裁判所附属家事調停に関する規則及び調停人の倫理基準集 (フィリピン共和国)
フィリピン共和国最高裁判所、マニラ
裁判官全員会議
A.M. No. 10-4-16-SC
裁判所附属家事調停に関する規則及び調停人の倫理基準集について
決議
1987年憲法第8条第5節第5項が最高裁判所に事件を迅速に解決する簡潔で安価な手続を提供すべき手続の規則を制定する権限を与えているが故に。
1997年の民事訴訟規則第18条第2項a号(改正後のもの)が民事事件の訴訟指揮において公判前の協議を義務づけ、とりわけ、友好的な解決、あるいは当事者による代替的紛争解決手段の提案の可能性を考慮すべき旨を明示しているが故に。
2001年10月16日最高裁判所決議A.M. No. 01-10-5-SC- PHILJAがフィリピンにおいて調停の計画を制度化し実施する指針を規定し、この目的のためにフィリピン司法学院 ( PHILJA ) を裁判所附属調停その他の裁判外紛争処理 ( ADR ) の手法を検討する組織として指定しているが故に。
2010年4月19日に当裁判所が PHILJA から裁判所附属調停に関する規則の特則である裁判所附属家事調停に関する規則と、併せて調停人の倫理基準の提案を受けたが故に。
ここに、当裁判所が提案のあった裁判所附属家事調停に関する規則及び調停人の倫理基準集を検討し承認すべき旨の PHILJA による勧告に基づき、当裁判所はこれを原案どおり承認することを決議する。
裁判所附属家事調停に関する規則及び調停人の倫理基準集は、フィリピンにおける一般の日刊新聞紙による公告の15日後にその効力を生ずるものとする。
2010年6月22日
RENATO C. CORONA 首席判事
ANTONIO T. CARPIO 陪席判事
CONCHITA CARPIO MORALES 陪席判事
PRESBITERO J. VELASCO, JR. 陪席判事
ANTONIO EDUARDO B. NACHURA 陪席判事
TERESITA J. LEONARDO-DE CASTRO 陪席判事
ARTURO D. BRION 陪席判事
DIOSDADO M. PERALTA 陪席判事
LUCAS P. BERSAMIN 陪席判事
MARIANO C. DEL CASTILLO 陪席判事
ROBERTO A. ABAD 陪席判事
MARTIN S. VILLARAMA, JR. 陪席判事
JOSE PORTUGAL PEREZ 陪席判事
JOSE CATRAL MENDOZA 陪席判事
フィリピン共和国最高裁判所、マニラ
裁判所附属家事調停に関する規則
編集第1条 適用範囲
以下の事件は、これを家事調停に付するものとする。
a) 家族法典その他の扶養、養育、面会、夫婦間の財産関係、未成年後見その他の和解合意の対象となり得る一切の事項に関する法律による一切の事項。ただし、次のものを除く。
- 1) 次の法令が適用される事項
- (a) 共和国法律第9262号(女性及びその子に対する暴力禁止法)
- (b) 共和国法律第7610号(虐待、搾取及び差別からの児童の特別保護法)
- (c) 共和国法律第8353号(強制性交禁止法)
- (d) 共和国法律第9208号(人身取引禁止法)
- (e) 共和国法律第9775号(児童ポルノ禁止法)
- 2) 人の民事上の身分
- 3) 婚姻の有効性
- 4) 現実化していない扶養
- 5) 管轄
- 6) 法的分離の条件
- 7) 現実化していない遺留分
b) 遺産の清算 ( Settlement of estates )
第2条 調停命令
訴訟裁判所は、友好的な解決、あるいは裁判外紛争解決手段の提案の可能性を判断した後、フィリピン調停センター (PMC) 調停部に所属する特別の訓練を受けた家事調停人に事件を移送し、当事者に速やかにPMC調停部において手続をするよう指示する命令を発するものとする。
第3条 PMC 調停部
PMC 調停部は、裁判所附属調停の手続のため、裁判所庁舎内又は公判法廷の置かれる建物の近隣に置くものとする。
第4条 調停人の選任
① PMC 調停部は、正式に登録された家事調停人の候補者名簿の中から当事者双方が受け容れ可能な家事調停人を選任するよう支援するものとする。当事者が家事調停人に関して合意できないときは、PMC 調停部が家事調停人を指名するものとする。
② 家事調停人は、速やかに調停手続を開始するものとする。ただし、当事者双方が5事業日内に調停を取り止めることを合意したときはこの限りでなく、この場合には更なる通知を要しない。
第5条 弁護士の出席等
弁護士は当事者の相談相手又は助言者として振る舞うことができるが、調停人の求めがあったときに限り出席することができる。当事者以外の者の参加は、当事者双方が同意し、調停人の許可があったときに限り許される。
第6条 調停の手続
① a) 家事調停人は、調停手続を運営するときは、裁判所の職員とする。
b) 家事調停人の面前での初回の協議は、当事者双方が出席してこれを行わなければならない。家事調停人は、紛争の早期解決の利益を強調しつつ調停手続について説明し、速やかな解決を試みなければならない。初回の協議で合意に達しなかったときは、家事調停人は、当事者双方の同意を得て、別席の期日を行うことができ、それぞれの当事者と共に、当該紛争における当該当事者自身の真の利害を見極めることができる。その後、さらに同席の協議を行い、当事者が紛争を解決するために提案する様々な選択肢を検討することができる。
② a) 家事調停人は、いかなる方法であっても、手続を記録してはならないが、自らの手引きとするための心覚えを書き留めることはできる。
b) 家事調停人は、事件を移送した訴訟裁判所に対し、調停が終了したときに調停の状況報告書を提出しなければならない。
c) PMC調停部は、前項の報告書を調停手続の申立てのためにのみ保管しなければならない。その他の一切の記録又は文書は、これを当事者に返還しなければならない。
d) 訴訟裁判所が許与した期間が終了した場合において、合意に達していないときは、手続を進行させるために、事件を訴訟裁判所に返還しなければならない。ただし、当事者が調停をさらに続行することに同意した場合にはこの限りでなく、この場合には、訴訟裁判所は伸長を許可することができる。
第7条 記録の秘密保持
① 自発性は意思疎通を効果的なものとし、これによって努力が成果を挙げる可能性を広げることに資するものであり、これを促進するために、法律で特に別異の規定がされない限り、調停手続及びこれに向けた全ての出来事は、厳格に秘密を保持されなければならず、そこでなされた一切の自白又は陳述は、いかなる手続においてもいかなる目的でも採用することができない。
② 当事者双方は、次の各事項を他のいかなる手続においても証拠として信頼せず援用もしないことを約束する。
a) 紛争の解決としてあり得るところに関して他の当事者が表明し又は示唆した見解
b) 手続の過程でいずれかの当事者がした自白
c) 家事調停人がした提案
d) 他の当事者が家事調停人に対して提案のあった解決策を進んで受け容れる旨を表明したことがあるという事実
③ 調停手続についてはいかなる逐語録ないし議事録も作成しないものとし、調停手続に関する家事調停人の個人的心覚えはこれを訴訟裁判所に提出しないものとする。いかなる逐語録、議事録及び心覚えも、他のいかなる手続においても、証拠とすることは許容されないものとする。
第8条 訴訟手続の停止
① 家事調停が係属している期間は、審理及び判決宣告のための通常の期間及び義務的期間から控除するものとする。
② 調停の期間は、当事者双方が和解合意に達し、可能であれば、訴訟を終了させるに足りる十分な時間を許与することに当事者双方が同意する限りで、これを伸長することができる。
第9条 本人の出席
各当事者は、家事調停に自ら出席しなければならない。
第10条 家事調停の提供の停止又は終了
a) 当事者の一方又は双方が次のとおり制度を誤用しているときは、家事調停人は調停を停止又は終了しなければならない。
- 1) 子の監護又は面会の現状を確保するため
- 2) 財産を浪費し又は隠匿するため
- 3) 一方又は双方の参加者が信義に背く行為をするとき
- 4) 調停が有用なものでなくなったとき
第11条 役務からの離脱
公認家事調停人は、次のいずれかの場合に限り、当事者双方及びPMC調停部に通知して、調停手続から離脱することができる。
a) 正当な理由があるとき
b) 当事者が到達した合意が不当であり、かつ法律、道徳及び公序良俗に反しているとき
第12条 解決が得られたときの手続
家事調停が成立したときは、PMC調停部は、手続の終了から3日以内に、訴訟裁判所に対し、(a) 当事者が作成した和解合意の原本を提出し、執行力を付与するために和解に基づく一部判決又は終局判決を宣告するための基礎とするか、(b) 訴えの取下書を提出するか又は(c) 請求の完済を報告するものとする。
第13条 解決が得られなかったときの手続
家事調停が成立しなかったときは、家事調停人が「調停不成立証明書」を起案し、PMC調停部がこれを3日以内に裁判所に提出するものとする。
第14条 制裁
調停は公判前協議の一環であるから、訴訟裁判所は、公判前手続への出頭の懈怠及び調停手続中の妨害行為に対して適切な制裁を課すものとする。
第15条 裁判所の義務
裁判所及びその職員は、裁判外紛争処理の鍵となる手法の一つとしての家事調停が成功裏に実施されるよう支援し、これによって未済事件の滞留を減少させることを求められている。
調停人の倫理基準集
編集規範その1 裁判所に対する責任
家事調停人は、訴訟裁判所に対し、自らの資質、能力その他一切の関連事項について、率直かつ正確でなければならず、訴訟裁判所に対し、全ての責任を負わなければならない。家事調停人は、全ての管理方針、適切な手続法規及び制定法を順守するものとする。家事調停人は、自らの行動の当否について司法部に対して責任を負い、誠実かつ勤勉に司法部の定める基準を順守しなければならない。家事調停人は、適切な当局に対し、この家事調停人基準集に対する違反を報告しなければならず、当事者にその違反を書面で報告するよう促さなければならない。
規範その2 当事者に対する責任
第1節 公平性
家事調停人は、全ての当事者に対して公平性を維持しなければならない。公平性とは、外見、発言又は行動のいずれかから来る情実又は偏見に拘束されないこと、及び一方の当事者に対してではなく全ての当事者に対して奉仕する責任を持つことを意味する。調停人は、他の当事者の出席又は同意がないときは、調停のために自らに付託された事件について、絶対にいかなる当事者とも面会して議論してはならない。家事調停人は、自らが公平を維持できないと信ずるときは、調停から離脱するものとする。家事調停人は、当事者双方に調停を終了させる権利があることを注意喚起しなければならない。家事調停人は、当事者、代理人その他の調停に何らかの関係を有する者に対し、又はこれらの者から、調停に何らかの関係を有することに起因して、贈与、遺贈、便宜、貸金その他のものを与え又は受領してはならないものとする。
第2節 能力
家事調停人は、その役務を誠実に、勤勉にかつ効率的に執行し、調停の技能についての専門的能力を維持しなければならない。この技能には次のものを含むが、これに限られない。
a) 家事調停の運営に関係のある法律、規則、行政命令及び法理
b) 専門家としての成長を促進する教育活動への定期的な参加
c) その資質及び能力の限界を超える役務の提供を避けること
第3節 利益相反
① 家事調停人は、自らが調停に関与することによって利益相反が明らかに生ずると認めるときは、その調停に関与することを避けなければならず、利益相反を生じさせ又は顕在化させ得る一切の状況及び公平性に疑問を生じさせ得る一切の状況を開示しなければならない。
② 家事調停人は、依頼者との間で、自らの専門家としての判断を損なうおそれがあり、又はいかなる方法であろうと何らかの点で当事者が搾取される危険性を増大させるおそれのあるような関係を持ってはならない。文化的に要求され又は適切なときでない限り、家事調停人は、親族、親しい友人、同僚若しくは上司又は生徒が関係する紛争を調停することには慎重でなければならない。家事調停人は、いかなる当事者とも性的関係を持ってはならない。
③ 開示する義務は、手続の全期間にわたって存続する義務である。これに加えて、 家事調停人は、何らかの法定資格の下でいずれかの当事者を代理したことがあるときは、その旨を開示しなければならない。
④ 家事調停人は、調停に関係するいずれかの当事者又は代理人との間の、知れている重要な現在又は過去の個人的又は業務上の関係を開示しなければならない。当該家事調停人と当事者とは、事案に照らして調停を継続すべきか否かを議論しなければならない。
⑤ 家事調停人が開示をした場合において、当事者が忌避を求めなかったときは、調停人は従前どおり続行しなければならない。
⑥ 家事調停人は、不動産であると動産であるとを問わず、調停のために付託された事件の対象である事項となったいかなる財物に対しても、いかなる利害関係も持ってはならない。家事調停人は、調停手続の冒頭であるか、継続中であるか、その後であるかを問わず、上述の財物を直接又は間接に購入又は売却することを申し込むことができない。
第4節 遅滞の回避
家事調停人は、仕事の計画を立て、割り当てられた調停を期限に間に合うように迅速に完了することができないことが明らかになったときは選任の受諾を控え、遅滞を避けるような方法で調停の役務を執行しなければならない。
第5節 勧誘及び宣伝の禁止
家事調停人は、当事者の一方又は双方から将来の職業上の業務及び経済的利益を勧誘し、奨励し又はその他の方法で誘引するために、調停手続を利用してはならないものとする。家事調停人は、調停の過程及び自らの資質について、真実でないか誇張された主張を行ってはならないものとする。
第6節 威圧の禁止
家事調停人は当事者を解決に合意するよう威圧し又はこれに合意するについて不公正な影響を与えてはならないものとし、調停の過程で決定に達することを促進するにとどめなければならない。
a) 不正確な説明の禁止。家事調停人は、家事調停を運営する過程において、意図的に又は故意に資料、事実又は状況に関する不正確な説明をしてはならないものとする。
b) 平衡のとれた過程。家事調停人は、平衡のとれた過程を促進し、当事者双方が家事調停において非対立的な技法による検討を行うよう奨励するものとする。家事調停の運営によって、家族法を世俗化する余り、当事者に過度な影響を及ぼして文化的又は宗教的実践に基礎を置く合意をさせることを目指す調停過程を濫用する結果となってはならないものとする。
家事調停人は、事件の結果として起こり得るところを指摘することはできるが、いかなる状況の下でも、事件が提訴されたときに訴訟裁判所が紛争をどのように解決するかについて、個人的にせよ専門的見地からにせよ、意見又は助言を提供することはできない。
c) 相互の敬意。家事調停人は、調停の過程を通じて、当事者間の相互の敬意を促進するものとする。
d) 報酬の開示。公定の報酬を除き、裁判所から付託された調停を行う家事調停人は、当事者又はその代理人から、手数料、贈与その他の報償に類するものを受け取ってはならないものとする。
e) 秘密保持。家事調停人は、口頭であろうと文書であろうと、調停で知り得た情報及びその記憶装置を取扱い、あるいは記録を処分するときは、厳格に秘密を保持するものとする。ただし、以下の場合を除く。
- 1) 制定法により報告すべきものとされる情報
- 2) 家事調停人が、当事者のいずれか、第三者又は家事調停人自身を現実に又は潜在的に危険にさらすものと判断する情報
第7節 解決に向けた調停人の役割
家事調停人は、当事者双方が弁護士の助力を得て解決までの期間を検討し理解するよう留意するものとする。
規範その3 他の専門家との連携
① 家事調停人は調停とその他の法、医療、科学、会計、精神医学及び社会福祉を含む専門的知見との関係に敬意を払うものとし、家事調停人とその他の専門家との間及びその内部の調和と協調とを促進しなければならない。
② 家事調停人は、虐待又は暴力の存在についての見識を持ってこれを探知することができるべきであり、必要なときは、当事者を適切な助言及び支援が得られるような他の専門家に紹介するものとする。
規範その4 社会に対する責任
第1節 調停に対する支援
家事調停人は、研究、評価又はその他の専門的研究開発及び公教育を推奨し参加することによって、調停の進歩を支援するものとする。
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