第三次桂内閣に対する内閣不信任上奏決議案提出及び趣旨説明
原文(異体字使用)
編集○尾崎行雄君 議長ノ御手許ニ差シ出シテアリマス、決議案ニ付キマシテ、一應此際日程ヲ變更ノ上、議ニ付セラレンコトヲ望ミマス(拍手起ル)
○議長〔大岡育造君〕 唯今、尾崎君ノ日程變更の議ヲ御諮リ申シマス前ニ、更ニ御尋ヲシテ置キマス、質問ハ大分御聯名ガアリマスケレドモ、今キタモノト見テ宜シウゴザイマスカ
(「宜シイ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 御異議ナイト認メマス、尾崎君ヨリ日程ヲ變更シテ決議案ヲ說明スルト云フ、緊急動議ガ出マシタ、御異議ハアリマセンカ
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 御異議ガナケレバ日程ハ直ニ變更セラレテ決議案ノ討議ニ移リマス、尙一應朗讀サセマス
―――――――――――――
決議案
〔書記朗讀〕
- 決議案
- 內閣總理大臣公爵桂太郞ハ大命ヲ拜スルニ當リ屢ゝ聖敕ヲ煩シ宮中府中ノ別ヲ紊リ官權ヲ私シテ黨興ヲ募リ又帝國議會ノ開會ニ際シ濫ニ停會ヲ行ヒ又大正二年一月二十一日本院ニ提出シタル質問ニ對シ至誠其責ヲ重スルノ意ヲ昭ニセス是レ皆立憲ノ本義ニ背キ累ヲ大政ノ進路ニ及ホスモノニシテ上皇室ノ尊嚴ヲ保チ下國民ノ福祉ヲ進ムル所以ニ非ス本院ハ此如キ內閣ヲ信認スルヲ得ス仍テ慈ニ之ヲ決議ス
(拍手起ル)
○議長〔大岡育造君〕 尾崎行雄君
〔尾崎行雄君登壇〕
○尾崎行雄君 本員等ノ提出致シマシタル決議案ハ、唯今桂總理大臣ノ答辨ニ照シ、尙其前後ノ舉動ニ鑑ミテ、此決議案ヲ出スルノ已ムベカラザルコトヲ認メテ提出シマシタ繹デアリマス、其論點タルヤ、第一ハ身內府ニ在リ、內大臣兼侍從長ノ職ヲ辱ウシテ居リナガラ總理大臣トナルに當ッテモ、優詔ヲ拜シ、又其後モ海軍大臣ノ留任等ニ付テモ、頻ニ優詔ヲ煩シ奉リタルト云フコトハ宮中府中ノ區別ヲ紊ルト云フノガ、非難ノ第一點デアリマスル、唯今枝公爵ノ答辨ニ依リマスレバ、自分ノ拜シ奉ッタノハ敕語ニシテ、詔敕デハナイガ如キ意味ヲ述ベラレマシタガ、敕語モ亦詔敕ノ一デアル(「ヒヤゝ」)、而シテ我帝國憲法ハ總テノ詔敕 ― 國務ニ關スルトコロノ 詔敕ハ必ズヤ國務大臣ノ副署ヲ要セザルベカラザルコトヲ特筆大書シテアッテ、敕語ト云ハウトモ、敕諭ト云ハウトモ、何ト云ハウトモ、其閒ニ於テ區別ハナイノデアリマス、(「ノウゝ」「誤解々々」ト呼フ者アリ)若シ然ラズト云フナラバ、國務ニ關スルトコロノ敕語ニ若シ過チアッタナラバ、其責任ハ何人が之ヲ負ウノデアルカ(「ヒヤゝ」拍手起ル)、畏多クモ天皇陛下直接ノ御責任ニ當タラセラレナケレバナラヌコトニナルデハナイカ、故ニ之ヲ立憲ノ大義ニ照シ(「敕語ニ過チガアルトハ何ダ」ト呼フ者アリ)、立憲ノ大義ヲ辨ヘザル者ハ默シテ居ルベシ、敕語デアラウトモ、何デアラウトモ、凡ソ人閒ノ爲ストコロノモノニ過チノナイト云フコトハ言ヘナイノデアル(拍手起ル)、是ニ於テ憲法ハ託送チノナキコトヲ保證スルガタメニ(「敕語ニ過チトハ何ノコトダ、取消セゝ」ト呼フ者アリ、議場騷然)憲法ヲ調ベテ見ヨ(「不敬ダゝ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 討論中デアリマス、御意見ガアレバ逐次登壇シテ御述ベナサイ、斯ル大切ナル問題ヲ議スルニ逸ラニ騷擾スルガ如キハ甚ダ取ラザルトコロデアリマス
(「ヒヤゝ」「議長注意ヲ與ヘヨ、不敬デアル」ト云フ者アリ)
○尾崎行雄君 我憲法ノ精神ナルモノハ・・・
(「議長注意シナサイ」ト呼フ者アリ)
○尾崎行雄君 我憲法ノ精神ハ 天皇ヲ神 聖侵スベカラザルノ地位ニ置カンガタメニ總テノ詔敕ニ對シテハ、國務大臣ヲシテ其責任ヲ負ハセルノデアル、然ラズンバ・・・
(「天皇ハ神聖ナリ」「退場ヲ命ズベシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 靜ニナサイ
(「取消ヲ命ゼヨ」「何ダ、不敬ナ言葉ヲ使ッテ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 討論ガ憲法論デアル閒ハ本院ニ於ケル討論ハ議員ノ自由デアリマス
○尾崎行雄君 御聽キナサイ、御聽キナサイ、總テ天皇ハ神聖ニシテ侵スベカラズト云フ大義ハ國務大臣ガ其責ニ任ズルカラ出デ來ルデアリス(拍手起ル)然ルニ桂侯爵ハ內府ニ入ルニ當ッテモ、聖意巳ムヲ得ヌト辨明スル、如何ニモ斯クノ如クナレバ桂總理大臣ハ責任ガ無キガ如ク思ヘルケレドモ、卻テ天皇陛下ニ責任ノ歸スルヲ奈何セン(拍手起ル)凡ソ臣子ノ分トシテ己レノ責任ヲ免ガレンガタメニ、責ヲ外ニ歸スルト云フガ如キハ、本員等ハ斷ジテ臣子ノ分ニアラズト信ズル(拍手起ル)(「西園寺侯爵ハドウダ」「閒違ッテ居ル」ト呼フ者アリ)殊ニ唯今ノ辨明ニ依レバ敕語ハ總テ責任ナシト云フ、敕語ト詔敕トハ違フト云イフガ如キハ、彼等一輩ノ曲學阿世ノ徒ノ、憲法論ニ於テ、此ノ如キコトガアルカモ知レナイガ、天下通有ノ大義ニ於テ其ヤウナコトハ許サヌノデアル(拍手起ル)彼等ガ動モスレバ、引イテ以テ己ノ曲說ヲ辨護セントスルトコロノ獨逸ノ實例ヲ見ヨ、獨逸皇帝ガ屢ゝ四方ニ幸シテ演說ヲ遊バサレル、其中ニハ顱ル物議ヲ惹起スルトコロノモノガアル、天下騷然タルニ至ッテ總理大臣ノ主トシテ仰グトコロノ「ピユーロー」公爵ハ、總テノ陛下ノ演說ニ對シテ拙者其責ニ任ズルト云フコトヲ天下ニ公言シテ居ルデハナイカ、(拍手起ル)演說ニ對シテスラ總理大臣タルモノハ、總テ責任ヲ負フ、況ンヤ敕語ニ對シテ責任ヲ負ハヌト云フガ如キハ、立憲ノ大義ヲ辨識セザル甚シキモノ云ハナケレバナラヌ、(拍手起ル)殊ニ桂公爵ガ未ダ內閣ヲ組織セザル以前、身內府ニ入ッタトキニ、天下ノ物情如何ニアッタカト云フコトハ、公爵自ラ之ヲ知ラナケレバナラヌ、惟フニ、公爵ノ邸ニハ唯纔ニ其道ヲ踏マズシテ內府ニ入リ恰モ新帝ヲ擁シテ、天下ニ號令セントスルガ如キ位地ヲ取ッタガタメニ幾通ノ脅迫狀、幾通ノ地ヲ以テ認メタルトコロノ書面ガ參ッタデアラウ、此一事ヲ以テ見テモ、天下ノ形勢何處ニアルカト云フコトハ畧ゝ承知致サナクテハナラヌ、彼等ハ常ニ口ヲ開ケバ直ニ忠愛ヲ唱ヘ、恰モ忠君愛國ハ自分ノ一手專賣ノ如ク唱ヘテアリマスルガ、其爲ストコロヲ見レバ、常ニ玉座ノ陰ニ隱レテ、政敵ヲ狙擊スルガ如キ舉動ヲ執ッテ居ルノデアル、(拍手起ル)彼等ハ玉座ヲ以テ胸壁トナシ、詔敕ヲ以テ彈丸ニ代ヘテ政敵ヲ倒サントスルモノデハナイカ、此ノ如キコトヲスレバコソ、身既ニ內府ニ入ッテ、未ダ何ヲモ爲サザルニ當リテ、既ニ天下ノ物情騷然トシテナカゝ靜マラナイ、況ンヤ其人常侍輔弼ノ性格-其人ノ性格トシテ一默ダモ、常侍輔弼ト云フ
(以下略)
JIS X 0208版
編集○尾崎行雄君 議長ノ御手許ニ差シ出シテアリマス、決議案ニ付キマシテ、一應此際日程ヲ変更ノ上、議ニ付セラレンコトヲ望ミマス(拍手起ル)
○議長〔大岡育造君〕 唯今、尾崎君ノ日程變更の議ヲ御諮リ申シマス前ニ、更ニ御尋ヲシテ置キマス、質問ハ大分御聯名ガアリマスケレドモ、今キタモノト見テ宜シウゴザイマスカ
(「宜シイ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 御異議ナイト認メマス、尾崎君ヨリ日程ヲ變更シテ決議案ヲ説明スルト云フ、緊急動議ガ出マシタ、御異議ハアリマセンカ
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 御異議ガナケレバ日程ハ直ニ変更セラレテ決議案ノ討議ニ移リマス、尚一應朗読サセマス
―――――――――――――
決議案
〔書記朗讀〕
- 決議案
- 内閣總理大臣公爵桂太郎ハ大命ヲ拝スルニ當リ屡ゝ聖勅ヲ煩シ宮中府中ノ別ヲ紊リ官權ヲ私シテ黨興ヲ募リ又帝國議會ノ開會ニ際シ濫ニ停会ヲ行ヒ又大正二年一月二十一日本院ニ提出シタル質問ニ對シ至誠其責ヲ重スルノ意ヲ昭ニセス是レ皆立憲ノ本義ニ背キ累ヲ大政ノ進路ニ及ホスモノニシテ上皇室ノ尊厳ヲ保チ下国民ノ福祉ヲ進ムル所以ニ非ス本院ハ此如キ内閣ヲ信認スルヲ得ス仍テ慈ニ之ヲ決議ス
(拍手起ル)
○議長〔大岡育造君〕 尾崎行雄君
〔尾崎行雄君登壇〕
○尾崎行雄君 本員等ノ提出致シマシタル決議案ハ、唯今桂總理大臣ノ答辯ニ照シ、尚其前後ノ舉動ニ鑑ミテ、此決議案ヲ出スルノ已ムベカラザルコトヲ認メテ提出シマシタ繹デアリマス、其論点タルヤ、第一ハ身内府ニ在リ、内大臣兼侍従長ノ職ヲ辱ウシテ居リナガラ總理大臣トナルに當ッテモ、優詔ヲ拝シ、又其後モ海軍大臣ノ留任等ニ付テモ、頻ニ優詔ヲ煩シ奉リタルト云フコトハ宮中府中ノ區別ヲ紊ルト云フノガ、非難ノ第一点デアリマスル、唯今枝公爵ノ答辯ニ依リマスレバ、自分ノ拝シ奉ッタノハ勅語ニシテ、詔勅デハナイガ如キ意味ヲ述ベラレマシタガ、勅語モ亦詔勅ノ一デアル(「ヒヤゝ」)、而シテ我帝國憲法ハ總テノ詔勅 ― 國務ニ関スルトコロノ 詔勅ハ必ズヤ國務大臣ノ副署ヲ要セザルベカラザルコトヲ特筆大書シテアッテ、勅語ト云ハウトモ、勅諭ト云ハウトモ、何ト云ハウトモ、其間ニ於テ區別ハナイノデアリマス、(「ノウゝ」「誤解々々」ト呼フ者アリ)若シ然ラズト云フナラバ、国務ニ関スルトコロノ勅語ニ若シ過チアッタナラバ、其責任ハ何人が之ヲ負ウノデアルカ(「ヒヤゝ」拍手起ル)、畏多クモ天皇陛下直接ノ御責任ニ当タラセラレナケレバナラヌコトニナルデハナイカ、故ニ之ヲ立憲ノ大義ニ照シ(「勅語ニ過チガアルトハ何ダ」ト呼フ者アリ)、立憲ノ大義ヲ辨ヘザル者ハ黙シテ居ルベシ、勅語デアラウトモ、何デアラウトモ、凡ソ人間ノ為ストコロノモノニ過チノナイト云フコトハ言ヘナイノデアル(拍手起ル)、是ニ於テ憲法ハ託送チノナキコトヲ保証スルガタメニ(「勅語ニ過チトハ何ノコトダ、取消セゝ」ト呼フ者アリ、議場騒然)憲法ヲ調ベテ見ヨ(「不敬ダゝ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 討論中デアリマス、御意見ガアレバ逐次登壇シテ御述ベナサイ、斯ル大切ナル問題ヲ議スルニ逸ラニ騒擾スルガ如キハ甚ダ取ラザルトコロデアリマス
(「ヒヤゝ」「議長注意ヲ与ヘヨ、不敬デアル」ト云フ者アリ)
○尾崎行雄君 我憲法ノ精神ナルモノハ・・・
(「議長注意シナサイ」ト呼フ者アリ)
○尾崎行雄君 我憲法ノ精神ハ 天皇ヲ神聖侵スベカラザルノ地位ニ置カンガタメニ總テノ詔勅ニ對シテハ、國務大臣ヲシテ其責任ヲ負ハセルノデアル、然ラズンバ・・・
(「天皇ハ神聖ナリ」「退場ヲ命ズベシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 静ニナサイ
(「取消ヲ命ゼヨ」「何ダ、不敬ナ言葉ヲ使ッテ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 討論ガ憲法論デアル間ハ本院ニ於ケル討論ハ議員ノ自由デアリマス
○尾崎行雄君 御聴キナサイ、御聴キナサイ、總テ天皇ハ神聖ニシテ侵スベカラズト云フ大義ハ國務大臣ガ其責ニ任ズルカラ出デ来ルデアリス(拍手起ル)然ルニ桂侯爵ハ内府ニ入ルニ當ッテモ、聖意巳ムヲ得ヌト辯明スル、如何ニモ斯クノ如クナレバ桂總理大臣ハ責任ガ無キガ如ク思ヘルケレドモ、却テ天皇陛下ニ責任ノ帰スルヲ奈何セン(拍手起ル)凡ソ臣子ノ分トシテ己レノ責任ヲ免ガレンガタメニ、責ヲ外ニ帰スルト云フガ如キハ、本員等ハ断ジテ臣子ノ分ニアラズト信ズル(拍手起ル)(「西園寺侯爵ハドウダ」「間違ッテ居ル」ト呼フ者アリ)殊ニ唯今ノ辯明ニ依レバ勅語ハ總テ責任ナシト云フ、勅語ト詔勅トハ違フト云イフガ如キハ、彼等一輩ノ曲學阿世ノ徒ノ、憲法論ニ於テ、此ノ如キコトガアルカモ知レナイガ、天下通有ノ大義ニ於テ其ヤウナコトハ許サヌノデアル(拍手起ル)彼等ガ動モスレバ、引イテ以テ己ノ曲説ヲ辯護セントスルトコロノ独逸ノ実例ヲ見ヨ、独逸皇帝ガ屡ゝ四方ニ幸シテ演説ヲ遊バサレル、其中ニハ顱ル物議ヲ惹起スルトコロノモノガアル、天下騒然タルニ至ッテ總理大臣ノ主トシテ仰グトコロノ「ピユーロー」公爵ハ、總テノ陛下ノ演説ニ對シテ拙者其責ニ任ズルト云フコトヲ天下ニ公言シテ居ルデハナイカ、(拍手起ル)演説ニ對シテスラ總理大臣タルモノハ、總テ責任ヲ負フ、況ンヤ勅語ニ對シテ責任ヲ負ハヌト云フガ如キハ、立憲ノ大義ヲ辯識セザル甚シキモノ云ハナケレバナラヌ、(拍手起ル)殊ニ桂公爵ガ未ダ内閣ヲ組織セザル以前、身内府ニ入ッタトキニ、天下ノ物情如何ニアッタカト云フコトハ、公爵自ラ之ヲ知ラナケレバナラヌ、惟フニ、公爵ノ邸ニハ唯纔ニ其道ヲ踏マズシテ内府ニ入リ恰モ新帝ヲ擁シテ、天下ニ號令セントスルガ如キ位地ヲ取ッタガタメニ幾通ノ脅迫状、幾通ノ地ヲ以テ認メタルトコロノ書面ガ参ッタデアラウ、此一事ヲ以テ見テモ、天下ノ形勢何處ニアルカト云フコトハ略ゝ承知致サナクテハナラヌ、彼等ハ常ニ口ヲ開ケバ直ニ忠愛ヲ唱ヘ、恰モ忠君愛國ハ自分ノ一手専売ノ如ク唱ヘテアリマスルガ、其為ストコロヲ見レバ、常ニ玉座ノ陰ニ隱レテ、政敵ヲ狙撃スルガ如キ舉動ヲ執ッテ居ルノデアル、(拍手起ル)彼等ハ玉座ヲ以テ胸壁トナシ、詔勅ヲ以テ弾丸ニ代ヘテ政敵ヲ倒サントスルモノデハナイカ、此ノ如キコトヲスレバコソ、身既ニ内府ニ入ッテ、未ダ何ヲモ為サザルニ當リテ、既ニ天下ノ物情騒然トシテナカゝ静マラナイ、況ンヤ其人常侍輔弼ノ性格-其人ノ性格トシテ一黙ダモ、常侍輔弼ト云フ
(以下略)
常用漢字版
編集○尾崎行雄君 議長ノ御手許ニ差シ出シテアリマス、決議案ニ付キマシテ、一応此際日程ヲ変更ノ上、議ニ付セラレンコトヲ望ミマス(拍手起ル)
○議長〔大岡育造君〕 唯今、尾崎君ノ日程変更ノ議ヲ御諮リ申シマス前ニ、更ニ御尋ヲシテ置キマス、質問ハ大分御連名ガアリマスケレドモ、今キタモノト見テ宜シウゴザイマスカ
(「宜シイ」「異議ナシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 御異議ナイト認メマス、尾崎君ヨリ日程ヲ変更シテ決議案ヲ説明スルト云フ、緊急動議ガ出マシタ、御異議ハアリマセンカ
(「異議ナシ異議ナシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 御異議ガナケレバ日程ハ直ニ変更セラレテ決議案ノ討議ニ移リマス、尚一応朗読サセマス
―――――――――――――
決議案
〔書記朗読〕
- 決議案
- 内閣総理大臣公爵桂太郎ハ大命ヲ拝スルニ当リ屡ゝ聖勅ヲ煩シ宮中府中ノ別ヲ紊リ官権ヲ私シテ党興ヲ募リ又帝国議会ノ開会ニ際シ濫ニ停会ヲ行ヒ又大正二年一月二十一日本院ニ提出シタル質問ニ対シ至誠其責ヲ重スルノ意ヲ昭ニセス是レ皆立憲ノ本義ニ背キ累ヲ大政ノ進路ニ及ホスモノニシテ上皇室ノ尊厳ヲ保チ下国民ノ福祉ヲ進ムル所以ニ非ス本院ハ此如キ内閣ヲ信認スルヲ得ス仍テ慈ニ之ヲ決議ス
(拍手起ル)
○議長〔大岡育造君〕 尾崎行雄君
〔尾崎行雄君登壇〕
○尾崎行雄君 本員等ノ提出致シマシタル決議案ハ、唯今桂総理大臣ノ答弁ニ照シ、尚其前後ノ舉動ニ鑑ミテ、此決議案ヲ出スルノ已ムベカラザルコトヲ認メテ提出シマシタ繹デアリマス、其論点タルヤ、第一ハ身内府ニ在リ、内大臣兼侍従長ノ職ヲ辱ウシテ居リナガラ総理大臣トナルニ当ッテモ、優詔ヲ拝シ、又其後モ海軍大臣ノ留任等ニ付テモ、頻ニ優詔ヲ煩シ奉リタルト云フコトハ宮中府中ノ区別ヲ紊ルト云フノガ、非難ノ第一点デアリマスル、唯今枝公爵ノ答弁ニ依リマスレバ、自分ノ拝シ奉ッタノハ勅語ニシテ、詔勅デハナイガ如キ意味ヲ述ベラレマシタガ、勅語モ亦詔勅ノ一デアル(「ヒヤゝ」)、而シテ我帝国憲法ハ総テノ詔勅 ― 国務ニ関スルトコロノ 詔勅ハ必ズヤ国務大臣ノ副署ヲ要セザルベカラザルコトヲ特筆大書シテアッテ、勅語ト云ハウトモ、勅諭ト云ハウトモ、何ト云ハウトモ、其間ニ於テ区別ハナイノデアリマス、(「ノウゝ」「誤解々々」ト呼フ者アリ)若シ然ラズト云フナラバ、国務ニ関スルトコロノ勅語ニ若シ過チアッタナラバ、其責任ハ何人ガ之ヲ負ウノデアルカ(「ヒヤゝ」拍手起ル)、畏多クモ天皇陛下直接ノ御責任ニ当タラセラレナケレバナラヌコトニナルデハナイカ、故ニ之ヲ立憲ノ大義ニ照シ(「勅語ニ過チガアルトハ何ダ」ト呼フ者アリ)、立憲ノ大義ヲ弁ヘザル者ハ黙シテ居ルベシ、勅語デアラウトモ、何デアラウトモ、凡ソ人間ノ為ストコロノモノニ過チノナイト云フコトハ言ヘナイノデアル(拍手起ル)、是ニ於テ憲法ハ託送チノナキコトヲ保証スルガタメニ(「勅語ニ過チトハ何ノコトダ、取消セゝ」ト呼フ者アリ、議場騒然)憲法ヲ調ベテ見ヨ(「不敬ダゝ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 討論中デアリマス、御意見ガアレバ逐次登壇シテ御述ベナサイ、斯ル大切ナル問題ヲ議スルニ逸ラニ騒擾スルガ如キハ甚ダ取ラザルトコロデアリマス
(「ヒヤゝ」「議長注意ヲ与ヘヨ、不敬デアル」ト云フ者アリ)
○尾崎行雄君 我憲法ノ精神ナルモノハ・・・
(「議長注意シナサイ」ト呼フ者アリ)
○尾崎行雄君 我憲法ノ精神ハ 天皇ヲ神聖侵スベカラザルノ地位ニ置カンガタメニ総テノ詔勅ニ対シテハ、国務大臣ヲシテ其責任ヲ負ハセルノデアル、然ラズンバ・・・
(「天皇ハ神聖ナリ」「退場ヲ命ズベシ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 静ニナサイ
(「取消ヲ命ゼヨ」「何ダ、不敬ナ言葉ヲ使ッテ」ト呼フ者アリ)
○議長〔大岡育造君〕 討論ガ憲法論デアル間ハ本院ニ於ケル討論ハ議員ノ自由デアリマス
○尾崎行雄君 御聴キナサイ、御聴キナサイ、総テ天皇ハ神聖ニシテ侵スベカラズト云フ大義ハ国務大臣ガ其責ニ任ズルカラ出デ来ルデアリス(拍手起ル)然ルニ桂侯爵ハ内府ニ入ルニ当ッテモ、聖意巳ムヲ得ヌト弁明スル、如何ニモ斯クノ如クナレバ桂総理大臣ハ責任ガ無キガ如ク思ヘルケレドモ、却テ天皇陛下ニ責任ノ帰スルヲ奈何セン(拍手起ル)凡ソ臣子ノ分トシテ己レノ責任ヲ免ガレンガタメニ、責ヲ外ニ帰スルト云フガ如キハ、本員等ハ断ジテ臣子ノ分ニアラズト信ズル(拍手起ル)(「西園寺侯爵ハドウダ」「間違ッテ居ル」ト呼フ者アリ)殊ニ唯今ノ弁明ニ依レバ勅語ハ総テ責任ナシト云フ、勅語ト詔勅トハ違フト云イフガ如キハ、彼等一輩ノ曲学阿世ノ徒ノ、憲法論ニ於テ、此ノ如キコトガアルカモ知レナイガ、天下通有ノ大義ニ於テ其ヤウナコトハ許サヌノデアル(拍手起ル)彼等ガ動モスレバ、引イテ以テ己ノ曲説ヲ弁護セントスルトコロノ独逸ノ実例ヲ見ヨ、独逸皇帝ガ屡ゝ四方ニ幸シテ演説ヲ遊バサレル、其中ニハ顱ル物議ヲ惹起スルトコロノモノガアル、天下騒然タルニ至ッテ総理大臣ノ主トシテ仰グトコロノ「ピユーロー」公爵ハ、総テノ陛下ノ演説ニ対シテ拙者其責ニ任ズルト云フコトヲ天下ニ公言シテ居ルデハナイカ、(拍手起ル)演説ニ対シテスラ総理大臣タルモノハ、総テ責任ヲ負フ、況ンヤ勅語ニ対シテ責任ヲ負ハヌト云フガ如キハ、立憲ノ大義ヲ弁識セザル甚シキモノ云ハナケレバナラヌ、(拍手起ル)殊ニ桂公爵ガ未ダ内閣ヲ組織セザル以前、身内府ニ入ッタトキニ、天下ノ物情如何ニアッタカト云フコトハ、公爵自ラ之ヲ知ラナケレバナラヌ、惟フニ、公爵ノ邸ニハ唯纔ニ其道ヲ踏マズシテ内府ニ入リ恰モ新帝ヲ擁シテ、天下ニ号令セントスルガ如キ位地ヲ取ッタガタメニ幾通ノ脅迫状、幾通ノ地ヲ以テ認メタルトコロノ書面ガ参ッタデアラウ、此一事ヲ以テ見テモ、天下ノ形勢何処ニアルカト云フコトハ略ゝ承知致サナクテハナラヌ、彼等ハ常ニ口ヲ開ケバ直ニ忠愛ヲ唱ヘ、恰モ忠君愛国ハ自分ノ一手専売ノ如ク唱ヘテアリマスルガ、其為ストコロヲ見レバ、常ニ玉座ノ陰ニ隠レテ、政敵ヲ狙撃スルガ如キ舉動ヲ執ッテ居ルノデアル、(拍手起ル)彼等ハ玉座ヲ以テ胸壁トナシ、詔勅ヲ以テ弾丸ニ代ヘテ政敵ヲ倒サントスルモノデハナイカ、此ノ如キコトヲスレバコソ、身既ニ内府ニ入ッテ、未ダ何ヲモ為サザルニ当リテ、既ニ天下ノ物情騒然トシテナカゝ静マラナイ、況ンヤ其人常侍輔弼ノ性格-其人ノ性格トシテ一黙ダモ、常侍輔弼ト云フ
(以下略)
常用漢字・ひらがな版
編集○尾崎行雄君 議長の御手許に差し出してあります、決議案に付きまして、一応此際日程を変更の上、議に付されるよう望みます。(拍手起る)
○議長〔大岡育造君〕 唯今、尾崎君の日程変更の議を御諮り申します前に、更に御尋をしておきます、質問は大分御連名がありますが、今来たものと見て宜しいですか。
(「宜しい」「異議なし」と呼ぶ者あり)
○議長〔大岡育造君〕 御異議はないと認めます、尾崎君より日程を変更して決議案を説明すると云う、緊急動議が出ました、御異議はありませんか。
(「異議なし異議なし」と呼ぶ者あり)
○議長〔大岡育造君〕 御異議がなければ日程は直に変更されて決議案の討議に移ります、尚一応朗読させます。
―――――――――――――
決議案
〔書記朗読〕
- 決議案
- 内閣総理大臣公爵桂太郎は大命を拝するに当り屡ゝ聖勅を煩し宮中府中の別を紊り官権を私して党興を募り又帝国議会の開会に際し濫に停会を行い又大正二年一月二十一日本院に提出した質問に対し至誠其責を重す意を昭にせす是れ皆立憲の本義に背き累を大政の進路に及ぼすものにして上皇室の尊厳を保ち下国民の福祉を進む所以に非す本院は此如き内閣を信認するを得ず仍て慈に之を決議する。
(拍手起る)
○議長〔大岡育造君〕 尾崎行雄君
〔尾崎行雄君登壇〕
○尾崎行雄君 本員等の提出致しました決議案は、唯今桂総理大臣の答弁に照し、尚其前後の舉動に鑑みて、此決議案を出することを已んではならないことを認めて提出しました繹であります、其論点や、第一ハ身内府に在り、内大臣兼侍従長の職を辱うにして居ながら総理大臣となるにおいても、優詔を拝し、又其後も海軍大臣の留任等についても、頻に優詔を煩し奉りたと云うことは宮中府中の区別を紊ると云うのが、非難の第一点であります、唯今枝公爵の答弁に依ると、自分の拝し奉ったのは勅語にして、詔勅ではないが如き意味を述べられましたが、勅語も亦詔勅の一である(「ヒヤゝ」)、而して我帝国憲法は総ての詔勅 ― 国務に関するところの詔勅はおそらく国務大臣の副署がなければできないことを特筆大書してあって、勅語と云おうとも、勅諭と云おうとも、何と云おうとも、其間に於て区別はないのであります、(「のうゝ」「誤解々々」と呼ぶ者あり)若しそうでないと云うならば、国務に関するところの勅語に若し過ちがあれば、其責任は何人が之を負うのか(「ひなゝ」拍手起る)、畏多くも天皇陛下直接の御責任に当たらせられなければならないことになるではないか、故に之を立憲の大義に照し(「勅語に過ちがあるとは何だ」と呼ぶ者あり)、立憲の大義を弁さない者は黙って居いるべき、勅語であっても、何であっても、凡そ人間のするところのものに過ちのないと云うことは言えないのである(拍手起る)、是に於て憲法は託送ちのないことを保証するために(「勅語に過ちとは何のことだ、取消せ」と呼ぶ者あり、議場騒然)憲法を調べて見よ(「不敬だ」と呼ぶ者あり)
○議長〔大岡育造君〕 討論中であります、御意見があれば逐次登壇して御述べなさい、斯る大切な問題を議すに逸らに騒擾するが如きは甚だ取らざるところであります。
(「ひやゝ」「議長注意を与えよ、不敬である」と云う者あり)
○尾崎行雄君 我憲法の精神なるものは・・・
(「議長注意しなさい」と呼ぶ者あり)
○尾崎行雄君 我憲法の精神は 天皇を神聖侵してはならない地位に置かれるために総ての詔勅に対しては、国務大臣をして其責任を負わせるのである、然らずんば・・・
(「天皇は神聖なり」「退場を命ずべし」と呼ぶ者あり)
○議長〔大岡育造君〕 静になさい
(「取消を命ぜよ」「何だ、不敬な言葉を使って」と呼ぶ者あり)
○議長〔大岡育造君〕 討論が憲法論である間は本院に於ける討論は議員の自由であります。
○尾崎行雄君 御聴きなさい、御聴きなさい、総て天皇は神聖にして侵してはならない云う大義は国務大臣が其責に任ずるから出で来るでありす(拍手起る)然るに桂侯爵は内府に入るに当っても、聖意巳むを得ぬと弁明する、如何にも斯くの如くなれば桂総理大臣は責任が無いが如く思えるけれども、却て天皇陛下に責任の帰するを奈何せん(拍手起る)凡そ臣子の分として己れの責任を免がれるために、責を外に帰すると云うが如きは、本員等は断じて臣子の分にあらずと信じる。(拍手起る)(「西園寺侯爵はどうだ」「間違って居る」と呼ぶ者あり)殊に唯今の弁明に依れば勅語は総て責任なしと云う、勅語と詔勅とはうふと云いうが如きは、彼等一輩の曲学阿世の徒の、憲法論に於て、此の如きことがあるかも知れないが、天下通有の大義に於て其ようなことは許さぬのである(拍手起る)彼等が動もすれば、引いて以て己の曲説を弁護するところの独逸の実例を見よ、独逸皇帝が屡ゝ四方に幸して演説を遊ばされる、其中には顱る物議を惹起するところのものがある、天下騒然たるに至って総理大臣の主として仰ぐところの「ぴゆーろー」公爵は、総ての陛下の演説に対して拙者其責に任ずると云うことを天下に公言して居るではないか、(拍手起る)演説に対してすら総理大臣たるものは、総て責任を負う、況んや勅語に対して責任を負わないと云うが如きは、立憲の大義を弁識しない甚しきもの云はなければならぬ、(拍手起る)殊に桂公爵が未だ内閣を組織せざる以前、身内府に入ったときに、天下の物情如何にあったかと云うことは、公爵自ら之を知らなければならぬ、惟うに、公爵の邸には唯纔に其道を踏まずして内府に入り恰も新帝を擁して、天下に号令せんとするが如き位地を取ったがために幾通の脅迫状、幾通の地を以て認めるところの書面が参ったであろう、此一事を以て見ても、天下の形勢何処にあるかと云うことは略ゝ承知致さなくてはならぬ、彼等は常に口を開けば直に忠愛を唱へ、恰も忠君愛国は自分の一手専売の如く唱えてありますが、其為すところを見れば、常に玉座の陰に隠れて、政敵を狙撃するが如き舉動を執って居るのである、(拍手起る)彼等は玉座を以て胸壁となし、詔勅を以て弾丸に代へて政敵を倒さんとするものではないか、此の如きことをすればこそ、身既に内府に入って、未だ何もしないにおいて、既に天下の物情騒然としてなかなか静まらない、況んや其人常侍輔弼の性格-其人の性格として一黙だも、常侍輔弼と云う。
(以下略)
出典
編集この著作物は、日本国の旧著作権法第11条により著作権の目的とならないため、パブリックドメインの状態にあります。同条は、次のいずれかに該当する著作物は著作権の目的とならない旨定めています。
- 法律命令及官公󠄁文󠄁書
- 新聞紙及定期刊行物ニ記載シタル雜報及政事上ノ論說若ハ時事ノ記事
- 公󠄁開セル裁判󠄁所󠄁、議會竝政談集會ニ於󠄁テ爲シタル演述󠄁
この著作物はアメリカ合衆国外で最初に発行され(かつ、その後30日以内にアメリカ合衆国で発行されておらず)、かつ、1978年より前にアメリカ合衆国の著作権の方式に従わずに発行されたか1978年より後に著作権表示なしに発行され、かつ、ウルグアイ・ラウンド協定法の期日(日本国を含むほとんどの国では1996年1月1日)に本国でパブリックドメインになっていたため、アメリカ合衆国においてパブリックドメインの状態にあります。