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來た。段々近寄つて來たのでアイヌが敬禮した。一將校はアイヌに向つて此邊に露人が居ないかと問た。(答)左樣此近くには居ません。元は居ましたが家も倉庫も皆燒拂て行きまして今は誰も居ません。今日(ドプキー)の露人商人が、今此處にありまする船に荷物を積んで行く處でありまするが、皆樣方の揚つて來れるを見て彼等は荷物も其儘置いて逃げて行つて仕舞ました。と弟が答ました。而して將校は又聞かれた。此處にアイヌ家が何軒あるか(答)左樣三軒と私の家で四軒あります。そうか、其處の川邊の小屋は何か、ハイあれは渡守の小屋でありまして露人の渡守が一人居ます。そうか其處へ行て見ようと案內して行た處が彼の渡守は頭を地に伏して禮をするのであつた。併して將校方は此露助を殺すと云はれた。其處でアイヌ等は彼の露人は內淵川を渡船する誠に親切な露助である故に命丈け助けてやつて、くだされと、將校方に賴んだ處將校の曰よろしい命は助けてやる。依て斧を以て來よと露人に命じた。彼は斧を以て出た、而して其斧を以て此電柱を切り倒せと命じた。彼の露人は早速電柱三本ばかり切り倒した。又此船を破壞せよ彼又船を壞はした。よし夫れでよいからと云て將校方は歸艦に就かれた。其後彼の露商人等が何處からとなしに出て來て麥粉、茶、煙草、砂糖、毛布等を全部アイヌに與へて北部へ立去たのである。