Page:樺太アイヌ叢話.pdf/40

このページは検証済みです
アイヌには體刑として行はるゝ殺人犯と窃盜犯であるのみ、其他は皆罸金刑である。又アイヌの犯罪の輕重は裁判の當時原吿と被吿との間に於ける血族關係如何に依つて判決の輕重を宣吿するのである。原吿と被吿とが血族關係があれば輕減される事が出來る故に裁判の際辯護人は昔よりの親族關係より申吿するなり。

 ウコマトフ(姦通罪)又はマトフオルシベと云ふ、此の姦通罪もあまりない。余はかつて明治二十八年西海岸眞岡に越年せし事あり、其當時に眞岡のアイヌでアリビルンと云ふ者が犯したる事あり、其に對する裁判は非常に判決の至難なものであつた。何故なれば原吿と被吿とが親族であるが故なり、其に附余と共に北海道石狩より復歸したる元白主の酋長ウメオ東山梅尾氏が彼等一方の親族關係上此の辯護に立つ事になつた。氏が出頭す可き其翌春漁業仕込の爲三月北海道に至り不幸にして病に罹り八月札幌病院にて病沒した爲裁判は暫時停止となりしも再び裁判の結果左記の判決がありしなり。

一、被吿(姦夫姦婦)は罸金に替へ左の物品を原吿に納付する事一、滿洲錦一丈二、刀劔一本三、滿洲玉一輪四、刀劔のツバ一個五、鍋一つ以上を原吿へ贈り姦婦は姦夫が引取りて一生暮らす可きなり以下略す。