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六、刑罸の略式

 ケユフオルシベ(殺人犯)樺太アイヌにして犯罪者はあまり見受ず、今より百年前に久春古丹に於て殺人の一犯罪者ありしを余の祖母其他の老人より聞きたる事を左に記す。

 殺人の原因は詳かならざれ共犯罪者に對する刑の判決は先づ部落重なる酋長及び長老者相寄りて裁判を施行し數日にて判決させ以て加害者の死刑を施行する事になつた。其時に及ぶと部落の何人を問はず自意に參觀を許されるので余の祖母も之に參加せしと云其施行法

一、死刑の施行者は加害者の近親者が之を行ふ(當時加害者の實兄が之を施行したと言ふ)
二、刑の施行者が先づ槍を以て加害者の橫腹を突き半死となし其の半死體を土を掘り、土穴の下敷となし其土に被害者の死體を載せ埋むるを以て死刑の施行を終るのであると、

 イシカオルシベ(窃盜犯)是も餘り見受られないものであるが一聞を左に記せん

 維新前に一犯罪者有り其判決は例に依り酋長並に長老連が相會して判決を宣す

一、窃盜犯は犯行に對し犯罪者の手指一本を切斷す、それで犯行の都度手指一本を切斷されるのである