第208回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説
演説
編集一 はじめに
編集今、我が国は、オミクロン株の感染急拡大に直面しています。
まず、新型コロナに感染し、苦しんでおられる方々にお見舞いを申し上げます。
また、長期にわたり、新型コロナとの闘いに御協力いただいている国民の皆さんに、心から感謝申し上げます。
そして、新型コロナ対応の最前線におられる、自治体、医療機関、介護施設、検疫所、保健所などのエッセンシャルワーカーの皆さんに、深く、感謝申し上げます。
岸田政権の最優先課題は、新型コロナ対応です。しかし、政府だけで対応できるものではありません。
国民皆で助け合い、この状況を乗り越えていきたいと思います。引き続き、皆さんの御協力を、お願いいたします。
(コロナ後の新しい日本を創り上げるための挑戦)
編集内閣総理大臣に就任してから、国内外の山積する課題に、スピード感を持って、決断を下し、対応してきました。
「行蔵(こうぞう)は我に存す。」
それぞれの決断の責任は、自分が全て負う覚悟で取り組んでまいりました。
その際、皆さんの声に丁寧に耳を澄まし、状況が変化する中で、国民にとってより良い方策になるよう、粘り強く対応し、判断の背景をしっかり説明する努力をしてきました。
このように、「信頼と共感」の政治姿勢を堅持しつつ、まずは、新型コロナに打ち克つことに全身全霊で取り組んでまいります。
新型コロナという困難に直面しているからこそ、立ちすくむのではなく、皆で協力しながら、挑戦し、コロナ後の新しい日本を創り上げていこうではありませんか。
二 新型コロナ対応
編集(新型コロナ対応の基本的な考え方)
編集オミクロン株による感染が拡大しています。
国民の皆さんの、またか、いい加減にしてくれ、もう限界だという声を、私自身、聞いてきました。しかし、新型コロナという見えない敵は、想定以上に手強いことを、改めて認識しなければなりません。
昨年、我が国は、ワクチン接種など、国民一丸となった取組により、デルタ株を何とか抑え込むことができました。そこに、すかさず、変異株が現れました。ウイルスの怖さを改めて感じます。
ただし、新しい変異株の可能性は、専門家からも指摘されてきました。
私自身、総理に就任した時から、デルタ株を超える強力な変異株が現れる、そうした最悪の事態を想定して、万全の体制を整えるべく、政府を挙げて、取り組んできました。
先般の補正予算では、医療体制の拡充、ワクチン接種の推進や経口薬の確保、さらには、仕事や暮らしを守り抜くための支援策を盛り込んでいます。
もちろん、新型コロナには未知のことも多く、全てを見通した上で判断を行える訳ではありません。
私としては、専門家の意見を伺いながら、過度に恐れることなく、最新の知見に基づく対応を、冷静に進める覚悟です。
また、一度決めた方針でも、より良い方法があるのであれば、躊躇なく改め、柔軟に対応を進化させていく所存です。
国民の皆さん、今一度、御協力いただき、共に、この国難を乗り越えていこうではありませんか。
具体的な対応について申し上げます。
(オミクロン株への対応)
編集これまで政府は、G7で最も厳しい水準の水際対策により、海外からのオミクロン株流入を最小限に抑えてきました。
この対策により、三回目のワクチン接種の開始、無料検査の拡充、経口薬の確保、医療提供体制の充実など、国内感染の増加に備える時間を確保できました。
当面の対応として、二月末まで、水際対策の骨格を維持します。
その上で、今後は、国内対策に重点を置きます。少しずつ明らかになってきたオミクロン株の特性を踏まえ、メリハリをつけた対策を講じていきます。
専門家から、オミクロン株について、感染力が高い一方、感染者の多くは軽症・無症状であり、重症化率は低い可能性が高い、高齢者等で急速に感染が拡がると、重症者が発生する割合が高くなるおそれがある、といった分析が報告されました。
こうした報告も踏まえ、重症者や中等症の患者、あるいは、そのリスクが高い方々に、的確に医療を提供することに主眼を置いて、医療提供体制を強化します。
私から各自治体に、自己点検を依頼し、医療提供体制の確保に万全を期すよう要請しました。
即応病床数の確保は順調に進んでいます。
また、今後重要となる在宅・宿泊療養に対応する地域の医療機関を、全国一・六万、「全体像」の計画を更に三割上回る体制を準備できました。
陽性と判断されれば、直ちに健康観察や訪問診療を実施するとともに、必要な方へのパルスオキシメーターの迅速なお届け、経口薬へのアクセスの確保を徹底します。
稼働状況の「見える化」を強化し、これらをしっかりと動かしていきます。
その上で、感染が想定を超えて急拡大し、重症者の絶対数の増加が生じた時に、病床がひっ迫するような緊急事態に陥ることは、何としても避けなければなりません。
この観点から、先進諸国の取組を参考にしながら、入退院基準などについて、科学的知見の集約を急ぎ、対応を検討します。
予防・検査・早期治療の強化も重要です。
ワクチンについては、医療関係者、高齢者三千百万人を対象とする三回目接種の前倒しについて、ペースアップさせます。
三月以降は、追加確保した一千八百万人分のワクチンを活用し、高齢者の接種を六か月間隔で行うとともに、五千五百万人の一般向け接種も、少なくとも七か月、余力のある自治体では六か月で接種を行います。
国としても、自衛隊による大規模接種会場を設置し、自治体の取組を後押しします。
感染拡大が懸念される地域において、予約なしでの無料検査を拡充します。
メルク社の経口薬百六十万人分について、既に全国二万二千の医療機関・薬局が登録し、医療現場に、三万人分をお届けしています。
作用の仕組みが異なるファイザー社の経口薬についても、月内に二百万人分の購入に最終合意し、来月できるだけ早くの実用化を目指します。
オミクロン株は、お子さんの感染も多く見られます。これまでワクチンの接種対象ではなかった十二歳未満の子どもについても、希望者ができるだけ早く、ワクチン接種を受けられるよう、手続を進めます。
保健所について、体制の強化、科学的根拠に基づく業務の合理化、保健所に頼らない地域の重層的ネットワークの整備を進め、必要な即応体制を確保します。
感染を抑えるためだけでなく、BCP計画遂行、社会活動維持のために、テレワークを積極的に活用していただくようお願いいたします。
学校においても、休校時のオンライン授業の準備を進めます。入試については、追試などにより受験機会を確保するとともに、四月以降の入学を可とするなど、柔軟な対応を要請します。
米国は、必要不可欠な場合以外の外出を認めない、夜間の外出を禁止するなど、在日米軍の感染拡大防止措置を発表しました。在日米軍の駐留に関わる保健・衛生上の課題に関し、地位協定に基づく日米合同委員会において、しっかり議論していきます。
(息の長い感染症対応体制強化)
編集息の長い感染症対応体制の強化策として、まずは、安全性の確認を前提に、迅速に薬事承認を行う仕組みを創設します。
さらに、これまでの対応を客観的に評価し、次の感染症危機に備えて、本年六月を目途に、危機に迅速・的確に対応するための司令塔機能の強化や、感染症法の在り方、保健医療体制の確保など、中長期的観点から必要な対応を取りまとめます。
三 新しい資本主義
編集(経済再生)
編集新型コロナとの闘いに打ち克ち、経済を再生させるため、令和三年度補正予算の早期執行など、危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期します。
経済あっての財政です。経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組みます。
(新しい資本主義の実現)
編集経済再生の要は、「新しい資本主義」の実現です。
市場に依存し過ぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差や貧困の拡大。市場や競争の効率性を重視し過ぎたことによる、中長期的投資の不足、そして持続可能性の喪失。行き過ぎた集中によって生じた、都市と地方の格差。自然に負荷をかけ過ぎたことによって深刻化した、気候変動問題。分厚い中間層の衰退がもたらした、健全な民主主義の危機。
世界でこうした問題への危機感が高まっていることを背景に、市場に任せれば全てが上手くいくという、新自由主義的な考え方が生んだ、様々な弊害を乗り越え、持続可能な経済社会の実現に向けた、歴史的スケールでの「経済社会変革」の動きが始まっています。
私は、成長と分配の好循環による「新しい資本主義」によって、この世界の動きを主導していきます。官と民が全体像を共有し、協働することで、国民一人ひとりが豊かで、生き生きと暮らせる社会を作っていきます。
日本ならばできる、日本だからできる。共に、この「経済社会変革」に挑戦していこうではありませんか。
様々な弊害を是正する仕組みを、「成長戦略」と「分配戦略」の両面から、資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化していきます。
成長戦略では、「デジタル」、「気候変動」、「経済安全保障」、「科学技術・イノベーション」などの社会課題の解決を図るとともに、これまで、日本の弱みとされてきた分野に、官民の投資を集め、成長のエンジンへと転換していきます。
分配や格差の問題にも正面から向き合い、次の成長につなげます。こうして、成長と分配の両面から経済を動かし、好循環を生み出すことで、持続可能な経済を作り上げます。
(デジタル田園都市国家構想)
編集まずは成長戦略。第一の柱はデジタルを活用した地方の活性化です。
新しい資本主義の主役は地方です。デジタル田園都市国家構想を強力に推進し、地域の課題解決とともに、地方から全国へと、ボトムアップでの成長を実現していきます。
そのために、インフラ整備、規制・制度見直し、デジタルサービスの実装を、一体的に動かしていきます。
高齢化や過疎化などに直面する地方においてこそ、オンライン診療、GIGAスクール、スマート農林水産業などのデジタルサービスを活用できるよう、5G、データセンター、光ファイバーなどのインフラの整備計画を取りまとめます。
5G基地局を信号機に併設するなど多様な手法で民間投資を促し、自動運転や、ダイナミックな交通管制、ドローンなど、未来のサービスを支えるインフラを整備します。
デジタルサービスの実装に向けて、規制・制度の見直しを進めます。
単なる規制緩和ではなく、新しいルールを作ることで、地域社会に新たなサービスを生み出し、日々の暮らしを豊かにすることを目指します。
例えば、「運転者なし」の自動運転車、低速・小型の自動配送ロボットが公道を走る場合のルールや、ドローン、AIなどの活用を前提とした産業保安のルールを、新たに定めることで、安全を確保しながら、新サービス展開の道を拓きます。
例えば、企業版ふるさと納税のルールを明確化することで、企業の支援による、地方のサテライトオフィス整備の取組を後押しし、企業や個人の都市から地方への流れを加速させます。
マイナンバーカードは、デジタル社会の安全安心のための「パスポート」であり、その利便性を改善させます。
例えば、二〇二四年度までに、運転免許証とマイナンバーカードの一体化を進めます。転居時、住所変更手続を市役所で行えば、警察署での手続を不要とします。
リアルとネットが密接不可分となる中、サイバー攻撃等への対処体制を整備するとともに、企業のセキュリティ強化に取り組み、デジタル社会のリスクに対し、正面から向き合います。
(経済安全保障)
編集経済安全保障も、待ったなしの課題であり、新しい資本主義の重要な柱です。
新たな法律により、サプライチェーン強靱化への支援、電力、通信、金融などの基幹インフラにおける重要機器・システムの事前安全性審査制度、安全保障上機微な発明の特許非公開制度等を整備します。
あわせて、半導体製造工場の設備投資や、AI、量子、バイオ、ライフサイエンス、光通信、宇宙、海洋といった分野に対する官民の研究開発投資を後押ししていきます。
(科学技術・イノベーション)
編集社会課題を成長のエンジンへと押し上げていくためには、科学技術・イノベーションの力が不可欠です。
世界と伍する研究大学を作るため、研究力に加え、研究と経営の分離、若手研究者の登用など、先端的なガバナンスを導入する大学に対し、十兆円の大学ファンドで支援します。
官民のイノベーション人材育成を強化するため、大学の学部再編や文系理系の枠を超えた人材育成の取組を加速します。
本年をスタートアップ創出元年とし、五か年計画を設定して、大規模なスタートアップの創出に取り組み、戦後の創業期に次ぐ、日本の「第二創業期」を実現します。
二〇二五年には、大阪・関西万博が開催されます。科学技術や、イノベーションの力で、未来を切り拓いていく日本の姿を世界に発信していきます。
(賃上げ)
編集成長と分配の好循環による持続可能な経済を実現する要となるのが、分配戦略です。
その第一は、所得の向上につながる「賃上げ」です。
先日、車座でお話を伺った中小製造事業の社長さんは、生産性向上を図り、従業員の可処分所得を三%引き上げたい、それが経営者としての信念だ、と力強く語ってくれました。
成長の果実を、従業員に分配する。そして、未来への投資である賃上げが原動力となって、更なる成長につながる。こうした好循環を作ります。
賃上げ税制の拡充、公的価格の引き上げに加え、中小企業が原材料費の高騰で苦しむ中、適正な価格転嫁を行えるよう、環境整備を進めます。
春には、春闘があります。近年、賃上げ率の低下傾向が続いていますが、このトレンドを一気に反転させ、新しい資本主義の時代にふさわしい賃上げが実現することを期待します。
できる限り早期に、全国加重平均千円以上となるよう、最低賃金の見直しにも取り組んでいきます。
(人への投資)
編集第二に、「人への投資」の抜本強化です。
資本主義は多くの資本で成り立っていますが、モノからコトへと進む時代、付加価値の源泉は、創意工夫や、新しいアイデアを生み出す「人的資本」、「人」です。
しかし、我が国の人への投資は、他国に比して大きく後塵を拝しています。
今後、官民の人への投資を、早期に、少なくとも倍増し、さらにその上を目指していくことで、企業の持続的価値創造と、賃上げを両立させていきます。
スキル向上、再教育の充実、副業の活用といった人的投資の充実が、デジタル社会、炭素中立社会への変革を円滑に進めるための鍵です。
世界が、産業界が、地域が必要とする、人材像やスキルについて、現場の声を丁寧に聞き、明確化した上で、海外の先進事例からも学び、公的職業訓練の在り方をゼロベースで見直します。
人的投資が、企業の持続的な価値創造の基盤であるという点について、株主と共通の理解を作っていくため、今年中に非財務情報の開示ルールを策定します。
あわせて、四半期開示の見直しを行います。
(中間層の維持)
編集第三に、未来を担う次世代の「中間層の維持」です。
子育て・若者世代に焦点を当て、世帯所得の引き上げに向けて、取り組みます。
全世代型社会保障構築会議において、男女が希望通り働ける社会づくりや、若者世代の負担増の抑制、勤労者皆保険など、社会保障制度を支える人を増やし、能力に応じてみんなが支え合う、持続的な社会保障制度の構築に向け、議論を進めます。
世帯所得の向上を考えるとき、男女の賃金格差も大きなテーマです。
この問題の是正に向け、企業の開示ルールを見直します。
新たな官民連携を進めるにあたっては、公共施設の運営を民間に任せるコンセッションの一層の活用、ベンチャー・フィランソロフィーによるNPOや社会的企業への支援、社会的インパクト投資など、民による公的機能の補完も重要な論点です。
今春、新しい資本主義のグランドデザインと、実行計画を取りまとめます。
来年、日本がG7議長国を務めることを見据え、ダボス会議や、G7の場を活用し、世界の首脳や、経済界のリーダーと問題意識を共有しながら、世界の議論を牽引し、資本主義の変革に向けた大きな流れを作っていきます。
四 気候変動問題への対応
編集過度の効率性重視による市場の失敗、持続可能性の欠如、富める国と富まざる国の環境格差など、資本主義の負の側面が凝縮しているのが気候変動問題であり、新しい資本主義の実現によって克服すべき最大の課題でもあります。
二〇二〇年、衆参両院において、党派を超えた賛成を得て、気候非常事態宣言決議が可決されました。皆さん、子や孫の世代のためにも、共にこの困難な課題に取り組もうではありませんか。
同時に、この分野は、世界が注目する成長分野でもあります。二〇五〇年カーボンニュートラル実現には、世界全体で、年間一兆ドルの投資を、二〇三〇年までに四兆ドルに増やすことが必要との試算があります。
我が国においても、官民が、炭素中立型の経済社会に向けた変革の全体像を共有し、この分野への投資を早急に、少なくとも倍増させ、脱炭素の実現と、新しい時代の成長を生み出すエンジンとしていきます。
二〇三〇年度四十六%削減、二〇五〇年カーボンニュートラルの目標実現に向け、単に、エネルギー供給構造の変革だけでなく、産業構造、国民の暮らし、そして地域の在り方全般にわたる、経済社会全体の大変革に取り組みます。
どの様な分野で、いつまでに、どういう仕掛けで、どれくらいの投資を引き出すのか。経済社会変革の道筋を、クリーンエネルギー戦略として取りまとめ、お示しします。
送配電インフラ、蓄電池、再エネはじめ水素・アンモニア、革新原子力、核融合など非炭素電源。需要側や、地域における脱炭素化、ライフスタイルの転換。資金調達の在り方。カーボンプライシング。多くの論点に方向性を見出していきます。
もう一つ重要なことは、我が国が、水素やアンモニアなど日本の技術、制度、ノウハウを活かし、世界、特にアジアの脱炭素化に貢献し、技術標準や国際的なインフラ整備をアジア各国と共に主導していくことです。
いわば、「アジア・ゼロエミッション共同体」と呼びうるものを、アジア有志国と力を合わせて作ることを目指します。
五 全ての人が生きがいを感じられる社会へ
編集新しい資本主義を支える基盤となるのは、老若男女、障害のある方も、全ての人が生きがいを感じられる、多様性が尊重される社会です。
(女性)
編集人生や家族の在り方が多様化する中、女性の経済的自立や、コロナ下で急増するDVなど女性への暴力根絶に取り組みます。
(孤独・孤立)
編集孤独・孤立に苦しむ方々に寄り添い、支えるため、NPO等の活動をきめ細かく支援するとともに、国・自治体・NPOの連携体制を強化します。
(少子化対策・こども政策)
編集少子化対策やこども政策を積極的に進めていくことも、喫緊の課題です。
不妊治療の範囲を拡大し、四月から保険適用を始めます。
こども政策を我が国社会のど真ん中に据えていくため、「こども家庭庁」を創設します。
こども家庭庁が主導し、縦割り行政の中で進まなかった、教育や保育の現場で、性犯罪歴の証明を求める日本版DBS、こどもの死因究明、制度横断・年齢横断の教育・福祉・家庭を通じた、こどもデータ連携、地域における障害児への総合支援体制の構築を進めます。
(消費者)
編集消費者という視点から、本年四月の成年年齢の引き下げを控え、若者の消費者被害防止に集中的に取り組みます。
六 地域活性化
編集デジタル以外の地域活性化にもしっかりと取り組みます。
農林水産業については、輸出の促進と、スマート化による生産性向上により、成長産業化を進めます。
昨年の農林水産品の輸出額は、一兆円を突破しました。次の目標である、二〇二五年、二兆円突破に向け、輸出品目別に、オールジャパンで輸出促進を行う体制を整備します。
コロナ禍による米価下落に対して、十五万トンの特別枠の設定により対処してきました。現下の状況を重く受け止め、家族農業や中山間地域農業を含め、多様な農林漁業者が安心して生産できる豊かな農林水産業を構築できるよう、取り組みます。
観光産業についても、新型コロナの影響への適切な支援を図りつつ、コロナ後を見据え、観光産業の高付加価値化を推進します。
日本酒、焼酎、泡盛など文化資源のユネスコへの登録を目指すなど、日本の魅力を世界に発信していきます。
本年は、沖縄の本土復帰五十周年です。この節目の年に、復帰の歴史的意義を想起し、沖縄の歴史に思いを致します。強い沖縄経済を作るための取組を進めます。
七 災害対策
編集二十七年前の今日、阪神・淡路大震災が発生し、六千名を超える尊い命が失われました。
この震災を教訓に、それまで以上に、災害対策や危機管理の充実を図ってきました。
切迫する南海トラフの巨大地震や首都直下地震。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震。風水害、豪雨への備え。
五年間で十五兆円規模の集中対策を進め、引き続き、強い覚悟を持って、防災・減災、国土強靱化を強化します。
昨年熱海で発生した土石流災害と同様の悲劇を繰り返すことがないよう、これまで規制をかけることができなかった地域においても、危険な盛土(もりど)を、規制するための法律を整備します。あわせて、全国に三万六千か所ある、点検が必要な盛土の安全確保も進めます。
福島の再生を含め、東日本大震災からの復興は、政権の大きな課題です。
大熊町(おおくままち)、双葉町(ふたばまち)、葛尾村(かつらおむら)から、復興再生拠点の避難指示解除に向けた、準備宿泊の取組を進めます。被災者の方の心に寄り添いながら、住民の方の帰還を進めていきます。
福島の復興・再生を前進させるのみならず、世界の課題解決にも貢献する、国際教育研究拠点を具体化するための法律を整備します。
昨年、米国が日本産食品の輸入規制を撤廃し、福島県産米の輸出が始まりました。私自身、ジョンソン首相に働きかけを行った英国も、規制撤廃に向けた手続を開始しています。一日も早く、全ての国と地域で、規制が撤廃されるよう、政府一丸となって働きかけていきます。
八 外交・安全保障
編集(新時代リアリズム外交)
編集厳しさと複雑さを増す国際情勢の中で、日本外交のしたたかさが試される一年です。
私自ら先頭に立ち、未来への理想の旗をしっかりと掲げつつ、現実を直視し、「新時代リアリズム外交」を展開していきます。
(普遍的価値の重視)
編集「新時代リアリズム外交」の第一の柱として、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値や原則を重視していきます。
これらを共有する米国のバイデン大統領とは早期に会談し、我が国の外交・安全保障の基軸である日米同盟の抑止力・対処力を一層強化し、地域の平和と繁栄、そして、より広く国際社会に貢献する同盟へと導いていきます。
豪州のモリソン首相とは、円滑化協定に署名し、安全保障協力を強化するなど、「特別な戦略的パートナーシップ」を新しいステージへと引き上げました。
同盟国・同志国と連携し、深刻な人権問題への対処にも、私の内閣で、初めて任命した専任の補佐官と共に、しっかりと取り組む覚悟です。
最重要課題である拉致問題について、各国と連携しながら、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、あらゆるチャンスを逃すことなく、全力で取り組みます。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指します。
(「自由で開かれたインド太平洋」の推進)
編集我が国が提唱し、推進する「自由で開かれたインド太平洋」の考え方は、多くの国から支持を得ています。
日米豪印では、ワクチンや質の高いインフラ整備など、実践的な協力が具体化しており、協力を前へと進めます。
ASEANや欧州などパートナーとも連携を強化します。
TPPの着実な実施、高いレベルを維持しながらの拡大に取り組みます。信頼性ある自由なデータ流通、「DFFT」の実現に向け、国際的なルール作りにおいて、中心的な役割を果たしていきます。
(近隣外交)
編集地域の平和と安定も重要です。
中国には、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めていきます。同時に、諸懸案も含めて、対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力し、本年が日中国交正常化五十周年であることも念頭に、建設的かつ安定的な関係の構築を目指します。
ロシアとは、領土問題を解決して平和条約を締結するとの方針の下、二〇一八年のシンガポールでの首脳会談のやり取りを含め、これまでの諸合意を踏まえ、二〇一八年以降の首脳間でのやり取りを引き継いで、粘り強く交渉を進めながら、エネルギー分野での協力を含め、日露関係全体を国益に資するよう発展させていきます。
重要な隣国である韓国に対しては、我が国の一貫した立場に基づき、適切な対応を強く求めていきます。
(地球規模課題への取組)
編集第二の柱として、気候変動やユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成を含め、地球規模課題に積極的に取り組みます。
六年前、オバマ大統領は、原爆資料館で「核兵器のない世界を追求する勇気を持ちましょう」と記帳し、自作の折り鶴を残しました。被爆地広島出身の総理大臣として、私は、この思いを引き継ぎ、勇気を持って「核兵器のない世界」を追求していきます。
外務大臣時代に設置した「賢人会議」の議論を更に発展させるため、各国の現・元政治リーダーの関与も得ながら、「核兵器のない世界に向けた国際賢人会議」を立ち上げます。本年中を目標に、第一回会合を広島で開催します。
貧困削減への貢献に向け、国際開発協会に対して、過去最大の約三十四億ドルを拠出します。
TICAD8では、コロナ後を見据えた、アフリカ開発の針路を示していきます。
(国民の命と暮らしを守る取組)
編集第三の柱は、国民の命と暮らしを断固として守り抜く取組です。
北朝鮮が繰り返す弾道ミサイルの発射は断じて許されず、ミサイル技術の著しい向上を見過ごすことはできません。
こうしたミサイルの問題や、一方的な現状変更の試みの深刻化、軍事バランスの急速な変化、宇宙、サイバーといった新しい領域や経済安全保障上の課題。これらの現実から目を背けることなく、政府一丸となって、我が国の領土、領海、領空、そして、国民の生命と財産を守り抜いていきます。
このため、概ね一年をかけて、新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を策定します。
これらのプロセスを通じ、いわゆる「敵基地攻撃能力」を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討します。先月成立した補正予算と来年度予算を含め、スピード感を持って防衛力を抜本的に強化します。
海上保安庁と自衛隊の連携を含め、海上保安体制を強化するとともに、島嶼防衛力向上などを進め、南西諸島への備えを強化します。
海外で邦人等が危機に晒された際の輸送に万全を期すため、自衛隊法の改正案を今国会に提出します。
日米同盟の抑止力を維持しながら、沖縄の皆さんの心に寄り添い、基地負担軽減に引き続き取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。
九 憲法改正
編集先の臨時国会において、憲法審査会が開かれ、国会の場で、憲法改正に向けた議論が行われたことを、歓迎します。
憲法の在り方は、国民の皆さんがお決めになるものですが、憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、我々国会議員が、国会の内外で、議論を積み重ね、発信していくことが必要です。
本国会においても、積極的な議論が行われることを心から期待します。
十 おわりに
編集(統計の不適切処理)
編集昨年末に明らかになった建設工事受注動態統計調査における不適切な処理について、一言申し上げます。
先週十四日に国土交通省の第三者委員会及び総務省の統計委員会から、検証結果が公表されました。
検証結果を真摯に受け止め、国民の皆さんにお詫び申し上げます。
関係大臣に対し、直ちに、再発防止に取り組むよう指示しました。政府統計全体の信頼を回復するべく、指導・監督してまいります。
(己を改革する)
編集「己を改革する。」
幕末を生きた勝海舟は、「行蔵は我に存す」とともに、「己を改革す」、自らを律することに重きを置きました。
今、新たな時代を切り拓くに当たり、統計の不適切処理はもとより、我々政治・行政が、自らを改革し、律していくことが求められています。
その最大の原動力は、国民の声です。国民の声なき声に、丁寧に耳を傾ければ、そして国民と共に歩めば、自ずと改革の道は見えてきます。
引き続き、「信頼と共感」の政治に向けて、謙虚に取り組んでいきます。共に力を合わせ、この国の未来を切り拓くため、心より、国民の皆さんの御理解と御協力をお願いいたします。
御清聴ありがとうございました。
出典
編集- “第二百八回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説”. 首相官邸 (2022年1月17日). 2022年1月20日閲覧。
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