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必ず附けたれども、然らざる處には​略​​ハブ​けるも有り。​姓氏 種族​​セイシ シユゾク​の名は、單複 共に​原譯字​​ゲンヤクジ​のまゝに書きて、複數の處には注を加たり。​例​​タト​へば​乞顏​​キヤン​​Khiyan​​氏​​ウヂ​の複數は​乞牙惕​​キヤト​​Khiyat​なれば、​乞牙惕​​キヤト​(乞顏の複)と書けり。

 ​否定​​ヒテイ​の​詞​​コトバ​は、​我​​ワレ​にては​助動詞​​ジヨドウシ​なれども、​彼​​カレ​にては​副詞​​フクシ​なり。その否定の​副詞​​フクシ​は、​兀祿​​ウル​​ulu​と​額薛​​エセ​​ese​との二つあり。​兀祿​​ウル​は漢︀語の「​不​​フ​」、​額薛​​エセ​は漢︀語の「​未​​ビ​」なり。​例​​タト​へば​斡惕 罷​​オト バイ​​ot bai​は​去​​サ​りきにて、​兀祿 斡惕 罷​​ウル オト バイ​​ulu ot bai​は​去​​サ​らざりきなり。​額薛​​エセ​も殆ど之に同じく、大抵は「いまだ」と云ふ副詞を​添​​ソ​ふるに​及​​オヨ​ばず。又この副詞は、必ず​動詞​​ドウシ​のすぐに​上​​ウヘ​にありて、漢︀文の如く​閒​​アヒダ​に​他​​ホカ​の​詞​​コトバ​を​插​​サシハサ​むこと無し。​否定命令​​ヒテイメイレイ​ 卽ち​禁止​​キンシ​の​詞​​コトバ​も、副詞なり。例へば​斡惕 禿該​​オト トガイ​​ot tughai​は​去​​サ​れなり。これの上に​禁止​​キンシ​の副詞 ​布​​ブ​​bu​を​添​​ソ​ふれば、去るなの​意​​イ​となる。​幸​​サイハヒ​に我が古語に​勿​​バ​と云ふ禁止の副詞ある故に、それを用ひて「​勿​​ナ​ ​去​​サ​りそ」と譯せり。

 ​持格​​ヂカク​の代名詞は、大抵必ずには非ずその​屬​​ゾク​する名詞の​下​​シタ​に​入​​イ​る。「​我​​ワ​が​子​​コ​ ​來​​コ​よ」と云ふことを「​子​​コ​ ​我​​ワ​が ​來​​コ​よ」と云ひ、「​汝​​ナンヂ​の​父​​チヽ​ ​居​​ヲ​るか」と云ふことを「​父​​チヽ​ ​汝​​ナンヂ​の ​居​​ヲ​るか」と云ふ。此等は、我が​措辭法​​ソジハフ​に​從​​シタガ​ひ、​語​​コトバ​の順序を改めて譯せり。​主格​​シユカク​の代名詞は、大抵これも必ずには非ず動詞の下に入る。「​我​​ワレ​ ​大​​オホイ​に​喜​​ヨロコ​べり」と云ふことを「大に喜べり、​我​​ワレ​」と云ひ、「​汝​​ナンヂ​ ​我​​ワレ​と​然​​シカ​ ​言​​イ​はざりしか」を「​我​​ワレ​と​然​​シカ​ ​言​​イ​はざりしか、​汝​​ナンヂ​」と云