秘傳千羽鶴折形

蓬莱(ほうらい)
嶋臺ハ蓬莱山をうつしけり 尉と姥との相惚そよき
花見車(はなみぐるま)
志賀寺の上人さへも其むかし 花見車の内に恋草 
拾餌(えひろい)
餌をひろふやうに 恋路の粟畠人がくるやら引枝の音する
稲妻(いなづま)
いなづまや きのふハひがしけふハ西 祇園朱雀の色にうかれて
妹背山(いもせやま)
結びてハいもせの山の中に折れるよしのゝ紙のよしやはなれぬ
蕣(あさがお)
朝かほや 釣瓶とられてもらひ水 ついでに千代と目でしらす暮
八橋(やつはし)
むらさきの野郎ほうしのやつ橋や 七十過てふり袖の役
昔男(むかしおとこ)
業平をむかしおとこといふならば むかし女は小町なるべし
楽々波(さざなみ)
唐崎の松は花よりおほろにて はれぬ思ひのこころさゝなミ
迦陵頻(がりょうびん)
恋風や みすのひまより迦陵頻 五ツかさねのきぬかちらかちら
巣籠(すごもり)
襟もとへ顔をすこもりはづかしや けふ水あけと祝ひ初てき
芙蓉(ふよう)
楊貴妃ハ芙蓉の花に似たるとて 抱てねたれば露にぬれつゝ
熊谷(くまがい)
軍門に入ッて夜ととも熊谷のほろをミださぬ恋もするかな
村雲(むらくも)
しのび路の恋を見つけて むら雲の中からバアと月の顔出す
呉竹(くれたけ)
今若や乙若つれてくれ竹のふしミの里にちぎる常磐木
夢の通ひ路(ゆめのかよいじ)
有明の月もるねやをこそこそとゆめのかよいち一間こゆらん
九万里(くまんり)
九万里に羽をのす鳥のおもひにて人目の関をこへてしのばん
布晒(ぬのさらし)
顔見せや顔をさらして布さらし 人もきぬたのいつも大入
四ツの袖(よつのそで)
夜桜や匂ひ餘りて初夜もすぎ 四ッの袖かれ恋風そ吹
つく羽根(つくばね)
つくはねの娘もついに嫁となり恋そつもりて子持とぞなる
澤瀉(おもだか)
初恋ハうれしきものと思ハるゝおもたかおもたかとよみあくる文
葭原雀(よしわらすずめ)
暮をまつ吉原すゞめぎゃうぎゃうし 太夫格子にさんちゃよび出し
瓢箪町(ひょうたんまち)
金銀や桂馬にのりて九軒飛び瓢箪町へ駒をはやめる
鶺鴒(せきれい)
鶺鴒の尾のひこひこを見ならいて 大キな國をたれるほど産
春の曙(はるのあけぼの)
みづゝけにせんくまんこの玉や一 力みの見えし春のあけぼの
雛遊び(ひなあそび)
見わたせばげい子白人こきまぜて柳桜のひなあそびなり
鼎(かなえ)
やすやすと鼎を揚るちからあり 恋のおも荷をこれにくらべて
寄木(やどりぎ)
ゆふたちにつゐやとり木か二世のゑん 空だきならぬ匂ひとゝめて 
花橘(はなたちばな)
まちわびて君をつらしとおもふなり はら立花に夜を明しつつ
鳴子(なるこ)
秋風ハふけどもあかぬしのび路にくるをしらする鳴子からから
横雲(よこぐも)
横雲のたな引くころによバひ星またるゝ閨に蟹の横這
三巴(みつどもえ)
悋気から輪廻のめぐる三ッともゑ われを祭らん宇治の橋姫
花菱(はなびし)
花ひしや桔梗や桐の紋づくし けはひ道具を送る嫁入荷
早乙女(そうとめ)
花よめも娘も出て早乙女や おいどならべて田植する也
三が一(みつがいち)
ひかひかと光る源氏の顔かたち おもひハ三ツが一の筆なり
風車(かざぐるま)
一ふての恋風車吹よせて かくした文の袖のおもたさ
荘子(そうじ)
かいま見やたハむれてゐる蝶二ツ かたい荘子も恋をめさるゝ
妙妙(みょうみょう)
目くばせてさとらすもありさとるあり 弥陀も法華もちきる妙妙
比翼(ひよく)
天にあらばひよくのちぎりたのしまん かすミの蒲團 雲どりの夜着
相生(あいおい)
年よらず若い女夫でいつまでも金たくさんに相をひの松
風蘭(ふうらん)
嶋原のもとりハ風蘭ふらふらと またわすられぬ袖のうつり香
青海波(せいがいは)
恋風に帆をあけてゆく玉つさはせいかいなみのうへをゆらゆら
龍膽車(りんどうぐるま)
しのふてふりんたう車くるくると ねやのあたりを行つもとりつ
蟻の塔(ありのとう)
恋しさハおなしこゝろにあらさらん ありの塔つむ文のかすかす
野干平(やかんべい)
やかん平つれてきつねの嫁入かな しくれもしたり日もてりにけり
杜若(かきつばた)
そひぶしにはらミし花のかきつはた みなむらさきのゆかり美し
瓜の蔓(うりのつる)
しのぶれとおなかの中の瓜のつる ものやあらふと人のとふまで
釣ふね(つりふね)
妓王妓女佛ももとハ凡夫なり 妻こふ鹿も尼をつりふね
百鶴(ひゃっかく)
百鶴の折形 朝比奈の紋を十ヅゝ十よせて百人力の鶴の紋なり

出典 編集

 

この作品は1929年1月1日より前に発行され、かつ著作者の没後(団体著作物にあっては公表後又は創作後)100年以上経過しているため、全ての国や地域でパブリックドメインの状態にあります。