電車唱歌/地理教育外濠電車唱歌

  1. きみ御稜威みゐつ千代八千代ちよやちよ たまきごとくはてしなく さかゆる御代みよ外濠そとぼりの せんいはふてめぐるなる
  2. ほり彼岸あなた建並たちならぶ 西洋建せいようだて破風造はふつくり 右手みぎてまち尾張町をはりちょう 銀座通ぎんざどおりとしられける
  3. 行手ゆくてをよぎる靑色あをいろの 電車でんしゃはこれぞ街鉄がいてつの 日比谷ひゞやさしいそぎゆく 交叉こうさてん數寄屋橋すきやばし
  4. ひだりゆる鍜治橋かぢばしを わたりてけば馬場先ばゞさきの 御門ごもんうち二重橋にじゅうばし 雲井くもゐそら打懸うちかゝ
  5. もんをばりてひだりなる 廣場ひろばたて銅像どうぞうは くにまもりの忠臣ちゅうしんと 今名いまなのこ正成公まさしげこう
  6. をもへば建武けんぶのそのむかし 逆臣高時横暴ぎゃくしんたかときをうぼうの 振舞ふるまひいとゞをほかるに 醍醐だいご帝召みかどめたま
  7. めしをうじて正成まさしげは こゝろ誠現まことあらはして きみ御爲みため西南にしみなみ 賊徒ぞくとちてたひらげぬ
  8. されどふたゝ尊氏たかうじの はん我策容わがさくいれられず 忠義ちゅうぎ鑑後かゞみのちに のこしてきし湊川みなとがは
  9. 七重八重洲なゝえやえす橋過はしすぎて とゞろわた呉服橋ごふくばし かなへたか雲凌くもしのぐ 日本銀行にほんぎんこういかめ
  10. 千歲変ちとせかはらぬ常盤橋ときはばし 其名床そのなゆかしき鎌倉かまくらの 河岸かしさゞなみうちよせて きし石垣苔深いしがきこけふか
  11. 印刷局いんさつきょく煙突えんとつに あはかゝれるひるつき 近衛騎兵このえきへい營所えいしょにも 程遠ほどとほからぬ神田橋かんだばし
  12. きみ御爲みため武夫ますらをが 命捧いのちさゝげて戰場いくさばに げし勲功いさほ數々かず〴〵を になひてかへ錦町にしきちょう
  13. ほまれすへ世々迄よゝまでも ながれてつき小川町をがはまち まねやなぎ下影したかげを 往來ゆきこひとのいとをほ
  14. 秩父甲斐ちゝぶかひ根遥ねはるかにも えて駿河臺するがだい のぼりつめたる今此處いまこゝは をときこえしおちゃみづ
  15. 數丈すじょうたかはしに たちひがしをながむれば 神田かんだ 淺草あさくさ 日本橋にほんばし 下谷したや 本所ほんじょ唯一目たゞひとめ
  16. 下逝したゆみづ早舟はやふねの 聲面白こえおもしろ櫓拍子ろびょうしは みやこをよそのながめにて かえさのほどわすらるゝ
  17. ひだりもり教育きょういくの ためにとひら圖書館づしょかんや 博物館はくぶつかんたてるあり つゞくは高等師範校こうとうしはんこう
  18. ちかきわたりに鎭座いっきます 神田明神伏かんだみょうじんふおがみ 名殘盡なごりつきせぬ名所めいしょをば あとにのこしてすゝ
  19. かは彼方あなた甲武線こうぶせん 電車でんしゃさまかはれども 景色損けしきそこねぬためにとて 煙吐けぶりはかぬぞたのもしゝ
  20. 湯島五丁目元町ゆしまごちょうめもとまちを ぐる彼方あなた黒煙くろけぶり そらおほひて立昇たちのぼり 汽笛きてきこえかしましゝ
  21. 此處こゝ世界せかいたる 日本武士やまとおのここしく 太刀たちつるぎ打鍛うちきたふ 砲兵工廠ほうへいこうしょうそれなれや
  22. そらおほふの黒煙こくえんは やが世界せかい我々われ〳〵が 勢力ちからあまねく延布のべしかん 幸先祝さいさきいはきざしぞや
  23. たえ汽笛きてき其聲そのこえは やが世界せかい我々われ〳〵が さとしをしめ皆人みなひとを みちびこえきこゆなる
  24. まつこずへ鶴巣つるすくひ いけいはほ龜遊かめあそぶ 長閑のどかはいとゞ桃源とうげんの さまにもたる後楽園こうらくえん
  25. むかしをば其儘そのまゝに 今猶殘いまなほのこ江戸川えどがはの ながれはつききしに 柳櫻やなぎさくらのこきまぜる
  26. 紺靑こんじょうのべしごとくなる ほり彼方あなたどてうへ 千歲ちとせたる老松をひまつの えだまじへて雲凌くもしの
  27. くにさかえはつぎつぎに 彌増いやましゆきてかぎりなく さかゆる御代みよかみかけて いのりてはや神楽坂かぐらざか
  28. かゝ芽出度めでたき大御代おほみよに うまれてふか御惠みめぐみに 逢坂下おうさかしたほりみづ つき我身わがみたのしけれ
  29. あらた出來でき見付みつけをば はいりて此處こゝくにため きみいのちさゝげてし 英魂祀えいこんまつ靖國社やすくにしゃ
  30. いのちはよしや櫻木さくらぎの はなちりてものちに のこ名譽めいよ千代八千代ちよやちよ 萬代迄よろづよまでかがやかん
  31. ほまれのあとをのこすなる 遊就舘ゆうしゅうかん品々しな〴〵は まこと武士ぶし面影をもかげを とゞめてそゞいさ
  32. 我日わがひもと武夫ますらをが 武運ぶうんほどいのるなる 此處こゝ市ヶ谷八幡宮いちがやはちまんぐう 階段さぎはしりて苔深こけふか
  33. ちかほとりおかに くにまもりの武夫ものゝふが ふたつのみち朝夕あさゆうに はげ陸軍士官校りくぐんしかんこう
  34. 本村町ほんむらちょう早過はやすぎて 四谷見附よつやみつければ 街鉄電車がいてつでんしゃ共用きょうようの 線路せんろはいとゞわずらはし
  35. やうや此處こゝ乗切のりきりて すゝ右手みぎてかしこくも 天皇すめらみこと離宮りきゅうなる 赤坂御殿あかさかごてんしられける
  36. ひだりかたながむれば みどりふかほりに さゞなみせて老松をひまつの こずゑがくたゝ
  37. 靑山御所あをやまごしょ遙拝ようはいし くだ紀井國坂きのくにさかした くもかあらぬか白栲しろたへに さきそろはぬ櫻花さくらばな
  38. りてをしまぬ武士ものゝふが 營所えいしょちか高臺こうだいに ながめてまた街鉄がいてつの 線路せんろよぎすゝみゆく
  39. ひだりしげ木立こだちこそ 月雪花つきゆきはなながめをば あはそなふるほしおか そでふりはへてひと
  40. 鎭座いっきまします日枝神社ひえじんじゃ かみ靈驗ちから顯著あらたかに 打振うちふすゞ音絶おとたえず 朱塗しゅぬりろうかんさびる
  41. 氷川神社ひかはじんじゃ參拝さんぱいし 演伎座前えんぎざまえけば みぎひだり國々くに〴〵の 國旗こくきかぜひるがへる
  42. まなびわざをいそしみて ふかこゝろ溜池ためいけの 何時いつかはくにひとめ つくさんとき葵橋あふひばし
  43. 琴平神社ことひらじんじゃ御護みまもりを いのりて此處こゝとらもん みぎ議事堂左ぎじどうひだりには 諸國しょこく公使舘こうしかんのあり
  44. 海軍省かいぐんしょう外務省がいむしょう つぎならびて司法省しほうしょう 陸軍省りくぐんしょう程近ほどちかく くもしのぎて建並たちなら
  45. 大路をほぢ彼方濠あなたほりのべに てる櫻田御門さくらだごもんこそ 昔万延元年むかしまんえいがんねんに 井伊いゐられしところなれ
  46. をもへばいま我國わがくにも 世界せかいくに肩並かたならべ をとりなき迄進まですゝみしが あれは當時そのかみ如使いかなりし
  47. 浦賀うらがおき黒船くろふねの りしときゝ今更いまさらに うえしたへの物騒ものさわぎ 三百諸公色さんびゃくしょこういろもなし
  48. とき大老直弼たいろうなをすけは 文武ぶんぶみちくらからず 到底とてもひらかでやまぬべき 諸國しょこくさま見極みきわめぬ
  49. ひらかでやまぬものならば なまじ躊躇たゆたひんものと 英斷此えいだんこゝさだまりて 五港ごこうつひひらきけり
  50. かくあつま衆怨しゅうえんに 上巳じょうみ節會せちえゆきの ゆるもたで有村ありむらが やいばもといのち
  51. りしいのちかへらねど 英斷えいだんひらけゆく 御國みくにはな櫻花さくらはな ちりりて甲斐かひあるいのちかな
  52. 海軍省かいぐんしょうよこて すゝひだりはるはな なつすゞみあきつき ふゆ雪觀ゆきみ日比谷ひゞやあり
  53. みやこちり打拂うちはらふ 心字しんじいけ大鶴おほつるが 噴出ふきだみず虹映にじうつり 木間このませみとも
  54. よや中央まなかのコートには テニスする人走ひとはしひと ある花園かえんめぐひと 野球ベースボールにいさむひと
  55. ひとさま〴〵におもまゝ いとたのしげに群遊むれあそぶ にや冥途あのよありといふ 極楽世界ごくらくせかいもかくなれや
  56. りからおこ嚠喨りゅうりょうの ひゞきはこれぞ天楽てんがくか つき無心むしんてんみ むし千草ちぐさすゞ
  57. くて電車でんしゃ外濠そとぼりを めぐをはりて又元またもとの りにし土地とちかへぬ りにし土地とちかえ