金子堅太郎拘留日数算入事件判決等
判決
編集昭和四二年(あ)第一七九二号
- 判 決
- 本籍 長崎県佐世保市比良町一三五番地
- 住居 福岡県粕屋郡須恵町大字須恵字仏生一一七の一六番地 恵辰会内
- (現在、福岡拘置支所在所)
工員
金子堅太郎
昭和一一年一二月三日生
右強盗致傷、窃盗被告事件について、昭和四二年七月六日福岡高等裁判所の言い渡した判決に対し、検察官から上告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり判決する。
- 主 文
- 原判決中、「当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に算入する」との部分を破棄する。その余の部分に対する本件上告を棄却する。
- 理 由
福岡高等検察庁検事長岡原昌男の上告趣意について
記録によれば、被告人は、本件につき、起訴前である昭和四二年二月十七日勾留状の執行を受け、爾来第一審並びに原審を通じて、勾留を継続されているものであるが、これよりさき、被告人は、昭和四十年一〇月一四日福岡地方裁判所において、詐欺、窃盗、道路交通法違反の罪により懲役一年六月(未決勾留日数中、裁定三〇日算入、法定一五日通算)に処せられ、同判決は同月二九日確定し、即日右刑の執行を受け、その後同四一年一二月二五日仮出獄を許されたが、右刑の刑期満了予定日であった同四一年四月三日までの期間中に右仮出獄を取り消されたため、さらに本件披告事件について勾留中の同年三月三日から右仮出獄取消による残刑の執行を受けることとなり、その刑期は同年六月二二日満了したものであるところ、被告人は、本件第一審の判決に対し同年四月一日控訴を申し立て、原審は、これに対し同年七月六日控訴を棄却するとともに、原審における未決勾留日数中六〇日を第一審判決の本件に算入したものであることが認められる。
そうすると、原審が第一審判決の本刑に算入した原審における未決勾留日数中、前記仮出獄の取消による残刑の執行を受け終った日の翌日から、原判決言渡の前日までの十三日間を除くその余の期間は、前記確定刑の執行と重複することが明らかである。従って、原判決中原審の未決勾留日数を本刑に算入した部分は、論旨引用の当裁判所の判例に反して刑法二一条を適用した違法があり、論旨は理由があるから、刑訴法四〇五条二号、四一〇条一項本文、四一三条但書により、原判決中、「当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に算入する」、との部分を破棄し、その未決勾留日数を算入しないこととし、その余の部分に対する上告は、上告趣意として何らの主張がなく、従ってその理由がないことに帰するから、同四一四条、三九六条によりこれを棄却すべく、当審における訴訟費用は、同一八一条一項但書により被告人に負担させたいこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
公判出席検察官 平出禾
- 昭和四二年十二月二十六日
- 最高裁判所第三小法廷
- 昭和四二年十二月二十六日
裁判長裁判官 松本正雄
裁判官 田中二郎
裁判官 下村三郎
裁判官 飯村義美
検察官の上告趣意
編集昭和四二年(あ)第一七九二号
被告人 金子堅太郎
検察官の上告趣意(昭和四十二年八月五日付)
原判決は、未決勾留日数の算入につき、最高裁判所の判例の趣旨と相反する判断をしたものであって、とうてい破棄を免れないものと思料する。
原判決は、被告人の第一審有罪判決に対する控訴につき、「本件控訴を棄却する。当審における未決勾留日数中六〇日を本件に算入する。」旨の判決を言い渡した。
しかしながら、本件訴訟記録によると、原審において、本件に算入しうべき未決勾留日数は、一三日にすぎない。すなわち、披告人は、本件強盗致傷、窃盗事件につき、昭和四二年二月十七日勾留状の執行を受け、同年二月二五日起訴、同年三月三十一日第一審判決言渡し、同年四月三日被告人控訴を経て同年七月六日原判決言渡しまで勾留されたが、その間、同年三月三日から右勾留と競合して、彼告人に対する別件昭和四〇年一〇月一四日福岡地方裁判所言い渡しにかかる詐欺・窃盗・道路交通法違反の罪による仮出獄取消刑懲役一年六月(うち執行済一年二七日)、未決勾留日数中、裁定三〇日法定一五日各算入の刑が執行され、同四二年六月二二日右刑の執行を終了したことが明白である。
従って、原判決の本件に算入しうべき原審における未決勾留日数は、右刑の執行終了の翌日である同年六月二十三日から、原判決言い渡しの前日である同年七月五日までの一三日にすぎない。
しかるに、原判決は、第一審当時、福岡地方検察庁検察事務官から前記別件仮出獄取消刑の執行指揮通知がなされていたのにかかわらず、この点を看過して、実際に算入しうべき未決勾留日数十三日を四七日超えて、「当審における未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。」旨の判決を言い渡したのであって、該判決には明らかに刑法二一条の適用を誤った違法があり、これは、刑の執行と競合する未決勾留日数を本刑に算入することは、違法である旨を言い渡した昭和三二年一二月二十五日最高裁判所大法廷判決(最高裁判所判例集第一一巻一四号三三七七頁)、同三三年一一月七日同裁判所第二小法廷判決(前同第一二巻一五号三五〇四頁)の各判例の趣旨に相反するものといわざるを得ない。
以上のとおりであるから、原判決を破棄し、さらに適正な裁判を求めるため、上告を申し立てた次第である。
以 上
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