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が隱て居た處が益々發砲するので皆が其間、頭も上げずに居た、暫くすると砲聲が止んだから私は頭を少しく上げ向の樣子を見た。そして軍艦から「ボート」に七八人乘て陸地に向つて漕いで來た。段々海岸に船を附け、將校らしき人が三人揚つて來たから、私は其方へ向つて行つた。其狀態を誰か見たら笑ふ事だらうに幸ひ誰も他に居なかつたからよかつた。丁度犬に睨まれた猫の樣に恐る行つたのであつた。段々近くなるに從つて體が地上に附く樣な心持であつたが何と思つて心中勇ながら進んで行つた處が、一士官らしき人が何んだろう、あれは露助でないかなと云つた。其時之は大變と思つたが段々近寄た其時他の一士官は、お前は露助かアイヌかと私に問たから、はい私はアイヌですと答た。そうかお前はアイヌか、軍艦から大砲を打つたが、誰も怪我をしなかつたか。ハイ誰も怪我は致しませんでしたが私の家が砲彈の破片が當つて少し斗り損じました丈けであります。そうか夫れは氣の毒であつた。此處には露助は居ないか、(答)ハイ露助は此處には居りません少し奧に入ると露助村がありまするが、大抵皆北の方へ行て仕舞まして、七八人より殘つてゐません。そうか此處は何んと云ふ處だ、ハイ此處は(アイ)と云ふ處です。それでは內淵は此處でないのか內淵には露官の建物があつた筈で此處の建物は夫れと思つて發砲したのだ。兎に角、皆に怪我なくてよかつた。而してお前の名