Page:成吉思汗実録.pdf/37

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と云ひ、​欣都︀​​ヒンド​​Hindu​​人​​ジン​を​欣都︀思惕​​ヒンドスト​​Hindust​、​嚕思​​ルス​​Russ​​人​​ジン​(露西亞人)を​斡魯速惕​​オルスト​​Olusut​、​乞卜察克​​キプチヤク​​Kipchak​​人​​ジン​を​乞卜察兀惕​​キブチヤウト​​Kibchaut​、​阿昔​​アシ​​Asi​​人​​ジン​を​阿速惕​​アスト​​Asut​、​中亞細亞​​チウアジア​の​抹哈篾惕​​モハメト​​Mohammed​ ​敎徒​​ケウト​なる​撒兒惕​​サルト​​Sart​​人​​ジン​を​撒兒塔兀勒​​サルタウル​​Sartaul​と云ふ。此等は、皆 蒙古の音をそのまゝに譯して、​本名​​ホンメイ​を注に擧げたり。

 蒙古文の甚だ​奇異​​キイ​にして甚だ​面白​​オモシロ​きは、​韻文​​ヰンブン​ 多き事なり。その​韻文​​ヰンブン​は、皆 ​巧​​タクミ​に​頭韻​​トウヰン​を​排​​ナラ​べたる者︀にして、漢︀文には​固​​モト​よりその​法​​ハフ​なく、​同​​オナ​じ​語族​​ゴゾク​なる我が國語にもその​例​​レイ​ ​希​​マレ​なり。漢︀文には、​雙聲​​ソウセイ​と云ひて、​參差​​シンシ​、​綿蠻 鞠躬​​メンマン キクキウ​、​踧踖​​シユクセキ​の如く、​發聲​​ハツセイ​(成音の首の父音)​同​​オナ​じき​字​​モジ​を​二​​フタ​つ​重​​カサ​ぬる詞は多けれども、蒙古の​頭韻​​トウヰン​は、それには非ず。我が​古歌​​コカ​に「​た​​○​きのおとは、​た​​○​えて​久​​ヒサ​しく​な​​○​りぬれど、​な​​○​こそ​な​​○​がれて、​な​​○​ほ​聞​​キコ​えけれ」と云へる如く、​毎句​​マイク​の​頭​​カシラ​ 又は​毎語​​マイゴ​の​頭​​カシラ​に、同じ​成音​​セイオン​を​置​​オ​きて、雙聲の如く父音の音のみ同じきには非ず。​語調​​ゴテウ​を​面白​​オモシロ​くするなり。この​語調​​ゴテウ​は、日本語にては、​詼謔​​クワイギヤク​の​辭​​コトバ​に最も​適​​テキ​して聞ゆれども、蒙古語にては、​格言​​カクゲン​、​古諺​​コゲン​より​喜怒哀樂​​キドアイラク​の​情​​ジヤウ​を​抒​​ノ​ぶる​辭​​コトバ​、​敎訓​​ケウクン​の辭、​詰責​​キツセキ​の辭、​悔︀謝​​クワイシヤ​の辭に至るまで、皆この韻文を用ふ。その​中​​ウチ​には​物語​​モノガタリ​を傳へたる人の作れる​文句​​モンク​も多かるべけれども、​元來​​グワンライ​ 蒙古語にかゝる​流行​​ハヤリ​ありし故に、作れる人も作れるなるべし。然らばかゝる​文章​​ブンシヤウ​、​特種​​トクシユ​の​修辭​​シウジ​を加へたる​言語​​ゲンゴ​は、蒙古人の​文字​​モンジ​を知らざりし時より​行​​オコナ​はれたるなり。日本人は千五百餘年の前、印度人は三千餘年の前、文字に依らずして​文章​​ブンシヤウ​あ