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雪 作者:流石庵羽積
花も雪も払えば清き袂かな、ほんに昔の事よ、我待つ人も吾を待ちけん。鴛鴦(をし)の雄鳥(をとり)に物思ひ羽の、凍る衾(ふすま)に鳴く音は嘸(さ)ぞな。さなきだに、心も遠き夜半(よは)の鐘、聞くも淋しき独り寝の、枕に響く霞の音も、若(も)しやいつそ堰きかねて、落つる涙のつららより、辛き生命(いのち)は惜しからねども、恋しき人は罪深く、思はんことの悲しさに、捨てた憂き、捨てた浮世の山かづら。
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。