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里の暁 作者:後楽園四明居
梓弓(あづさゆみ)、入る方ゆかし夕月(ゆふづき)の。匂(にほ)へる春も橘花(はなたちばな)の。夏来(き)にけらし一声は。山郭公(やまほととぎす)鳴き捨てて。あやめもしらぬ烏羽玉(うばたま)の。闇夜を照す螢火(ほたるび)の。その影さへも陽炎(かげろふ)の。立ちまさりたる思い寝の。亡き魂(たま)返す。唐(もろこし)のその故事(ふること)の忍(しの)ばれて。空炷(そらだ)きならぬ煙りの末も。妙(たえ)にかをりし雲の端(は)の、いづち行くらん短夜(みじかよ)の空。
この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。