第114回国会における竹下内閣総理大臣施政方針演説


演説

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 第114回通常国会の再開に当たり,内外の情勢を展望して施政の方針を明らかにし,国民の皆様のご理解とご協力をお願いしたいと存じます。

昭和から平成へ

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 まず最初に,昭和天皇の崩御に対し,衷心より哀悼の意を表する次第であります。

 私たちは,この悲しみを乗り越え,心と力を合わせて,国運の一層の進展と世界の平和,人類福祉の増進に努め,新しい平成時代を築いて行かなければなりません。

 「平成」には,その名の示すごとく,平和が我が国の内外に達成されることを願う意味が込められております。私は,人類が希求する平和を恒久的に確保し,かけがえのない美しい地球を守り,育て,後世にのこしていくことこそ,新しい時代に生きる私たちに与えられた最大の使命であると確信いたしております。

 顧みれば,昭和の時代は,世界的な大恐慌に始まり,悲しむべき大戦の惨禍,混乱と窮乏極まりない廃(きょ)からの復興と真の独立,比類なき経済成長と国際国家への発展に至る正に激動の時代でありました。これらの時代を通じ,我が国は,多くの困難と試練に遭遇したわけでありますが,これを克服し,今や経済的な繁栄を達成するとともに,平和を目指す国家として国際社会の中で名誉ある地位を占めるに至りました。私は,今日の豊かな日本を建設された国民の努力と英知に改めて深い敬意と感謝の意を表し,さらに新しい時代への力強い前進を決意する次第であります。

 また,戦後の我が国の繁栄は,米国を中心とする自由主義諸国の努力と協調に支えられた国際秩序に大きく負っていたことを忘れてはなりません。今日,国境という枠を超えて活動と交流が深まり,国と国の相互依存や多極化の傾向が強まる中で,国際秩序の担い手として,我が国が果たすべき責務はかつてないほど大きなものとなっております。人類と地球の未来のために,米国や欧州,アジア諸国を始め多くの国と力を合わせ世界の平和と繁栄を支えていくとともに,一層主体的に世界の期待と要請にこたえていかなければならない時代を迎えていることも確かであります。

 私は,この度米国を訪問し,就任直後のブッシュ米大統領と会談して,忌(たん)のない意見の交換を行ってまいりました。私たちは,固い友情と相互の信頼を確認するとともに,今後とも,日米両国が協力し合うことにより,地球的な視野に立って各々の責任を果たし,世界に貢献していくことを誓い合った次第であります。

 平成時代を迎えて,私たちは,これまで以上に斬新な発想とたくましい気力をもって,活力に満ち,しかも文化豊かな国づくり,世界に開かれた国づくりを着実に進めて行くべきだと存じます。日本には,長い歴史と伝統があります。これを誤りなく継承しつつ,しかも必要に応じて時代に先駆けた挑戦を繰り返すことにより,時には痛みを分かち合いながら,人類共通の願いにこたえることこそ,私たちにとって大事な課題ではないでしょうか。

 時代の転換点ともいうべき今,もう一度初心に立ち返り,来るべき時代への洞察と未来を切りひらく勇気ある実践が,強く私たちに求められていることをひしひしと感じてなりません。

 来る2月24日に昭和天皇の大喪の礼を挙行することとしておりますが,国民の代表や世界の国々から弔問のため来日される多くの首脳や要人を迎えて,厳粛にしかも滞りなく執り行うよう万全の準備を進めてまいります。

政治改革の断行

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 今日,リクルート問題等を契機として国民の間に政治に対する不信が広がっております。このことは,我が国の議会制民主主義にとって,極めて憂慮される事態であると認識いたしております。

 政治改革は,竹下内閣にとって最優先の課題であります。私は,各方面からの厳しいご批判を真剣に受け止め,皆様と力を合わせて,必ずや政治への信頼の回復を成し遂げなければならないと固く心に誓っている次第であります。

 政治は,それを動かす精神や文化を抜きにしては考えられず,また,政治倫理については,第一義的には政治にかかわる者一人一人のモラルに帰着する問題であることも確かだと思います。私を始め政治に責任を負う立場にある者は,率先して自粛自戒し,自らの姿勢を正すことが求められております。私は,政治家自らが自己改革し,衆・参両院で決められた政治倫理綱領を守り,国会の自浄能力を高めるための環境づくりを急ぐことによって,国民の負託にこたえていくしか道はないと思うのであります。

 このため,政治資金における公私の区別の明確化と透明性の確保を図り,金のかからない政治活動を確立するとともに,さらにその基礎をなす選挙そのもののあり方についても検討を進め,思いきった改革をしなければなりません。

 このような考えの下に,当面の問題だけでなく中・長期的な課題を含め,多方面の方々からご意見やご提言をいただくこととし,先般,有識者による政治改革に関する会議の場を設けました。これらの改革は,政府のみにて達成できるものではなく,国会,各党各会派の皆様のご理解とご努力によって初めて成し遂げられるものであります。私は,自らのすべてをかけて,皆様とともに,その実現に取り組む決意であります。

 また,全体の奉仕者である公務員についても,その職務を行うに当たって,いやしくも疑惑を招くことのないよう一段と綱紀の粛正を図ってまいる所存であります。

「ふるさと創生」の実現

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 私は,もう一つの大きな目標として「ふるさと創生」を国づくりのテーマに,いよいよその具体化に向かって前進してまいる所存であります。これからの我が国に必要なことは,その経済的豊かさにふさわしい日本を築いていくことにあると考えております。

 私はかねてより「ふるさと創生」を唱えてまいりましたが,それは,日本人一人一人が自らの住む地域を「ふるさと」と感じることができるような,充実した生活と活動の基盤をつくり,真の豊かさを目指すものであります。同時に,一層開かれた社会を築きあげ,世界の人々に敬愛される日本を創造していくことにほかなりません。

 豊かな自然や住みよい都市環境,地域における人と人との心の通い合い,住民の創意工夫をいかした町づくり,村づくり,地域づくりを進め,そして何よりも家族の団らん,あたたかい家庭を大切にしながら,国内はもとより,世界と交流し貢献していくという新しい社会をダイナミックに創造いたしたいと存じます。

 このように「ふるさと創生」には,輝かしい未来をつくる夢とロマンがあります。しかし,自主的で地道な努力の積み重ねと忍耐強い継続なしにはこれを実現することはできません。多くの人々が「ふるさと創生」という一つの大きな目標に向かって知恵や努力を結集していけば,やがて壮大な運動となり,心豊かな人々によって更に素晴らしい日本,美しい地球がつくられていくことを,私は大いに期待しているところであります。

 以上の考え方に立って,国政の各分野にわたり,基本的な方針を申し述べたいと存じます。

外交施策

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 最近の国際情勢には,新たな潮流がみられます。特にソ連の対外姿勢の変化を背景に,米ソ間の対話を始め中ソ関係正常化の進展,世界各地の地域紛争における解決への具体的努力などがみられ,今後の展開が注目されます。このような変化はいまだ緒についたばかりであり,楽観は許されませんが,歓迎すべき変化については,これを定着,発展させるため,我が国としても,新たな創意をもち,体制を整備しつつ,積極的な外交を展開していくことが必要であります。

 国際社会において相互依存関係が深まる中で,我が国は経済のみならず国際関係全般にわたって,これまでにない大きな責任と役割を有しております。私は,政権を担当して以来,「世界に貢献する日本」の推進を最重要課題としてまいりました。今後とも平和憲法の下,他国に脅威を与えるような軍事大国にはならないという不変の方針を堅持し,世界の平和と繁栄のため最善を尽くす決意であります。

 我が国が国際的貢献を果たすに当たっては,まず自国の平和と安全を守る努力がその前提となります。私は,日米安全保障体制を堅持し,その円滑かつ効果的運用を図り,また非核三原則と文民統制を確保しつつ,中期防衛力整備計画に従い,節度ある防衛力の整備に努めてまいります。なお,平成3年度以降の防衛力整備については,現行のような中期的な計画を策定する必要があると考えており,今後検討を進めてまいります。

 また,世界有数の経済規模を有する我が国には,世界経済の持続的成長のため,更に多くの努力が求められていることも確かであります。主要先進国との政策協調を促進し,為替レートの安定を図りつつ,内需主導型の経済構造を定着させ,規制緩和を含む構造調整を一段と推進するとともに,輸入の拡大,市場アクセスの一層の改善に努めていかなければなりません。さらに,多角的自由貿易体制の維持・強化を目的としたウルグァイ・ラウンドの交渉についても,最大限の努力を行ってまいります。特に,農産物貿易については,食料の安全保障等に十分に配慮しつつ,交渉の進展に向けて積極的に対応していきたいと存じます。

 世界の平和と繁栄に一層貢献していくため,私は,昨年,平和のための協力,政府開発援助(ODA)の拡充,国際文化交流の強化を三つの柱とする「国際協力構想」を打ち出しましたが,今年は,この三本柱の一層の具体化を図りたいと存じます。

 まず,「平和のための協力」では,国連の平和維持活動に対する各国の期待の高まりにこたえて,資金面での協力はもちろんのこと,要員派遣についても我が国にふさわしい分野において強化し,そのための体制の整備に努めてまいります。先の訪米の機会にデ・クエヤル国連事務総長と会談した際,私はこの「平和のための協力」について説明し,賛同を得たほか,昨年私が提唱した核実験検証を含む核軍縮問題に関する国連会議を,本年4月京都で開くことについても合意したところであります。

 また,本年は,アフガン難民の支援を強化するほか,4月開始予定の国連のナミビア独立支援活動に対し,資金面並びに選挙監視等の要員派遣面での協力を行ってまいります。カンボディア問題においても,国際的な枠組みの中での紛争解決とその後の復興に向け,積極的に協力していく考えであります。

 次に,「ODAの拡充」では,昨年策定した第4次中期目標の着実な達成に向け努力するとともに,一層効果的,効率的な援助の実施に努めてまいります。このような努力に加え,開発途上国の累積債務問題が,世界経済の発展のためにも克服しなければならない問題であることにかんがみ,資金還流などを図り,その解決に向け積極的に取り組まなければならないと思います。

 そして,「国際文化交流の強化」では,海外での対日関心の急激な増大に対応していくとともに,留学生・研究者などを含む人的・知的交流等を進め,また人類共通の財産としての世界の諸文化の維持・発展に寄与していくことといたしております。さらに,地方においても様々なレベルでの海外との交流を推進するなど,草の根外交や地方の国際化のための施策を強化してまいりたいと存じます。

 青く美しい地球は,人類共通のふるさとであります。これを末永く後の世にのこすことは私たちの責務であり,人類の英知を結集していかなければならない課題であります。そのため,地球温暖化を始めとする地球規模での環境問題の解決に積極的に取り組む考えであり,国連及び各国との協力の下,本年秋には,地球環境保全に関する国際会議を東京で開催する予定であります。また,地震などの自然災害や麻薬問題など国境を越える課題に対しても,引き続き国際協力を進めていきたいと存じます。

 我が国が,積極的な外交を推進するに当たっての基本的な立場は,先進民主主義諸国の主要な一員として西側諸国との協調を図りつつ,アジア・太平洋地域の一国としてその地域の安定と発展に貢献していくことであります。

 特に,東西関係を始めとする国際情勢が一層好ましい展開を示すように日米欧を中心とする西側諸国相互間の連帯と協調が重要であります。私は,本年7月フランスで開催される主要国首脳会議などの国際的な場において,世界が直面する諸問題の解決に向け日米欧の協力関係を更に強化してまいる所存であります。

 中でも,日米関係は我が国外交の基軸であります。私とブッシュ大統領は,今後とも二国間の課題を静かな対話と地道な努力を通じて解決していくとともに,両国が相携えて世界の平和と繁栄のために貢献すべく,政策協調と共同作業を一層進めることを確認したところであります。

 また,西欧諸国との関係強化も重要であります。昨年の2度にわたる訪問を踏まえ,西欧諸国の首脳との信頼関係を一層強固なものとすることにより,世界的視野に立った協力を強化してまいります。

 ソ連との関係では,最近の2度にわたる外相会談で,日ソ間に横たわる諸問題や緊要な国際問題について率直な意見交換が行われました。我が国としては,北方領土問題を解決して平和条約を締結することにより,真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することが一貫した方針であります。ゴルバチョフ書記長の「新しい思考」に基づく政策転換が対日関係に反映されることを期待しつつ,昨年12月の外相会談で合意された最高首脳レベルをも含む対話の拡大・強化を通じ,更に粘り強い外交努力を続ける所存であります。

 アジア・太平洋近隣諸国との関係を強化し,発展させることは極めて枢要であります。中でも民主化の進む韓国との友好協力関係を一層発展させるとともに,朝鮮半島の緊張緩和のための環境づくりに努力し,また近代化を目指して力を尽くしている中国との間に良好で安定した関係を維持,発展させることは,我が国外交の重要な柱であります。さらに,私は朝鮮半島をめぐる動きを注視しつつ,日朝関係の改善に努力いたします。またASEAN諸国や太洋州諸国等との関係強化に意欲をもって取り組んでまいります。

 このほか,外交の幅を地域的にも広げることを目指して,中南米,インド亜大陸,中近東,アフリカなどの地域との間で,首脳レベルの交流を精力的に展開し,関係強化を図ってまいりたいと考えております。

税制改革の円滑な実施

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 先の国会において,税制改革関連六法が成立し,長年の課題であった税制改革が実現いたしました。私は,この改革が,我が国経済社会の活力を維持し,豊かな長寿・福祉社会をつくる礎となるものと確信いたしております。国会における審議や辻立ちを通じて,国民の間に消費税の導入について種々の懸念や不安があることは,十分承知いたしております。それを解消し,新しい税制に対する国民の信頼を得るためには,この制度を円滑に実施に移していくことが不可欠であり,最大限の努力をしてまいりたいと決意いたしております。

 政府としては,先般,新税制実施円滑化推進本部を設けたところでありますが,今後とも私自ら陣頭に立って,新税制について理解を得るための広報や相談等を積極的に実施し,また,消費税が円滑かつ適正に転嫁されるようきめ細かな対策をとるとともに,便乗値上げの防止にも配慮してまいります。消費税が実施に移され,身近なものとなれば,必ずや大幅減税とあわせて,税制を改革して良かったと感じていただけるようになるものと確信いたしております。いわゆる税率の歯止めについては,竹下内閣として税率の引上げを提案いたす考えのないことを明言いたします。

行財政改革の推進

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 行財政改革と税制改革は日本が新しい時代に向かって歩むために,ともに必要なものであり,私は,「車の両輪」に例えられると思っております。税制改革が実現し,その円滑な実施が求められている今日,行財政が効率的に運営されることは,一層重要であります。平成元年度予算においては,歳出の徹底した合理化に取り組み,平成2年度に特例公債依存体質から脱却するという目標に向け前進するとともに,平成元年度に実施する事項を中心に行政改革の方針をとりまとめたところであります。多額の公債残高を抱えるなど行財政をめぐる厳しい状況を踏まえ,これからも,行政の各面にわたり制度や歳出を見直し,手綱を緩めることなく行財政改革を進めてまいる決意であります。

 また,地方財政については,今回の補助率などの見直しに際し,所要の措置を講ずるなど,その円滑な運営を期することといたしております。

 国土の均衡ある発展と地方の活性化のため,国・地方にわたる行政改革を行い,真の意味での自主的,自立的な地方自治の体制を築きあげることがいま強く求められております。昨年12月臨時行政改革推進審議会に対し,国と地方の行政の役割や機能分担,費用負担など幅広い問題について,掘り下げた検討をお願いしたところでありますが,その答申をまって改革に一層積極的に取り組む所存であります。

新しい「ふるさと」づくり

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 全国各地には,それぞれの個性があります。新しい「ふるさと」づくりは,自らの地域に根付いた歴史,伝統,文化や産業を見直し,その中から地域の特性を引き出し,大きく伸ばし育てることに尽きます。

 そのためには,これまでの発想を転換して,地域が自主性と責任をもって,各々の知恵と情熱をいかし,小さな村も大きな町もこぞって,地域づくりを自ら考え,自ら実践していくことが極めて重要であります。この自立の精神により,私は,誇りと活力に満ち,しかも文化の香り豊かな「ふるさと」を築くことができると信じております。各地域で青写真をつくり,人間味あふれた「ふるさと像」を描いて,その実現に向けて努力していただきたいと思います。政府におきましては,全国各地で動きのみられる自主的,主体的な村づくり,町づくりにおこたえすることができるよう,地域の活性化の具体化に向けて積極的な支援を図ってまいります。

 一方,東京への過度な集中や依存から脱却し,多極分散型の均衡ある国土づくりを強力に推進いたします。このため,第4次全国総合開発計画に基づき,ふるさとづくりの基盤となる都市・産業機能などの地方分散,地域の振興拠点の開発整備及び大都市地域の秩序ある整備を図るとともに,高規格幹線道路,空港,整備新幹線などの交通網及び情報・通信体系の整備やイベント開催などソフト面の施策の充実による交流ネットワーク構想を進めてまいります。さらに,今後とも国の行政機関等の移転の推進に全力を挙げて取り組んでまいります。

 また,北海道の総合開発と沖縄の振興開発のための諸施策を引き続き積極的に推進していくことはもとよりであります。平成2年に開催される「国際花と緑の博覧会」については,その成功に向けて諸般の準備を進めているところであります。

 いまや土地問題は,早急にその解決を図らなければなりません。東京圏では地価の鎮静化傾向がみられるものの,依然として高水準で推移する一方,大阪圏などにおいても地価上昇がみられ,引き続き地価の抑制に努めていく必要があります。政府一体となって,需給両面にわたる土地対策を強力に推進するとともに,土地の公共性についての共通の国民意識を確立していくことが必要であり,本国会に土地基本法案を提出いたしたいと存じます。

明るく活力に満ちた長寿・福祉社会の建設

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 我が国は,いまや世界最長寿国となり,正に人生80年時代を迎えております。4人に1人が65歳以上という本格的な長寿社会の到来を間近に控え,高齢者が社会を支える重要な一員として,その豊かな経験や知恵をいかせるよう,雇用,社会保障を始め,経済・社会のシステム全体をこれからの時代にふさわしいものとしていく必要があります。

 このため,各人が生涯を通じて,その能力や創造性を発揮できるよう65歳程度までの継続雇用を始め,多様な就業機会の確保,社会への参加を促進し,その条件整備を図りつつ,公的年金を中心とした老後所得の確保に意を用いたいと存じます。

 国民の誰もが,長い人生の中で,家族とつながりをもち,長生きをしてよかったと感じられることが長寿・福祉社会の目指すところであります。この目標の下に,生涯を通じた健康づくりを一層推進し,地域における保健・医療・福祉サービスの総合的展開を図り,在宅サービスの拡充を中心とする一方で,老人保健施設等の施設サービスの拡充に努めてまいります。また,高齢者を含む三世代が生き生きと生活できる住みよい街づくりを進めていきたいと考えております。

 国民の生活を支える公的年金については,給付の改善を行うとともに,厚生年金について,世代間の給付と負担の均衡を確保するため,平成10年度から支給開始年齢を段階的に引き上げ,さらに,制度の一元化に向けて被用者年金制度間の負担調整を実施することをお願いしたいと存じます。医療保険についても,制度間の給付と負担の公平化等の改革に取り組みたいと思います。

 寝たきり老人や障害者,母子家庭など経済的,社会的に弱い立場にある方々へのきめ細かな配慮を行うことはもちろんであります。このほか,長寿を支える科学技術研究の推進や,がん対策,エイズ対策を始め難病の克服に全力を尽くしてまいります。

教育改革の推進

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 教育は,我が国が創造的で活力ある文化国家として発展し,世界に貢献していく基礎を築くものであり,このため教育改革に全力で取り組んでまいらなければなりません。私は,日本人としての自覚に立って,国際社会の中でたくましく活動できる個性豊かな青少年を育成するため,道徳教育の充実など教育内容の改善,教員の資質の向上,高等教育の個性化,活性化等を積極的に推進するとともに,国民の様々な学習意欲にこたえる生涯学習社会を築くことが必要であると確信いたしております。さらに,国民の文化・スポーツに対する関心の高まりにこたえるため,文化施設の整備,生涯スポーツ,競技スポーツの振興を図ってまいります。

豊かな経済社会の実現

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 豊かで多様な国民生活の実現,国際社会への貢献,地域社会の均衡ある発展などの課題に取り組み,未来をひらくためには,我が国経済社会の発展基盤を確かなものとしておくことが必要であります。我が国経済は,堅調な拡大局面にありますが,インフレなき持続的経済成長と対外不均衡の一層の是正を図るため,引き続き適切かつ機動的な経済運営に努めるとともに,新しい経済計画「世界とともに生きる日本」にそって経済構造調整を進め,内需主導型経済構造への転換と定着を実現してまいります。

 他方,我が国経済社会が成熟しつつある今日,高い経済力を国民一人一人の生活にいかすことによって,真に豊かさが実感できる社会を築きあげることが急務であると存じます。

 国民の多様化したニーズに対応して供給構造を変革し,国際的に均衡のとれた物価水準を確保して消費生活の充実を実現してまいらなければなりません。しかも,民間の活力や創意をいかすことを基本に,生産・流通・サービス機能や価格形成に係わる規制の緩和,制度等の改善を積極的に進めていくことが肝要であると考えております。このため,昨年12月には,規制緩和推進要綱を決定したところであり,その着実な実行を図ってまいります。

 農業については,内外の厳しい状況に対応して足腰の強い,産業として自立しうる農業を確立するとともに,生産性の向上を図り,国民の皆様の納得を得られる価格水準で食料の安定供給が行われることが重要であります。活力ある地域社会の維持,国土・自然環境の保全,さらには生きがいの充足など農業の持つ多面的な役割も重視していかなければなりません。これらの観点から,農業の長期展望の確立,構造の改善,農山漁村の活性化などの施策を一層強力に推進してまいります。また,牛肉・かんきつ等については,必要な国内措置の実施に万全を期す考えであります。

 厳しい環境変化に直面している中小企業については,健全な発展が可能となり,地域経済の活性化に資するよう,構造転換対策等を強力に実施してまいります。また,資源・エネルギーの安定供給の確保に努めてまいります。

 完全週休2日制の普及など労働時間の短縮は,我が国全体として取り組むべき課題であります。広く労使との対話を深め,地域雇用開発の推進,健康で豊かな勤労者生活の実現などに努めてまいります。

 今日,国民生活にゆとりと潤いが求められており,このため住み良い住宅供給の促進,安全で良好な居住環境,都市環境の形成など相対的に遅れている社会資本の整備,生活面での情報化,大規模地震対策,十勝岳などにおける防災対策,水資源対策など多面的な対策を講ずるとともに,地方の芸術,伝統産業,スポーツの振興など特色ある地方文化の創造を図ってまいります。また,社会資本整備を円滑に進めるため,大深度地下の利用について検討を行うとともに,リニア・モーターカーなど新しい交通システムの実用化に向けて研究を進めてまいります。

 さらに,国民の安全をおびやかすテロ・ゲリラ事件等の犯罪や事故の防止に力を尽くしてまいります。

 時代を切りひらく鍵の一つは,学術研究及び科学技術の振興であります。創造的,基礎的な研究開発を総合的に進めるとともに,ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラムの推進などの国際交流を促進いたします。

結び

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 私たちは,過去と未来をつなぐ今を生きながら大きな使命を担っております。世代から世代へ先人の意志を引き継ぎ,力を合わせて,新しい文明を創造していくこと,それこそが時代の大きな節目を越えようとしている私たちに課せられた命題にほかなりません。もとより,争いや対立に進歩はなく,この地上から過度の競争や相互不信を取り除く賢明で地道な努力が必要であります。私は,調和と信頼,そして尊い命やかけがえのない自然を大切にする心やさしい政治を勇敢に実行することによって,いかなる困難も克服することができると確信し,ひたすら歩き続けてまいります。

 何事かを為さんとする時,あらゆることが忍耐によって成し遂げられるということは,洋の東西を問わず人々を導く指針であります。いつの時代にあっても,謙虚にしかも誠実に,学びつつ実践し,反省しつつ前進する心構えを忘れてはならないと思うのであります。

 私たちが進む道の遠く険しきを思い,私は自らに与えられた責任の重さを改めて痛感いたしております。これから後も,一日一日の歩みを怠ることなく,不動の信念を貫き,平和で豊かな世界と日本を築くため,全力を尽くす決意であります。

 国民の皆様の一層のご理解とご協力を切望する次第であります。

出典

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