鐵道略則
- 明治5年5月4日（1872年6月9日）太政官布告第146号
- 施行:明治5年5月7日（1872年6月12日）
- 改正前:鐵道略則 (明治五年太政官布告第六十一号)
- 改正:本ページ（全部改正）
- 廃止:1900（明治33）年10月1日 → 鐵道營業法
- 常用漢字表記:鉄道略則
- 註: 以下のリストに掲載される漢字はJIS X 0208外の異体字であり、Unicode表のBMP（基本多言語面、0面）が正しく表示できない環境によっては正しく記されない可能性がある。尚U+FA30からU+FA60の文字は、JIS X 0213対応のフォント（IPAフォント等）による記述を行っている。
- 凡例
- 親字 → 異体字 (Unicode番号) ; 異体字の説明。
- 横 → 橫 (U+6A6B) ; 旁が「廣」のまだれを除いた部分となる字形
- 者 → 者 (U+FA5B) ; 「偖」の旁部分となる字形
- 既 → 既 (U+FA42) ; 「漑」の旁部分となる字形
- 増 → 增 (U+589E) ; 「曽」の部分が「曾」となる字形
- 免 → 免 (U+FA32) ; 「俛」の旁部分となり、1、2画目の部分が「刀」となる字形
- 内 → 內 (U+5167) ; 「人」の部分が「入」となる字形
- 剥 → 剝 (U+525D) ; 偏が「碌」の旁部分となる字形
- 諸 → 諸 (U+FA22) ; 「者」の部分が「偖」の旁部分となる字形
- 都 → 都 (U+FA26) ; 「者」の部分が「偖」の旁部分となる字形
- 社 → 社 (U+FA4C) ; 偏が「示」となる字形
- 類 → 類 (U+F9D0) ; 「大」の部分が「犬」となる字形
- 告 → 吿 (U+543F) ; 「靠」の「非」を除いた字形
- 録 → 錄 (U+9304) ; 旁が「碌」の旁部分となる字形
- 毎 → 每 (U+6BCF) ; 「毋」の部分が「母」となる字形
- 註:ヿはコトの合字である。
- 註:トモは、合字で記されている。
第六十一號布吿鐵道略則別紙ノ通改正候條此旨相達候事
但開局日限ノ儀ハ治定ノ上追テ可相達候事
（別紙）
鐵道略則
第一條 賃金之事
何人ニ不限鐵道ノ列車ニテ旅行セント欲スル者ハ先賃金ヲ拂ヒ手形ヲ受取ルヘシ然ラサレハ決テ列車ニ乘ル可ラス
第二條 手形檢査及渡方ノ事
手形檢査掛ノ節ハ改ヲ受ケ取集ノ節ハ渡スヘシ若シ檢査ノ節手形ヲ出サス或ハ取集ノ節手形ヲ渡サヽル者ハ更ニ最初發車ノ「ステーション」ステーショントハ列車ノ立場ニテ旅客ノ乘リ下リ荷物ノ積ミ下ロシヲ爲ス所ヲ云フヨリノ賃金ヲ拂ハシムヘシ尤途中ヨリ乘來リシ者ニテ其確證判然タル時ハ其乘リタル場所ヨリノ賃金ヲ拂ハシムヘシ
第三條 途中「ステーション」ニテ乘組並手形ノ事
途中「ステーション」ニ於テハ列車中餘地ノ有無ニ應シテ乘リ組ムヿヲ得ヘシ若シ其手形ヲ買取リシ總人數ヲ容ルヘキ餘地ナキ時ハ其中ニテ最遠キ地ニ赴ク手形所持ノ人丈ケ先ツ乘込ムヿヲ得ヘシ若シ又同里程ノ地ニ赴ク客數人アル時ハ其手形ノ番號ノ順序ヲ以テ乘ルヿヲ得ヘシ
第四條 僞欺ノ者扱方ノ事
何人ニ不限賃金ヲ拂ハス列車ニテ旅行セント計リ或ハ遂ニ旅行シ又ハ其拂ヒシ賃金高相當ノ車ニ乘ラスシテ更ニ上等ノ車ニ乘リ組又ハ既ニ車ヨリ下ルヘキ場所ヲ過キ增賃金ヲ拂ハスシテ遠キ場所ニ至リ遂ニ其賃金ヲ免レント計リ又ハ既ニ拂ヒタル賃金ニテ到ルヘキ場所ニ到リナカラ車ヨリ下リ去ルヿヲ肯セス又ハ其外如何ナル仕方ニテモ賃金拂方ヲ逃ントスル者ハ夫々法ニ隨テ罰スヘシ
第五條 列車運轉中出入禁止ノ事
總シテ列車ノ運轉中ニ出入スルヿ又ハ車內旅客ノ居ルヘキ場所ノ外ニ乘ルヿヲ禁ス
第六條 疱瘡等ノ病人ヲ禁止スルノ事
疱瘡及諸傳染病ヲ煩フ者ハ乘車ヲ禁ス若シ此等ノ病人車中ニ在ラハ見當リ次第鐵道掛リノ者ヨリ車外並鐵道構外ヘ退去セシムヘシ
第七條 吸煙並婦人部屋男子出入禁止ノ事
何人ニ限ラス「ステーション」構內吸煙ヲ禁セシ場所並ニ吸煙ヲ禁セシ車內ニテ吸煙スルヿヲ許サス且婦人ノ爲ニ設アル車及部屋等ニ男子妄リニ立入ルヲ許サス若右等ノ禁ヲ犯シ掛リノ者ノ戒メヲ用ヒサル者ハ車外並鐵道構外ニ直ニ退去セシムヘシ
第八條 醉人及不行狀人扱方ノ事
何人ニ不限總シテ列車乘組中又ハ「ステーション」並鐵道構內ニテ醉ニ乘シ妄狀ヲ現ハス者又ハ不良ノ行狀ヲ爲ス者ハ鐵道掛ノ者ヨリ車外及鐵道構外ヘ直ニ退去セシムヘシ
第九條 鐵道ニ屬スル物品ヲ毀損スル時ノ事
何人ニ不限浪リニ「ステーション」其他鐵道構內ニ標識揭示セル書附等ヲ剝シ或ハ破リ又ハ列車ノ番號札ヲ取除キ或ハ車燈ヲ消シ又ハ各車ノ諸器械倉庫建家牆棚其他鐵道一切ノ附屬品ヲ毀損スル者ハ都テ法ニ隨テ所置スヘシ
第十條 機關車等ヘ乘込ヲ禁スルノ事
機關方並火夫ノ外ハ其筋ノ許シヲ得スシテ機關車又ハ炭水車ニ乘リ或ハ乘ラント爲ス可ラス且車長及車掛ノ者ノ外其筋ノ許シヲ得スシテハ荷物車又ハ旅客ノ爲ニ設サル車ニ乘リ又ハ乘ラント爲ス可ラス若此禁ヲ犯シ鐵道掛リノ者ノ制止ヲ用ヒサル者ハ直チニ其場ヨリ退去セシムヘシ
第十一條 鐵道地所ヘ妄リニ立入者取扱方ノ事
何人ニ不限「ステーション」又ハ鐵道構內ヘ妄リニ立入者ハ鐵道掛ノ者ヨリ即刻構外ヘ立去ラシムヘシ
第十二條 旅客ノ荷物紛失毀損取扱方ノ事
旅客手迴リ荷物其外所持ノ品タリトモ總テ之カ爲ニ別段ニ賃金ヲ拂ヒ其受取證書ヲ取置カサレハ若シ紛失毀損等アルトモ政府ニ於テ關係セサルヘシタトヒ賃金ヲ拂ヒ證書ヲ取置トモ其毀損紛失等ヲ償フハ只旅客自用衣服ノミニ止リ且償金モ五十圓ニ過ルヿナシ
第十三條 高金及大切ノ物品紛失毀損ニ關不關アル事
金銀紙貨幣郵便切手爲替會社通用券爲替手形約定證書金銀請拂證書地所建家沽券諸繪圖書畫古噐金銀玉石鍍金及諸彫鐫細工物時計類其餘衣類或ハ玩佩物ノ粧飾ニ混作ノ品類及硝子噐類陶噐漆噐酒類蠶種繭絹布生熟絲等ノ品物運送方ニ付テハ其品柄並價高等ヲ明白ニ其掛ヘ申立テ增賃金ヲ拂ヒ紛失毀損等請合シ分ノ外ハ總テ政府ニ於テ之ヲ償ハス
第十四條 牛馬獸類運送ノ事
牛馬及其他ノ獸類ヲ運送スルニ其持主或ハ送リ人ヨリ其獸類ノ價ヲ運送掛ヘ申出相當ノ增賃金ヲ拂ヒ請合證書ヲ取置クヘシ若シ增賃金ヲ拂ハス請合ヲ爲サル分ハ如何程高價ノ獸類紛失損害アルトモ牛一疋金二十圓以上馬一疋或ハ乳牛一疋ニ金五十圓以上羊或ハ豚一疋ニ金五圓以上ヲ政府ニ於テ償フヿナシ
第十五條 砲發ヲ禁スル事
何人ニ不限車內ハ勿論鐵道線及其他構內ニテ砲發スルヲ禁ス
第十六條 爆發質アル危害物運輸ヲ禁スル事
鐵道寮ヨリ追テ公吿スルマテハ火藥及ヒ「ビトローリヤム」「ケロシン、ヲイル」「トルペンタイ」石炭油等ヲ云硝性並ニ爆發質燃燒質等ノ物品ハ運輸セサルヘシ
第十七條 荷物目錄ヲ渡スヘキ事
運送ノ諸荷物ヲ鐵道掛ノ者ヘ引渡シ又ハ請取ノ度每ニハ右荷主或ハ宰領人ヨリ其品柄數量及姓名ヲ記シテ掛リノ者ヘ差出スヘシ
第十八條 物品並畜類損害償方定限ノ事
鐵道ニテ運送スル物品並畜類紛失損害アリトモ鐵道掛リノ怠惰疎漏ヨリ起リシニ非レハ政府ニ於テ敢テ之ヲ償フヿナシ
第十九條 荷物運送賃金ノコト
何人ニ不限荷物運賃ノ催促ヲ受ケテ尚拂ハサル時ハ其荷物ノ全部又ハ部分ヲ留置キ若又其荷物既ニ他所ニ運送セシ時ハ其後同人附屬ノ荷物鐵道掛リヘ送來ルヿアル時ハ之ヲ留置キ同人ヘ吿知ヲセタル上ニテ滯金高程ノ品ヲ入札公賣シ其滯金ト諸入費トヲ引取殘金殘品ヲ同人ヘ返スヘシ又時宜ニヨリ右ノ取計ヒヲ爲サス法官ニ訴ヘテ賃金並入費等ヲ取立ルヿモアルヘシ
第二十條 規則ニ隨ハサル者ノ事
何人ニ不限諸事前條ノ規則ニ隨ハスンハ乘車及ヒ荷物ノ運送ヲ許サヽルヘシ
第二十一條 規則等ノ變革布達ノ事
此規則中變革及加除アルトキハ遍ク吿達スヘシ
第二十二條 荷物運送引請方ノ事
諸荷物ノ運送ヲ引請ルヿハ列車中餘地ノ有無ニ應スヘシ
第二十三條 此規則ヲ施行スルカ爲メニ夫々法官ニ訴ヘ犯罪人罰シ方等ノ裁判ヲ乞フ手順ハ鐵道頭或ハ鐵道支配人ノ間ニテ其取扱アルヘシ
第二十四條 旅客並荷物ノ運賃ハ時宜ニ隨ヒ變革アルト雖モ其變革每ニハ二週日前ニ吿達スヘシ尤鐵道頭鐵道支配方及運輸頭取ノ間ニ於テ前條ノ如キ吿達ナク臨時ニ常例ヨリ下等ノ運賃ヲ以テ別ニ列車ヲ仕立ルヿモアルヘシ
第二十五條 此規則來ル五月七日ヨリ施行スヘシ
右之條々此度確定候事
