不当利得返還

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主文

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原審判決を破棄し,事件を水原地方裁判所に差し戻す。

理由

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1. 上告理由第1点について

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原審は,私立学校教員は学校法人又は私立学校経営者によって任命され,被告は私立及び学校法人又は私立学校経営者間に相互扶助的役割を遂行する団体である以上,私立学校教員と被告との間の負担金を納付し年金の支払を受ける関係を公法上の権力関係であると解することは出来ないから,本件還収決定を抗告訴訟の対象となる行政庁の処分と解することは出来ないと判断しつつ,これと異なり本件還収決定が行政処分であることを前提として,抗告訴訟手続によって取り消されない限りその還収金について不当利得返還を求めることができないとする被告の主張を排斥した。

関連法理及び記録に照らしてみれば,原審の右のような判断に上告理由主張のように私立学校教職員年金法第39条による還収決定の法的性格,行政処分の無効事由等に関する法理を誤解し判決に影響を及ぼす誤りはない。

2. 上告理由第2点について

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イ. 憲法裁判所の違憲決定の効力は,違憲提請を行った「当該事件」,違憲決定のある前にこれと同種の違憲与否に関して憲法裁判所に違憲与否審判提請をし,又は裁判所に違憲与否審判提請申立てをした「同種事件」と別に,違憲提請申立てはしなかったが,当該法律又は条項が裁判の前提となり,裁判所に係属中の「並行事件」のみならず,違憲決定以降同一の理由で提訴された「一般事件」にも及ぶ。しかしながら,違憲決定の効力の及ぶ範囲が無限定ではありえず,他の法理によってその遡及効を制限することまで否定されるものではなく,法的安定性の維持又は当事者の信頼保護のため不可避な場合に違憲決定の遡及効を制限することは,むしろ法治主義の原則上要請される(最高裁判所 2010.10.14. 言渡 2010ドゥ11016 判決参照)。

ロ. 原審は,次のような事実を認定した。

1) 原告は,私立学校教員として在職していたが,執行猶予の刑の言い渡しを受け,2009.8.31.の依願免職により退職した。

2) 私立学校教職員年金法第42条第1項には,給与の制限等に関する事項は公務員年金法を準用する旨規定されている。憲法裁判所は,2007. 3. 29.言渡2005憲バ33全員裁判部決定により,「在職中の事由により禁錮以上の刑を受けた場合」に退職給与及び退職手当の支払を制限する旧公務員年金法(2009. 12. 31.法律第9905号により改正される前のもの,以下同じ)第64条第1項第1号は,憲法に合致せず,右法律条項は,2008. 12. 31.を時限として立法者が改正するときまでその効力を持続するとの趣旨の憲法不合致決定をした。

3) ところで,旧公務員年金法が2008. 12. 31.に至っても改正されず,被告は,原告に旧公務員年金法が改正されていない状況で2009. 9.頃退職手当及び退職一時金を支払った。

4) 2009. 12. 31.法律第9905号により改正された公務員年金法(以下「改正公務員年金法」という)第64条第1項第1号には,「在職中の事由により禁錮以上の刑を受けた場合」のうち,「職務と関連のない過失による場合」等においては,退職給与及び退職手当制限から除外する旨規定し,その附則第1条但書は,「第64条の改正規定は,2009. 1. 1.から適用する」旨規定(以下「本件附則条項」という)した。

5) 被告は,2010. 8. 9.私立学校教職員年金法により準用される改正公務員年金法及び本件附則条項により原告に対して,2009. 9.頃既に支払った退職手当及び退職一時金中,半額を還収することとし,原告は,被告に対し右還収金中,3,500万圓を支払った。

6) 以降憲法裁判所は,2013. 9. 26.本件附則条項の中改正公務員年金法第64条第1項第1号に関する部分は,既に履行期が到来し,請求人が退職年金をすべて受領した部分まで事後的に遡及して適用されるものであって,憲法第 13条第2項により原則的に禁止される遡及立法に該当し,例外的に遡及立法が許容される場合にも該当しないとの理由で憲法に違背する旨の決定をした。

ハ. 原審は,右のような事実を認定した後,その判示のような事情を掲げ,本件は,原告の権利救済のための具体的妥当性の要請が顕著である反面,遡及効を認めても法的安定性を侵害するおそれがなく,遡及効を認めなければむしろ正義及び平等等憲法的理念が甚だしく背馳されるとの理由で,本件違憲決定は,その後に同一の理由で提訴された一般事件である本件に対しても遡及してその効力を及ぼすと判断し,本件還収決定は,法律上の根拠なくなされ無効であるから,被告は,原告から還収した金員を不当利得として返還しなければならないと判断した。

ニ. しかしながら,このような原審の判断は,次のような理由で首肯しがたい。

即ち,① 憲法裁判所2007. 3. 29.言渡2005憲バ33全員裁判部決定は,在職中の事由により禁錮以上の刑を受けた場合に,退職給与及び退職手当の支払を制限する旧公務員年金法第64条第1項第1号について,その支払制限自体が違憲であると判断したものではなく,「公務員の身分又は職務上の義務と関連のない犯罪,特に過失犯の場合においても退職給与等を制限することは,公務員犯罪を予防し,公務員が在職中誠実に勤務するよう誘導する立法目的を達成するのに適合した手段であると解することは出来ない」との理由で憲法不合致決定をするとともに,2008. 12. 31.まではその効力が維持されるとした点,② 旧公務員年金法の効力が持続すべきときまでは,公務員又は私立学校教員が在職中の事由により禁錮以上の刑を受けたとき,退職給与及び退職手当の一部を減額して支払うことが一般的に受け入れられていた点,③右憲法不合致決定の趣旨を反映した改正公務員年金法でも職務と関連のない過失による場合及び所属上官の正当な職務上の命令に従って過失による場合を除いては,在職中事由により禁錮以上の刑を受けた場合依然として退職給与及び退職手当の支払を制限しているが,原告は,在職中故意犯で有罪判決が確定された点,④返還を認める場合現実的に私立学校教職員年金に相当の財政的負担をもたらす恐れのある点等を総合して見ると,一般事件に対してまで違憲決定の遡及効を認めることによって保護される原告の権利救済という具体的妥当性等の要請が既に形成された法律関係に関する法的安定性の維持及び当事者の信頼保護の要請よりも著しく優越するとは,断定しがたい。加えて,私立学校教員は,旧私立学校法(2012. 1. 26. 法律第11216号により改正される前のもの)第57条により禁錮以上の刑の言い渡しを受けたときは,依願免職与否に関係なく当然に退職される点を指摘しておく。

ホ. 従って,これと結論を異にした原審判決には,必要な審理を尽くさず,違憲決定の遡及効に関する法理を誤解して,判決に影響を及ぼした誤りがある。

3. 結論

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よって,原審判決を破棄し,事件を再度審理・判断するよう原審裁判所に差し戻すこととし,関与判事の一致した意見で主文の通り判決する。

最高裁判所判事 イギテク(裁判長) キムヨンドク キムシン(主審) キムソヨン

 

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