第120回国会における海部内閣総理大臣施政方針演説


演説

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 第120回国会の再開に当たり,内外の情勢を展望して施政の方針を明らかにし,皆さんのご理解とご協力を得たいと思います。

外交

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 世界は今,21世紀を臨む最後の10年間を迎えました。振り返りますと,20世紀は,2度にわたる不幸で悲惨な世界大戦を経て,最近に至るまで,米ソ二大国の対立を中心とした東西冷戦構造が世界を支配していました。

 しかし,人類は今,幾多の試練を乗り越えて,輝かしい未来に向けて新たな歴史の扉を開こうとしています。世界は,米ソ関係を中心に,対立から対話と協調の時代へと着実に歩み始め,冷戦の中心的な場であった欧州では,東欧の民主化,ドイツ統一の達成を経て,パリ憲章の採択によって,対立と分断の時代に終止符を打ちました。

 このような歴史的な時に,イラクは,クウェイト侵略という暴挙に出たのであります。この力による不法な支配に対して,国際社会は当初から,国連の権威の下に,度重なる安保理決議の採択や多国籍軍の活動,国際的な経費分担などを通じて,先例のない協力関係を構築してまいりました。また,国連が示した1月15日の期限まで,事態の平和的解決に向けて,我が国を含めあらゆる国際的努力が行われました。

 しかるに,イラクのフセイン大統領はこれらを無視し,平和的解決に向けた国際社会の努力を踏みにじったことは誠に遺憾であり,今後の国際連合を中心とする国際秩序の維持の上からも,断じてこれを許すことは出来ません。現在,思想,信条を超えて,20を超える国が多国籍軍に参加し,多数の国がそれに物的,資金的援助を行っているのも,まさにこのためなのであります。国際社会で主要な地位を占めるに至った我が国が,この事態に積極的な貢献をすることは当然の責務であり,自ら成し得る努力をせず,これを怠れば,国際的孤立化への道を歩むことになります。こうした道は是非とも避けなければなりません。

 このような考え方に立って,我が国は,安保理決議678に基づき,やむを得ざる最後の手段としてとられた,米国を中心とする関係諸国による武力の行使に対し,確固たる支持を表明するものであります。また,国際の平和と安全を回復するための関係諸国の行動に対し,我が国憲法の下で出来る限りの支援を行う決意であり,このため,既に決定した貢献策に加え,関係諸国が当面要する経費に充てるため,90億ドルの新たな追加支援を行うこととしました。これは,侵略者は絶対に許さないという国際社会の正義の立場から,我が国が国際的な役割を果たしていくために是非とも必要なものであります。国民の皆さんにも応分の負担をお願いすることになりますが,どうか,ご理解とご協力をいただきたいと思います。さらに,我が国は,関係国際機関とも協力して,避難民の救済のため可能な限りの援助を行うこととし,国連の避難民救済関係機関が国際社会に要請した当面の経費全額を引き受けました。特に,避難民の本国への輸送という人道的かつ非軍事的な分野においては,安全確保を前提として我が国民間航空会社に協力を強く要請し,困難な状況の下,承諾を得たところであります。既に,関係国際機関の具体的要請があれば,速やかに出発出来る準備を整えました。なお,民間機が活用されないような状況において,人道的見地から緊急の輸送を要する場合には,必要に応じ,自衛隊輸送機により輸送を行うこととしました。我が国が,国際社会において,人道的,非軍事的な面で,このような責任を率先して果たしていくことは,憲法の基本理念に合致するものであると確信しています。

 我が国は,イラク政府が,国際社会の一致した意思を尊重し,直ちにすべての安保理決議を受諾するよう強く求めるものであります。そして,湾岸地域における戦闘行為が早期に終結し,中東において,永続性のある公正な平和が一日も早く達成されることを切望するものであります。

 今後こうした事態を防止していくためにも,国際の平和と安全のための国連の権威と機能を高め,各国はこれに積極的に協力していかなければなりません。前回の臨時国会における国連平和協力法案の審議や各界各層における議論を通じ,我が国が平和のために資金,物資面のみならず,人的側面においても貢献すべきであるという点については,国民の間に共通の理解が確認されたと認識しています。自民,公明,民社各党間の合意を尊重して,新たな国際協力のあり方につき,一日も早く成案を得たいと考えております。

 また,今回の事態と関連して,核,生物・化学兵器やミサイルの拡散防止を徹底し,通常兵器の輸出についても,一層の透明性,公開性を通じて適切な管理が行われることが,湾岸地域ひいては世界全体の将来の安定のために必要であると痛感しています。化学兵器禁止条約交渉の早期妥結をはじめ,これらの分野での国際的取組を強化すべく努力してまいります。

 アジア・太平洋地域において,緊張緩和を促進し,この地域の経済発展を一層図っていくことは,重要な課題であります。この地域に残された対立や紛争を解決し,地域全体に平和と繁栄をもたらしていくために,我が国は積極的な役割を果たしていかねばなりません。

 アジア・太平洋地域の長期的な安定と繁栄を確保していくためには,ASEANをはじめとした地域協力の場を通じ,対話と協力を拡大していくとともに,不安定要因である朝鮮半島問題やカンボディア問題などの解決,そして日ソ関係の抜本的改善を図っていくことが重要であると考えます。

 朝鮮半島では,南北首相級会談の開催,韓ソ国交樹立など緊張緩和に資する新たな動きがみられており,我が国としても,この流れを一層加速化させるため積極的に行動していかねばなりません。我が国の朝鮮半島政策の基本は,日韓友好協力関係の強化にあります。今般の私の韓国訪問は,在日韓国人3世問題を決着させ,日韓新時代の3原則を首脳相互で確認し成果をあげましたが,今後とも,21世紀に向けて未来志向の協力関係を具体化していくために努力してまいります。北朝鮮との関係については,国交正常化のための本会談がまもなく開始されることとなっており,今後とも朝鮮半島をめぐる情勢全体を視野に入れ,朝鮮半島の平和と安定に資する形で,韓国,米国などの関係諸国と密接な連携を取りつつ,交渉を進めてまいります。

 カンボディア問題については,昨年12月,関係国の努力によりパリ会議の早期開催が合意されました。我が国は,これまでも積極的な和平努力を続けてまいりましたが,今後,カンボディア各派が残された問題に積極的に取り組むとともに,すべての関係国が和平達成後のカンボディア,ひいてはインドシナの復興も念頭に置いて,緊密に協調していくことを呼び掛けたいと思います。

 ソ連のペレストロイカは,その真価が問われる重大な局面を迎えています。私は,ゴルバチョフ大統領が,人間中心の民主主義社会の建設のため,ペレストロイカを正しい方向に進めることが世界の平和と安定のために必要不可欠であると考え,これを高く評価,支持してきました。この関連で,バルト諸国において一度ならず武力が行使されるに至ったことには,深い憂慮の念を表明せざるを得ません。事態がこれ以上悪化することなく,民主的,平和的方法で解決されることを強く求めているところであります。

 このような中で日ソ関係は,本年4月に予定されるゴルバチョフ大統領の訪日を控え,戦後の日ソ交渉における最も重要な時期を迎えようとしています。日ソ関係の抜本的改善のためには,何よりも北方領土問題を解決し,平和条約を締結することが必要であります。北方領土問題の解決を棚上げしたまま,経済関係のみを進めるとの無原則な政経分離の方針は国民の望むところではありません。ゴルバチョフ大統領の訪日を,新しい日ソ関係構築のための突破口となる歴史的意義のあるものとすべく,私は,ゴルバチョフ大統領に最大限の努力を強く求めるものであります。私も努力を惜しむものではありません。日ソ間の「戦後の時代」を本当に終わらせることができるのは,勇気ある決断なのです。

 中国との関係については,中国が諸外国との協力関係を維持,発展させていくことが重要であります。中国が改革・開放政策を名実ともに推進し,また,国際社会に対し一層の建設的役割を果たすよう更なる努力を期待するとともに,我が国としては,中国との関係を重視し,その近代化努力に対して出来る限りの協力をしてまいります。

 日米関係は,我が国外交の基軸であります。我が国が,アジア・太平洋地域の平和と繁栄,更には世界全体の新しい国際秩序の構築に向けて積極的外交を展開するに当たっても,日米協力関係が確固としたものであることがとりわけ重要です。日米両国の相互依存関係の進展を背景に,両国は今後とも難しい問題の解決を迫られる場面が増大していく可能性もあります。しかし両国は,世界の平和と繁栄に対する共通の責任を自覚し,日米構造協議のフォローアップを着実に行っていくなど2国間の共同作業を前進させていくと同時に,人類が直面する様々な共通課題の解決に向けて,同盟国として地球的規模で協力していく,いわゆるグローバル・パートナーシップを一層強固なものとしていくことが必要であります。さきに日米親善交流基金を創設することとしたのも,両国国民の交流とコミュニケーションを更に深めることを期待したものであります。ブッシュ大統領の訪日の機会には,21世紀に向けた両国の協力関係の基盤を更に強固なものとしてまいります。

 日米関係の基礎をなす強固な(きずな)である日米安保体制は,我が国をはじめとするアジア・太平洋地域の平和と安定にとって不可欠な枠組であります。政府としては,今後とも日米安保体制を堅持し,その信頼性の向上を図るとともに,平和憲法の下,専守防衛に徹し,他国に脅威を与えるような軍事大国にならず,文民統制を確保し,非核3原則を守りつつ,先般策定した平成3年度からの中期防衛力整備計画に沿い,引き続き効率的で節度ある防衛力の整備に努めてまいります。この計画においては,現在の中期防衛力整備計画の実施により,防衛計画の大綱に定める水準がおおむね達成される状況などを踏まえて,主要装備については,更新・近代化を基本とし,隊員の生活環境や情報・通信などの各種支援機能をはじめとする後方分野の一層の充実に努めることなどを基本としています。なお,在日米軍経費負担問題については,日米安保体制の効果的運用を図るという観点から,新中期防衛力整備計画の中で,在日米軍の駐留支援のための新たな措置を講ずることとしています。

 日米とともに,自由,民主主義,市場経済という同様の価値観,社会制度を有する欧州諸国は,現在,ECを中心として新秩序の構築に意欲的に取り組んでいます。我が国としては,政治,経済,文化各面における関係の一層の緊密化や東欧諸国の経済再建のための協力などを通じ,このような欧州諸国との友好協力関係の強化に努めてまいります。

 国際経済面では,経済のグローバル化が一層進む中で,保護主義の圧力も依然として根強く,多角的自由貿易体制の維持・強化が喫緊の課題となっています。昨年12月のブラッセルでのウルグァイ・ラウンド閣僚会議では,最終合意が達成されず継続協議となりました。この交渉は,21世紀に向けて世界の経済的繁栄の枠組を構築するという重大な役割を有しており,もしまとまらなければ,保護貿易主義の急速な台頭など世界経済に深刻な影響を与えることが予想されます。自由貿易の利益を多く享受している我が国としては,国際経済秩序の主要な担い手として,この交渉の成功に全力を傾注してまいります。

 我が国が,国際社会において名誉ある地位を占め,世界の尊敬と信頼を得ていくためには,地球環境,麻薬問題などの世界が心から解決を望んでいる地球的規模の人類共通課題に率先して取り組み,それらを解決していく必要があります。また,債務累積問題など経済的社会的困難に苦しむアジア,アフリカ,ラテンアメリカの開発途上国や,市場経済への移行という困難な課題に挑む東欧諸国に対し積極的な援助を行い,国際的にも均衡のとれた経済社会の発展に貢献してまいります。

経済運営

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 我が国経済は,4年を超える内需主導型の景気拡大を続けています。しかしながら最近になって,湾岸危機に起因する原油価格の不安定化や米国における景気後退の様相など不透明な状況も生じています。

 政府としては,引き続き,物価の安定を図ることを基礎としつつ,主要国の経済政策の協調にも配慮し,適切かつ機動的な経済運営に努めることにより,経済活動の自律的発展,雇用の安定,輸入の拡大などによる対外不均衡の是正,為替レートの安定を図り,もって内需を中心とした景気の拡大を出来るだけ息の長いものとするよう努めてまいります。また,これらの経済運営を通じ,我が国経済を国際的に調和のとれた構造に転換してまいります。

 幸い,物価は安定的に推移してきておりますが,原油価格,為替レートや労働力需給などの動向に細心の注意を払い,的確な情報を迅速に提供するとともに,便乗値上げを厳しく監視するなど,その安定に十分配慮してまいります。内外価格差問題についても,引き続き,その是正,縮小を図ってまいります。

 我が国は,中東地域に原油の7割以上を依存していることから,政府としては,イラクによるクウェイト侵略の国民生活や産業活動への影響を出来る限り小さくするよう努力してまいりました。幸い,過去2回の石油危機時と比べ,我が国経済の石油に対する依存度が大きく低下しており,また,我が国の142日分の石油備蓄を,国際協調の下,機動的に活用することにより,当面,国内の石油需給ひいては国民生活に大きな影響を与えることはないと判断しています。しかし,今後とも,依然として(ぜい)弱な我が国のエネルギー構造に思いを致し,原子力など石油代替エネルギーの開発・導入と徹底した省資源,省エネルギーに積極的に取り組むとともに,石油の安定供給の確保に万全を期してまいります。国民の皆さんにおかれても,より一層の省エネルギーへの努力をお願いいたします。

 雇用の安定と激しい環境変化に対応出来る創意と活力ある中小企業の育成は,極めて重要な課題であります。このため,特に,近年人手不足感が広がっている中小企業を中心に,労働力の確保,定着を図るなど中小企業施策を充実,強化するとともに,高齢者や障害者の雇用就業機会の確保,職業能力開発,地域雇用対策など労働力需給不均衡の改善に努めてまいります。

 また,事業者の公正かつ自由な競争を維持,促進するため,独占禁止法違反行為に対する厳正な対処,抑止力の強化を図るとともに,独占禁止法の運用の透明性を高める施策を講じてまいります。

行財政・税制改革の推進

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 平成3年度予算においては,歳出の徹底した見直しなどを行うことにより,公債発行額を可能な限り縮減し,財政の健全化に向けて新たな第一歩を踏み出しました。

 しかし,なお公債残高は,平成3年度末には168兆円にも達する勢いであり,我が国の財政は,依然として極めて厳しい状況にあることに変わりはありません。高齢化社会においても経済・社会の活力を維持し,また,国際社会において増大する責任を果たしていくためには,公債残高が累増しないような財政体質をつくり上げていくことが重要であります。このため,再び特例公債を発行しないことを基本として,今後とも公債依存度の引下げに努力を積み重ねてまいります。

 また,第2次行革審の最終答申を最大限に尊重し,国,地方を通じた行財政改革を推進するとともに,先般発足した行革審においても,国民生活重視や国際化対応などの新たな改革課題についての審議を促進するなど,引き続きこの問題と真剣に取り組んでまいります。

 また,地方財政については,その円滑な運営を期することとしています。

 消費税を含む税制問題については,国会の両院合同協議会において,消費税の必要性を踏まえつつ,建設的な合意が得られることを期待しており,具体的な結論が得られれば,その趣旨に沿って誠実かつ迅速に対応してまいります。

土地・住宅問題の解決

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 土地問題の根本的解決のためには,土地神話を打破し,二度と地価高騰を生じさせないことが必要であります。これまで実施してきた監視区域の運用の強化,土地関連融資の規制などの対策により,問題が深刻な東京や大阪などにおいては,地価が沈静化傾向にあるなど,その成果のきざしが見えてきております。政府としては,更に確実な成果をあげるべく,引き続き本問題を内政上の最重要課題として位置づけ,新たに決定した「総合土地政策推進要綱」に基づき,土地基本法の理念を踏まえた実効ある施策の推進に努め,需給両面にわたる総合的かつ構造的な土地対策を講じてまいります。また,税制面においても,「地価税」の創設をはじめとして土地の保有,譲渡,取得の各段階にわたり総合的な見直しを行い,所要の法案を今国会に提出することとしています。このような取組により,中堅勤労者が相応の負担で一定水準の住宅を確保し得る地価水準の実現に努めてまいります。さらに,国民が豊かさを実感出来る住生活を実現するため,新たに第6期住宅建設5か年計画を策定し,良質な住宅ストックや良好な住環境の形成を計画的に図ってまいります。

国土の均衡ある発展

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 東京一極集中を是正し,多極分散型の均衡ある国土の発展を図っていくことは,土地・住宅問題の解決,豊かな国民生活の実現にも寄与する重要な課題であります。

 このため,政府としては,国の行政機関などの移転を含め,都市,産業機能の地方分散を進めるとともに,整備新幹線の計画的な建設やリニアモーターカーの実用化の推進などの交通基盤施設の充実,道路網の体系的整備や生活に密着した高度の情報・通信網の整備により,全国的な交流ネットワークの形成をすすめてまいります。

 さらに,「ふるさと創生」を契機として機運の高まってきた自らの創意と工夫を()かした地域づくりを進めることによって,地方の活性化を図り,住む人が地域に誇りを持ち得るふるさとづくりを推進してまいります。このため,これを支援するための強力な体制づくりと関連施策の充実に努めるとともに,私は,地域がその個性に応じ,活力の倍増を目指す地域づくりの推進を提唱します。また,北海道の総合開発と沖縄の振興開発に,引き続き積極的に取り組んでまいります。災害対策や地域の実態に即した国土の保全にも努めてまいります。

 首都機能移転問題については,さきに行われた国会の決議を受けて,政府においても有識者会議を発足させたところであり,国民的規模の議論を踏まえつつ検討を進めてまいります。

生活環境の整備

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 快適で住みよい地球を実現していくためには,経済活動などを通じた地球への負荷を極力少なくし,環境の保全と経済社会の安定的発展の両立を図っていくことが必要であります。そのためには,地球的規模で省資源・省エネルギー対策を推進していくとともに,廃棄物対策の強化,拡充などを図ることにより,貴重な資源を大事に使う,いわば「リサイクル社会」を構築していく必要があります。このため,現行の廃棄物処理制度を基本的に見直すとともに,生産,流通,消費の各段階において,廃棄物の減量化や再資源化など資源の効率的利用を推進してまいります。また,地球環境問題の解決についても,国際的枠組づくりへ我が国として主導的役割を果たしていくとともに,地球温暖化防止行動計画の着実な実施や地球再生計画の具体化,開発途上国への資金的,技術的支援などを総合的に推進してまいります。これらの施策を通じて,我々の社会を地球にやさしい環境保全型の社会に変革すべく努力してまいります。

 国民が,真に豊かさを実感出来る社会を建設していくためには,下水道,環境衛生,都市公園などの社会資本整備の計画的充実を図っていくことが必要不可欠であります。政府は,昨年6月,「公共投資資本計画」を策定し,向こう10年間の公共投資に関する枠組と基本的方向をとりまとめたところであり,今後は,この計画を踏まえ,快適でうるおいのある生活環境の創出に向け,国民生活の質の向上に重点を置いた社会資本整備を図ることとしています。

 流通産業が,良質な物品・サービスを低廉な価格で,かつ,消費者ニーズの多様化,高度化に対応して提供していくために,出店調整手続きの迅速性,明確性などを確保するため大規模小売店舗法の改正などを行うとともに,消費生活に密着した魅力ある商店街,商業集積づくりのための総合的対策を講じ,小売商業の育成と新しい流通構造の構築に取り組んでまいります。

農林水産業の振興

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 農林水産業は,国民生活にとって最も大切な食料の安定供給という重要な使命に加えて,地域社会の活力の維持,国土,自然環境の保全など我が国経済社会の発展と国民生活の安定に不可欠な役割を果たしています。また,農山漁村は,個性豊かな地域文化を継承し,国民が生きる喜びを再発見出来る場として,重要かつ多面的な機能を有しています。

 私は,今後の農林水産行政の推進に当たっては,確固たる長期展望の下,生産基盤の整備,先端技術の開発・普及,次代を担う意欲ある後継者の育成などを図ることにより,農林漁家の皆さんが誇りと希望を持って農林水産業を営めるような環境づくり,活力に富み明るく住みよい農山漁村づくりに努めてまいります。

 なお,我が国農業の基幹である米については,米及び稲作の格別の重要性にかんがみ,国会における決議などの趣旨を体し,国内産で自給するとの基本的方針で対処してまいります。

明るい長寿社会における福祉の充実

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 本格的な高齢化社会が迫って来つつある今日,出生率の低下,女性の社会進出など子供と家庭を取り巻く環境についても大きな変化が生じています。私は,子供から老人まで,長い人生を健康で生きがいと喜びを持って過ごすことの出来る長寿福祉社会の構築に向け,福祉政策の更なる展開を図ってまいります。

 このため,「高齢者保健福祉推進10か年戦略」を引き続き強力に推進していくとともに,老人保健制度を見直し,老人問題の中心課題の1つである介護の体制づくり,制度の長期的安定を図ってまいります。一方,子供を持ちたい人が健やかに子供を生み育てることが出来るよう,児童手当制度の充実,育児休業制度の確立など総合的視点に立って必要かつ効果的な環境条件の整備に努めてまいります。また,生涯にわたり健康を確保するため,疾病の予防や難病の克服,救急医療体制の整備など良質な医療の効率的提供,麻薬・覚醒剤対策,食品の安全性対策などを積極的に推進してまいります。障害者や母子家庭の方々にも,きめ細かな対策を講じてまいります。

教育,文化,スポーツの振興等

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 我が国は,物質的には豊かな国となっていますが,物で栄え,心で滅びる国とならないよう,知育偏重でなく個性と創造性を伸ばす教育を実現し,国民が芸術文化に親しみ自らの手で新しい文化を創造していける基盤を確立するとともに,生涯にわたる学習機会の整備やスポーツの振興に努力してまいります。また,基礎的独創的な研究をはじめ学術研究の推進,宇宙,海洋や原子力の開発利用の推進などの科学技術の振興に精力的に取り組んでまいります。同時に,これら各分野における国際交流を一層推進してまいります。

 労働時間の短縮をはじめとする労働環境の改善に積極的に取り組むことも大切な課題です。このため,政府としても,完全週休2日制の普及促進などの施策を講じてまいりますが,国民の皆さんや企業におかれても,是非ご協力いただくようお願いいたします。

 最近の治安情勢についてみますと,暴力団の対立抗争事件の多発,各種薬物乱用の深刻化,テロ・ゲリラの凶悪化など厳しさを増しております。治安の確保は法治国家の根幹であり,政府としては,安全な国民生活の確保に万全を期してまいります。また,最近の交通死亡事故の増加にかんがみ,交通安全の確保に努めてまいります。

「信頼の政治」の確立

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 国会は昨年,開設100年を迎え,新しい世紀に第1歩を踏み出しました。この記念すべき年に,私は,「信頼の政治」の確立に思いも新たに取り組んでまいります。

 私は,民主主義国家においては,政治の公正さが社会の公正さの基本であり,是非とも政治改革を実現しなければならないと考えております。そのためには,まず何よりも政治倫理を確立することが重要であります。それとともに,政治や選挙の仕組みそのものを改め,政治資金の透明性を確保し,金のかからない政党本位,政策中心の政治や選挙を実現していくことが必要であります。政府としては,選挙制度審議会答申の趣旨を十分尊重して,選挙制度や政治資金制度の改革を一体のものとして実現し,あわせて,投票価値の平等が確保されるよう不退転の決意で取り組んでまいります。出来るだけ早く成案を得,国会においてご審議いただけるよう努力してまいりますので,各党各会派のご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。

結び

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 昨年は即位の礼が挙行され,名実ともに平成日本の出発の年になりました。あらためて平和国家に徹することを誓うとともに,21世紀に向け,自由と民主主義の価値観を大切にする国家として,また,世界,とりわけアジアの一員として,平和と繁栄に責任を果たしていく決意であります。

 世界は,東西冷戦構造を乗り越え,新しい時代に着実に歩みを進めつつあり,昨年のサミットでも,今世紀最後の10年は「民主主義の10年」と(うた)われたように,自由と民主主義という価値観がより普遍的な原理となってきています。世界は,このように,真に地球は1つという時代に向かって,新しい国際秩序,枠組の形成を模索していますが,一方で,東西対立の陰で表面化しなかった対立や紛争が顕在化しつつあり,危険な状況も生まれています。このような時にこそ我が国は,責任ある自由民主主義国家として,冷戦構造克服後の新たな国際秩序の樹立に向けての努力を重ね,平和の枠組づくりを通じ,21世紀の世界の運命に責任を負っていかなければなりません。

 世界経済に多大な影響を及ぼす国家となった今日,国内では,誰もが豊かさを心から実感出来る社会を実現していく必要があります。また,芸術,文化,スポーツなどの振興により,文化の香り高い国家を築き上げていかなければなりません。これまで,我が国は,生産や供給を重視することによって,今日の産業社会をつくり上げてきましたが,その成果を維持,享受しながら,その基盤の上に立って,消費者本位,国民生活重視や内需中心の経済発展などを基本として,公正で心豊かな社会の建設に努力していこうではありませんか。

 私は,人類が,21世紀の(あけぼの)を明るい希望と期待を胸に迎えることが出来るよう,世界全体の大きな流れやその中で我が国が置かれた立場を念頭に置き,国政に全力を挙げて取り組んでまいります。

 ここに重ねて,皆さんのご理解とご協力をお願いいたします。

出典

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