<聖書<文語訳旧約聖書

w:舊新約聖書 [文語]』w:日本聖書協会、1953年

w:明治元訳聖書

w:箴言

第1章

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ダビデの子イスラエルの王ソロモンの箴言

こは人に智慧と訓誨とをしらしめ哲言を暁らせ

さとき訓と公義と公平と正直とをえしめ

拙者にさとりを與へ少者に知識と謹愼とを得させん爲なり

智慧ある者は之を聞きて學にすすみ 哲者は智略をうべし

人これによりて箴言と譬喩と智慧ある者の言とその隱語とを悟らん 

ヱホバを畏るるは知識の本なり 愚なる者は智慧と訓誨とを輕んず

我が子よ汝の父の教をきけ 汝の母の法を棄つることなかれ

これ汝の首の美しき冠となり汝の項の妝飾とならん 

わが子よ惡者なんぢ誘ふとも從ふことなかれ

彼等なんぢにむかひて 請ふわれらと偕にきたれ我儕まちぶせして人の血を流し無辜ものを故なきに伏てねらひ

陰府のごとく彼等を活たるままにて呑み 壯健なる者を墳に下る者のごとくになさん

われら各樣のたふとき財寳をえ 奪ひ取たる物をもて我儕の家に盈さん

汝われらと偕に籤をひけ 我儕とともに一の金囊を持べしと云とも

我が子よ彼等とともに途を歩むことなかれ 汝の足を禁めてその路にゆくこと勿れ

そは彼らの足は惡に趨り血を流さんとて急げばなり

(すべて鳥の眼の前にて羅を張は徒勞なり)

彼等はおのれの血のために埋伏し おのれの命をふしてねらふ

凡て利を貪る者の途はかくの如し 是その持主をして生命をうしなはしむるなり 

智慧外に呼はり衢に其聲をあげ

熱閙しき所にさけび城市の門の口邑の中にその言をのべていふ

なんぢら拙者のつたなきを愛し 嘲笑者のあざけりを樂しみ 愚なる者の知識を惡むは幾時までぞや

わが督斥にしたがひて心を改めよ 視よわれ我が靈を汝らにそそぎ我が言をなんぢらに示さん 

われ呼たれども汝らこたへず 手を伸たれども顧る者なく

かへつて我がすべての勸告をすて 我が督斥を受ざりしに由り

われ汝らが禍災にあふとき之を笑ひ 汝らの恐懼きたらんとき嘲るべし

これは汝らのおそれ颶風の如くきたり 汝らのほろび颺風の如くきたり 艱難とかなしみと汝らにきたらん時なり

そのとき彼等われを呼ばん 然れどわれ應へじ 只管に我を求めん されど我に遇はじ

かれら知識を憎み又ヱホバを畏るることを悦ばず

わが勸に從はず凡て我が督斥をいやしめたるによりて

己の途の果を食ひおのれの策略に飽くべし

拙者の違逆はおのれを殺し 愚なる者の幸福はおのれを滅さん

されど我に聞くものは平穩に住ひかつ禍害にあふ恐怖なくして安然ならん

第2章

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我が子よ汝もし我が言をうけ我が誡命を汝のこころに藏め

斯て汝の耳を智慧に傾け汝の心をさとりにむけ

もし知識を呼求め聰明をえんと汝の聲をあげ

銀の如くこれを探り 祕れたる寳の如くこれを尋ねば

汝ヱホバを畏るることを暁り神を知ることを得べし

そはヱホバは智慧をあたへ 知識と聰明とその口より出づればなり

かれは義人のために聰明をたくはへ直く行む者の盾となる

そは公平の途をたもちその聖徒の途すぢを守りたまへばなり

斯て汝はつひに公義と公平と正直と一切の善道を暁らん

すなはち智慧なんぢの心にいり知識なんぢの靈魂に樂しからん

謹愼なんぢを守り聰明なんぢをたもちて

惡しき途よりすくひ虚僞をかたる者より救はん

彼等は直き途をはなれて幽暗き路に行み

惡を行ふを樂しみ 惡者のいつはりを悦び

その途はまがりその行爲は邪曲なり

聰明はまた汝を妓女より救ひ言をもて諂ふ婦より救はん

彼はわかき時の侶をすて その神に契約せしことを忘るるなり

その家は死に下り その途は陰府に赴く

凡てかれにゆく者は歸らず また生命の途に達らざるなり

聰明汝をたもちてよき途に行ませ義人の途を守らしめん

そは義人は地にながらへをり 完全者は地に止らん

されど惡者は地より亡ぼされ 悖逆者は地より拔きさらるべし

第3章

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我が子よわが法を忘るるなかれ 汝の心にわが誡命をまもれ

さらば此事は汝の日をながくし生命の年を延べ平康をなんぢに加ふべし

仁慈と眞實とを汝より離すことなかれ 之を汝の項にむすび これを汝の心の碑にしるせ

さらばなんぢ神と人との前に恩寵と好名とを得べし

汝こころを盡してヱホバに倚頼め おのれの聰明に倚ることなかれ

汝すべての途にてヱホバをみとめよ さらばなんぢの途を直くしたまふべし

自から看て聰明とする勿れヱホバを畏れて惡を離れよ

これ汝の身に良藥となり汝の骨に滋潤とならん

汝の貨財と汝がすべての産物の初生をもてヱホバをあがめよ

さらば汝の倉庫はみちて餘り 汝の酒醡は新しき酒にて溢れん 

我子よ汝ヱホバの懲治をかろんずる勿れ その譴責を受くるを厭ふこと勿れ

それヱホバはその愛する者をいましめたまふ あたかも父のその愛する子を譴むるが如し

智慧を求め得る人および聰明をうる人は福なり

そは智慧を獲るは銀を獲るに愈り その利は精金よりも善ければなり

智慧は眞珠よりも貴し 汝の凡ての財寳も之と比ぶるに足らず

其右の手には長壽あり その左の手には富と尊貴とあり

その途は樂しき途なり その徑すぢは悉く平康し

これは執る者には生命の樹なり 之を持ものは福なり

ヱホバ智慧をもて地をさだめ 聰明をもて天を置ゑたまへり

その知識によりて海洋はわきいで 雲は露をそそぐなり

我が子よこれらを汝の眼より離す勿れ 聰明と謹愼とを守れ

然ばこれは汝の靈魂の生命となり 汝の項の妝飾とならん

かくて汝やすらかに汝の途をゆかん 又なんぢの足つまづかじ

なんぢ臥とき怖るるところあらず 臥ときは酣く睡らん

なんぢ猝然なる恐懼をおそれず惡者の滅亡きたる時も之を怖るまじ

そはヱホバは汝の倚頼むものにして汝の足を守りてとらはれしめ給はざるべければなり

汝の手善をなす力あらば之を爲すべき者に爲さざること勿れ

もし汝に物あらば汝の鄰に向ひ去て復來れ明日われ汝に予へんといふなかれ

汝の鄰なんぢの傍に安らかに居らば之にむかひて惡を謀ること勿れ

人もし汝に惡を爲さずば故なく之と爭ふこと勿れ

暴虐人を羨むことなく そのすべての途を好とすることなかれ

そは邪曲なる者はヱホバに惡まるればなり されど義者はその親しき者とせらるべし

ヱホバの呪詛は惡者の家にあり されど義者の室はかれにめぐまる

彼は嘲笑者をあざけり 謙る者に恩惠をあたへたまふ

智者は尊榮をえ 愚なる者は羞辱之をとりさるべし

第4章

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小子等よ父の訓をきけ 聰明を知らんために耳をかたむけよ

われ善教を汝らにさづくわが律を棄つることなかれ

われも我が父には子にして我が母の目には獨の愛子なりき

父われを教へていへらく我が言を汝の心にとどめ わが誡命をまもれ 然らば生くべし

智慧をえ聰明をえよ これを忘るるなかれ また我が口の言に身をそむくるなかれ

智慧をすつることなかれ彼なんぢを守らん 彼を愛せよ彼なんぢを保たん

智慧は第一なるものなり 智慧をえよ 凡て汝の得たる物をもて聰明をえよ

彼を尊べ さらば彼なんぢを高く擧げん もし彼を懷かば彼汝を尊榮からしめん

かれ美き飾を汝の首に置き 榮の冠弁を汝に予へん 

我が子よきけ 我が言を納よ さらば汝の生命の年おほからん

われ智慧の道を汝に教へ 義しき徑筋に汝を導けり

歩くとき汝の歩は艱まず 趨るときも蹶かじ

堅く訓誨を執りて離すこと勿れ これを守れ これは汝の生命なり

邪曲なる者の途に入ることなかれ 惡者の路をあゆむこと勿れ

これを避よ 過ぐること勿れ 離れて去れ

そは彼等は惡を爲さざれば睡らず 人を蹶かせざればいねず

不義のパンを食ひ暴虐の酒を飮めばなり

義者の途は旭光のごとし いよいよ光輝をまして晝の正午にいたる

惡者の途は幽冥のごとし 彼らはその躓くもののなになるを知らざるなり 

わが子よ我が言をきけ 我が語るところに汝の耳を傾けよ

之を汝の目より離すこと勿れ汝の心のうちに守れ

是は之を得るものの生命にしてまたその全體の良藥なり

すべての操守べき物よりもまさりて汝の心を守れ そは生命の流これより出ればなり

虚僞の口を汝より棄てさり惡しき口唇を汝より遠くはなせ

汝の目は正く視 汝の眼瞼は汝の前を眞直に視るべし

汝の足の徑をかんがへはかり 汝のすべての道を直くせよ

右にも左にも偏ること勿れ汝の足を惡より離れしめよ

第5章

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我が子よわが智慧をきけ 汝の耳をわが聰明に傾け

しかしてなんぢ謹愼を守り汝の口唇に知識を保つべし

娼妓の口唇は蜜を滴らし其口は脂よりも滑なり

されど其終は茵蔯の如くに苦く兩刃の劍の如くに利し

その足は死に下り その歩は陰府に趣く

彼は生命の途に入らず 其徑はさだかならねども自ら之を知らざるなり

小子等よいま我にきけ 我が口の言を棄つる勿れ

汝の途を彼より遠く離れしめよ 其家の門に近くことなかれ

恐くは汝の榮を他人にわたし汝の年を憐憫なき者にわたすにいたらん

恐くは他人なんぢの資財によりて盈され 汝の勞苦は他人の家にあらん

終にいたりて汝の身なんぢの體亡ぶる時なんぢ泣悲みていはん

われ教をいとひ 心に譴責をかろんじ

我が師の聲をきかず我を教ふる者に耳を傾けず

あつまりの中會衆のうちにてほとんど諸の惡に陷れりと 

汝おのれの水溜より水を飮み おのれの泉より流るる水をのめ

汝の流をほかに溢れしめ 汝の河の水を衢に流れしむべけんや

これを自己に歸せしめ 他人をして汝と偕にこに與らしむること勿れ

汝の泉に福祉を受しめ 汝の少き時の妻を樂しめ

彼は愛くしき麀のごとく美しき鹿の如し その乳房をもて常にたれりとしその愛をもて常によろこべ

我子よ何なればあそびめをたのしみ淫婦の胸を懷くや

それ人の途はヱホバの目の前にあり 彼はすべて其行爲を量りたまふ

惡者はおのれの愆にとらへられ その罪の繩に繋る

彼は訓誨なきによりて死に その多くの愚なることに由りて亡ぶべし

第6章

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我子よ汝もし朋友のために保證をなし 他人のために汝の手を拍ば

汝その口の言によりてわなにかかりその口の言によりてとらへらるるなり

我子よ汝友の手に陷りしならば斯して自ら救へ すなはち往て自ら謙り只管なんぢの友に求め

汝の目をして睡らしむることなく汝の眼瞼をして閉しむること勿れ

かりうどの手より鹿ののがるるごとく 鳥とる者の手より鳥ののがるる如くしてみづからを救へ 

惰者よ蟻にゆき其爲すところを觀て智慧をえよ

蟻は首領なく有司なく君王なけれども

夏のうちに食をそなへ 收穫のときに糧を斂む

惰者よ汝いづれの時まで臥息むや いづれの時まで睡りて起きざるや

しばらく臥ししばらく睡り手を叉きてまた片時やすむ

さらば汝の貧窮は盜人の如くきたり 汝の缺乏は兵士の如くきたるべし 

邪曲なる人あしき人は虚僞の言をもて事を行ふ

彼は眼をもて眴せし 脚をもてしらせ 指をもて示す

その心に虚僞をたもち 常に惡をはかり 爭端を起す

この故にその禍害にはかに來り 援助なくして立刻に敗らるべし

ヱホバの憎みたまふもの六あり否その心に嫌ひたまふもの七あり

即ち驕る目いつはりをいふ舌 つみなき人の血を流す手

惡しき謀計をめぐらす心すみやかに惡に趨る足

詐僞をのぶる證人および兄弟のうちに爭端をおこす者なり 

我子よ汝の父の誡命を守り 汝の母の法を棄つる勿れ

常にこれを汝の心にむすび之をなんぢの頸に佩よ

これは汝のゆくとき汝をみちびき 汝の寢るとき汝をまもり 汝の寤るとき汝とかたらん

それ誡命は燈火なり 法は光なり教訓の懲治は生命の道なり

これは汝をまもりて惡しき婦よりまぬかれしめ 汝をたもちて淫婦の舌の諂媚にまどはされざらしめん

その艶美を心に戀ふことなかれその眼瞼に捕へらるること勿れ

それ娼妓のために人はただ僅に一撮の糧をのこすのみにいたる 又淫婦は人の尊き生命を求むるなり

人は火を懷に抱きてその衣を焚れざらんや

人は熱火を踏てその足を焚れざらんや

その隣の妻と姦淫をおこなふ者もかくあるべし凡て之に捫る者は罪なしとせられず

竊む者もし飢ゑしときに其飢を充さん爲にぬすめるならば人これを藐ぜじ

もし捕へられなばその七倍を償ひ其家の所有をことごとく出さざるべからず

婦と姦淫をおこなふ者は智慧なきなり之を行ふ者はおのれの靈魂を亡ぼし

傷と凌辱とをうけて其恥を雪ぐこと能はず

妒忌その夫をして忿怒をもやさしむればその怨を報ゆるときかならず寛さじ

いかなる贖物をも顧みず衆多の饋物をなすともやはらがざるべし

第7章

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我子よわが言をまもり我が誡命を汝の心にたくはへよ

我が誡命をまもりて生命をえよ 我法を守ること汝の眸子を守るが如くせよ

これを汝の指にむすび これを汝の心の碑に銘せ

なんぢ智慧にむかひて汝はわが姉妹なりといひ 明理にむかひて汝はわが友なりといへ

さらば汝をまもりて淫婦にまよはざらしめ言をもて媚る娼妓にとほざからしめん

われ我室の牖により檑子よりのぞきて

拙き者のうち 幼弱者のうちに一人の智慧なき者あるを觀たり

彼衢をすぎ婦の門にちかづき其家の路にゆき

黄昏に半宵に夜半に黒暗の中にあるけり

時に娼妓の衣を着たる狡らなる婦かれにあふ

この婦は譁しくしてつつしみなく其足は家に止らず

あるときは衢にあり 或時はひろばにあり すみずみにたちて人をうかがふ

この婦かれをひきて接吻し 恥しらぬ面をもていひけるは

われ酬恩祭を獻げ今日すでにわが誓願を償せり

これによりて我なんぢを迎へんとていで汝の面をたづねて汝に逢へり

わが榻には美しき褥およびエジプトの文枲をしき

沒藥蘆薈桂皮をもて我が榻にそそげり

來れわれら詰朝まで情をつくし愛をかよはして相なぐさめん

そは夫は家にあらず遠く旅立して

手に金囊をとれり 望月ならでは家に歸らじと

多くの婉言をもて惑はし 口唇の諂媚をもて誘へば

わかき人ただちにこれに隨へり あだかも牛の宰地にゆくが如く 愚なる者の桎梏をかけらるる爲にゆくが如し

遂には矢その肝を刺さん 鳥の速かに羅にいりてその生命を喪ふに至るを知らざるがごとし

小子等よいま我にきけ 我が口の言に耳を傾けよ

なんぢの心を淫婦の道にかたむくること勿れ またこれが徑に迷ふこと勿れ

そは彼は多の人を傷つけて仆せり 彼に殺されたる者ぞ多かる

その家は陰府の途にして死の室に下りゆく

第8章

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智慧は呼はらざるか 聰明は聲を出さざるか

彼は路のほとりの高處また街衢のなかに立ち

邑のもろもろの門 邑の口および門々の入口にて呼はりいふ

人々よ われ汝をよび 我が聲をもて人の子等をよぶ

拙き者よなんぢら聰明に明かなれ 愚なる者よ汝ら明かなる心を得よ

汝きけ われ善事をかたらん わが口唇をひらきて正事をいださん

我が口は眞實を述べ わが口唇はあしき事を憎むなり

わが口の言はみな義し そのうちに虚僞と奸邪とあることなし

是みな智者の明かにするところ知識をうる者の正とするところなり

なんぢら銀をうくるよりは我が教をうけよ 精金よりもむしろ知識をえよ

それ智慧は眞珠に愈れり 凡の寳も之に比ぶるに足らず

われ智慧は聰明をすみかとし 知識と謹愼にいたる

ヱホバを畏るるとは惡を憎むことなり 我は傲慢と驕奢 惡道と虚僞の口とを憎む

謀略と聰明は我にあり 我は了知なり 我は能力あり

我に由て王者は政をなし君たる者は義しき律をたて

我によりて主たる者および牧伯たちなど凡て地の審判人は世を治む

われを愛する者は我これを愛す 我を切に求むるものは我に遇はん

富と榮とは我にあり 貴き寳と公義とも亦然り

わが果は金よりも精金よりも愈り わが利は精銀よりもよし

我は義しき道にあゆみ公平なる路徑のなかを行む

これ我を愛する者に貨財をえさせ又その庫を充しめん爲なり

ヱホバいにしへ其御わざをなしそめたまへる前にその道の始として我をつくりたまひき

永遠より 元始より 地の有ざりし前より我は立てられ

いまだ海洋あらず いまだ大なるみづの泉あらざりしとき我すでに生れ

山いまださだめられず 陵いまだ有ざりし前に我すでに生れたり

即ち神いまだ地をも野をも地の塵の根元をも造り給はざりし時なり

かれ天をつくり 海の面に穹蒼を張たまひしとき我かしこに在りき

彼うへに雲氣をかたく定め淵の泉をつよくならしめ

海にその限界をたて 水をしてその岸を踰えざらしめ また地の基を定めたまへるとき

我はその傍にありて創造者となり 日々に欣び 恒にその前に樂み

その地にて樂み又世の人を喜べり

されば小子等よいま我にきけわが道をまもる者は福ひなり

教をききて智慧をえよ 之を棄つることなかれ

凡そ我にきき 日々わが門の傍にまち わが戸口の柱のわきにたつ人は福ひなり

そは我を得る者は生命をえヱホバより恩寵を獲ればなり

我を失ふものは自己の生命を害ふすべて我を惡むものは死を愛するなり

第9章

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智慧はその家を建てその七の柱を砍成し

その畜を宰り その酒を混和せその筵をそなへ

その婢女をつかはして邑の高處に呼はりいはしむ

拙者よここに來れと また智慧なき者にいふ

汝等きたりて我が糧を食ひ わがまぜあはせたる酒をのみ

拙劣をすてて生命をえ 聰明のみちを行め 

嘲笑者をいましむる者は恥を己にえ 惡人を責むる者は疵を己にえん

嘲笑者を責むることなかれ 恐くは彼なんぢを惡まん 智慧ある者をせめよ 彼なんぢを愛せん

智慧ある者に授けよ彼はますます智慧をえん 義者を教へよ彼は知識に進まん

ヱホバを畏るることは智慧の根本なり聖者を知るは聰明なり

我により汝の日は多くせられ 汝のいのちの年は増べし

汝もし智慧あらば自己のために智慧あるなり 汝もし嘲らば汝ひとり之を負ん 

愚なる婦は嘩しく且つたなくして何事をも知らず

その家の門に坐し 邑のたかき處にある座にすわり

道をますぐに過ぐる往來の人を招きていふ

拙者よここに來れと また智慧なき人にむかひては之にいふ

竊みたる水は甘く 密かに食ふ糧は美味ありと

彼處にある者は死にし者 その客は陰府のふかき處にあることを是等の人は知らざるなり

第10章

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ソロモンの箴言 智慧ある子は父を欣ばす 愚なる子は母の憂なり

不義の財は益なし されど正義は救ひて死を脱かれしむ

ヱホバは義者の靈魂を饑ゑしめず 惡者にその欲するところを得ざらしむ

手をものうくして動らくものは貧しくなり 勤めはたらく者の手は富を得

夏のうちに斂むる者は智こき子なり 收穫の時にねむる者は辱をきたす子なり

義者の首には福祉きたり 惡者の口は強暴を掩ふ

義者の名は讚められ 惡者の名は腐る

心の智き者は誡命を受く されど口の頑愚なる者は滅さる

直くあゆむ者はそのあゆむこと安し されどその途を曲ぐる者は知らるべし

眼をもて眴せする者は憂をおこし 口の頑愚なる者は亡さる

義者の口は生命の泉なり 惡者の口は強暴を掩ふ

怨恨は爭端をおこし 愛はすべての愆を掩ふ

哲者のくちびるには智慧あり 智慧なき者の背のためには鞭あり

智慧ある者は知識をたくはふ 愚かなる者の口はいまにも滅亡をきたらす

富者の資財はその堅き城なり 貧者のともしきはそのほろびなり

義者の動作は生命にいたり 惡者の利得は罪にいたる

教をまもる者は生命の道にあり 懲戒をすつる者はあやまりにおちいる

怨をかくす者には虚僞のくちびるあり 誹謗をいだす者は愚かなる者なり

言おほけれぼ罪なきことあたはず その口唇を禁むるものは智慧あり

義者の舌は精銀のごとし 惡者の心は價すくなし

義者の口唇はおほくの人をやしなひ 愚なる者は智慧なきに由て死ぬ

ヱホバの祝福は人を富ます 人の勞工はこれに加ふるところなし

愚かなる者は惡をなすを戯れごとのごとくす 智慧のさとかる人にとりても是のごとし

惡者の怖るるところは自己にきたり 義者のねがふところはあたへらる

狂風のすぐるとき惡者は無に歸せん 義者は窮なくたもつ基のごとし

惰る者のこれを遣すものに於るは酢の齒に於るが如く煙の目に於るが如し

ヱホバを畏るることは人の日を多くす されど惡者の年はちぢめらる

義者の望は喜悦にいたり 惡者の望は絶ゆべし

ヱホバの途は直者の城となり 惡を行ふものの滅亡となる

義者は何時までも動かされず 惡者は地に住むことを得じ

義者の口は智慧をいだすなり 虚僞の舌は拔かるべし

義者のくちびるは喜ばるべきことをわきまへ 惡者の口はいつはりを語る

第11章

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いつはりの權衡はヱホバに惡まれ義しき砍碼は彼に欣ばる

驕傲きたれば辱も亦きたる 謙だる者には智慧あり

直者の端莊は己を導き 悖逆者の邪曲は己を亡ぼす

寳は震怒の日に益なし されど正義は救ふて死をまぬかれしむ

完全者はその正義によりてその途を直くせられ 惡者はその惡によりて跌るべし

直者はその正義によりて救はれ悖逆者は自己の惡によりて執へらる

惡人は死ぬるときにその望たえ 不義なる者の望もまた絶ゆべし

義者は艱難より救はれ 惡者はこれに代る

邪曲なる者は口をもてその鄰を亡ぼす されど義しき者はその知識によりて救はる

義しきもの幸福を受ればその城邑に歡喜あり 惡しきもの亡さるれば歡喜の聲おこる

城邑は直者の祝ふに倚て高く擧げられ 惡者の口によりて亡さる

その鄰を侮る者は智慧なし 聰明人はその口を噤む

往て人の是非をいふ者は密事を洩し 心の忠信なる者は事を隱す

はかりごとなければ民たふれ 議士多ければ平安なり

他人のために保證をなす者は苦難をうけ 保證を嫌ふ者は平安なり

柔順なる婦は榮譽をえ強き男子は資財を得

慈悲ある者は己の靈魂に益をくはへ 殘忍者はおのれの身を擾はす

惡者の獲る報はむなしく 義を播くものの得る報賞は確し

堅く義をたもつ者は生命にいたり 惡を追もとむる者はおのれの死をまねく

心の戻れる者はヱホバに憎まれ 直く道を歩む者は彼に悦ばる

手に手をあはするとも惡人は罪をまぬかれず 義人の苗裔は救を得

美しき婦のつつしみなきは金の環の豕の鼻にあるが如し

義人のねがふところは凡て福祉にいたり 惡人ののぞむところは震怒にいたる

ほどこし散らして反りて増ものあり與ふべきを吝みてかへりて貧しきにいたる者あり

施與を好むものは肥え人を潤ほす者はまた利潤をうく

穀物を藏めて糶ざる者は民に詛はる然れど售る者の首には祝福あり

善をもとむる者は恩惠をえん 惡をもとむる者には惡しき事きたらん

おのれの富を恃むものは仆れん されど義者は樹の青葉のごとくさかえん

おのれの家をくるしむるものは風をえて所有とせん 愚なる者は心の智きものの僕とならん

義人の果は生命の樹なり 智慧ある者は人を捕ふ

みよ義人すらも世にありて報をうくべし 况て惡人と罪人とをや

第12章

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訓誨を愛する者は知識を愛す 懲戒を惡むものは畜のごとし

善人はヱホバの恩寵をうけ 惡しき謀略を設くる人はヱホバに罰せらる

人は惡をもて堅く立つことあたはず 義人の根は動くことなし

賢き婦はその夫の冠弁なり 辱をきたらする婦は夫をしてその骨に腐あるが如くならしむ

義者のおもひは直し 惡者の計るところは虚僞なり

惡者の言は人の血を流さんとて伺ふ されど直者の口は人を救ふなり

惡者はたふされて無ものとならん されど義者の家は立つべし

人はその聰明にしたがひて譽られ 心の悖れる者は藐しめらる

卑賤してしもべある者は自らたかぶりて食に乏き者に愈る

義者はその畜の生命を顧みる されど惡者は殘忍をもてその憐憫とす

おのれの田地を耕すものは食にあく 放蕩なる人にしたがふ者は智慧なし

惡者はあしき人の獲たる物をうらやみ 義者の根は芽をいだす

惡者はくちびるの愆によりて罟に陷る されど義者は患難の中よりまぬかれいでん

人はその口の徳によりて福祉に飽かん 人の手の行爲はその人の身にかへるべし

愚なる者はみづからその道を見て正しとす されど智慧ある者はすすめを容る

愚なる者はただちに怒をあらはし 智こきものは恥をつつむ

眞實をいふものは正義を述べ いつはりの證人は虚僞をいふ

妄りに言をいだし劍をもて刺がごとくする者あり されど智慧ある者の舌は人をいやす

眞理をいふ口唇は何時までも存つ されど虚僞をいふ舌はただ瞬息のあひだのみなり

惡事をはかる者の心には欺詐あり 和平を謀る者には歡喜あり

義者には何の禍害も來らず 惡者はわざはひをもて充さる

いつはりの口唇はヱホバに憎まれ 眞實をおこなふ者は彼に悦ばる

賢人は知識をかくす されど愚なる者のこころは愚なる事を述ぶ

勤めはたらく者の手は人ををさむるにいたり 惰者は人に服ふるにいたる

うれひ人の心にあれば之を屈ます されど善言はこれを樂します

義者はその友に道を示す されど惡者は自ら途にまよふ

惰者はおのれの獵獲たる物をも燔ず 勉めはたらくことは人の貴とき寳なり

義しき道には生命ありその道すぢには死なし

第13章

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智慧ある子は父の教訓をきき 戯謔者は懲治をきかず

人はその口の徳によりて福祉をくらひ 悖逆者の靈魂は強暴をくらふ

その口を守る者はその生命を守る その口唇を大きくひらく者には滅亡きたる

惰る者はこころに慕へども得ることなし 勤めはたらく者の心は豐饒なり

義者は虚僞の言をにくみ 惡者ははぢをかうむらせ面を赤くせしむ

義は道を直くあゆむ者をまもり 惡は罪人を倒す

自ら富めりといひあらはして些少の所有もなき者あり 自ら貧しと稱へて資財おほき者あり

人の資財はその生命を贖ふものとなるあり 然ど貧者は威嚇をきくことあらず

義者の光は輝き 惡者の燈火はけさる

驕傲はただ爭端を生ず 勸告をきく者は智慧あり

詭計をもて得たる資財は減る されど手をもて聚めたくはふる者はこれを増すことを得

望を得ること遲きときは心を疾しめ 願ふ所既にとぐるときは生命の樹を得たるがごとし

御言をかろんずる者は亡され 誡命をおそるる者は報賞を得

智慧ある人の教訓はいのちの泉なり 能く人をして死の罟を脱れしむ

善にして哲きものは恩を蒙る されど悖逆者の途は艱難なり

凡そ賢者は知識に由りて事をおこなひ 愚なる者はおのれの痴を顯す

惡しき使者は災禍に陷る されど忠信なる使者は良藥の如し

貧乏と恥辱とは教訓をすつる者にきたる されど譴責を守る者は尊まる

望を得れば心に甘し 愚なる者は惡を棄つることを嫌ふ

智慧ある者と偕にあゆむものは智慧をえ 愚なる者の友となる者はあしくなる

わざはひは罪人を追ひ 義者は善報をうく

善人はその産業を子孫に遺す されど罪人の資財は義者のために蓄へらる

貧しき者の新田にはおほくの糧あり されど不義によりて亡ぶる者あり

鞭をくはへざる者はその子を憎むなり 子を愛する者はしきりに之をいましむ

義しき者は食をえて飽く されど惡者の腹は空し

第14章

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智慧ある婦はその家をたて 愚なる婦はおのれの手をもて之を毀つ

直くあゆむ者はヱホバを畏れ 曲りてあゆむ者はこれを侮る

愚なる者の口にはその傲のために鞭笞あり 智者の口唇はおのれを守る

牛なければ飼蒭倉むなし 牛の力によりて生産る物おほし

忠信の證人はいつはらず 虚僞のあかしびとは謊言を吐く

嘲笑者は智慧を求むれどもえず 哲者は知識を得ること容易し

汝おろかなる者の前を離れされ つひに知識の彼にあるを見ざるべし

賢者の智慧はおのれの道を暁るにあり 愚なる者の痴は欺くにあり

おろかなる者は罪をかろんず されど義者の中には恩惠あり

心の苦みは心みづから知る そのよろこびには他人あづからず

惡者の家は亡され 正直き者の幕屋はさかゆ

人のみづから見て正しとする途にしてその終はつひに死にいたる途となるものあり

笑ふ時にも心に悲あり 歡樂の終に憂あり

心の悖れる者はおのれの途に飽かん 善人もまた自己に飽かん

拙者はすべての言を信ず 賢者はその行を愼む

智慧ある者は怖れて惡をはなれ 愚なる者はたかぶりて怖れず

怒り易き者は愚なることを行ひ 惡しき謀計を設くる者は惡まる

拙者は愚なる事を得て所有となし 賢者は知識をもて冠弁となす

惡者は善者の前に俯伏し 罪ある者は義者の門に俯伏す

貧者はその鄰にさへも惡まる されど富者を愛する者はおほし

その鄰を藐しむる者は罪あり 困苦者を憐むものは幸福あり

惡を謀る者は自己をあやまるにあらずや 善を謀る者には憐憫と眞實とあり

すべての勤勞には利益あり されど口唇のことばは貧乏をきたらするのみなり

智慧ある者の財寳はその冠弁となる 愚なる者のおろかはただ痴なり

眞實の證人は人のいのちを救ふ 謊言を吐く者は僞人なり

ヱホバを畏るることは堅き依頼なり その兒輩は逃避場をうべし

ヱホバを畏るることは生命の泉なり 人を死の罟より脱れしむ

王の榮は民の多きにあり 牧伯の衰敗は民を失ふにあり

怒を遲くする者は大なる知識あり 氣の短き者は愚なることを顯す

心の安穩なるは身のいのちなり 媢嫉は骨の腐なり

貧者を虐ぐる者はその造主を侮るなり 彼をうやまふ者は貧者をあはれむ

惡者はその惡のうちにて亡され 義者はその死ぬる時にも望あり

智慧は哲者の心にとどまり 愚なる者の衷にある事はあらはる

義は國を高くし 罪は民を辱しむ

さとき僕は王の恩を蒙ぶり 辱をきたらす者はその震怒にあふ

第15章

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柔和かなる答は憤恨をとどめ 厲しき言は怒を激す

智慧ある者の舌は知識を善きものとおもはしめ 愚なる者の口はおろかをはく

ヱホバの目は何處にもありて惡人と善人とを鑒みる

温柔き舌は生命の樹なり 悖れる舌は靈魂を傷ましむ

愚なる者はその父の訓をかろんず 誡命をまもる者は賢者なり

義者の家には多くの資財あり 惡者の利潤には擾累あり

智者のくちびるは知識をひろむ 愚なる者の心は定りなし

惡者の祭物はヱホバに憎まれ 直き人の祈は彼に悦ばる

惡者の道はヱホバに憎まれ 正義をもとむる者は彼に愛せらる

道をはなるる者には嚴しき懲治あり 譴責を惡む者は死ぬべし

陰府と沉淪とはヱホバの目の前にあり况て人の心をや

嘲笑者は誡めらるることを好まず また智慧ある者に近づかず

心に喜樂あれば顏色よろこばし 心に憂苦あれば氣ふさぐ

哲者のこころは知識をたづね 愚なる者の口は愚をくらふ

艱難者の日はことごとく惡く 心の懽べる者は恒に酒宴にあり

すこしの物を有てヱホバを畏るるは多の寳をもちて擾煩あるに愈る

蔬菜をくらひて互に愛するは肥たる牛を食ひて互に恨むるに愈る

憤ほり易きものは爭端をおこし 怒をおそくする者は爭端をとどむ

惰者の道は棘の籬に似たり 直者の途は平坦なり

智慧ある子は父をよろこばせ 愚なる人はその母をかろんず

無知なる者は愚なる事をよろこび 哲者はその途を直くす

相議ることあらざれば謀計やぶる 議者おほければ謀計かならず成る

人はその口の答によりて喜樂をう 言語を出して時に適ふはいかに善からずや

智人の途は生命の路にして上へ昇りゆく これ下にあるところの陰府を離れんが爲なり

ヱホバはたかぶる者の家をほろぼし 寡婦の地界をさだめたまふ

あしき謀計はヱホバに憎まれ 温柔き言は潔白し

不義の利をむさぼる者はその家をわづらはせ 賄賂をにくむ者は活ながらふべし

義者の心は答ふべきことを考へ 惡者の口は惡を吐く

ヱホバは惡者に遠ざかり 義者の祈祷をききたまふ

目の光は心をよろこばせ 好音信は骨をうるほす

生命の誡命をきくところの耳は智慧ある者の中間に駐まる

教をすつる者は自己の生命をかろんずるなり 懲治をきく者は聰明を得

ヱホバを畏るることは智慧の訓なり 謙遜は尊貴に先だつ

第16章

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心に謀るところは人にあり 舌の答はヱホバより出づ

人の途はおのれの目にことごとく潔しと見ゆ 惟ヱホバ靈魂をはかりたまふ

なんぢの作爲をヱホバに託せよ さらば汝の謀るところ必ず成るべし

ヱホバはすべての物をおのおのその用のために造り 惡人をも惡しき日のために造りたまへり

すべて心たかぶる者はヱホバに惡まれ 手に手をあはするとも罪をまぬかれじ

憐憫と眞實とによりて愆は贖はる ヱホバを畏るることによりて人惡を離る

ヱホバもし人の途を喜ばばその人の敵をも之と和がしむべし

義によりて得たるところの僅少なる物は不義によりて得たる多の資財にまさる

人は心におのれの途を考へはかる されどその歩履を導くものはヱホバなり

王のくちびるには神のさばきあり 審判するときその口あやまる可らず

公平の權衡と天秤とはヱホバのものなり 囊にある砍碼もことごとく彼の造りしものなり

惡をおこなふことは王の憎むところなり 是その位は公義によりて堅く立てばなり

義しき口唇は王によろこばる 彼等は正直をいふものを愛す

王の怒は死の使者のごとし 智慧ある人はこれをなだむ

王の面の光には生命あり その恩寵は春雨の雲のごとし

智慧を得るは金をうるよりも更に善からずや 聰明をうるは銀を得るよりも望まし

惡を離るるは直き人の路なり おのれの道を守るは靈魂を守るなり

驕傲は滅亡にさきだち 誇る心は傾跌にさきだつ

卑き者に交りて謙だるは驕ぶる者と偕にありて贓物をわかつに愈る

愼みて御言をおこなふ者は益をうべし ヱホバに倚頼むものは福なり

心に智慧あれば哲者と稱へらる くちびる甘ければ人の知識をます

明哲はこれを持つものに生命の泉となる 愚なる者をいましむる者はおのれの痴是なり

智慧ある者の心はおのれの口ををしへ 又おのれの口唇に知識をます

こころよき言は蜂蜜のごとくにして靈魂に甘く骨に良藥となる

人の自から見て正しとする途にしてその終はつひに死にいたる途となるものあり

勞をるものは飮食のために骨をる 是その口おのれに迫ればなり

邪曲なる人は惡を掘る その口唇には烈しき火のごときものあり

いつはる者はあらそひを起し つげぐちする者は朋友を離れしむ

強暴人はその鄰をいざなひ之を善からざる途にみちびく

その目を閉て惡を謀り その口唇を蹙めて惡事を成遂ぐ

白髮は榮の冠弁なり 義しき途にてこれを見ん

怒を遲くする者は勇士に愈り おのれの心を治むる者は城を攻取る者に愈る

人は籤をひく されど事をさだむるは全くヱホバにあり

第17章

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睦じうして一塊の乾けるパンあるは あらそひありて宰れる畜の盈たる家に愈る

かしこき僕は恥を來らする子を治め 且その子の兄弟の中にありて産業を分ち取る

銀を試むる者は坩堝 金を試むる者は鑢 人の心を試むる者はヱホバなり

惡を行ふものは虚僞のくちびるにきき 虚僞をいふ者はあしき舌に耳を傾ぶく

貧人を嘲るものはその造主をあなどるなり 人の災禍を喜ぶものは罪をまぬかれず

孫は老人の冠弁なり 父は子の榮なり

勝れたる事をいふは愚なる人に適はず 况て虚僞をいふ口唇は君たる者に適はんや

贈物はこれを受る者の目には貴き珠のごとし その向ふところにて凡て幸福を買ふ

愛を追求むる者は人の過失をおほふ 人の事を言ひふるる者は朋友をあひ離れしむ

一句の誡命の智人に徹るは百囘扑つことの愚なる人に徹るよりも深し

叛きもとる者はただ惡しきことのみをもとむ 比故に彼にむかひて殘忍なる使者遣はさる

愚なる者の愚妄をなすにあはんよりは寧ろ子をとられたる牝熊にあへ

惡をもて善に報ゆる者は惡その家を離れじ

爭端の起源は堤より水をもらすに似たり この故にあらそひの起らざる先にこれを止むべし

惡者を義しとし義者を惡しとするこの二の者はヱホバに憎まる

愚なる者はすでに心なし 何ぞ智慧をかはんとて手にその價の金をもつや

朋友はいづれの時にも愛す 兄弟は危難の時のために生る

智慧なき人は手を拍てその友の前にて保證をなす

爭端をこのむ者は罪を好み その門を高くする者は敗壞を求む

邪曲なる心ある者はさいはひを得ず その舌をみだりにする者はわざはひに陷る

愚なる者を産むものは自己の憂を生じ愚なる者の父は喜樂を得ず

心のたのしみは良藥なり 靈魂のうれひは骨を枯す

惡者は人の懷より賄賂をうけて審判の道をまぐ

智慧は哲者の面のまへにあり されど愚なる者は目を地の極にそそぐ

愚なる子は其父の憂となり 亦これを生める母の煩勞となる

義者を罰するは善からず 貴き者をその義きがために扑は善からず

言を寡くする者は知識あり心の靜なる者は哲人なり

愚なる者も默するときは智慧ある者と思はれ その口唇を閉るときは哲者とおもはるべし

第18章

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自己を人と異にする者はおのれの欲するところのみを求めてすべての善き考察にもとる

愚なる者は明哲を喜ばず 惟おのれの心意を顯すことを喜ぶ

惡者きたれば藐視したがひてきたり 恥きたれば凌辱もともに來る

人の口の言は深水の如し 湧てながるる川 智慧の泉なり

惡者を偏視るは善からず 審判をなして義者を惡しとするも亦善からず

愚なる者の口唇はあらそひを起し その口は打たるることを招く

愚なる者の口はおのれの敗壞となり その口唇はおのれの靈魂の罟となる

人の是非をいふものの言はたはぶれのごとしといへども反つて腹の奧にいる

その行爲をおこたる者は滅すものの兄弟なり

ヱホバの名はかたき櫓のごとし 義者は之に走りいりて救を得

富者の資財はその堅き城なり これを高き石垣の如くに思ふ

人の心のたかぶりは滅亡に先だち 謙遜はたふとまるる事にさきだつ

いまだ事をきかざるさきに應ふる者は愚にして辱をかうぶる

人の心は尚其疾を忍ぶべし されど心の傷める時は誰かこれに耐へんや

哲者の心は知識をえ 智慧ある者の耳は知識を求む

人の贈物はその人のために道をひらき かつ貴きものの前にこれを導く

先に訴訟の理由をのぶるものは正義に似たれども その鄰人きたり詰問ひてその事を明かにす

籤は爭端をとどめ且つよきものの間にへだてとなる

怒れる兄弟はかたき城にもまさりて説き伏せがたし 兄弟のあらそひは櫓の貫木のごとし

人は口の徳によりて腹をあかし その口唇の徳によりて自ら飽くべし

死生は舌の權能にあり これを愛する者はその果を食はん

妻を得るものは美物を得るなり 且ヱホバより恩寵をあたへらる

貧者は哀なる言をもて乞ひ 富人は厲しき答をなす

多の友をまうくる人は遂にその身を亡す 但し兄弟よりもたのもしき知己もまたあり

第19章

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ただしく歩むまづしき者は くちびるの悖れる愚なる者に愈る

心に思慮なければ善からず 足にて急ぐものは道にまよふ

人はおのれの痴によりて道につまづき 反て心にヱホバを怨む

資財はおほくの友をあつむ されど貧者はその友に疎まる

虚僞の證人は罰をまぬかれず 謊言をはくものは避るることをえず 

君に媚る者はおほし 凡そ人は贈物を與ふる者の友となるなり

貧者はその兄弟すらも皆これをにくむ 况てその友これに遠ざからざらんや 言をはなちてこれを呼とも去てかへらざるなり

智慧を得る者はおのれの靈魂を愛す 聰明をたもつ者は善福を得ん

虚僞の證人は罰をまぬかれず 謊言をはく者はほろぶべし

愚なる者の驕奢に居るは適當からず 况て僕にして上に在る者を治むることをや

聰明は人に怒をしのばしむ 過失を宥すは人の榮譽なり

王の怒は獅の吼ゆるが如くその恩典は草の上におく露のごとし

愚なる子はその父の災禍なり 妻の相爭そふは雨漏のたえぬにひとし

家と資財とは先祖より承嗣ぐもの 賢き妻はヱホバより賜ふものなり

懶惰は人を酣寐せしむ 懈怠人は飢ゆべし

誡命を守るものは自己の靈魂を守るなり その道をかろむるものは死ぬべし

貧者をあはれむ者はヱホバに貸すなり その施濟はヱホバ償ひたまはん

望ある間に汝の子を打て これを殺すこころを起すなかれ

怒ることの烈しき者は罰をうく 汝もしこれを救ふともしばしば然せざるを得じ

なんぢ勸をきき訓をうけよ 然ばなんぢの終に智慧あらん

人の心には多くの計畫あり されど惟ヱホバの旨のみ立つべし

人のよろこびは施濟をするにあり 貧者は謊人に愈る

ヱホバを畏るることは人をして生命にいたらしめ かつ恒に飽足りて災禍に遇はざらしむ

惰者はその手を盤にいるるも之をその口に擧ぐることをだにせず

嘲笑者を打て さらば拙者も愼まん 哲者を譴めよ さらばかれ知識を得ん

父を煩はし母を逐ふは羞赧をきたらし凌辱をまねく子なり

わが子よ哲言を離れしむる教を聽くことを息よ

惡しき證人は審判を嘲り 惡者の口は惡を呑む

審判は嘲笑者のために備へられ 鞭は愚なる者の背のために備へらる

第20章

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酒は人をして嘲らせ 濃酒は人をして騷がしむ 之に迷はさるる者は無智なり

王の震怒は獅の吼ゆるがごとし 彼を怒らする者は自己のいのちを害ふ

穩かに居りて爭はざるは人の榮譽なり すべて愚なる者は怒り爭ふ

惰者は寒ければとて耕さず この故に收穫のときにおよびて求るとも得るところなし

人の心にある謀計は深き井の水のごとし 然れど哲人はこれを汲出す

凡そ人は各自おのれの善を誇る されど誰か忠信なる者に遇ひしぞ

身を正しくして歩履む義人はその後の子孫に福祉あるべし

審判の位に坐する王はその目をもてすべての惡を散らす

たれか我わが心をきよめ わが罪を潔められたりといひ得るや

二種の權衡二種の斗量は等しくヱホバに憎まる

幼子といへどもその動作によりておのれの根性の清きか或は正しきかをあらはす

聽くところの耳と視るところの眼とはともにヱホバの造り給へるものなり

なんぢ睡眠を愛すること勿れ 恐くは貧窮にいたらん 汝の眼をひらけ 然らば糧に飽くべし

買者はいふ惡し惡しと 然れど去りて後はみづから誇る

金もあり眞珠も多くあれど貴き器は知識のくちびるなり

人の保證をなす者よりは先その衣をとれ 他人の保證をなす者をばかたくとらへよ

欺きとりし糧は人に甜し されど後にはその口に沙を充されん

謀計は相議るによりて成る 戰はんとせば先よく議るべし

あるきめぐりて人の是非をいふ者は密事をもらす 口唇をひらきてあるくものと交ること勿れ

おのれの父母を罵るものはその燈火くらやみの中に消ゆべし

初に俄に得たる産業はその終さいはひならず

われ惡に報いんと言ふこと勿れ ヱホバを待て 彼なんぢを救はん

二種の砍碼はヱホバに憎まる 虚僞の權衡は善からず

人の歩履はヱホバによる 人いかで自らその道を明かにせんや

漫に誓願をたつることは其人の罟となる誓願をたててのちに考ふることも亦然り

賢き王は箕をもて簸るごとく惡人を散らし 車輪をもて碾すごとく之を罰す

人の靈魂はヱホバの燈火にして人の心の奧を窺ふ

王は仁慈と眞實をもて自らたもつ その位もまた恩惠のおこなひによりて堅くなる

少者の榮はその力 おいたる者の美しきは白髮なり

傷つくまでに打たば惡しきところきよまり 打てる鞭は腹の底までもとほる

第21章

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王の心はヱホバの手の中にありて恰も水の流れのごとし 彼その聖旨のままに之を導きたまふ

人の道はおのれの目に正しとみゆ されどヱホバは人の心をはかりたまふ

正義と公平を行ふは犠牲よりも愈りてヱホバに悦ばる

高ぶる目と驕る心とは惡人の光にしてただ罪のみ

勤めはたらく者の圖るところは遂にその身を豐裕ならしめ 凡てさわがしく急ぐ者は貧乏をいたす

虚僞の舌をもて財を得るは吹はらはるる雲烟のごとし 之を求むる者は死を求むるなり

惡者の殘虐は自己を亡ぼす これ義しきを行ふことを好まざればなり

罪人の道は曲り 潔者の行爲は直し

相爭ふ婦と偕に室に居らんよりは屋蓋の隅にをるはよし

惡者の靈魂は惡をねがふ その鄰も彼にあはれみ見られず

あざけるもの罰をうくれば拙者は智慧を得 ちゑあるもの教をうくれば知識を得

義しき神は惡者の家をみとめて惡者を滅亡に投いれたまふ

耳を掩ひて貧者の呼ぶ聲をきかざる者は おのれ自ら呼ぶときもまた聽かれざるべし

潛なる饋物は忿恨をなだめ 懷中の賄賂は烈しき瞋恚をやはらぐ

公義を行ふことは義者の喜樂にして 惡を行ふものの敗壞なり

さとりの道を離るる人は死にし者の集會の中にをらん

宴樂を好むものは貧人となり 酒と膏とを好むものは富をいたさじ

惡者は義者のあがなひとなり 悖れる者は直き者に代る

爭ひ怒る婦と偕にをらんよりは荒野に居るはよし 

智慧ある者の家には貴き寳と膏とあり 愚なる人は之を呑みつくす

正義と憐憫とを追求むる者は生命と正義と尊貴とを得べし

智慧ある者は強者の城にのぼりて その堅く頼むところを倒す

口と舌とを守る者はその靈魂を守りて患難に遇はせじ

高ぶり驕る者を嘲笑者となづく これ驕奢を逞しくして行ふものなり

惰者の情慾はおのれの身を殺す 是はその手を肯て働かせざればなり

人は終日しきりに慾を圖る されど義者は與へて吝まず

惡者の獻物は憎まる 况て惡しき事のために獻ぐる者をや

虚僞の證人は滅さる 然れど聽く人は恒にいふべし

惡人はその面を厚くし 義者はその道を謹む

ヱホバにむかひては智慧も明哲も謀略もなすところなし

戰鬪の日のために馬を備ふ されど勝利はヱホバによる

第22章

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嘉名は大なる富にまさり 恩寵は銀また金よりも佳し

富者と貧者と偕に世にをる 凡て之を造りし者はヱホバなり

賢者は災禍を見てみづから避け 拙者はすすみて罰をうく

謙遜とヱホバを畏るる事との報は富と尊貴と生命となり

悖れる者の途には荊棘と罟とあり 靈魂を守る者は遠くこれを離れん

子をその道に從ひて教へよ 然ばその老いたる時も之を離れじ

富者は貧者を治め 借者は貸人の僕となる

惡を播くものは禍害を穡り その怒の杖は廢るべし

人を見て惠む者はまた惠まる 此はその糧を貧者に與ふればなり

嘲笑者を逐へば爭論も亦さり 且鬪諍も恥辱もやむ

心の潔きを愛する者はその口唇に憐憫をもてり 王その友とならん

ヱホバの目は知識ある者を守る 彼は悖れる者の言を敗りたまふ

惰者はいふ獅そとにあり われ衢にて殺されんと

妓婦の口は深き坑なり ヱホバに憎まるる者これに陷らん

痴なること子の心の中に繋がる 懲治の鞭これを逐ひいだす

貧者を虐げて自らを富まさんとする者と富者に與ふる者とは遂にかならず貧しくなる

汝の耳を傾ぶけて智慧ある者の言をきき且なんぢの心をわが知識に用ゐよ

之を汝の腹にたもちて 盡くなんぢの口唇にそなはらしめば樂しかるべし

汝をしてヱホバに倚頼ましめんが爲にわれ今日これを汝に教ふ

われ勸言と知識とをふくみたる勝れし言を汝の爲に録ししにあらずや

これ汝をして眞の言の確實なることを暁らしめ 且なんぢを遣しし者に眞の言を持歸らしめん爲なり

弱き者を弱きがために掠むることなかれ 艱難者を門にて壓つくること勿れ

そはヱホバその訴を糺し且かれらを害ふものの生命をそこなはん

怒る者と交ること勿れ 憤る人とともに往くことなかれ

恐くは汝その道に效ひてみづから罟に陷らん

なんぢ人と手をうつ者となることなかれ 人の負債の保證をなすこと勿れ

汝もし償ふべきものあらずば人なんぢの下なる臥牀までも奪ひ取らん 是豈よからんや

なんぢの先祖がたてし古き地界を移すこと勿れ

汝その業に巧なる人を見るか 斯る人は王の前に立たん かならず賤者の前にたたじ

第23章

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なんぢ侯たる者とともに坐して食ふときは 愼みて汝の前にある者の誰なるかを思へ

汝もし食を嗜む者ならば汝の喉に刀をあてよ

その珍饈を貪り食ふこと勿れ これ迷惑の食物なればなり

富を得んと思煩らふこと勿れ 自己の明哲を恃むこと勿れ

なんぢ虚しきに歸すべき者に目をとむるか 富はかならず自ら翅を生じて鷲のごとく天に飛びさらん

惡目をする者の糧をくらふことなく その珍饈をむさぼりねがふことなかれ

そはその心に思ふごとくその人となりも亦しかればなり 彼なんぢに食へ飮めといふこといへどもその心は汝に眞實ならず

汝つひにその食へる物を吐出すにいたり 且その出しし懇懃の言もむなしくならん

愚なる者の耳に語ること勿れ 彼なんぢが言の示す明哲を藐しめん

古き地界を移すことなかれ 孤子の畑を侵すことなかれ

そはかれが贖者は強し 必ず汝に對らひて之が訴をのべん

汝の心を教に用ゐ 汝の耳を知識の言に傾けよ

子を懲すことを爲ざるなかれ 鞭をもて彼を打つとも死ぬることあらじ

もし鞭をもて彼をうたばその靈魂を陰府より救ふことをえん

わが子よもし汝のこころ智からば我が心もまた歡び

もし汝の口唇ただしき事をいはば我が腎腸も喜ぶべし

なんぢ心に罪人をうらやむ勿れ ただ終日ヱホバを畏れよ

そは必ず應報ありて汝の望は廢らざればなり

わが子よ 汝ききて智慧をえ かつ汝の心を道にかたぶけよ

酒にふけり肉をたしむものと交ること勿れ

それ酒にふける者と肉を嗜む者とは貧しくなり 睡眠を貪る者は敞れたる衣をきるにいたらん

汝を生める父にきけ 汝の老いたる母を輕んずる勿れ

眞理を買へ これを售るなかれ 智慧と誡命と知識とまた然あれ

義き者の父は大によろこび 智慧ある子を生める者はこれがために樂しまん

汝の父母を樂しませ 汝を生める者を喜ばせよ

わが子よ汝の心を我にあたへ 汝の目にわが途を樂しめ

それ妓婦は深き坑のごとく 淫婦は狭き井のごとし

彼は盜賊のごとく人を窺ひ かつ世の人の中に悖れる者を増なり

禍害ある者は誰ぞ 憂愁ある者は誰ぞ 爭端をなす者は誰ぞ 煩慮ある者は誰ぞ 故なくして傷をうくる者は誰ぞ 赤目ある者は誰ぞ

是すなはち酒に夜をふかすもの 往て混和せたる酒を味ふる者なり

酒はあかく 盃の中に泡だち 滑かにくだる 汝これを見るなかれ

是は終に蛇のごとく噬み 蝮の如く刺すべし

また汝の目は怪しきものを見なんぢの心は謊言をいはん

汝は海のなかに偃すもののごとく帆桅の上に偃すもののごとし

汝いはん人われを撃ども我いたまず 我を拷けども我おぼえず 我さめなばまた酒を求めんと

第24章

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なんぢ惡しき人を羨むことなかれ 又これと偕に居らんことを願ふなかれ

そはその心に暴虐をはかり その口唇に人を害ふことをいへばなり

家は智慧によりて建てられ 明哲によりて堅くせられ

また室は知識によりて各種の貴く美しき寳にて充されん

智慧ある者は強し 知識ある人は力をます

汝よき謀計をもて戰鬪をなせ 勝利は議者の多きによる

智慧は高くして愚なる者の及ぶところにあらず 愚なる者は門にて口を啓くことをえず

惡をなさんと謀る者を邪曲なる者と稱ふ

愚なる者の謀るところは罪なり 嘲笑者は人に憎まる

汝もし患難の日に氣を挫かば汝の力は弱し

なんぢ死地に曳かれゆく者を拯へ 滅亡によろめきゆく者をすくはざる勿れ

汝われら之を知らずといふとも心をはかる者これを暁らざらんや 汝の靈魂をまもる者これを知らざらんや 彼はおのおのの行爲によりて人に報ゆべし

わが子よ蜜を食へ 是は美ものなり また蜂のすの滴瀝を食へ 是はなんぢの口に甘し

智慧の汝の靈魂におけるも是の如しと知れ これを得ばかならず報いありて汝の望すたれじ

惡者よ義者の家を窺ふことなかれ その安居所を攻むること勿れ

そは義者は七次たふるるともまた起く されど惡者は禍災によりて亡ぶ

汝の仇たふるるとき樂しむこと勿れ 彼の亡ぶるときこころに喜ぶことなかれ

恐くはヱホバこれを見て惡しとし その震怒を彼より離れしめたまはん

なんぢ惡者を怒ることなかれ 邪曲なる者を羨むなかれ

それ惡者には後の善賚なし 邪曲なる者の燈火は滅されん

わが子よヱホバと王とを畏れよ 叛逆者に交ること勿れ

斯るものらの災禍は速におこる この兩者の滅亡はたれか知りえんや

是等もまた智慧ある者の箴言なり 偏り鞫するは善からず

罪人に告て汝は義しといふものをば衆人これを詛ひ諸民これを惡まん

これを譴むる者は恩をえん また福祉これにきたるべし

ほどよき應答をなす者は口唇に接吻するなり

外にて汝の工をととのへ田圃にてこれを自己のためにそなへ 然るのち汝の家を建てよ

故なく汝の鄰に敵して證することなかれ 汝なんぞ口唇をもて欺くべけんや

彼の我に爲しし如く我も亦かれになすべし われ人の爲ししところに循ひてこれに報いんといふこと勿れ

われ曾て惰人の田圃と智慧なき人の葡萄園とをすぎて見しに

荊棘あまねく生え薊その地面を掩ひ その石垣くづれゐたり

我これをみて心をとどめ これを觀て教をえたり

しばらく臥し 暫く睡り 手を叉きて又しばらく休む

さらば汝の貧窮は盜人のごとく汝の缺乏は兵士の如くきたるべし

第25章

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此等もまたソロモンの箴言なり ユダの王ヒゼキヤに屬せる人々これを輯めたり

事を隱すは神の榮譽なり 事を窮むるは王の榮譽なり

天の高さと地の深さと 王たる者の心とは測るべからず

銀より渣滓を除け さらば銀工の用ふべき器いでん

王の前より惡者をのぞけ 然ばその位義によりて堅く立たん

王の前に自ら高ぶることなかれ 貴人の場に立つことなかれ

なんぢが目に見る王の前にて下にさげらるるよりは ここに上れといはるること愈れり

汝かろがろしく出でて爭ふことなかれ 恐くは終にいたりて汝の鄰に辱しめられん その時なんぢ如何になさんとするか

なんぢ鄰と爭ふことあらば只これと爭へ 人の密事を洩すなかれ

恐くは聞者なんぢを卑しめん 汝そしられて止まざらん

機にかなひて語る言は銀の彫刻物に金の林檎を嵌めたるが如し

智慧をもて譴むる者の之をきく者の耳におけることは金の耳環と精金の飾のごとし

忠信なる使者は之を遣す者におけること穡收の日に冷かなる雪あるがごとし 能その主の心を喜ばしむ

おくりものすと僞りて誇る人は雨なき雲風の如し

怒を緩くすれば君も言を容る 柔かなる舌は骨を折く

なんぢ蜜を得るか 惟これを足る程に食へ 恐くは食ひ過して之を吐出さん

なんぢの足を鄰の家にしげくするなかれ 恐くは彼なんぢを厭ひ惡まん

その鄰に敵して虚僞の證をたつる人は斧刃または利き箭のごとし

艱難に遇ふとき忠實ならぬ者を頼むは惡しき齒または跛たる足を恃むがごとし

心の傷める人の前に歌をうたふは 寒き日に衣をぬぐが如く 曹達のうへに酢を注ぐが如し

なんぢの仇もし飢ゑなば之に糧をくらはせ もし渇かば之に水を飮ませよ

なんぢ斯するは火をこれが首に積むなり ヱホバなんぢに報い給ふべし

北風は雨をおこし かげごとをいふ舌は人の顏をいからす

爭ふ婦と偕に室に居らんより屋蓋の隅にをるは宜し

遠き國よりきたる好き消息は渇きたる人における冷かなる水のごとし

義者の惡者の前に服するは 井の濁れるがごとく泉の汚れたるがごとし

蜜をおほく食ふは善からず 人おのれの榮譽をもとむるは榮譽にあらず

おのれの心を制へざる人は石垣なき壞れたる城のごとし

第26章

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榮譽の愚なる者に適はざるは夏の時に雪ふり 穡收の時に雨ふるがごとし

故なき詛は雀の翔り燕の飛ぶが如くにきたるものにあらず

馬の爲には策あり 驢馬の爲には銜あり 愚なる者の背のために杖あり

愚なる者の痴にしたがひて答ふること勿れ 恐くはおのれも是と同じからん

愚なる者の痴にしたがひて之に答へよ 恐くは彼おのれの目に自らを智者と見ん

愚なる者に托して事を言ひおくる者はおのれの足をきり身に害をうく

跛者の足は用なし 愚なる者の口の箴もかくのごとし

榮譽を愚なる者に與ふるは石を投石索に繋ぐが如し

愚なる者の口にたもつ箴言は醉へるものの莿ある杖を手にて擧ぐるがごとし

愚なる者を傭ひ流浪者を傭ふ者は すべての人を傷くる射者の如し

狗のかへり來りてその吐きたる物を食ふがごとく 愚なる者は重ねてその痴なる事をおこなふ

汝おのれの目に自らを智慧ある者とする人を見るか 彼よりも却つて愚なる人に望あり

惰者は途に獅あり 衢に獅ありといふ

戸の蝶鉸によりて轉るごとく惰者はその牀に輾轉す

惰者はその手を盤にいるるも之をその口に擧ぐることを厭ふ

惰者はおのれの目に自らを善く答ふる七人の者よりも智慧ありとなす

路をよぎり自己に關りなき爭擾にたづさはる者は狗の耳をとらふる者のごとし

26:18 26:19

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既にその鄰を欺くことをなして我はただ戯れしのみといふ者は 火箭または鎗または死を擲つ狂人のごとし

薪なければ火はきえ 人の是非をいふ者なければ爭端はやむ

煨火に炭をつぎ火に薪をくぶるがごとく爭論を好む人は爭論を起す

人の是非をいふものの言はたはぶれのごとしと雖もかへつて腹の奧に入る

温かき口唇をもちて惡しき心あるは銀の滓をきせたる瓦片のごとし

恨むる者は口唇をもて自ら飾れども 心の衷には虚僞をいだく

彼その聲を和らかにするとも之を信ずるなかれ その心に七の憎むべき者あればなり

たとひ虚僞をもてその恨をかくすとも その惡は會集の中に顯はる

坑を掘るものは自ら之に陷らん 石を轉しあぐる者の上にはその石まろびかへらん

虚僞の舌はおのれの害す者を憎み 諂ふ口は滅亡をきたらす

第27章

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なんぢ明日のことを誇るなかれ そは一日の生ずるところの如何なるを知らざればなり

汝おのれの口をもて自ら讚むることなく人をして己を讚めしめよ 自己の口唇をもてせず 他人をして己をほめしめよ

石は重く沙は輕からず 然ど愚なる者の怒はこの二よりも重し

忿怒は猛く憤恨は烈し されど嫉妬の前には誰か立つことを得ん

明白に譴むるは祕に愛するに愈る

愛する者の傷つくるは眞實よりし 敵の接吻するは僞詐よりするなり

飽けるものは蜂の蜜をも踐みつく されど飢ゑたる者には苦き物さへもすべて甘し

その家を離れてさまよふ人は その巣を離れてさまよふ鳥のごとし

膏と香とは人の心をよろこばすなり 心よりして勸言を與ふる友の美しきもまた斯のごとし

なんぢの友と汝の父の友とを棄つるなかれ なんぢ患難にあふ日に兄弟の家にいることなかれ 親しき隣は疏き兄弟に愈れり

わが子よ智慧を得てわが心を悦ばせよ 然ば我をそしる者に我こたふることを得ん

賢者は禍害を見てみづから避け 拙者はすすみて罰をうく

人の保證をなす者よりは先その衣をとれ 他人の保證をなす者をば固くとらへよ

晨はやく起きて大聲にその鄰を祝すれば却つて呪詛と見なされん

相爭ふ婦は雨ふる日に絶えずある雨漏のごとし

これを制ふるものは風をおさふるがごとく 右の手に膏をつかむがごとし

鐵は鐵をとぐ 斯のごとくその友の面を研なり

無花果の樹をまもる者はその果をくらふ 主を貴ぶものは譽を得

水に照せば面と面と相肖るがごとく 人の心は人の心に似たり

陰府と沈淪とは飽くことなく 人の目もまた飽くことなし

坩堝によりて銀をためし 鑢によりて金をためし その讚めらるる所によりて人をためす

なんぢ愚なる者を臼にいれ杵をもて麥と偕にこれを搗くともその愚は去らざるなり 

なんぢの羊の情况をよく知り なんぢの群に心を留めよ

富は永く保つものにあらずいかで位は世々にたもたん

艸枯れ苗いで山の蔬菜あつめらる

羔羊はなんぢの衣服を出し牡羊は田圃を買ふ價となり

牝羊の乳はおほくして汝となんぢの家人の糧となり 汝の女をやしなふにたる

第28章

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惡者は逐ふ者なけれども逃げ 義者は獅子のごとくに勇まし

國の罪によりて侯伯多くなり 智くして知識ある人によりて國は長く保つ

弱者を虐ぐる貧人は糧をのこさざる暴しき雨のごとし

律法を棄つるものは惡者をほめ 律法を守る者はこれに敵す

惡人は義きことを覺らず ヱホバを求むる者は凡の事をさとる

義しくあゆむ貧者は曲れる路をあゆむ富者に愈る

律法を守る者は智子なり 放蕩なる者に交るものは父を辱かしむ

利息と高利とをもてその財産を増すものは貧人をめぐむ者のために之をたくはふるなり

耳をそむけて律法を聞かざる者はその祈すらも憎まる

義者を惡しき道に惑はす者はみづから自己の阱に陷らん されど質直なる者は福祉をつぐべし

富者はおのれの目に自らを智慧ある者となす されど聰明ある貧者は彼をはかり知る

義者の喜ぶときは大なる榮あり 惡者の起るときは民身を匿す

その罪を隱すものは榮ゆることなし 然ど認はして之を離るる者は憐憫をうけん

恒に畏るる人は幸福なり その心を剛愎にする者は災禍に陷るべし

貧しき民を治むるあしき侯伯は吼ゆる獅子あるひは飢ゑたる熊のごとし

智からざる君はおほく暴虐をおこなふ 不義の利を惡む者は遐齢をうべし

人を殺してその血を心に負ふ者は墓に奔るなり 人これを阻むること勿れ

義く行む者は救をえ 曲れる路に行む者は直に跌れん

おのれの田地を耕す者は糧にあき 放蕩なる者に從ふものは貧乏に飽く

忠信なる人は多くの幸福をえ 速かに富を得んとする者は罪を免れず

人を偏視るはよからず 人はただ一片のパンのために愆を犯すなり

惡目をもつ者は財をえんとて急がはしく 却つて貧窮のおのれに來るを知らず

人を譴むる者は舌をもて諂ふ者よりも大なる感謝をうく

父母の物を竊みて罪ならずといふ者は滅す者の友なり

心に貪る者は爭端を起し ヱホバに倚頼むものは豐饒になるべし

おのれの心を恃む者は愚なり 智慧をもて行む者は救をえん

貧者に賙すものは乏しからず その目を掩ふ者は詛を受ること多し

惡者の起るときは人匿れ その滅るときは義者ます

第29章

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しばしば責められてもなほ強項なる者は救はるることなくして猝然に滅されん

義者ませば民よろこび 惡しきもの權を掌らば民かなしむ

智慧を愛する人はその父を悦ばせ 妓婦に交る者はその財産を費す

王は公義をもて國を堅うす されど租税を征取る者はこれを滅す

その鄰に諂ふ者はかれの脚の前に羅を張る

惡しき人の罪の中には罟あり 然ど義者は歡び樂しむ

義きものは貧しきものの訟をかへりみる 然ど惡人は之を知ることを願はず

嘲笑人は城邑を擾し 智慧ある者は怒をしづむ

智慧ある人おろかなる人と爭へば或は怒り或は笑ひて休むことなし

血をながす人は直き人を惡む されど義き者はその生命を救はんことを求む

愚なる者はその怒をことごとく露し 智慧ある者は之を心に藏む

君王もし虚僞の言を聽かばその臣みな惡し

貧者と苛酷者と偕に世にをる ヱホバは彼等の目に光をあたへ給ふ

眞實をもて弱者を審判する王はその位つねに堅く立つべし

鞭と譴責とは智慧をあたふ 任意になしおかれたる子はその母を辱しむ

惡しきもの多ければ罪も亦おほし 義者は彼等の傾覆をみん

なんぢの子を懲せ さらば彼なんぢを安からしめ 又なんぢの心に喜樂を與へん

默示なければ民は放肆にす 律法を守るものは福ひなり

僕は言をもて譴むるとも改めず 彼は知れども從はざればなり

なんぢ言を謹まざる人を見しや 彼よりは却つて愚なる者に望あり

僕をその幼なき時より柔かに育てなば終には子の如くならしめん

怒る人は爭端を起し 憤ほる人は罪おほし

人の傲慢はおのれを卑くし 心に謙る者は榮譽を得

盜人に黨する者はおのれの靈魂を惡むなり 彼は誓を聽けども説述べず

人を畏るれば罟におちいる ヱホバをたのむ者は護られん

君の慈悲を求むる者はおほし 然れど人の事を定むるはヱホバによる

不義をなす人は義者の惡むところ 義くあゆむ人は惡者の惡むところなり

第30章

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ヤケの子アグルの語なる箴言 かれイテエルにむかひて之をいへり 即ちイテエルとウカルとにいへる所のものなり

我は人よりも愚なり 我には人の聰明あらず

我いまだ智慧をならひ得ず またいまだ至聖きものを暁ることをえず

天に昇りまた降りし者は誰か 風をその掌中に聚めし者は誰か 水を衣につつみし者は誰か 地のすべての限界を定めし者は誰か その名は何ぞ その子の名は何ぞ 汝これを知るや 

神の言はみな潔よし 神は彼を頼むものの盾なり

汝その言に加ふること勿れ 恐くは彼なんぢをせめ 又なんぢを謊る者となしたまはん 

われ二の事をなんぢに求めたり 我が死なざる先にこれを賜へ

即ち虚假と謊言とを我より離れしめ 我をして貧しからしめずまた富ましめず 惟なくてならぬ糧をあたへ給へ

そは我あきて神を知らずといひヱホバは誰なりやといはんことを恐れ また貧しくして竊盜をなし我が神の名を汚さんことを恐るればなり 

なんぢ僕をその主に讒ることなかれ 恐くは彼なんぢを詛ひてなんぢ罪せられん 

その父を詛ひその母を祝せざる世類あり

おのれの目に自らを潔者となして尚その汚穢を滌はれざる世類あり

また一の世類あり 嗚呼その眼はいかに高きぞや その瞼は昂れり

その齒は劍のごとく その牙は刃のごとき世類あり 彼等は貧しき者を地より呑み 窮乏者を人の中より食ふ 

蛭に二人の女あり 與へよ與へよと呼はる 飽くことを知らざるもの三あり 否な四あり皆たれりといはず

即ち陰府姙まざる胎 水に滿されざる地 足りといはざる火これなり 

おのれの父を嘲り母に從ふことをいやしとする眼は 谷の鴉これを拔きいだし鷲の雛これを食はん

わが奇しとするもの三あり 否な四あり共にわが識らざる者なり

即ち空にとぷ鷲の路 磐の上にはふ蛇の路 海にはしる舟の路 男の女にあふの路これなり

淫婦の途も亦しかり 彼は食ひてその口を拭ひ われ惡しきことを爲さざりきといふ 

地は三の者によりて震ふ 否な四の者によりて耐ふることあたはざるなり

即ち僕たるもの王となるに因り 愚なるもの糧に飽けるにより

厭忌はれたる婦の嫁ぐにより 婢女その主母に續ぐに因りてなり 

地に四の物あり微小といへども最智し

蟻は力なき者なれどもその糧を夏のうちに備ふ

山鼠ば強からざれどもその室を磐につくる

蝗は王なけれどもみな隊を立てていづ

守宮は手をもてつかまり王の宮にをる 

善くあゆむもの三あり 否な四あり皆よく歩く

獸の中にて最も強くもろもろのものの前より退かざる獅子

肚帶せし戰馬 牡野羊 および當ること能はざる王これなり 

汝もし愚にして自から高ぶり或は惡しきことを計らば汝の手を口に當つべし

それ乳を搾れば乾酪いで 鼻を搾れば血いで 怒を激ふれば爭端おこる

第31章

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レムエル王のことば即ちその母の彼に教へし箴言なり

わが子よ何を言はんか わが胎の子よ何をいはんか 我が願ひて得たる子よ何をいはんか

なんぢの力を女につひやすなかれ 王を滅すものに汝の途をまかする勿れ

レムエルよ酒を飮むは王の爲すべき事に非ず 王の爲すべき事にあらず 醇醪を求むるは牧伯の爲すべき事にあらず

恐くは酒を飮みて律法をわすれ 且すべて惱まさるる者の審判を枉げん

醇醪を亡びんとする者にあたへ 酒を心の傷める者にあたへよ

かれ飮みてその貧窮をわすれ 復その苦楚を憶はざるべし

なんぢ瘖者のため又すべての孤者の訟のために口をひらけ

なんぢ口をひらきて義しき審判をなし貧者と窮乏者の訟を糺せ 

誰か賢き女を見出すことを得ん その價は眞珠よりも貴とし

その夫の心は彼を恃み その産業は乏しくならじ

彼が存命ふる間はその夫に善事をなして惡しき事をなさず

彼は羊の毛と麻とを求め喜びて手づから操き

商賈の舟のごとく遠き國よりその糧を運び

夜のあけぬ先に起きてその家人に糧をあたへ その婢女に日用の分をあたふ

田畝をはかりて之を買ひ その手の操作をもて葡萄園を植ゑ

力をもて腰に帶し その手を強くす

彼はその利潤の益あるを知る その燈火は終夜きえず

かれ手を紡線車にのべ その指に紡錘をとり

手を貧者にのべ 手を困苦者に舒ぶ

彼は家人の爲に雪をおそれず 蓋その家人みな蕃紅の衣をきればなり

彼はおのれの爲に美しき褥子をつくり 細布と紫とをもてその衣とせり

その夫はその地の長老とともに邑の門に坐するによりて人に知るるなり

彼は細布の衣を製りてこれをうり 帶をつくりて商賈にあたふ

彼は筋力と尊貴とを衣とし且のちの日を笑ふ

彼は口を啓きて智慧をのぶ 仁愛の教誨その舌にあり

かれはその家の事を鑒み 怠惰の糧を食はず

その衆子は起ちて彼を祝す その夫も彼を讚めていふ

賢く事をなす女子は多けれども 汝はすべての女子に愈れり

艶麗はいつはりなり 美色は呼吸のごとし 惟ヱホバを畏るる女は譽められん

その手の操作の果をこれにあたへ その行爲によりてこれを邑の門にほめよ