朕公共ノ安寧秩序ヲ保持スル為メ樞密顧問ノ諮詢ヲ經テ豫戒令ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公布セシム

御名御璽

明治二十五年一月二十八日

內閣總理大臣伯爵 松方正義

司法大臣子爵 田中不二麻呂

内務大臣子爵 品川彌二郎

勅令第十一號

豫戒令

第一條 警視總監北海道廳長官府縣知事ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持スル爲メ左ノ事項ニ該當スル者ト認ムルトキハ豫戒命令ヲ爲スコトヲ得

  一定ノ生業ヲ有セス平常粗暴ノ言論ヲ事トスル者
  總テ他人ノ開設スル集會ヲ妨害シ又ハ妨害セントスル者
  公私ヲ問ハス他人ノ業務行為ニ干渉シテ其自由ヲ妨害シ又ハ妨害セントスル者
  第ニ號又ハ第三號ニ掲クル妨害ヲ爲スノ目的ヲ以テ第一號ヨリ第三號マテニ記載シタル者ヲ使用シタル者

第ニ條

  一定ノ期限內ニ適法ノ生業ヲ求メテ之ニ從事スヘキコトヲ命ス
  總テ他人ノ開設スル集會ニ立入リ妨害ヲ爲スヘカラサルコトヲ命ス
  如何ナル口實ニ拘ハラス財物ヲ強請シ不當ノ要求ヲ爲シ強テ面會ヲ求メ脅迫ニ渉ル書面ヲ用ヒ勸告書ヲ送リ又ハ如何ナル方法タルヲ問ハス暴威ヲ示シテ他人ノ進退意見ヲ變更セシメントシ其他他人ノ業務行為ヲ妨害シ又ハ妨害セントスルノ行為ヲ爲スヘカラサルコトヲ命ス
  人ヲ使用シテ總テ他人ノ開設シタル集會ヲ妨害シ又ハ妨害セントシ又ハ他人ノ業務行為ニ干渉シテ其自由ヲ妨害シ又ハ妨害セントスルノ所行ヲ爲サシメサルコト及ヒ豫戒命令ヲ受ケタル者ヲ扶助シ又ハ使用スヘカラサルコトヲ命ス但シ親族ノ故ヲ以テ之ヲ扶助スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
 前條第一號ニ該當スル者ニ對シテハ第一號第二號第三號ノ事項ヲ併セテ命令シ前條第二號第三號ニ該當スル者ニ對シテハ第二號第三號ノ事項ヲ併セテ命令シ前條第四號ニ該當スル者ニ對シテハ第四號ノ事項ヲ命令ス

第三條 豫戒命令ヲ受ケタル者其現住居ヲ轉スルトキハ轉居ノ前二十四時間內ニ其旨ヲ舊住居ノ所轄警察署ニ屆出テ轉居ノ後二十四時間內ニ其旨ヲ新住居ノ所轄警察署ニ届出ツヘシ

第四條 豫戒命令ヲ受ケタルヨリ三年以內ニ其命令又ハ第三條ノ規定ニ違反シタル者ハ左ノ區別ニ從ヒ之ヲ處罰ス

 第二條第一號ノ違反者ハ三日以上十日以下ノ拘留ニ處シ又ハ一圓以上一圓九十五錢以下ノ科料ニ處ス
 第二條第二號ノ違反者ハ十一日以上ニ月以下ノ重禁錮ニ處ス
 第二條第三號ノ違反者ハ一月以上四月以下ノ重禁錮ニ處ス其所犯官吏又ハ公吏ノ職務ニ對スルトキハ一等ヲ加フ
 第二條第四號ノ違反者ハニ月以上六月以下ノ重禁錮又ハ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ニ處ス
 第三條ノ違反者二圓以上二十圓以下ノ罰金ニ處ス

第五條 豫戒命令ヲ爲スニハ命令書ヲ作リ其命令ヲ受クル者ノ氏名年齡身分職業本籍住所第一條第何號ニ該當スル者タルコト第二條ニ記載シタル命令第三條ノ全文第四條ニ記載シタル違反者ノ罰例竝ニ命令ヲ爲シタル年月日警視總監北海道廳長官不縣知事官氏名ヲ記載シテ本人ニ下付シ同時ニ之ヲ其地方ニ於テ公布ス

第六條 豫戒命令ヲ受ケタル者一年以上ヲ經過シ改悛ノ情狀著シキトキハ警視總監北海道廳長官府縣知事ニ於テ其命令ヲ解除スルコトヲ得此場合ニ於テハ同時ニ之ヲ其地方ニ於テ公布ス

第七條 豫戒命令ヲ受ケタル者ヲ止宿又ハ同居セシムル者ハ二十四時閒內ニ其旨ヲ所轄警察署ニ屆出テ又所轄警察署ノ要求アルトキハ本令ノ施行ニ關スル事項ニ付事實ノ申立ヲヲ爲スヘシ若シ其屆出ヲ怠リ又ハ不實ノ申立ヲ爲シタルトキハ三圓以上百圓以下ノ罰金ニ處ス

第八條 豫戒命令違反ノ刑ハ其本住所ノ地ノ所屬監獄ニ於テ之ヲ執行スルコトヲ得

第九條 本令ハ發布ノ日ヨリ施行ス

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