Page:樺太アイヌ叢話.pdf/129

このページは検証済みです

時彼は余に君は日本人であるから賣る事が出來ぬと云ふ。余はナイブチの土人であると辯明しても仲々信じなかつたが、彼は再び云ふ、左れば高村(邦人)に行き證明書を以て再び彼の處へ行つた處が、今度はウラジミロフカに行き監視官の證明を求めよ、と。余は當時凾館に出張するべくアルコールを賣却するの目的であつたが、夫れ之する內に碇舶し居たる定期船の出帆に遲れてはと思つて、ウラジミロフカ行を中止し乘船したのであつた。其後三十七年の冬郵便犬橇シシカ迄を受取の爲め、ナイラーニに於て彼に再會したが、此時は仲々彼は親切に取扱かつて吳れた。其時は余も大分露語も通ずる樣になつたからにも依ると思つた。

 其長官補佐官が十人斗りの守備兵に送られて久春內に向はんとする途中、彼に出會したのであつた。併して彼は問ふ君は何處から來た。余は久春內から來たと答た。露官は久春內には日本人は居ないかのー久春內には來て居らん、と答た。久春內には、(シマテリテクユウ)監視官が居た筈、アリキサンドルに向つて行たらうかのー(答)余は詳く知るを得ないが未だ滯在して居ると思います。左樣か未だ居たかの夫れでは急いで行かうと、乘馬兵に命令すれば彼等は久春內に向つて進行し、余も左樣ならと彼に別れて歸途についたが、之で一安心したと步を進めながら一考へした。併し何國の言葉にても多少