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ども、卽ち丁丑の役なるべし。蒙古人は、年を繰るに、十二支の象のみを用ひて、十干を用ひざりし故に、年紀 誤り易し。祕史の作者︀は、この勅を牛の年と記憶したるに由り、偶 誤りて十二年前の牛の年、卽ち太祖︀ 卽位の前年なる乙丑の年に載せたるなり。


§200(08:12:01)白鳥庫吉訳『音訳蒙文元朝秘史』(東洋文庫,1943年) Open original book in Wikimedia


​從士​​トモビト​に捕はれたる​札木合​​ヂヤムカ​

 [​成吉思 合罕​​チンギス カガン​は、]​乃蠻​​ナイマン​、​篾兒乞惕​​メルキト​を​窮​​キハ​め​畢​​ヲ​へたれば、​札木合​​ヂヤムカ​は、​乃蠻​​ナイマン​と​居​​ヲ​りてそこに​部眾​​ブシウ​を​取​​ト​られたれば、​但​​タヾ​​五人​​イツタリ​の​從者︀​​トモビト​ある​賊​​ヌスビト​となりて、​儻魯 山​​タンル ザン​(元史 地理志の​唐麓 嶺​​タンルノ ミネ​、阿勒泰 山の東北幹山なる今の湯努 山)の​上​​ウヘ​に​上​​ノボ​りて、​羱羊​​グワンヤウ​を​殺︀​​コロ​して​燒​​ヤ​きて​喫​​ク​ふ​時​​トキ​、そこに​札木合​​ヂヤムカ​は、​從者︀​​トモビト​どもに​言​​イ​ひき。「​誰​​タ​が​子​​コ​どもぞ、この​日​​ヒ​ ​羱羊​​グワンヤウ​を​殺︀​​コロ​してかく​喫​​ク​へる」と​云​​イ​ひき。その​羱羊​​グワンヤウ​の​肉​​ニク​を​喫​​ク​ひ​居​​ヲ​る​閒​​アヒダ​に、​五人​​イツタリ​の​從者︀​​トモビト​は、​札木合​​ヂヤムカ​を​手​​テ​に​掛​​カ​けて​捕​​トラ​へて、​成吉思 合罕​​チンギス カガン​の​處​​トコロ​に​伴​​ツ​れ​來​​キ​ぬ。​札木合​​ヂヤムカ​は、​從者︀​​トモビト​どもに​捕​​トラ​へて​來​​コ​られて、

不忠の臣の​誅​​チウ​せられ

​合罕​​カガン​ ​安荅​​アンダ​に​白​​マウ​さく「​黑​​クロ​​合喇​き​老鴉​​ヤマガラス​​合哩額​は、​黑鴨​​クロガモ​​合監伯​ ​眞鴨​​マガモ​を​捕​​ト​へたり。​下郞​​ゲラウ​​合喇出​の​奴​​ヤツコ​は、​君​​キミ​​罕​に​手​​テ​​合兒​を​致​​イタ​したり。​大君​​オホギミ​​合罕​なる​我​​ワ​が​安荅​​アンダ​は、いかんぞ​差​​アヤマ​らん。​靑​​アヲ​​孛囉​き​忽剌都︀​​クラド​(鳥の類︀の一種の名)は、​孛兒臣莎那​​ボルヂンシヨノ​(鴨の類︀の一種の名)を​捕​​トラ​ふると​為​​ナ​​孛勒​れり。​奴​​ヤツコ​​孛斡勒​なる​家人​​ケニン​は、​本​​モト​​不敦​の​主​​アルジ​を​圍​​カコ​​孛莎​みて​襲​​オソ​ひて​捕​​トラ​ふると​爲​​ナ​​孛勒​れり。​賢​​カシコ​​孛黑荅​き​我​​ワ​が​安荅​​アンダ​は、いかんぞ​差​​アヤマ​らん」と​言​​イ​へば、​札木合​​ヂヤムカ​のその​言​​コトバ​につき、​成吉思 合罕​​チンギス カガン​ ​勅​​ミコト​あるには「​正主​​セイシユ​の​君​​キミ​に​手​​テ​を​致​​イタ​せる​人​​ヒト​をいかんぞ​存​​ア​らせられん。かゝる​人​​ヒト​は、​誰​​タレ​にか​伴​​トモ​とならん。​正主​​セイシユ​の​君​​キミ​に​手​​テ​を​致​​イタ​せる​人​​ヒト​をば、その​族​​ウラカ​に​至​​イタ​るまで​斬​​キ​らしめよ」と​勅​​ミコト​ありき。すぐ​札木合​​ヂヤムカ​の​面前​​マノアタリ​にて、​彼​​カレ​を​手​​テ​に​掛​​カ​けた