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ラと云ふて元はポロアンドマリ大泊の有力者の娘である。妾は名寄のルルクランケの姪である。其當時コモシラロロには翁の家一棟よりなかつた。或る日家內一同漁業に出掛けた。其留守番の任に當つたのは翁の妾であつたが、夕景頃皆が歸宅して家に入らんと扉を開けたが誰一人として家內に入る者なく只一同が驚きの眼を輝かせ居た。それは想掛なき兇事が出來て居たからである。誰一人として發言する者もなく皆一樣に近寄り見れば、翁の妾が無慘にも婦人用の小刀を右手に持つた儘哀れな最後を遂げて居たのである。彼女は可成小刀にて抵抗を續けたらしく翁は强い嘆きに擊れたのであつたが、悲しみの中に葬儀を終へたのである。それから間もなくしてバイカハサブシ、コモシラロロの次の小川にして其當時は(米林伊三郞氏の第一漁業場所附近)其の川の奧より一人の露人が姿を現した。此の場合翁は彼が正しく暴行者であらうと翁は彼を待ち受て居た。彼の露人は麥粉か何かを入れた袋と色々と背負て久春內方面へ向つて行くのであつた。翁はそれと知り直ちに村田銃に充彈し一目散に彼を追た。翁は彼に近附や、先日我が留守に家に侵入し妾を慘殺したはお前だらう。今茲で怨みの一彈を見舞つてやるから覺悟しろ、と銃口を彼に向けたので彼は慌てゝ、我は其如き惡行を犯した事はない其れは人違ひである何卒命を助けて下さる樣、と平身低頭に及んだ。而し怒れる翁は其れを聞き入れない、直