貴族院議員資格及選挙争訟判決規則に対するピゴット氏意見

原文

貴族院議員資格及選挙争訟判決規則に対するピゴット氏意見

 資格の有無に関する争訟も、その結果選挙に関する争訟に他ならず。故に予は、資格及選挙とこれを区別したる理由を発見することを得ず。予の所見によれば、貴族院議員に関する争訟判決規則と題するを至当なりとす。

第一条 衆議院議員選挙は一国人民の権利の消長に関係するをもって、これに関する争訟を判決するものを司法裁判所とし、その手続もまた通常の民事訴訟手続によるを至当なりとするも、貴族院伯子男爵議員及多額納税者議員の選挙人は、その数衆議院議員の選挙人の数に比すれば極めて僅少にして、その選挙はある一部の少数者の権利に関するものにして、あえて一国人民の権利消長に関係するものにあらざるなり。故に、衆議院議員選挙に関する争訟のごとく司法裁判の手続を要せず。請願の手続をなすをもって足れりとす。ただし、貴族院はかなり速にこれを議決することを要すべし。
第二条 ある書式に従い、請願者は請願書を呈出すべし。
第三条 議長は請願書を受取りたる後、その揚合に従い、議員爵位局長官又は選挙管理者にこれを通知して願に對する反証を挙ぐることを求むべし。
第四条 請願書には立証を備うべし。
第五条 削除。
第六条 議長は審査の期日を定むる権なし。
第七条 委員、刑法に抵触の廉を発見したるときは持別報告をなすべし。然るときは、これがために委員の審査議院の会議及判決を中止することなきをもって、したがって、ただし書を要せず。
第八条 委員会は議長を経由して内務大臣に請い、府県知事より議員の資格及選挙に関する文書を徴集することを要求することを得、と修正すべし。また、本条は第六条の次に置くべし。
第九条 議院は委員会の報告に反したる議決をなすことを得ざるものとし、もし委員会の報告その当を得ずと認むるときは、再付托をなすべきことに定むべし。何となれば、委員会は議員の代表者にして、すなわち議院と同一に見倣すことを得べきものなれぱなり。
第十条 議院の判決には委員会報告の全文を掲ぐべし。また、議員無資格と判決したるときのみ判決書を内閣總理大臣に送付すべし。
第十一条 議長議員爵位局長官または選挙管理者に対して、請願に対する反証を挙ぐることを求めたるにこれを挙げざるときは、直に判決することを得るは勿論なり。故に削除すべし。
第十二条 第十条の前に置くべし。
第十三条 異議なし。
第十四条 請願のために損害を蒙りたるもの、その損害の弁償を受くべきは理の当然なり。故に、訴訟人費を課すべし。
第十五条 勅令の補則なるをもって、宜しく勅令を修正すべし。然れども、不得止ばここに存すべし。
第十六条 第十七条 はこれを合併して第一条の次に置くべし。
第十八条 異議なし。
第十九条 選挙に異動を生ずるも改選するを要せず。次点者をもって当選人となすべし。もし同数なるときは、選挙規則の規程によるべし。

現代語訳

貴族院議員資格及選挙争訟判決規則に對するピゴット氏意見

 資格の有無に関する争訟も、その結果、選挙に関する争訟に他ならない。したがって、私は資格及び選挙とこれを区別する理由を発見することができない。私の所見によれば、貴族院議員に関する争訟判決規則と題するのが至当であろう。

第1条 衆議院議員選挙は一国人民の権利の消長に関係するから、これに関する争訟を判決するものを司法裁判所とし、その手続もまた通常の民事訴訟手続によることが至当であるとしても、貴族院の伯子男爵議員、及び多額納税者議員の選挙人の数は衆議院議員の選挙人の数に比べれば極めて僅少であるから、その選挙はある一部の少数者の権利に関するものであって、あえて一国人民の権利消長に関係するものではない。したがって、衆議院議員選挙に関する争訟のように、司法裁判の手続を要しない。請願の手続をすることをもって足りるであろう。ただし貴族院は、かなり速かにこれを議決することを要するであろう。
第2条 ある書式に従い、請願者は請願書を提出しなければならない。
第3条 議長は請願書を受取った後、その揚合に応じて、議員爵位局長官、又は選挙管理者にこれを通知し、願に対する反証を挙げることを求めなければならない。
第4条 請願書には立証を備えなければならない。
第5条 削除。
第6条 議長には、審査の期日を定める権はない。
第7条 委員が、刑法に抵触の事由を発見したときは、持別報告を行わなければならない。その場合、このために委員の審査議院の会議及び判決を中止することはないので、ただし書は要しない。
第8条 委員会は議長を経由して内務大臣に請願し、府県知事から議員の資格及び選挙に関する文書を徴集することを要求することができる、と修正すべきである。また、本条は第6条の次に置くべきである。
第9条 議院は委員会の報告に反する議決をなすことができないものとし、もし委員会の報告がその当を得ていないと認めたときは、再付托をしなければならないと定めるべきである。なぜならば、委員会は議員の代表者であり、すなわち議院と同一に見倣すことができなければならないからである。
第10条 議院の判決には、委員会報告の全文を掲載すべきである。また、議員は無資格であると判決したときのみ、判決書を内閣總理大臣に送付すべきである。
第11条 議長、議員、爵位局長官、または選挙管理者に対して、請願に対する反証を挙げることを求めても、これを挙げないときは、直に判決することができるのは勿論のことである。故に削除すべきである。
第12条 第10条の前に置くべきである。
第13条 異議なし。
第14条 請願のために損害を蒙った者が、その損害の弁償を受けるべきであることは理の当然である。したがって、訴訟人費を課すべきである。
第15条 勅令の補則であるから、勅令を適切に修正すべきである。しかしながら止むを得ない場合は、ここに置くべきである。
第16条 第17条 はこれを合併して第1条の次に置くべきである。
第18条 異議なし。
第19条 選挙に異動を生じても改選を行うことは要しない。次点者をもって当選人となすべきである。もし同数であったときは、選挙規則の規程によるべきである。
 

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