ODA大綱 (2003年)

ODA大綱(2003年)から転送)


政府開発援助大綱の改定について

平成15年8月29日

閣議決定

 平成4年に閣議にて決定された政府開発援助(ODA)大綱は、これまで10年以上にわたって我が国の援助政策の根幹をなしてきた。この間、国際情勢は激変し、今や我が国を含む国際社会にとって平和構築をはじめとする新たな開発課題への対応が急務となっている。こうした中で多くの先進国は、開発途上国が抱える深刻な問題に対してODAを通じた取組を強化している。また、政府、国際機関のみならず、様々な主体が開発途上国への支援を行い、相互の連携を深めている。

 我が国としては、日本国憲法の精神にのっとり、国力にふさわしい責任を果たし、国際社会の信頼を得るためにも、新たな課題に積極的に取り組まなければならない。そのためには、ODA に対する国民の理解を得ることが重要であり、国内の経済財政状況や国民の意見も十分踏まえつつ、ODAを効果的に実施することが不可欠である。

 このような考えの下、ODAの戦略性、機動性、透明性、効率性を高めるとともに、幅広い国民参加を促進し、我が国のODAに対する内外の理解を深めるため、次のとおりODA大綱を改定する。

政府開発援助大綱

Ⅰ.理念――目的、方針、重点

1.目的

 我が国ODAの目的は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することである。

 これまで我が国は、アジアにおいて最初の先進国となった経験をいかし、ODAにより経済社会基盤整備や人材育成、制度構築への支援を積極的に行ってきた。その結果、東アジア諸国をはじめとする開発途上国の経済社会の発展に大きく貢献してきた。

 一方、冷戦後、グローバル化の進展する中で、現在の国際社会は、貧富の格差、民族的・宗教的対立、紛争、テロ、自由・人権及び民主主義の抑圧、環境問題、感染症、男女の格差など、数多くの問題が絡み合い、新たな様相を呈している。

 特に、極度の貧困、飢餓、難民、災害などの人道的問題、環境や水などの地球的規模の問題は、国際社会全体の持続可能な開発を実現する上で重要な課題である。これらの問題は、国境を超えて個々の人間にとっても大きな脅威となっている。

 また、最近、多発する紛争やテロは深刻の度を高めており、これらを予防し、平和を構築するとともに、民主化や人権の保障を促進し、個々の人間の尊厳を守ることは、国際社会の安定と発展にとっても益々重要な課題となっている。

 我が国は、世界の主要国の一つとして、ODAを積極的に活用し、これらの問題に率先して取り組む決意である。こうした取組は、ひいては各国との友好関係や人の交流の増進、国際場裡における我が国の立場の強化など、我が国自身にも様々な形で利益をもたらすものである。

 さらに、相互依存関係が深まる中で、国際貿易の恩恵を享受し、資源・エネルギー、食料などを海外に大きく依存する我が国としては、ODAを通じて開発途上国の安定と発展に積極的に貢献する。このことは、我が国の安全と繁栄を確保し、国民の利益を増進することに深く結びついている。特に我が国と密接な関係を有するアジア諸国との経済的な連携、様々な交流の活発化を図ることは不可欠である。

 平和を希求する我が国にとって、ODAを通じてこれらの取組を積極的に展開し、我が国の姿勢を内外に示していくことは、国際社会の共感を得られる最もふさわしい政策であり、ODA は今後とも大きな役割を担っていくべきである。

2.基本方針

 このような目的を達成するため、我が国は以下の基本方針の下、ODAを一層戦略的に実施する。

(1)開発途上国の自助努力支援

 良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく開発途上国の自助努力を支援するため、これらの国の発展の基礎となる人づくり、法・制度構築や経済社会基盤の整備に協力することは、我が国ODAの最も重要な考え方である。このため、開発途上国の自主性(オーナーシップ)を尊重し、その開発戦略を重視する。

 その際、平和、民主化、人権保障のための努力や経済社会の構造改革に向けた取組を積極的に行っている開発途上国に対しては、これを重点的に支援する。

(2)「人間の安全保障」の視点

 紛争・災害や感染症など、人間に対する直接的な脅威に対処するためには、グローバルな視点や地域・国レベルの視点とともに、個々の人間に着目した「人間の安全保障」の視点で考えることが重要である。このため、我が国は、人づくりを通じた地域社会の能力強化に向けたODAを実施する。また、紛争時より復興・開発に至るあらゆる段階において、尊厳ある人生を可能ならしめるよう、個人の保護と能力強化のための協力を行う。

(3)公平性の確保

 ODA政策の立案及び実施に当たっては、社会的弱者の状況、開発途上国内における貧富の格差及び地域格差を考慮するとともに、ODAの実施が開発途上国の環境や社会面に与える影響などに十分注意を払い、公平性の確保を図る。

 特に男女共同参画の視点は重要であり、開発への積極的参加及び開発からの受益の確保について十分配慮し、女性の地位向上に一層取り組む。

(4)我が国の経験と知見の活用

 開発途上国の政策や援助需要を踏まえつつ、我が国の経済社会発展や経済協力の経験を途上国の開発に役立てるとともに、我が国が有する優れた技術、知見、人材及び制度を活用する。

 さらに、ODAの実施に当たっては、我が国の経済・社会との関連に配慮しつつ、我が国の重要な政策との連携を図り、政策全般の整合性を確保する。

(5)国際社会における協調と連携

 国際社会においては、国際機関が中心となって開発目標や開発戦略の共有化が進み、様々な主体が協調して援助を行う動きが進んでいる。我が国もこのような動きに参加して主導的な役割を果たすよう努める。同時に、国連諸機関、国際開発金融機関、他の援助国、NGO、民間企業などとの連携を進める。特に、専門的知見や政治的中立性を有する国際機関と我が国のODA との連携を強化するとともに、これらの国際機関の運営にも我が国の政策を適切に反映させていくよう努める。

 さらに、我が国は、アジアなどにおけるより開発の進んだ途上国と連携して南南協力を積極的に推進する。また、地域協力の枠組みとの連携強化を図るとともに、複数国にまたがる広域的な協力を支援する。

3.重点課題

 以上の目的及び基本方針に基づき、我が国は以下の課題に重点的に取り組む。

(1)貧困削減

 貧困削減は、国際社会が共有する重要な開発目標であり、また、国際社会におけるテロなどの不安定要因を取り除くためにも必要である。そのため、教育や保健医療・福祉、水と衛生、農業などの分野における協力を重視し、開発途上国の人間開発、社会開発を支援する。同時に、貧困削減を達成するためには、開発途上国の経済が持続的に成長し、雇用が増加するとともに生活の質も改善されることが不可欠であり、そのための協力も重視する。

(2)持続的成長

 開発途上国の貿易、投資及び人の交流を活性化し、持続的成長を支援するため、経済活動上重要となる経済社会基盤の整備とともに、政策立案、制度整備や人づくりへの協力も重視する。このような協力には、知的財産権の適切な保護や標準化を含む貿易・投資分野の協力、情報通信技術(ICT)の分野における協力、留学生の受入れ、研究協力なども含まれる。

 また、我が国のODAと途上国の開発に大きな影響を有する貿易や投資が有機的連関を保ちつつ実施され、総体として開発途上国の発展を促進するよう努める。このため、我が国のODA と貿易保険や輸出入金融などODA以外の資金の流れとの連携の強化にも努めるとともに、民間の活力や資金を十分活用しつつ、民間経済協力の推進を図る。

(3)地球的規模の問題への取組

 地球温暖化をはじめとする環境問題、感染症、人口、食料、エネルギー、災害、テロ、麻薬、国際組織犯罪といった地球的規模の問題は、国際社会が直ちに協調して対応を強化しなければならない問題であり、我が国もODAを通じてこれらの問題に取り組むとともに、国際的な規範づくりに積極的な役割を果たす。

(4)平和の構築

 開発途上地域における紛争を防止するためには、紛争の様々な要因に包括的に対処することが重要であり、そのような取組の一環として、上記のような貧困削減や格差の是正のためのODAを実施する。さらに、予防や紛争下の緊急人道支援とともに、紛争の終結を促進するための支援から、紛争終結後の平和の定着や国づくりのための支援まで、状況の推移に即して平和構築のために二国間及び多国間援助を継ぎ目なく機動的に行う。

 具体的には、ODAを活用し、例えば和平プロセス促進のための支援、難民支援や基礎生活基盤の復旧などの人道・復旧支援、元兵士の武装解除、動員解除及び社会復帰(DDR)や地雷除去を含む武器の回収及び廃棄などの国内の安定と治安の確保のための支援、さらに経済社会開発に加え、政府の行政能力向上も含めた復興支援を行う。

4.重点地域

 上記の目的に照らせば、日本と緊密な関係を有し、日本の安全と繁栄に大きな影響を及ぼし得るアジアは重点地域である。ただし、アジア諸国の経済社会状況の多様性、援助需要の変化に十分留意しつつ、戦略的に分野や対象などの重点化を図る。特に、ASEANなどの東アジア地域については、近年、経済的相互依存関係が拡大・深化する中、経済成長を維持しつつ統合を強化することにより地域的競争力を高める努力を行っている。我が国としては、こうした東アジア地域との経済連携の強化などを十分に考慮し、ODAを活用して、同地域との関係強化や域内格差の是正に努める。

 また、南アジア地域における大きな貧困人口の存在に十分配慮するとともに、中央アジア地域については、コーカサス地域も視野に入れつつ、民主化や市場経済化への取組を支援する。

 その他の地域についても、この大綱の目的、基本方針及び重点課題を踏まえて、各地域の援助需要、発展状況に留意しつつ、重点化を図る。

 具体的には、アフリカは、多くの後発開発途上国が存在し、紛争や深刻な開発課題を抱える中で、自助努力に向けた取組を強化しており、このために必要な支援を行う。

 中東は、エネルギー供給の観点や国際社会の平和と安定の観点から重要な地域であるが、中東和平問題をはじめ不安定要因を抱えており、社会的安定と平和の定着に向けた支援を行う。

 中南米は、比較的開発の進んだ国がある一方、脆弱な島嶼国を抱え、域内及び国内の格差が生じていることに配慮しつつ、必要な協力を行う。

 大洋州は、脆弱な島嶼国が多いことを踏まえて協力を行う。

Ⅱ.援助実施の原則

 上記の理念にのっとり、国際連合憲章の諸原則(特に、主権平等及び内政不干渉)及び以下の諸点を踏まえ、開発途上国の援助需要、経済社会状況、二国間関係などを総合的に判断の上、ODAを実施するものとする。


(1) 環境と開発を両立させる。

(2) 軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する。

(3) テロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど国際平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向に十分注意を払う。

(4) 開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。

Ⅲ.援助政策の立案及び実施

1.援助政策の立案及び実施体制

(1)一貫性のある援助政策の立案

 この大綱の下に、政府全体として一体性と一貫性をもってODAを効率的・効果的に実施するため、基本方針で述べたような国際社会における協調と連携も視野に入れつつ、中期政策や国別援助計画を作成し、これらにのっとったODA政策の立案及び実施を図る。特に国別援助計画については、主要な被援助国について作成し、我が国の援助政策を踏まえ、被援助国にとって真に必要な援助需要を反映した、重点が明確なものとする。

 これらの中期政策や国別援助計画に従い、有償・無償の資金協力及び技術協力の各援助手法については、その特性を最大限生かし、ソフト、ハード両面のバランスに留意しつつ、これらの有機的な連携を図るとともに、適切な見直しに努める。

(2)関係府省間の連携

 政府全体として一体性と一貫性のある政策を立案し、実施するため、対外経済協力関係閣僚会議の下で、外務省を調整の中核として関係府省の知見を活用しつつ関係府省間の人事交流を含む幅広い連携を強化する。そのために政府開発援助関係省庁連絡協議会などの協議の場を積極的に活用する。

(3)政府と実施機関の連携

 政府と実施機関(国際協力機構[1]国際協力銀行国際協力銀行)の役割、責任分担を明確にしつつ、政策と実施の有機的な連関を確保すべく、人事交流を含む両者の連携を強化する。また、実施機関相互の連携を強化する。

(4)政策協議の強化

 ODA政策の立案及び実施に当たっては、開発途上国から要請を受ける前から政策協議を活発に行うことにより、その開発政策や援助需要を十分把握することが不可欠である。同時に、対話を通じて我が国の援助方針を開発途上国に示し、途上国の開発戦略の中で我が国の援助が十分いかされるよう、途上国の開発政策と我が国の援助政策の調整を図る。また、開発途上国の案件の形成、実施の面も含めて政策及び制度の改善のための努力を支援するとともに、そのような努力が十分であるかどうかを我が国の支援に当たって考慮する。

(5)政策の決定過程・実施における現地機能の強化

 援助政策の決定過程・実施において在外公館及び実施機関現地事務所などが一体となって主導的な役割を果たすよう、その機能を強化する。特に、外部人材の活用を含め体制を強化するための枠組みの整備に努める。また、現地を中心として、開発途上国の開発政策や援助需要を総合的かつ的確に把握するよう努める。その際、現地関係者を通じて、現地の経済社会状況などを十分把握する。

(6)内外の援助関係者との連携

 国内のNGO、大学、地方公共団体、経済団体、労働団体などの関係者がODAに参加し、その技術や知見をいかすことができるよう連携を強化する。また、開発途上国をはじめとして、海外における同様の関係者とも連携を図る。さらに、ODAの実施に当たっては我が国の民間企業の持つ技術や知見を適切に活用していく。

2.国民参加の拡大

(1)国民各層の広範な参加

 国民各層による援助活動への参加や開発途上国との交流を促進するため、十分な情報を提供するとともに、国民からの意見に耳を傾け、開発事業に関する提案の募集やボランティア活動への協力などを行う。

(2)人材育成と開発研究

 専門性をもった人材を育成するとともに、このような人材が国内外において活躍できる機会の拡大に努める。同時に、海外での豊かな経験や優れた知識を有する者などの質の高い人材を幅広く求めてODAに活用する。

 また、開発途上国に関する地域研究、開発政策研究を活発化し、我が国の開発に関する知的資産の蓄積を図る。

(3)開発教育

 開発教育は、ODAを含む国際協力への理解を促進するとともに、将来の国際協力の担い手を確保するためにも重要である。このような観点から、学校教育などの場を通じて、開発途上国が抱える問題、開発途上国と我が国の関わり、開発援助が果たすべき役割など、開発問題に関する教育の普及を図り、その際に必要とされる教材の提供や指導者の育成などを行う。

(4)情報公開と広報

 ODAの政策、実施、評価に関する情報を、幅広く、迅速に公開し、十分な透明性を確保するとともに積極的に広報することが重要である。このため、様々な手段を活用して、分かり易い形で情報提供を行うとともに、国民が我が国のODA案件に接する機会を作る。

 また、開発途上国、他の援助国など広く国際社会に対して我が国のODAに関する情報発信を強化する。

3.効果的実施のために必要な事項

(1)評価の充実

 事前から中間、事後と一貫した評価及び政策、プログラム、プロジェクトを対象とした評価を実施する。また、ODAの成果を測定・分析し、客観的に判断すべく、専門的知識を有する第三者による評価を充実させるとともに政府自身による政策評価を実施する。さらに、評価結果をその後のODA政策の立案及び効率的・効果的な実施に反映させる。

(2)適正な手続きの確保

 ODAの実施に当たっては、環境や社会面への影響に十分配慮する手続きをとるとともに、質や価格面において適正かつ効率的な調達が行われるよう努める。同時に、これらを確保しつつ、手続きの簡素化や迅速化を図る。

(3)不正、腐敗の防止

 案件の選定及び実施プロセスの透明性を確保し、不正、腐敗及び目的外使用を防止するための適切な措置をとる。また、外部監査の導入など監査の充実を通じて適正な執行の確保に努める。

(4)援助関係者の安全確保

 援助関係者の生命及び身体の安全の確保は、ODA実施の前提条件であり、安全関連情報を十分に把握し、適切な対応に努める。

Ⅳ.ODA大綱の実施状況に関する報告

 ODA大綱の実施状況については、毎年閣議報告される「政府開発援助(ODA)白書」において明らかにする。

平成15年8月29日

閣議決定

脚注

  1. 2003年10月1日、国際協力事業団独立行政法人国際協力機構に改組される予定。

警告: 既定のソートキー「せいふかいはつえんしよたいこう」が、その前に書かれている既定のソートキー「ODAたいこう」を上書きしています。

 

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