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を附けたる三十一音 二十七字のみなり。​訥​​トツ​は、祕史にては​納行​​ナギヤウ​の​兀​​ウ​の​段​​ダン​(nu)なれども、こゝにては​額​​エ​の​段​​ダン​(ne)なり。​伯​​ハク​は、祕史にては​巴​​バ​(ba)の​代​​カハ​りにも​別​​ベ​(be)の​代​​カハ​りにも​用​​モチ​ひたれども、こゝにては​常​​ツネ​に​別​​ベ​(be)に同じ。​斡​​アツ​は、祕史にては​阿行​​アギヤウ​の​斡​​オ​の​段​​ダン​○なれども、こゝにては​斡行​​ワギヤウ​の​阿​​ア​の​段​​ダン​(wa)なり。​喇行​​ラギヤウ​の音に​口扁​​クチヘン​をつけたるは、祕史の​舌​​シタ​の字を書けるよりは​簡便​​カンベン​なり。​克​​コク​は、​喀行​​カギヤウ​の​額​​エ​の​段​​ダン​(ke)にも父音(k)にも用ひ、​特​​トク​は、​塔行​​タギヤウ​の​額​​エ​の​段​​ダン​(te)にも父音(t)にも用ひ、​穆​​ボク​は、​瑪行​​マギヤウ​の​烏​​ウ​の​段​​ダン​(mu)にも​長烏​​ナガウ​の​段​​ダン​(mū)にも父音(m)にも用ひ、​哷​​ラツ​は、​喇行​​ラギヤウ​の​額​​エ​の​段​​ダン​(re)にも父音(r)にも用ひて、父音の場合に​細字 旁書​​サイジ ハウシヨ​の​法​​ハウ​を取らざるが故に、父音と成音と常に​混​​マギ​れ易し。これは祕史の​書方​​カキカタ​より​劣​​オト​れり。近頃の人は、大抵 父音なる​勒​​ル​(l) ​哷​​ル​(r)の代りに​爾​​ジ​の字を用ふる故に、​額​​エ​の​段​​ダン​なる​勒​​レ​(le) ​哷​​レ​(r)に​混​​マギ​るゝことはなけれども、その代りに​拉行​​ラギヤウ​と​喇行​​ラギヤウ​(r)との區別を失へり。

 蒙古字 滿洲字の​書法​​カキカタ​ ​用法​​モチヒカタ​などは、この​序論​​ジヨロン​に​詳說​​シヤウセツ​し難︀く、又 詳說すべき​限​​カギリ​にあらざれども、​余​​ワ​が​譯本​​ヤクホン​を讀まん人、明譯 祕史に搆れる固有名詞の譯字の、近世 通行の書に異なるを​怪​​アヤシ​まんことを​想​​オモ​ひ、又 明譯 祕史を讀まんとする人、近世 通行の音譯法と異なるを知らずして、漢︀字 音譯の蒙古文を音讀する​塔都︀奇​​タヅキ​を​得難︀​​エガタ​からんことを​憂​​ウレ​へて、その​特必奇​​テビキ​にもとてかくなん。


 ​成吉思 合罕​​チンギス カガン​​Chinghis Khaghan​の​騰格哩​​テンゲリ​​tengeri​に​昇​​ノボ​りたる​合該 只勒​​ガカイ ヂル​​Ghakhai jil​より六百七十九年の​豁亦納​​ゴイナ​​ghoina​なる​秣麟 只勒​​モリン ヂル​​Morin jil​の​納木兒​​ナムル​​namur​の​帖哩兀​​テリウ​​teriu​の​撒喇​​サラ​​sara​に、​納喇訥 忽札兀兒​​ナラヌ クヂヤウル​​Naranu Khujaur​と​稱​​タヽ​へらるゝ​朶囉納 竹克​​ドロナ ヂク​​dorona jük​の​也客 兀魯思​​エケ ウルス​​yeke ulus​の​合木渾 合罕​​カムクン カガン​​Khamukhun Khaghan​の​也客 斡兒朶​​エケ オルド​​yeke ordo​の​兀篾兒​​ウメル​​umer​に​當​​アタ​れる​阿喀吉​​アカギ​​Akagi​ ​溫都︀兒​​ウンドル​​undur​ ​額朶​​エド​​Edo​ ​豁囉罕​​ゴロカン​​ghorokhan​ ​豁牙兒​​ゴヤル​​ghoyar​の​札兀喇​​ヂヤウラ​​jaura​なる​兀出干​​ウチユゲン​​üchugen​ ​格兒​​ゲル​​ger​にて、​抹哩斡喀​​モリオカ​​Mori-oka​〈[#ルビの「モリオカ」は底本では「モリヲカ」。昭和18年復刻版に倣い修正]〉 ​巴剌合孫​​バラガスン​​balaghasun​に​生​​ウマ​れたる​富只洼喇​​フヂハラ​​Fujiwara​ ​斡孛黑​​オボク​​obokh​の​納喀​​ナカ​​Naka​ ​米赤約​​ミチヨ​​Michiyo​ ​額不干​​エブゲン​​ebugen​ ​書​​カ​きて​畢​​ヲ​へたり。


成吉思 汗 實錄の序論 終り。