第203回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説


演説

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一 新型コロナウィルス対策と経済の両立

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 この度、第九十九代内閣総理大臣に就任いたしました。新型コロナウィルスの感染拡大と戦後最大の経済の落ち込みという、国難の最中(さなか)にあって、国の舵取りという、大変重い責任を担うこととなりました。

 まず改めて、今回の感染症でお亡くなりになられた全ての皆様に、心からの哀悼の誠を捧げます。

 そして、ウィルスとの闘いの最前線に立ち続ける医療現場、保健所の皆さん、介護現場の皆さんをはじめ多くの方々の献身的な御努力のおかげで、今の私たちの暮らしがあります。深い敬意とともに、心からの感謝の意を表します。

 六月下旬以降の全国的な感染拡大は減少に転じたものの、足元で新規陽性者数の減少は鈍化し、状況は予断を許しません。爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜きます。その上で、社会経済活動を再開して、経済を回復してまいります。

 今後、冬の季節性インフルエンザ流行期に備え、地域の医療機関で一日平均二十万件の検査能力を確保します。重症化リスクが高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査を行うとともに、医療資源を重症者に重点化します。

 ワクチンについては、安全性、有効性の確認を最優先に、来年前半までに全ての国民に提供できる数量を確保し、高齢者、基礎疾患のある方々、医療従事者を優先して、無料で接種できるようにします。

 私たちが八年前の政権交代以来、一貫して取り組んできたのが、経済の再生です。今後もアベノミクスを継承し、更なる改革を進めてまいります。

 政権発足前は極端な円高・株安に悩まされましたが、現在は、この新型コロナウィルスの中にあってもマーケットは安定した動きを見せております。人口が減る中で、新たに働く人を四百万人増やすことができました。下落し続けていた地方の公示地価は昨年、二十七年ぶりに上昇に転じました。

 バブル崩壊後、最高の経済状態を実現したところで、新型コロナウィルスが発生しました。依然厳しい経済状況の中で、まずは、雇用を守り、事業が継続できるように、最大で二百万円の持続化給付金や四千万円の無利子・無担保融資などの対策を続けてまいります。

 さらに、Go Toキャンペーンにより、旅行、飲食、演劇やコンサート、商店街でのイベントを応援します。これまで、延べ二千五百万人以上の方々が宿泊し、感染が判明したのは数十名です。事業者が感染対策をしっかり講じた上で、利用者の方々にはいわゆる「三密」などに注意していただき、適切に運用してまいります。

 今後とも、新型コロナウィルスが経済に与える影響をはじめ、内外の経済動向を注視しながら、躊躇なく、必要な対策を講じていく考えです。

二 デジタル社会の実現、サプライチェーン

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 今回の感染症では、行政サービスや民間におけるデジタル化の遅れ、サプライチェーンの偏りなど、様々な課題が浮き彫りになりました。デジタル化をはじめ大胆な規制改革を実現し、ウィズコロナ、ポストコロナの新しい社会をつくります。

 役所に行かずともあらゆる手続ができる。地方に暮らしていてもテレワークで都会と同じ仕事ができる。都会と同様の医療や教育が受けられる。こうした社会を実現します。

 そのため、各省庁や自治体の縦割りを打破し、行政のデジタル化を進めます。今後五年で自治体のシステムの統一・標準化を行い、どの自治体にお住まいでも、行政サービスをいち早くお届けします。

 マイナンバーカードについては、今後二年半のうちにほぼ全国民に行き渡ることを目指し、来年三月から保険証とマイナンバーカードの一体化を始め、運転免許証のデジタル化も進めます。

 こうした改革を強力に実行していく司令塔となるデジタル庁を設立します。来年の始動に向け、省益を排し、民間の力を大いに取り入れながら、早急に準備を進めます。

 教育は国の礎です。全ての小中学生に対して、一人一台のIT端末の導入を進め、あらゆる子どもたちに、オンライン教育を拡大し、デジタル社会にふさわしい新しい学びを実現します。

 さらに、テレワークやワーケーションなど新しい働き方も後押ししてまいります。行政への申請などにおける押印は、テレワークの妨げともなることから、原則全て廃止します。

 マスクや防護ガウンの生産地の偏りなど、サプライチェーンの脆弱性が指摘されました。生産拠点の国内立地や国際的な多元化を図るとともに、デジタル化やロボット技術による自動化、無人化を進め、国内に医療・保健分野や先端産業の生産体制を整備してまいります。

三 グリーン社会の実現

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 菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。

 我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。

 もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。

 鍵となるのは、次世代型太陽電池、カーボンリサイクルをはじめとした、革新的なイノベーションです。実用化を見据えた研究開発を加速度的に促進します。規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資の更なる普及を進めるとともに、脱炭素社会の実現に向けて、国と地方で検討を行う新たな場を創設するなど、総力を挙げて取り組みます。環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていきます。世界のグリーン産業をけん引し、経済と環境の好循環をつくり出してまいります。

 省エネルギーを徹底し、再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。

四 活力ある地方を創る

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 私は、雪深い秋田の農家に生まれ、地縁、血縁のない横浜で、まさにゼロからのスタートで、政治の世界に飛び込みました。その中で、「活力ある地方を創る」という一貫した思いで、総務大臣になってつくった「ふるさと納税」は、今では年間約五千億円も利用されています。

 いわゆる東京圏、一都三県の消費額は全国の三割に過ぎません。観光や農業改革などにより、地方への人の流れをつくり、地方の所得を増やし、地方を活性化し、それによって日本経済を浮上させる。インバウンドは政権交代時の約四倍の年間三千二百万人に、農産品の輸出額は政権交代時から倍増して年間九千億円となりました。

 日本の農産品はアジアをはじめ海外で根強い人気があり、輸出額はまだまだ伸ばすことができます。年初以来、新型コロナウィルスの影響が出る中でも、直近は前年から十一パーセントの増加となり、回復の動きが出ています。

 四月に農林水産省に発足した輸出本部の下で、関係省庁が一体となって相手国との交渉を行い、輸出用の加工施設の認定も急速に進みました。二〇二五年に二兆円、二〇三〇年に五兆円の目標に向けて、当面の戦略を年末までに策定し、早急に実行に移してまいります。これまでの農林水産業改革についても確実に進め、地方の成長につなげてまいります。

 新しい日常においても旅は皆さんの日常の一部です。日本に眠る価値を再発見し、観光地の受入れ環境整備を一挙に進め、当面の観光需要を回復していくための政策プランを、年内に策定してまいります。

 地方の所得を増やし、消費を活性化するため、最低賃金の全国的な引上げに取り組みます。

五 新たな人の流れをつくる

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 新型コロナウィルスとの闘いの中で、地方の良さが見直される一方で、産業や企業をめぐる環境は激変しております。こうした状況を踏まえ、都会から地方へ、また、ほかの会社との間で、さらには中小企業やベンチャーへの新たな人の流れをつくり、次なる成長の突破口を開きます。

 大企業にも中小企業にも、それぞれの会社に素晴らしい人材がいます。大企業で経験を積んだ方々を、政府のファンドを通じて、地域の中堅・中小企業の経営人材として紹介する取組を、まずは銀行を対象に年内にスタートします。

 我が国にとって、海外との人の交流を行い、海外の成長を取り込んでいく必要性は、ポストコロナにおいても変わりはありません。

 今月から、ビジネス関係者や、留学生について、全世界からの入国を緩和しました。入国時の検査能力を来月中に一日二万人に引き上げ、防疫措置をしっかりと講じながら、グローバルな経済活動を再開してまいります。

 海外の金融人材を受け入れ、アジア、さらには世界の国際金融センターを目指します。そのための税制、行政サービスの英語対応、在留資格の緩和について早急に検討を進めます。

 コーポレートガバナンス改革は、我が国企業の価値を高める鍵となるものです。更なる成長のため、女性、外国人、中途採用者の登用を促進し、多様性のある職場、しがらみにとらわれない経営の実現に向けて、改革を進めます。

六 安心の社会保障

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 我が国の未来を担うのは子どもたちであります。長年の課題である少子化対策に真正面から取り組み、大きく前に進めてまいります。

 政権交代以来、七十二万人の保育の受け皿を整備し、今年の待機児童は、調査開始以来、最少の一万二千人となりました。

 待機児童の解消を目指し、女性の就業率の上昇を踏まえた受け皿整備、幼稚園やベビーシッターを含めた地域の子育て資源の活用を検討し、年末までにポスト「子育て安心プラン」を取りまとめます。男性の育児参加を進めるため、今年度から男性国家公務員には一か月以上の育休取得を求めておりますが、民間企業でも男性の育児休業を促進します。

 「共働きで頑張っても、一人分の給料が不妊治療に消えてしまう」。以前お話しした夫婦は、辛そうな表情で話してくれました。

 こうした方々の気持ちに寄り添い、所得制限を撤廃し、不妊治療への保険適用を早急に実現します。それまでの間、現在の助成措置を大幅に拡大してまいります。

 児童虐待を防止するため、児童相談所や市町村の体制強化など対策を強化します。ひとり親家庭への支援など、子どもの貧困対策に社会全体で取り組みます。

 新型コロナウィルスにより、特に女性の雇用が厳しい状況にさらされていますが、こうした中にあっても、これまで進めてきた女性活躍の勢いを止めてはなりません。全ての女性が輝ける社会の構築に向けて新たな男女共同参画基本計画を年末までに策定します。また、厳しい状況にある大学生、高校生の就職活動を支援します。

 同一労働同一賃金など働き方改革を進めるとともに、就職氷河期世代について、働くことや社会参加を促進できるよう、個々人の状況に応じた支援を行います。

 障害や難病のある方々が、仕事でも、地域でも、その個性を発揮して活躍できる社会をつくってまいります。

 人生百年時代を迎え、予防や健康づくりを通じて健康寿命を延ばす取組を進めるとともに、介護人材の確保や介護現場の生産性向上を進めます。

 一方で、各制度の非効率や不公平は、正していきます。毎年薬価改定の実現に取り組むとともに、デジタル化による利便性の向上のため、オンライン診療の恒久化を推進します。

 二〇二二年には、いわゆる団塊の世代が七十五歳以上の高齢者となります。これまでの方針に基づいて、高齢者医療の見直しを進めます。

 全ての世代の方々が安心できる社会保障制度を構築し、次の世代に引き継いでまいります。

七 東日本大震災からの復興、災害対策

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 先月訪れた福島のふたば未来学園では、生徒の皆さんから復興に寄せる熱意、風評被害と闘う取組を伺う中で、未来を切り拓き、世界に羽ばたく若者たちが育ちつつある、そうした思いを強くしました。

 たとえ長い年月を要するとしても、将来的に帰還困難区域の全てについて避難指示を解除する決意は揺るぎません。

 福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生なし。被災者の皆さんの心に寄り添いながら、一層のスピード感を持って、復興・再生に取り組みます。

 この夏、熊本をはじめ全国を襲った豪雨により、亡くなられた方々の御冥福をお祈りし、被害に遭われた皆様に、お見舞いを申し上げます。

 毎年のように甚大な被害をもたらす豪雨や台風への対策は、一刻の猶予も許されません。これまでは同じダムでも、水力発電や農業用のダムは洪水対策に使えませんでしたが、省庁の縦割りを打破し、全てのダムを活用することで、洪水対策に使える水量は倍増しました。七月の豪雨では、木曽川で新たに事前放流を行い、流域の町長さんから私宛てに感謝のお手紙をいただきました。堤防や遊水地の整備、大雨予測の精緻化などを組み合わせて、身近な河川の洪水から命を守ります。

 自然災害により住宅に大きな被害を受けた方々が、より早く生活の安定を図ることができるよう、被災者生活再建支援法を改正し、支援金の支給対象を拡大いたします。

 水害や地震などの自然災害が相次ぐ中で、防災・減災、国土強靱化は引き続き大きな課題です。省庁、自治体や官民の垣根を越えて、災害の状況を見ながら、国土強靱化に取り組み、災害に屈しない国土づくりを進めてまいります。

八 外交・安全保障

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 総理就任後、G7、中国、ロシアなどとの電話会談を重ねてきました。米国をはじめ各国との信頼、協力関係を更に発展させ、積極外交を展開していく決意です。

 拉致問題は、引き続き、政権の最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国実現に向け、全力を尽くします。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。日朝平壌宣言に基づき、拉致・核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、北朝鮮との国交正常化を目指します。

 厳しい安全保障環境の中、国民の命と平和な暮らしを守り抜くことは政府の最も重大な責務です。イージス・アショアの代替策、抑止力の強化については、先月公表の談話を踏まえて議論を進め、あるべき方策を取りまとめていく考えです。

 我が国外交・安全保障の基軸である日米同盟は、インド太平洋地域と国際社会の平和、繁栄、自由の基盤となるものです。その抑止力を維持しつつ、沖縄の基地負担軽減に取り組みます。普天間飛行場の危険性を一日も早く除去するため、辺野古移設の工事を着実に進めてまいります。これまでにも、沖縄の本土復帰後最大の返還となった北部訓練場の過半の返還など、着実に前に進めてきました。引き続き、沖縄の皆さんの心に寄り添いながら、取組を進めてまいります。

 先日はベトナムとインドネシアを訪問しました。ASEAN、豪州、インド、欧州など、基本的価値を共有する国々とも連携し、法の支配に基づいた、自由で開かれたインド太平洋の実現を目指します。

 中国との安定した関係は、両国のみならず、地域及び国際社会のために極めて重要です。ハイレベルの機会を活用し、主張すべき点はしっかり主張しながら、共通の諸課題について連携してまいります。

 北方領土問題を次の世代に先送りせず、終止符を打たねばなりません。ロシアとは、首脳間の率直な意見交換も通じ、平和条約締結を含む日露関係全体の発展を目指します。

 韓国は、極めて重要な隣国です。健全な日韓関係に戻すべく、我が国の一貫した立場に基づいて、適切な対応を強く求めていきます。

 新型コロナウィルスにより人間の安全保障が脅かされており、国際連携の強化が必要です。保健分野など途上国を支援するとともに、多国間主義を推進していきます。安保理改革を含む国連改革や、WHO、WTO改革などに積極的に取り組みます。

 世界経済が低迷し、内向き志向も見られる中、率先して自由で公正な経済圏を広げ、多角的自由貿易体制を維持し、強化していきます。日英の経済連携協定を締結し、日系企業のビジネスの継続性を確保します。また、経済安全保障の観点から、政府一体となって適切に対応していきます。

 来年の夏、人類がウィルスに打ち勝った証として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催する決意です。安全・安心な大会を実現するために、今後も全力で取り組みます。

 二〇二五年大阪・関西万博についても、新型コロナウィルス感染症を乗り越え、日本の魅力を世界に発信してまいります。

九 おわりに

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 国の礎である憲法について、そのあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様です。憲法審査会において、各政党がそれぞれの考え方を示した上で、与野党の枠を超えて建設的な議論を行い、国民的な議論につなげていくことを期待いたします。

 政権交代以降、経済を再生させ、外交・安全保障を再構築するために、日々の課題に取り組んでまいりました。今後も、これまでの各分野の改革は継承し、その中で、新たな成長に向かって全力を尽くします。

 携帯電話料金の引下げなど、これまでにお約束した改革については、できるものからすぐに着手し、結果を出して、成果を実感いただきたいと思います。

 私が目指す社会像は、「自助・共助・公助」そして「絆」です。自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティネットでお守りする。そうした国民から信頼される政府を目指します。

 そのため、行政の縦割り、既得権益、そして、悪しき前例主義を打破し、規制改革を全力で進めます。「国民のために働く内閣」として改革を実現し、新しい時代を、つくり上げてまいります。

 御清聴ありがとうございました。

出典

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