Page:成吉思汗実録.pdf/38

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りし事あるは、文字は無くとも​開化​​カイクワ​の​度 稍 進​​ド ヤヽ スヽ​みたる時なるが、​馬​​ウマ​の​乳​​チ​を​飮​​ノ​み​羊​​ヒツジ​の​皮​​カハ​を​着​​キ​、​穹廬​​キウロ​に​住​​ス​みて、​射獵​​シヤレフ​を​業​​ゲフ​とせる​純夷​​ジユンイ​の​民​​タミ​にも​夙​​ハヤ​くより文章ありしは、​珍​​メヅラ​しき事なり。

 その韻文の例を​少​​スコ​し述べん。​童男女​​ドウダンジヨ​の​眉目 淸秀​​ビモク セイシウ​なるを​形容​​ケイヨウ​して「​目​​メ​に​火​​ヒ​あり、​面​​メン​に​光​​ヒカリ​あり」と云ふ。​目​​メ​は​你敦​​ニドン​​nidun​、​面​​メン​は​你兀兒​​ニウル​​niur​にて、​你​​ニ​を頭韻とせり。​火​​ヒ​は​合勒​​ガル​​ghal​、光は​格咧​​グレ​​ghere​にて、​合​​ガ​​gha​と​格​​ゲ​​ghe​と​聲​​コヱ​ ​近​​チカ​きが故に​通韻​​ツウヰン​に用ひたり。​余​​ワ​が​譯文​​ヤクブン​に​你敦​​ニドン​を​眼​​マナコ​と譯せず、​你兀兒​​ニウル​を​顏​​カホ​と譯せずして、​目​​メ​と​面​​メン​とにしたるは、蒙古の頭韻に​眞似​​マネ​たる​酒落​​シヤレ​なり。この句の韻の​蹈方​​フミカタ​(には非ず、​戴方​​イタヾキカタ​)は、​隔句韻​​カククヰン​にて、​上句​​カミノク​の​頭​​カシラ​と​下句​​シモノク​の​頭​​カシラ​と​韻​​ヰン​を​押​​オ​し、上句の​腹​​ハラ​と下句の​腹​​ハラ​と韻を押せり。この​隔句韻​​カククヰン​は、その例 甚だ少し。​普通​​フツウ​の​押韻​​アフヰン​は、上句の​語​​コトバ​どもに​或​​アル​ 韻を​重​​カナ​ね、下句の語どもに​他​​タ​の韻を​重​​カサ​ぬるなり。​例​​タト​へば​耳目​​ジモク​の​銳​​スルド​き事を「​鼬​​イタチ​となりて​聽​​キ​き、​銀鼠​​ギンソ​となりて​視︀​​ミ​る」と云ふ。​鼬​​イタチ​は​鎻耶合​​ソエカ​​soyekha​、​聽​​キ​くは​莎那思​​シヨノス​​shonos​にて、​鎻​​ソ​と​莎​​シヨ​​sho​と​通​​ツウ​じ、​銀鼠​​ギンソ​は​兀年​​ウネン​​unen​、​見​​ミ​るは​兀者︀​​ウヂエ​​uje​にて、​兀​​ウ​​u​を韻とせり。もし之を譯して韻を合はせんとならば、​動物​​ドウブツ​の​名​​ナ​を​換​​カ​ふるより​外​​ホカ​にすべなし。「​狐​​キツネ​となりて​聽​​キ​き、​角鴟​​ミヽヅク​となりて​視︀​​ミ​る」などは、いかゞ。又 ​窮乏 孑立​​キウバフ ケツリフ​の​狀​​サマ​を「​影​​カゲ​よりに​外​​ホカ​に​伴​​トモ​なく、​尾​​ヲ​より​外​​ホカ​に​鞭​​ムチ​なし」と云ふ。​影​​カゲ​は​薛兀迭兒​​セウデル​​seuder​、​尾​​ヲ​は​薛兀勒​​セウル​​seul​にて、​薛兀​​セウ​​seu​を韻とせり。​伴​​トモ​と​鞭​​ムチ​とは韻を成さざれば、隔句韻には非ず、二句を一句として、只一つの韻を