鉄道唱歌/地理教育 北海道鉄道唱歌

• 姉妹プロジェクト：データ項目

• 底本: 古川金次郎 著『北海道鉄道唱歌 : 地理教育』第1集,北便舎出版部,明33.12. 国立国会図書館デジタルコレクション:info:ndljp/pid/855728
• 表記は歴史的仮名遣とし、漢字制限はJIS X 0208に文字が収録されていれば元の漢字をそのまま使った。
• 変体仮名は現在用いられる仮名に改めた。
• くの字点は／＼を代用した。
• 註: この文書ではルビが使用されています。ここでは「単語（ルビ）」の形で再現しています。一部の古いブラウザでは、ルビが正しく見えない場合があります。

北海道

1. 汽（き）笛一聲札幌（てきいつせいさつぽろ）を 早（は）や我（わ）が汽（き）車（しや）は離（はな）れたり 棚引煙（たなびくけむ）りを後（あと）にして 矢（や）のごと走（はし）る勇（いさ）ましさ
2. 思（おも）へば昔時（むかし）は蝦夷（えぞ）と稱（よ）び 北（きた）の端（はて）なる荒（くわう）蕪（ぶ）の地（ち） 今（いま）は開（ひら）けて我（わ）が國（くに）の 富（ふ）源（げん）の一（い）つに數（かぞ）へらる
3. 汽（き）笛（てき）に和（わ）する山（やま）嵐（おろし）〔ママ〕 誘（さそ）はれ來（きた）る琴（こと）似（に）驛（ゑき） 平（ひら）野（の）に續（つゞ）く家々（いへ／＼）は 太平歌（たいへいうと）ふ聲（こゑ）すめり
4. 人（ひと）に翼（つばさ）の汽（き）車（しや）の旅（たび） 手（て）稻（いね）の山（やま）を横（よこ）に見（み）て 語（かた）らふひまに輕川（かるがは）を すぐれば早（はや）も錢函（ぜにはこ）の
5. 石狩茨（いしかりばら）戸（と）は程（ほど）ちかし 急（いそ）げば人（じん）馬（ば）の便（びん）もあり 過（す）ぐればいつしか暗（やみ）となる カモイコタンの隧道（とんねる）よ
6. 其の（その〔ママ〕）トン子ルを打（うち）過（す）ぎて 夜（よ）あけの心（こゝ）地（ち）すが／＼と 今（いま）も忘（わす）れぬ鐵道（てつどう）の 道（みち）ゆく人（ひと）のきけんさよ
7. こゝは鯡（にしん）の漁（ぎよう）場（ば）なるぞ 晝頃（ひるころ）つきしも朝（あさ）里（り）驛（ゑき） またゝくひまに今（いま）はゆく ゆけば小（を）樽（たる）のステーシヨン
8. 港（みなと）を見（み）れば百船（もゝふね）の 煙（けむり）は空（そら）をこがすまで 海（うみ）のあなたにうすがすむ 山（やま）は天（て）鹽（しほ）か石狩（いしかり）か
9. 北海（ほつかい）一の大（をほ）港（みなと） あつまる汽（き）船（せん）のかず／＼は 天（て）鹽北（しほきた）見（み）の端（はて）までも 函館横濱行（はこだてよこはまゆき）もあり
10. 又（また）も上（のぼ）りの汽車（し〔ママ〕）に乘（の）り 札幌（さつぽろ）さして歸（かへ）りしが むかしは熊（くま）や狼（をほかみ）の すまひし話（はなし）も夢（ゆめ）のあと
11. 北海（ほつかい）一の大（だい）都（と）會（くわい） 道（どう）廳（ちやう）所在（しよざい）の地（ち）なりとぞ 西（にし）には高（たか）く藻（も）巖嶽（いわだけ） 東（ひがし）に流（なが）るゝ豐平（とよひら）川（が）（〔ママ〕）
12. 君（きみ）の恩（めぐみ）の厚別（あつべつ）を 過（すぐ）れば程（ほど）なく野（の）幌驛（ぽろえき） 江（え）別（べつ）の川（かは）の鐵橋（てつけう）を とどろに渡（わた）るも亦嬉（またうれ）し
13. 窓（まど）より近（ちか）く見（み）渡（わた）せば 石狩川（いしかりがは）も見（み）ゆるなり 此（これ）ぞ全國第（ぜんこくだい）一の 大（たい）河（が）の程（ほど）ぞ知（し）られたり
14. 地圖（ちづ）を開（ひら）きて山（やま）を指（さ）し 川（かは）を指（さし）つゝ語（かた）るうち いつか幌向打（ほろむいうち）過（す）ぎて 岩（いは）見（み）澤（ざは）にぞ着（つ）きにける
15. 此所（こゝ）は東西南北（とうざいなんぼく）に 線（せん）路（ろ）分（わか）れしステーシヨン 知（し）るも知（し）らぬも落合（おちあい）て 肩（けん）摩（ま）の賑（にぎは）ひ盛（さか）んなり
16. 我（われ）は是（これ）より都（みやこ）路（ぢ）の 室蘭（むろらん）さして行（ゆき）なまし げにも樂（たの）しき汽（き）車（しや）の旅（たび） 眺（なが）めも心（こゝろ）も清眞（きよまつ）布（ぷ）
17. 左（ひだり）に遠（とほ）く聳（そび）ゆるは 是（これ）ぞ名（な）に負（あ）ふ夕張山（ゆうばりざん） 栗山（くりやま）由仁（ゆに）も早（は）や越（こ）えて 三（み）川通（かはとほ）れば追分（おひわけ）ぞ
18. 都（みやこ）の土宜（つと）に夕張（ゆふばり）の 炭山（たんざん）事（じ）業（げふ）を見（み）てゆかん 追分驛（おひわけえき）より乘（のり）替（か）へて 折（を）るれば川端瀧（かはばたたき）の上（うへ）
19. 秋（あき）は色（いろ）ます紅葉（もみぢ）山（やま） 夏（なつ）は凉（すゞ）しき清（しみ）水（ず）澤（ざは） 妻（つま）戀（こ）ふ聲（こゑ）の鹿（しか）の谷（たに） はや夕張（ゆふばり）に至（いた）りけり
20. そも夕張（ゆふばり）は狹（せま）けれど 御（ご）料（れう）の林（はやし）や官（くわん）林（りん）や 世（よ）に名（な）も高（たか）き炭山（たんざん）や 郵便（いうびん）局（きよく）も備（そな）はれり
21. 我（われ）は此（こ）の地（ち）を一見（けん）し 追分（おひわけ）さして立戻（たちもど）り 待間（つま）程（ほど）なく發（はつ）すれば いつか早（はや）來（き）にはや來（き）たり
22. 此處（こゝ）は厚（あつ）眞（ま）とシアピラと 二（ふた）つの川（かは）の間（あひだ）にて 土地（とち）も次（し）第に（たい〔ママ〕）平（たいら）かに 山（やま）も漸（やうや）く遠（とほ）ざかる
23. その遠（とほ）ざかる川山（かはやま）の 離（はな）れて見（み）れば懷（なつ）かしと 語（かた）らふ間（ひま）に來（きた）りしは 沼（ぬま）の端（は）驛（えき）と聞（きこ）えたり
24. 今渡（いまわた）りしは何川（なにかは）か あれぞ勇拂川（いうぶつがは）になん いよ／＼山（やま）に別（わか）れつゝ 來（きた）りし所（ところ）は苫（とま）小（こ）牧（まい）
25. 岸（きし）うつ浪（なみ）の音高（をとたか）く 旭（あさひ）に水（みづ）も錦多（きんたつ）峰（ぷ） 漁業（ぎよげふ）盛りの海岸（かいがん）は 磯（いそ）菜（な）の香（かを）りもするぞかし
26. かしこはいづく白老（しらおい）や 敷（しき）生（ぶ）を越（こ）えて登（のぼり）別（べつ） 母（はゝ）の衣（ころも）の幌別（ほろべつ）は 幌別岳（ほろべつだけ）の麓（ふもと）なり
27. 輪（わ）西（にし）過（す）ぐれば秀（ひいで）たる 香（か）もなつかしき室蘭（むろらん）よ こゝは海軍々港（かいぐんぐんかう）の その一とこそ聞（きこ）へけれ
28. 西（にし）南（みなみ）には繪（ゑ）鞆　崎（もと〔ママ〕さき） 北（きた）には輪（わ）西（にし）の山（やま）あれば 四時（いつも）濤風（なみかぜ）おだやかに 荒（あれ）たる例（ためし）なしと聞（き）く
29. 港（みなと）の口（くち）にある嶋（しま）は 大黒嶋（だいこくじま）といふ嶋（しま）ぞ 該嶋（こゝ）に建（たて）たる燈臺（とうだい）は 船（ふね）の出（で）入（いり）の助（たす）けなり
30. はるか彼（あな）方（た）に薄（うす）がすむ 山（やま）は渡（を）嶋（じま）の茅（かや）部（べ）かや 此（こ）の室蘭（むろらん）は函館（はこだて）と 青森港（あをもりかう）との海（かい）路（ろ）なり
31. かくて舊（もと）來（き）し鐵道（てつだう）を 岩（いは）見（み）澤（ざわ）へと引（ひき）返（か）へし 幾（いく）春（しゆん）別（べつ）へといざ行（ゆ）かん さて面白（おもしろ）の旅（たび）なれや
32. まづ着（つ）きたるは幌内太（ほろないふと） 此所（こゝ）は左（さ）右（いう）の分（わか）れ道（みち） 左（ひたり）へゆけば幾（いく）春（しゆん）別（べつ） 右（みぎ）へ進（すゝ）めば幌内（ほろない）ぞ
33. 幾（いく）春（しゆん）別（べつ）と幌内（ほろない）も 共（とも）に名（な）高（だか）き炭（たん）礦（くわう）山（ざん） 採堀（さいくつ）〔ママ〕高（だか）も年（とし）々（／″＼）に いやます／＼に殖（ふゆ）るとぞ
34. 是れ（これ〔ママ〕）より再（ふたゝ）び引返（ひきかへ）し 岩（いは）見（み）澤（さわ）より又更（またさら）に 歌（うた）志（し）内（ない）へと立（たち）越（こ）えん これも社線（しやせん）の内（うち）の旅（たび）
35. 煙（けむり）を後（あと）に行（ゆ）く水（みづ）の 美（ひ〔ママ〕）唄（ばひ）の川（かは）を彼方（かなた　）に見（み） 軋（きし）らす車（くるま）の音高（をとたか）き 峰延驛（みねのぶえき）はこゝぞとよ
36. 左（ひだり）は平（へい）野（や）右（みぎ）は山（やま） 石狩國（いしかりこく）のたゞ中（なか）を 一直（ちよく）線（せん）に進（すゝ）みゆく 景（け）色（しき）も美（び）なり美（び）唄驛（ばひえき）
37. 動（ゆる）がぬ御代（みよ）の驗（しる）しとて 奈井江（なゐえ）ふるはぬ砂川（すながは）や 濱（はま）の眞砂（まさご）の數（かず）つきぬ 齡（よはい）を祈（いの）る此（こ）の神（か）威（むゐ）
38. 君（きみ）は千代ませ千代ませと ことほき祝（いは）ふ歌（うた）志（し）内（ない） 此所（こゝ）にも聞（きこ）えし炭山（たんざん）と 郵便電信（いうびんでんしん）局（きよく）とあり
39. また砂川（すながわ）に立返（たちかへ）り 空（そら）知（ち）太（ぶと）まで進（すゝ）み行（ゆ）き こゝにて更（さら）に官（くわん）線（せん）に 移（うつ）れば早（はや）き瀧川（たきかわ）の
40. 瀧（たき）つ流（なが）れは白玉（しらたま）の 露（つゆ）と答（こた）へんよしもなく 江部（ゑべ）乙高（おとたか）き妹（いも）背（せ）牛（うし） 草刈童（くさかりわら）子（べ）ひきてゆく
41. 學（まな）びの心（こゝろ）深川（ふかかは）を 越（こ）ゆれば早（はや）も納内（なふない）の 驛（えき）に至（いた）るも程近（ほどちか）く 伊（い）納近文（なふちかふみ）直（す）ぐの道（みち）
42. 霞（かすみ）たな引（び）く旭（あさひ）川（がは） 此所（こゝ）も線（せん）路（ろ）は三叉（みつまた）に 分（わか）るゝ繁華（はんくわ）のステーシヨン 月（つき）日（ひ）と共（とも）に榮（さか）えゆく
43. 左（ひだり）は天（て）鹽右（しほみぎ）十（と）勝（かち） いづれも長（なが）き線（せん）路（ろ）なり されども今（いま）は工（こう）事（じ）中（ちう） 全通迄（ぜんつうまで）は程遠（ほどとほ）し
44. いでまづ離（り）宮（きう）豫（よ）定（てい）地（ち）の 上川（かみがは）郡（ごほり）見（み）てゆかん そも上川（かみがは）は本道（ほんだう）の 中心（ちうしん）としも謂（い）ひつべし
45. 水清（みづきよ）らかに地味肥（ちみこ）えて 風景（ふうけい）佳（か）絶（ぜつ）畫（ゑ）も如（しか）ず 早（はや）く宮（みや）居（ゐ）を建（たて）まつり 行（みゆ）幸（き）を此（こゝ）に拜（をが）みてん
46. その上川（かみがは）へ行（ゆ）く道（みち）は 旭（あさひ）川（がは）より右（みぎ）へ折（を）れ 邊（へ）別（べつ）を下（を）りて進（すゝ）むあり 山（さん）河（か）の景（け）色心（しきこゝ）地（ち）よし
47. 邊（へ）別（べつ）の次（つぎ）は美（び）暎（ゑい）〔ママ〕驛（えき） 上（かみ）富良野（ふらの）より中（なか）富良野（ふらの） 下（しと〔ママ〕）富良野（ふらの）まで通（つう）じたり 十（と）勝線（かちせん）路（ろ）は此（こ）の線（せん）ぞ
48. 天（て）鹽線（しほせん）路（ろ）へ出（い）づるには 旭（あさひ）川（がは）へと引返（ひきかへ）し 北（きた）に發（はつ）する汽（き）車（しや）に乘（の）り 日（ひ）も永山（ながやま）に進（すゝ）むなり
49. 比布（ひふ）と蘭（らん）留（る）を過（すぎ）行（ゆ）けば 和寒風（わつさむかぜ）そ身（み）には染（し）む さはさりながら恐（おそ）るべき みづき草（くさ）むす此（こ）の屍（かばね）
50. のどかに死（し）なん君（きみ）のため 腰（こし）の劍淵（けんぶち）たてならず 義（ぎ）勇（いう）一徹奉公（てつほうこう）の 心（こゝろ）は堅（かた）き士（し）別驛（ベツえき）