警察手眼/警視官等級の別
- 警視官等級ノ別
三一 僚屬ヲ使用スル依怙偏頗ナク命意平等ナルベシ
三二 部下僚屬ニ接スル公ヲ以テシ决シテ私ヲ以テスベカラズ殊ニ無名ノ惠ヲ爲シ姑息ノ仁ヲ行フベカラズ何トナレバ幾百圓ノ厚給ヲ得ルモ元來限リアルノ資ヲ以テ限ナキ情ニ償ハン事到底得ベカラズ强テ是ニ惠マントセバ之ヲ親踈區別セザルヲ得ズ是則人心離反ノ基也苟モ一身同體ト見テ國家ニ從事スベキ部下ニ對シ愛懀ヲ用テ可ナラン乎
三三 私心
- 理ト法トヲ曲テ己レ一人ノ譽ヲ求メ毀リヲ恐ル者
- 人ノ權利ヲ竊ンデ己レガ權利ヲ飾ル者
- 人ノ權力ヲ借テ巳レガ聲名ヲ求ル者
- 人ノ權力ヲ拒ンデ巳レ之ヲ攘ム者
三四 上官ハ父兄也屬僚ハ子弟也上官ハ事理ニ明カナル者トシ下官ハ及ハザル者トス故ニ上官ハ下官ヲ監視スルノ權アリ
三五 下官ハ上官ノ監督ヲ受ル者也何トナレバ其監督スルノ趣意タルヤ過誤失錯等ヲ豫防スルノ仁慈ニ出ル者ニシテ兼テ任ジタル職權ヲ汚シメザルヲ要スレバ也
三六 大警視ハ中警視以下ヲ監視シ中警視ハ少警視以下ヲ監視シ少警視ハ警部以下ヲ監視シ警部ハ巡査ヲ監視ス皆仁慈ノ意ヲ以テスル者也
三七 下官タル者ハ能ク其長上ニ從順シ其命令ヲ受テ之ヲ贊助スルノ義務アリトス巡査ハ警部補ヲ助ケ警部補ハ少警部以上ヲ助ケ少警視ハ中警視以上ヲ助ケ中警視ハ大警視ヲ助ル者トス皆從順ヲ旨トシ上官ノ分身ト心得ベシ
三八 長上ノ命令ハ篤ク之ヲ信認シ其代人ト爲テ上官ニ達スベシ下官ノ上申ヲ執達スル己レ其下官ト上官トノ閒ニ中立シタル周旋人ト爲リ其情實ヲ詳ニシ具申スベシ若シ其上申ノ成規ニ悖リ又ハ非理ニ出ルヲ見認ル如キハ說諭シテ此上申ヲ止ル事アルベシ决シテ下輩ノ意ニ泥ミ之ト黨與スベカラズ蓋シ命令ハ信ジテ下ニ布キ上申ハ斟酌シテ具申スルヲ云フ是則上ヲ明トシ下ヲ不及トスルノ道理アレバ也
三九 俸給ノ厚薄ニ依リ其任ズル所ノ效用モ亦厚薄アル也夫レ官祿ハ日々己レガ任ズル課業ノ慣ナレバ必其價ニ適スル效用ナクンバアルベカラズ
四〇 等級ノ重キハ其重キ程其責ノ重キニ任ジ其勞ニ服セズンバアルベカラズ曰我官俸ハ彼ニ增サレリ今勤ル所モ亦必彼ニ勝サル效勞ナカルベカラズ今彼レ一事ヲ爲サバ我ハ二事モ三事モ爲サズンバ何ヲ以テカ彼ノ上ニ居ランヤ或ハ此ニ反對スル心得違ノ者アリ曰我等級ハ彼ニ勝レリ我一度事ヲ行ヘバ彼ハ二度モ三度モ行フベシ我ハ貴上也彼ハ卑下也彼ハ我ニ從フベシ我ハ彼ヲ使役スベシ我何ゾ彼ト勞ヲ同フセンヤト抑〻人ノ上ニ居ル者ハ己レ何程骨折スルモ人ニ對シ决シテ己レノ勞ヲ說クベカラズ
四一 己レ價ナクシテ漫ニ不適當ノ昇進ヲ好ム者ハ自ヲ其名譽ヲ汚サンヿヲ好ム者也何トナレバ己レ二拾圓ノ價ニシテ三拾圓ノ俸ヲ得ルハ則己レハ貪惏ニ陷リ官民ニ其損耗ヲ負ハシム故ニ必ヤ怨望誹讟セラルヽ者トナラン若シ己レ三拾圓ノ價ニシテ二拾圓ノ俸ヲ得ル如キハ拾圓ハ己レヲ損シテ官民ニ益スル故ニ必ヤ世ニ信用セラルヽ疑ヲ容レザルベシ譬バ爰ニ一等巡査ニ適當ノ人アラン此ヲ四等巡査ニ置カバ必人望アラン若シ此ヲ非常ニ拔擢シテ警部ト爲スガ如キハ忽不人望ノ人トナラン如何トナレバ其適當ノ價ヲ超過シタルニ在レバ也夫レ官員ハ公衆の膏血ヲ以テ買ハレタル物品ナレバ其價丈ノ效用ナクンバ人民ニ疾惡ヲ受ルハ言ヲ竣タザルベシ是ヲ以テ其勤勞大ニシテ其俸給少ナルハ必人望アリテ安宅ニ住スル者也故ニ苟モ志氣ヲ養ヒ眞誠ニ國家ニ盡サントスル者豈自ラ昇進ヲ求ルノ理アランヤ其然リ故ニ其價ナクシテ昇進セントスル者ハ其名譽ヲ棄テ却テ怨望ヲ求ル者也
四二 當今官員中己レ本分ノ職掌ハ第二第三套ニ付シ當ニ權門勢家ニ出入シ諸官員ト交和ヲ求メ巧ニ己ガ榮利ヲ謀ルヲ以テ務トスル如キ時弊ノ甚キ者アリ豈長大息ノ至ナラズヤ
四三 巡査ニ於テモ亦其等ノ高下ニ依リ各心得アルベシ則一等ト二等ハ何ノ爲ニ高下アルヤ三等ト四等トハ何ノ爲ニ高下アルヤ三等ト四等トハ何ノ爲ニ異ナルヤヲ能々考察スベシ夫レ等級ノ高キ者ハ其高キ丈ケ賢ナラズンバアルベカラズ其給ノ多キ者ハ其多キ丈ケ勞ナクンバアルベカラズ