遠足唱歌


遠󠄁足唱歌

巖谷小波作歌
山崎謙󠄁太郞作曲
春の部
  1. かげのどかにて、かぜも あたたかし。さらばともどち うちつれて、はなさくのべさぐらなん。
  2. はたいろれんさうこみちける すみれぐさ、なるやまぶき あかももおくむかふる うつくしさ。
  3. ながれささめく がはには、くよだかひれふりて、まるはしあやふきに、ともつるな こころして。
  4. とほやまさとの うすがすみ、はるかみさほひめが、もすそとばかり うるはしき。あれぞさくらさかりなる。
  5. がねまがはなの、みつかるる てふてふや、むぎなみたかだかと、なのるもうれあげばり
  6. はかまひだただしくも、ならびててる つくづくし、むなたをるな これもまた、はるめぐみに うまれしを。
  7. くはともなる ひとに、くてのみちたづねつつ、すすなたはなかげに、をばしぶちやみせもあり。
  8. すがたせねど うぐひすは、かきはなあひだより、ホホケキョーと いくたびか、かへしつつ うたふなり。
  9. だかをかうへて、つえつれば おちこちの、あかぬながめに しばらくは、われわするる おもひかな。
  10. とほながるる かはすぢは、ときすてし おびやらん、さざなみをうけて、るやぎんしの きらめくを。
  11. すぎみどりまじりつつ、つばきさくなる より、なかえたる おほとり、あれこそむらちんじゅなれ。
  12. ともなたを かへりよ。やなぎわか めし、はしたもとに いななきて、こまいさましさ。
  13. おもへばゆきふゆは、なかくさてて、はなくれなゐ のみどり、とりうたさへ なかりしを。
  14. めぐるつきそのうちに、かくこそはなたれ。さればわれおこたらず、すすみてはなかせまし。
  15. はななかみぎひだり、こころのままに あるきて、かくれしぜんたくみをば、ひらもとめん すべもがな。
  16. はなみつとる あぶはちや、そらむしつばくろも、いづれかかがみ ならざらん、われかれをとるべき。
  17. はるひかりちちとして、はなつるころくさへし さとは、こうしきて いそぐなり。
  18. はなびらとざす たんぽぽの、かげゆめみる むしもあり、かすみまくに つつまれて、一かす とりもあり。
  19. さらばかへらん わがともよ、けふたのしく あそびたり、ひろはらにはとして、はなとりとを ともとして。
  20. いへのみやげは なになにぞ、みしははなかずかずか、かごかたむけて かたらはん、けふにちかいさを。
春の部終り


秋の部
巖谷小波作歌
山崎謙󠄁太郞作曲
  1. きりの一かぜたちて、さしもにあつなつも、みなみとほく なりゆけば、すずしきあききたりけり。
  2. るりかとみゆる おほぞらに、うかべるくもかげもなく、やちぐさぐさ さきみだる、あきながめぞ おもしろき。
  3. わたのべみのりたる、いねなみうつくしさ、なるさわすずめの、こゑさへみて きこゆなり。
  4. はたいろかきを、かすめんとてか がらすの、かがしさきとまりつつ、てるもあきしきかな。
  5. くやいとはぎ をみなへし、つゆふくめる はなのつや、きゃうべつむらさきの、ゆかしきいろたり。
  6. いくたびひとまれ、くさかまに かかるとも、たゆまずのびて いろそへし、はなこころたのしき。
  7. つゆにそのきたへたる、まつむしすずむし くつはむし、すゑやどひそみ、うたふやふしたへに。
  8. こゑにつやある かんたんや、さへづたかくさひばり、しなこそかはれ とりどりに、あきしらべたくみなる。
  9. やまふもとくりばやしをちなかに こぼれたる、いへつとにせん、いざもろともひろはなん。
  10. ここよかしと あさりつつ、ればうれしや くりの、きのふかぜに さそはれて、ちたるかずの いとおほし。
  11. まつしげみを のぼり、ざうかげれば、かさかたむけつ くきのべつ、きのひとがほに。
  12. りしものくらべつつ、かたるもたのをかうへよやとんぼあそび、とりちかうたふなり。
  13. ふなはらふな とんぼうも、はたむしくらひ、とりきぎむしり、ともわれたすくるよ。
  14. ちんじゅもりはたみえて、かぐらはや きこゆなり、かくてぞとしゆたけきを、いはふかさとひとびとも。
  15. なかこみち ゆくうしの、うづたかく つむくさに、けさきみちきそめし、はなかずかず まじるらん。
  16. たかそびゆる とほやまの、しろいただわたぼう、あれこそゆきかしには、はやもませり ふゆかみ
  17. やまいねへて、もみぢにしき かざりなば、しもゆきとに としくれて、へどおよばぬ つきかな。
  18. あしみじかき このごろや、でらかねともに、はやくもつきのぼるなり、ばなすゑを ゆるがせて。
  19. きんくださとかはむしたかひろはらつゆわれすそり、かぜわれそでふ。
  20. ゆふぎりやがて ちこめて、けふやまへだつとも、つきこそまもたのしくも、いへにかへる われかな。
秋の部終り

遠󠄁足唱歌終󠄁