虚偽告訴等[1] 編集

主文 編集

上告を棄却する。

理由 編集

上告理由を判断する。

1. 他人に刑事処分又は懲戒処分を受けさせる目的で,公務所又は公務員に対して,虚偽の事実を申告する場合に虚偽告訴等罪が成立する(刑法第156条)。虚偽告訴等罪は,附随的に個人が不当に処罰を受け,又は懲戒を受けない利益も保護するが,国家の刑事司法権又は懲戒権の適正な行使を主たる保護法益とする(最高裁判所 2005. 9. 30.言渡2005도2712判決等参照)。

他人に刑事処分を受けさせる目的で,「虚偽の事実」を申告した行為が,虚偽告訴等罪を構成するためには,申告された事実自体が,刑事処分の対象となり得なければならないから,仮に虚偽の事実を申告したとしても,申告当時その事実自体が刑事犯罪を構成しなければ,虚偽告訴等罪は,成立しない(最高裁判所 2007. 4. 13.言渡2006도558判決等参照)。しかしながら,虚偽で申告した事実が虚偽告訴等の行為当時刑事処分の対象となり得た場合には,国家の刑事司法権の適正な行使を損なわせる危険及び不当に処罰を受けない個人の法的安定性が侵害される危険が既に発生しているから,虚偽告訴等罪は既遂に至り,以降そのような事実が刑事犯罪とならないものと判例が変更されたとしても,特別の事情がない限り,既に成立した虚偽告訴等罪には,影響を及ぼさない。

2. イ. 原審は,次のような理由で被告人の告訴内容は,虚偽の事実に該当し,被告人もこのような事情を知っており,虚偽告訴等行為の当時被告人により申告された事実自体が刑事処分の原因となり得たとして,本件公訴事実を有罪と判断した。

(1)被告人は,公訴外1株式会社(以下「公訴外1会社」という)の理事であったが,2014. 1. 9.釜山地方検察庁民願室に公訴外2株式会社(以下「公訴外2 会社」という)の代表にあった公訴外3を相手方として,「被告訴人が2009. 9. 2.被告訴人公訴外3側から○○○○ビル(号室番号1省略)及び(号室番号2省略)の分譲を受けたが,被告訴人公訴外3が他者に二重にこれを分譲したから,処罰してくれ。」との内容の告訴状を提出した。その後,2014. 2. 6.釜山地方検察庁調査課事務室における告訴人陳述の際,被告人は,「公訴外1会社が公訴外2会社から注文を受け施工した○○○○ビル内装仕上工事の既成金[2]1億5,000万圓について,2009. 9. 1.公訴外3と工事代金を9,000万圓として合意し,その弁済方法として○○○○ビル2棟の分譲を受けた。それなのに,公訴外3がこれを被告人に移転してくれず,2014. 1.頃他者に売り渡したから,処罰してくれ。」と陳述した(以下「本件告訴」という)。
(2)被告人は,公訴外3と本件工事による工事代金を9,000万圓として合意し,公訴外3がこれを支払えなかった場合,代わりに○○○○ビル2棟の分譲を受けることとしたと主張するが,被告人は,自らの行った工事の内容又は進捗度,これに伴う既成出来高金額等に関する客観的な資料を提出できないでいる。寧ろ,被告人の行った工事は,一部ペイント作業及びフェンス作業等であって,工事代金も650万圓に過ぎず,被告人は,公訴外3から650万圓全ての支払を受け,2人の間の債権·債務関係が全て清算されたものと解される。
(3)被告人が本件告訴前に本件工事に関連して公訴外3を詐欺の疑いで告訴したが,公訴外3は2009. 12. 24.控訴審で被告人が受けるべき工事金額は,捜査機関における主張(5億圓)と異なり650万圓に過ぎないという理由で無罪の言い渡しを受け(釜山地方裁判所 2009노1085),右判決は,2010. 4. 29.最高裁判所において上告が棄却され,そのまま確定された(最高裁判所2010도482)。
(4)公訴外3は,被告人の本件告訴により検察から右告訴事実に関し,被疑者として調査を受けた。
(5)本件告訴及び調査当時の最高裁判所判例は,「債権担保として不動産に関する代物弁済予約を締結した債務者が,代物で弁済することとした不動産を処分した場合,背任罪が成立する」と解していたが(最高裁判所2000. 12. 8.言渡2000도4293判決等参照),最高裁判所は,2014. 8. 21.言い渡した全員合議体判決で判例を変更し,右のような場合に背任罪が成立しないとした(最高裁判所2014도3363全員合議体判決)。

ロ. 原審の判断は,右に見た法理に照らして正当である。原審の判断に上告理由の主張のように,虚偽告訴等罪に関する法理を誤解した誤りはない。

3. 結論

被告人の上告は,理由がないからこれを棄却することとし,関与判事の一致した意見で主文のとおり判決する。

最高裁判所判事 パクポヨン(裁判長) パクピョンデ クォンスニル キムジェヒョン(主審)

  1. 原語は,「誣告」。
  2. 訳註:一定期間ごとに工事出来高に応じて支払われる(いわゆる「出来高部分払方式」)工事の対価。日本語的表現としては「出来高金」か。
 

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