第177回国会における菅内閣総理大臣施政方針演説


演説編集

 演説に先立ち、一言申し上げます。

 一昨日、宮崎県において高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されました。政府は、当日中に鳥インフルエンザ対策本部を開催し、初動対応を行ったところです。本件も含め、感染拡大の防止など、対応には万全を期してまいります。

はじめに編集

 さて、発足から半年、私の内閣は、元気な日本の復活を目指し、「経済」「社会保障」「財政」の一体的強化に全力で取り組んでまいりました。これを推し進めた先に、どのような国をつくっていくのか。そのために国政はどうあるべきか。本日は、改めて、私の考え方を、国民の皆様、そして国会議員の皆様に申し上げます。

 私が掲げる国づくりの理念、それは、「平成の開国」、「最小不幸社会の実現」、そして「不条理をただす政治」の三つです。変化の時代の真っただ中にあって、世界じゅうが、新しい時代を生き抜くにはどうすればよいか模索しています。日本だけが、経済の閉塞、社会の不安にもがいているわけにはいかないのです。現実を冷静に見詰め、内向きの姿勢や従来の固定観念から脱却する。そして、勢いを増すアジアの成長を我が国に取り込み、国際社会と繁栄をともにする新しい公式を見つけ出す。また、社会構造の変化の中で、この国に暮らす幸せの形を描く。ことしこそ、こうした国づくりに向けかじを切る。私のこの決意の中身をこれから説明いたします。

平成の開国 -第一の国づくりの理念-編集

 第一の国づくりの理念は、「平成の開国」です。日本は、この百五十年間に、「明治の開国」と「戦後の開国」をなし遂げました。不安定な国際情勢にあって、政治や社会の構造を大きく変革し、創造性あふれる経済活動で難局を乗り切ったのです。私は、これらに続く「第三の開国」に挑みます。過去の開国にはない困難も伴います。経験のない変化、価値観の多様化、その中で安易に先例や模範を求めても、有効な解は見つかりません。みずから新しい発想と確固たる信念で課題を解決する、その覚悟を持って「平成の開国」に取り組みます。

包括的な経済連携の推進編集

 開国の具体化は、貿易・投資の自由化、人材交流の円滑化で踏み出します。このため、包括的な経済連携を推進します。経済を開くことは、世界と繁栄を共有する最良の手段です。我が国は、そう強く認識し、戦後一貫して実践してきました。この方針に沿って、WTOドーハ・ラウンド交渉の妥結による国際貿易ルールの強化に努めています。一方、この十年、二国間や地域内の経済連携の急増という流れには大きく乗りおくれてしまいました。そのため、昨年秋のAPECに先立ち、包括的経済連携に関する基本方針を定めました。ことしは、決断と行動の年です。昨年合意したインド、ペルーとの経済連携協定は着実に実施します。また、豪州との交渉を迅速に進め、韓国、EU及びモンゴルとの経済連携協定交渉の再開、立ち上げを目指します。さらに、日中韓自由貿易協定の共同研究を進めます。TPP、環太平洋パートナーシップ協定は、米国を初めとする関係国と協議を続け、ことし六月を目途に、交渉参加について結論を出します。

農林漁業の再生編集

 そして、「平成の開国」を実現するため、もう一つの大目標として、農林漁業の再生を掲げます。貿易を自由化したら農業は危うい、そんな声があります。私は、そのような二者択一の発想はとりません。過去二十年で国内の農業生産は二割減少し、若者の農業離れが進みました。今や、農業従事者の平均年齢は六十六歳に達しています。農林漁業の再生は、待ったなしの課題なのです。昨年の視察で、夢とやりがいに満ちた農業の現場に接し、私は確信をいたしました。商工業と連携し、六次産業化を図る、あるいは農地の集約で大規模化する、こうした取り組みを広げれば、日本でも、若い人たちが参加する農業、豊かな農村生活が可能なのです。
 この目標に向けた政策の柱が、農業者戸別所得補償です。来年度は、対象を畑作に拡大し、大規模化の支援を厚くします。また、安全でおいしい日本の食の魅力を海外に発信し、輸出につなげます。中山間地の小規模農家には、多面的機能の発揮の観点から支援を行います。農業だけではありません。林業が中山間地の基幹産業として再生するよう、直接支払い制度や人材育成支援を充実させます。漁業の所得補償対策も強化します。そして、内閣の「食と農林漁業の再生実現会議」において集中的に議論を行い、六月を目途に基本方針を、十月を目途に行動計画を策定します。

国会における議論の提案編集

 我々は、経済連携の推進と農林漁業の再生が「平成の開国」の突破口となると考え、以上のような方針を定めました。国民の皆様は、この問題に高い関心を寄せています。各党の意見を持ち寄り、この国会で議論を始めようではありませんか。

開国を成長と雇用につなげる新成長戦略の実践編集

 さらに、この「平成の開国」を成長と雇用につなげるため、新成長戦略の工程表を着実に実施します。既に、前国会の所信表明演説でお約束した政策が決定され、実行に移されています。国内投資促進プログラムを策定し、法人実効税率の五%引き下げを決断しました。中小法人の軽減税率も三%引き下げます。観光立国に向けた医療滞在ビザも、約束したとおり創設しました。地球温暖化問題に全力を尽くすため、長年議論された地球温暖化対策のための税の導入を決定しました。再生エネルギーの全量買い取り制度も導入します。鉄道や水、原子力などのパッケージ型海外展開、ハイテク製品に欠かせないレアアースの供給源確保は、閣僚による働きかけで前進しています。私みずからベトナムの首相に働きかけた結果、原子力発電施設の海外進出が初めて実現しました。米国、韓国、シンガポールとのオープンスカイ協定にも合意しました。こうした行動に産業界も呼応し、十年後の設備投資を約百兆円とする目標が示されました。新事業と雇用を創造する野心的な提案を歓迎します。その実現を後押しするため、大学の基礎研究を初め科学技術振興予算を増額します。日本をアジア経済の拠点とするため、海外企業誘致も強化します。中小企業金融円滑化法の延長や資金繰り対策など、中小企業支援にも全力を期します。有言実行を一つ一つ仕上げ、ことしを日本経済復活に向けた跳躍の年にしていきます。

最小不幸社会の実現 -第二の国づくりの理念-編集

 次に、「平成の開国」とともに推進する、二番目の国づくりの理念について申し上げます。それは、「最小不幸社会の実現」です。失業、病気、貧困、災害、犯罪。「平成の開国」に挑むためにも、こうした不幸の原因をできる限り小さくしなければなりません。一人一人の不幸を放置したままで、日本全体が自信を持って前進することはできないのです。我々の内閣で、「最小不幸社会」の実現を確実に進めます。

雇用対策の推進編集

 最も重視するのが雇用です。働くことで、人は「居場所と出番」を見つけることができるのです。特に厳しい状況にある新卒者雇用については、特命チームで対策を練り、全都道府県に新卒応援ハローワークを設置しました。二千人に倍増したジョブサポーターの支援で、昨年十二月までに約一万六千人の就職が決定しました。私が会ったジョブサポーターは、誠心誠意語り合えば、自信を取り戻し、元気になる学生がたくさんいると話してくれました。学生の皆さん、ちゅうちょせずに訪ねてみてください。ジョブサポーターがきっと味方になってくれるはずです。企業に対しても、トライアル雇用を増し、卒業後三年以内を新卒扱いとするよう、働きかけを強化しています。十二月現在、大学新卒予定者の内定率は六八・八%にとどまっており、引き続き全力で支援していきます。

 そして、雇用対策全般も一層充実させていきます。一つ目の柱は、雇用を「つなぐ」取り組みです。新卒者支援は、今申し上げた取り組みに加え、中小企業とのマッチングも強化します。また、雇用保険を受給できない方への第二のセーフティーネットとして、職業訓練中に生活支援のための給付を行う求職者支援制度を創設します。二つ目は、雇用を「創る」取り組みです。新成長戦略の推進で、潜在的に需要の大きい医療、介護、子育てや環境分野の雇用創出を図るとともに、企業の雇用増を優遇する雇用促進税制を導入します。そして三つ目は、雇用を「守る」取り組みです。雇用の海外流出を防ぐため、既に雇用効果が出ている低炭素産業の立地支援を拡充します。雇用保険の基本手当の引き上げも行います。これらの三つの柱による雇用確保に加え、最低賃金引き上げの影響を受ける中小企業を支援します。労働者派遣法の改正など、雇用や収入に不安を抱える非正規の労働者の正社員化を進めます。

社会保障の充実編集

 「最小不幸社会の実現」のために何といっても必要なこと、それは、国民生活の安心の基盤である社会保障をしっかりさせることです。来年度は、社会保障予算を五%増加させます。基礎年金の国庫負担割合は、二分の一を維持します。また、年金記録問題の解消に全力を尽くします。医療分野では、医師の偏在解消や、大腸がんの無料検診の開始、乳がん、子宮頸がんの無料検診の継続を盛り込みました。B型肝炎訴訟における裁判所の所見には前向きに対応し、国民の皆様の御理解を得ながら、早期の和解を目指します。介護分野では、二十四時間対応のサービスなど、ひとり暮らしのお年寄りに対する在宅介護を充実させます。子ども・子育て支援は、現金給付と現物支給の両面で強化します。三歳未満の子ども手当は月二万円に増額し、保育や地方独自の子育て支援のため五百億円の交付金を新設します。障がい者支援サービスは、法改正を踏まえて拡大し、今国会には障害者基本法の改正を提案します。また、総合的な障がい者福祉制度の導入を検討します。

社会保障制度改革の進め方編集

 厳しい財政状況ですが、来年度については、このように、国民生活を守るための予算を確保できました。公共事業の絞り込みや特別会計の仕分けなど、最大限の努力を重ねた結果です。昨年決めた財政健全化の約束も守りました。しかし、こうした努力だけで膨らむ社会保障の財源を確保することには限界が生じています。制度が想定した社会経済状況が大きく変化した今、我が国は社会保障制度を根本的に改革する必要に直面しています。この認識に立ち、内閣と与党は、社会保障制度改革の五つの基本原則をまとめました。第一は、高齢者をしっかり守りながら若者世代への支援も強化する、「全世代対応型」の保障であります。第二は、子ども・子育て支援による「未来への投資」であります。第三は、地方自治体による「支援型サービス給付」の重視です。第四として、制度や行政の縦割りを超え、サービスを受ける方の視点に立った包括的な支援を挙げました。そして第五が、次世代に負担を先送りしない安定的財源の確保です。公正で便利なサービスを提供するため、社会保障と税の共通番号制度の創設も必要です。これら五つの基本原則を具体化し、国民生活の安心を高める。そのためには、国民の皆様にある程度の負担をお願いすることは避けられないと考えます。内閣は、ことし六月までに、社会保障改革の全体像とともに、必要な財源を確保するための、消費税を含む税制抜本改革の基本方針を示します。国民の皆様に十分考えていただくため、検討段階から、さまざまな形で議論の内容を発信してまいります。

国民参加の議論に向けた提案編集

 負担の問題は、触れたくない話題かもしれません。負担の議論に当たって、行政の無駄を徹底的に排除することは当然の前提であります。それに加え、議員定数削減など、国会議員もみずから身を切る覚悟を国民に示すことが必要だと考えます。国会で議論し、決定すべき問題であることは言うまでもありません。本日は、一政治家、そして一政党の代表として、この問題を与野党で協議することを提案いたします。そうした努力を徹底した上で、今の現実を直視し、どう乗り越えるか、国民の皆様にも一緒に考えていただきたいのです。一年半前、自公政権下で設置された「安心社会実現会議」は、持続可能な安心社会の構築のため、社会保障給付と負担のあり方について、「与野党が党派を超えて討議と合意形成を進めるべき」と提言しました。さらに、昨年十二月、自由民主党は、「税制改正についての基本的考え方」において、税制の「抜本改革の検討に当たっては、超党派による円卓会議等を設置し、国民的な合意形成を図る」としています。同じ時期に公明党が発表した「新しい福祉社会ビジョン」の中間取りまとめは、「健全な共助、健全な雇用こそ福祉の原点」とした上で、充実した「中福祉・中負担」の実現を主張し、制度設計を協議する与野党の「社会保障協議会」の設置を提案しました。問題意識と論点の多くは既に共有されていると思います。国民の皆様が最も関心を有する課題です。各党が提案するとおり、与野党間で議論を始めようではありませんか。経験したことのない少子化、高齢化による生産年齢人口の減少は、かなり前から予測されていました。この大きな課題に対策を講じる責任は与野党の国会議員全員が負っている、その認識を持って、熟議の国会を実現しましょう。よろしくお願いします。

生き生きと暮らせる社会の形成編集

 こうして、社会保障の枠組みをしっかり築くとともに、国民の皆様が生き生きと暮らせる社会の形成に向け、具体策を充実させていきます。子供たちに夢を実現する力を与えるため、幼保一体化を初め、子ども・子育て支援と教育を充実させます。小学校一年生は一学級三十五人以下にします。高校授業料の実質無償化を着実に実施し、奨学金も拡充します。

 女性の積極的な社会参加も応援します。育児などで就労をちゅうちょする女性が二百万人います。そこで、内閣の特命チームは、二万六千人に上る待機児童を解消するプロジェクトを用意しました。これに沿って、来年度は、認可外保育施設の補助など、柔軟で多様な保育サービスの整備に二百億円を投じます。家庭を持つ女性や子育てを経験した女性が働く意欲を持って職場に参加する、あるいは仕事人間だった男性が家庭に参加する、どちらも得られることがたくさんあります。男女が共同で参画できる社会に向けて、職場や家庭の環境を整えていきましょう。

 暮らしの安全強化も重要です。サイバー犯罪や国際犯罪の取り締まり強化、消費者行政の体制強化、さらに、防災対策の強化を進めます。また、児童虐待防止に向けた民法改正も提案します。

「新しい公共」の推進編集

 こうした「最小不幸社会実現」の担い手として、「新しい公共」の推進が欠かせません。苦しいときに支え合うから喜びも分かち合える、日本社会はこの精神を今日まで培ってきました。そう実感できる活動が最近も広がっております。我々永田町や霞が関の住人こそ、公共の範囲を狭く解釈してきた姿勢を改め、こうした活動を積極的に応援すべきではないでしょうか。そこで、来年度、認定NPO法人など新しい公共の担い手に寄附をした場合、これを税額控除の対象とする画期的な制度を導入します。あわせて、対象となる認定NPO法人の要件を大幅に緩和します。

不条理をただす政治 -第三の国づくりの理念-編集

 「平成の開国」、「最小不幸社会の実現」と並ぶ私の三つ目の国づくりの理念は、「不条理をただす政治」です。これは、政治の姿勢に関する理念です。私がかつて薬害エイズ問題に全力で立ち向かった原動力は、理不尽な行政で大変な苦しみが生じている不条理への怒りでした。当時、この問題にともに取り組んだ一人が、山本孝史議員でした。山本さんは、金のかからない選挙を展開して国政に飛び込み、「命を守るのが政治家の仕事」と、社会保障問題に一貫して取り組みました。五年前に胸腺がんに襲われた後も、抗がん剤の副作用に耐え、やせ細った身を削りながら、がん対策基本法、そして自殺対策基本法の成立に尽くされました。党派を超えて信頼を集めた彼の行動力、そして世の中の不条理と徹底的に闘う情熱、私はそれを引き継いでいかなければなりません。先月、山本さんの三回目の命日を迎え、決意を新たにいたしました。

特命チームによる不条理の解消編集

 この国には、見落とされた不条理がまだまだ残っています。一人でも困っている人がいたら、決して見捨てることなく手を差し伸べる、その使命感を抱き、幾つかの特命チームを設置いたしました。

 HTLV1ウイルス対策の特命チームは、この問題が長年解決されていないことを菅付加代子さんを初めとする患者の皆様から伺い、直ちに設置しました。その三カ月後、妊婦健診時の検査、相談や、治療研究を進める総合対策をまとめることができました。このウイルスが原因の病気と闘う前宮城県知事の浅野史郎さんは、「特命チームに感謝し、闘病に勝利をおさめたい」とメッセージを送ってくれました。

 また、硫黄島遺骨帰還の特命チームは、四年前に硫黄島を訪問して以来、温めてきた構想でした。国内であるにもかかわらず、硫黄島には今も一万三千柱もの御遺骨が収容されずに眠っています。その御帰還は、国の責務として進めなければなりません。特命チームが米国で大量の資料を調べ、御遺族や関係者の御協力をいただいた結果、新たな集団埋葬地を見つけることができました。

「社会的孤立」の問題への取組編集

 そして、先週、「社会的孤立」の問題に取り組む特命チームを、現場の実務家も参加して設置しました。「無縁社会」や「孤族」と言われるように、社会から孤立する人がふえています。これが、病気や貧困、年間三万人を超える自殺の背景にもなっています。私は、内閣発足に当たり、だれ一人として排除されない社会の実現を誓いました。既に、パーソナルサポーターの普及や、自殺、うつ対策を強化しています。新しい特命チームでは、改めて孤立の実態と要因を全世代にわたって調査します。そして、孤立した人を温かく包み込む「社会的包摂戦略」を進めます。

政治改革の推進編集

 また、国民の皆様は、政治改革に対して不断の努力を求めています。政治家、そして政党は、この要求にこたえる責任があります。政治資金の一層の透明化、企業・団体献金の禁止、そして個人寄附促進のための税制改正は、多くの政党が公約に掲げています。与野党がそれぞれの提案を持ち寄って、今度こそ国民が納得する具体的な答えを出そうではありませんか。

地域主権改革の推進と行政刷新の強化・徹底編集

地域主権改革の推進編集

 以上、国づくりの三つの理念を推進する土台、それが、内閣の大方針である地域主権改革の推進です。改革は、ことし大きく前進します。地域が自由に活用できる一括交付金が創設されます。当初、各省から提出された財源は、わずか二十八億円でした。これでは地域の夢は実現できません。各閣僚に強く指示し、来年度は五千百二十億円、平成二十四年度は一兆円規模で実施することとなりました。政権交代の大きな成果です。そして、我々の地域主権改革の最終目標はさらに先にあります。今国会では、基礎自治体への権限移譲や総合特区制度の創設を提案します。国の出先機関は、地方による広域実施体制を整備し、移管していきます。既に、九州や関西で広域連合の取り組みが始まっています。こうした地域発の提案で、地域主権に対する慎重論を吹き飛ばしていきましょう。

行政刷新の強化・徹底編集

 地域主権改革を進め、そしてまた平成の開国や最小不幸社会の実現の具体策を実施するため、政治主導を強化した上で、行政刷新は一段と強化、徹底します。一昨年の政権交代以降、行政刷新、とりわけ無駄の削減には、従来にない規模と熱意で取り組んできました。しかし、もういいだろうという甘えは許されません。一円の無駄も見逃さない姿勢で事業仕分けを深化させます。さらに、公務員制度改革や国家公務員の人件費二割削減、天下りや無駄の温床となってきた独立行政法人や公益法人の改革にも取り組みます。また、規制仕分けにより、新たな成長の起爆剤となる規制改革を実現します。マニフェストの事業については、既に実現したものもありますが、公表から二年を一つの区切りとして、国民の皆様の声を伺いながら検証していきます。透明で公正な行政に向け、情報公開法改正により国民の知る権利の強化を図るとともに、検察改革を進めていきます。

平和創造に能動的に取り組む外交・安全保障政策編集

 一方、世界に視点を移せば、国際社会が大きく変化している中、我が国周辺には依然として不確実性、不安定性が存在します。こうした情勢にあって平和と安定を確かなものとするためには、現実主義を基調にして世界の平和創造に能動的に取り組む外交・安全保障政策の推進が不可欠です。

日米同盟の深化編集

 日米同盟は、我が国の外交、安全保障の基軸であり、アジア太平洋地域のみならず、世界にとっても安定と繁栄の共有財産です。既に、オバマ大統領とは、安全保障、経済、そして文化・人材交流の三本柱を中心に、日米同盟を深化させることで一致しています。これを踏まえ、ことし前半に予定される私の訪米時に、二十一世紀の日米同盟のビジョンを示したいと思います。また、米国とは、アフガニスタン、パキスタンの復興支援など、世界の平和を牽引する協力も強化をします。

沖縄の振興強化と基地負担軽減編集

 沖縄は、今、若者の活力があふれており、観光の振興や情報通信産業の集積などを通じ、日本で最も成長する可能性を秘めています。その実現を沖縄振興予算で支援するとともに、沖縄に集中する基地負担の軽減に全力を尽くさなければなりません。本土復帰から約四十年が過ぎましたが、沖縄だけ負担軽減がおくれていることはざんきにたえません。昨年末の訪問で沖縄の現状をみずから確かめ、この思いを新たにしました。米国海兵隊のグアム移転計画を着実に実施し、米軍施設・区域の返還、訓練の県外移転をさらに進めます。普天間飛行場の移設問題については、昨年五月の日米合意を踏まえ、沖縄の皆様に誠心誠意説明し、理解を求めながら、危険性の一刻も早い除去に向け、最優先で取り組みます。

アジア太平洋諸国との関係強化編集

 アジア太平洋諸国との関係強化にも努めます。中国の近代化の出発点となった辛亥革命から、ことしで百年になります。革命を主導した孫文には、彼を支える多くの日本の友人がいました。来年の日中国交正常化四十周年を控え、改めて両国の長い交流の歴史を振り返り、幅広い分野での協力によって戦略的互恵関係を充実させることが重要です。同時に、中国には、国際社会の責任ある一員として建設的な役割を果たすよう求めます。韓国とは、昨年の総理大臣談話を踏まえ、韓国の意向を十分尊重しつつ、安全保障面を含めた協力関係を一層強化し、これからの百年を見据えた未来志向の関係を構築していきます。ロシアとは、資源開発や近代化など経済面での協力、そしてアジア太平洋地域及び国際社会における協力を拡大します。一方、北方領土問題を解決して平和条約を締結するとの日ロ関係の基本方針を堅持し、粘り強く交渉していきます。ASEAN、豪州、インド等とも関係を深め、開かれたネットワークを発展させていきます。

欧州・中南米諸国との関係強化編集

 基本的な価値を共有するパートナーである欧州諸国とは、引き続き緊密に連携します。また、国際社会で存在感を高めるブラジル、メキシコなど新興国を初めとする中南米諸国とは、資源開発を含む経済分野を中心に関係を深めていきます。

北朝鮮編集

 北朝鮮に対しては、韓国哨戒艦沈没事件、延坪島砲撃事件やウラン濃縮活動といった挑発的行為を繰り返さないよう強く求める一方、日米韓の連携を強化していきます。我が国は、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決を図るとともに、不幸な過去を清算し、国交正常化を追求します。拉致問題については、国の責任において、すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現するため、全力を尽くします。

平和創造に向けた貢献編集

 国際社会が抱えるさまざまな問題の解決にも、世界の不幸を最小化する観点から貢献します。私が協力をお願いした延べ二十六名の非核特使の皆様が、被爆体験を語るため世界各国を訪れています。唯一の被爆国として、核軍縮、核不拡散の重要性を引き続き訴えていきます。環境問題、保健・教育分野での協力や、アフリカなどの発展途上国に対する支援、包括的な中東和平、テロ対策やPKOを含む平和維持、平和構築にも、各国と連携して取り組みます。国連改革、安保理改革も主導していきます。

防衛力や海上保安の強化編集

 現在の日本を取り巻く安全保障環境を踏まえ、昨年末、安全保障と防衛力のあり方に関する新たな指針として、「防衛計画の大綱」を決定しました。新大綱では、日本の防衛と並び、世界の平和と安定や人間の安全保障の確保に貢献することも安全保障の目標に掲げています。この新大綱に沿って、即応性や機動性を備え、高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力の構築に取り組みます。いかなる危機にも迅速に対応する体制を整備します。その際、南西地域、島嶼部における対応能力を強化します。また、海上保安強化のため、大型巡視船の更新を早めるなど体制の充実を図ります。海上警察権の強化も検討します。

結び編集

 本日、国会が開会しました。この国会では、来年度予算と関連法案を成立させ、早期のデフレ脱却により、国民の皆様に安心と活気を届けなければなりません。また、前国会では、郵政改革法案や地球温暖化対策基本法案、日韓図書協定など、残念ながら、多くの法案、条約が廃案や継続審議となりました。これらの法案などについても十分な審議をお願いすることとなります。

 国民の皆様は、国会に何を期待されているのでしょうか。今の危機を脱し、将来の日本をどう築いていくのか、建設的に議論することを求めていると思います。先送りをせず、結論を出すことを求めていると思います。国会質疑や党首討論を通じて、その期待にこたえようではありませんか。今度こそ熟議の国会となるよう、国会議員の皆様に呼びかけ、私の施政方針演説といたします。

出典編集

 

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