヌラツパと云ふなり

 葬式をウタラアシンと云ふ、右の儀式に酒を用ゆ。アイヌ人の生れと死、人生一度喜びあれば必ず、悲歎ありアイヌには生れの祝ひを山海の珍味を以て迎ふるは結婚式の如く又死者あれば尤も鄭重に之