科学と科学的知識の利用に関する世界宣言
科学と科学的知識の利用に関する世界宣言
(Declaration on Science and the Use of Scientific Knowledge)
(1999年7月1日採択)
前文
編集1. 我々のすべては同じ惑星に住み、我々のすべてはその生物圏の一部である。我々が相互依存性の高まりの中におかれているということ、そして、我々の未来は、全地球的な生命維持システムの保全と、あらゆる形態の生命の存続とに不可避的に結びついているということが認識されるにいたっている。世界の国々や科学者たちは、科学のあらゆる分野から得た知識を、濫用することなく、責任ある方法で、人類の必要と希望とに適用させることが急務であることを認めなければならない。我々はすべての分野における科学、すなわち物理学、地球科学、生物学、生物医学あるいは工学などの自然科学、そして社会科学、人文科学の営みを通した活発な協力を追い求めるものである。(世界科学会議の)「行動のためのフレームワーク」は、自然科学のもたらす未来への展望や活力を強調するだけではなく、自然科学が招来する恐れのある負の効果、そしてその社会に対する影響や社会との関係を理解する必要性についても強調しているところであるが、この「世界宣言」に述べられている、科学に対する責任、挑戦そして義務は、あらゆる分野の科学に関わる事柄なのである。いかなる文化も、全地球的な価値を有する科学的知識に貢献することができる。科学は人類全体に奉仕するべきものであると同時に、個々人に対して自然や社会へのより深い理解や生活の質の向上をもたらし、さらには現在と未来の世代にとって、持続可能で健全な環境を提供することに貢献すべきものでなければならない。
2. 科学的知識は、人類にとってきわめて有益な、目覚しい変革をもたらした。人々の平均寿命は飛躍的に伸び、多くの疾病に対する治癒の方法が発見された。農業生産についても、世界のいたるところで、増加を続ける人口の需要に応えるべく、目覚ましい発展を見せてきた。技術開発と新エネルギーの利用は、人々が過酷な労働から解放される機会を創りだしただけでなく、工業生産や生産過程に、大きくかつ複雑な広がりをもたせることを可能とした。またコミュニケーションや情報処理あるいはコンピュータの新しい技術も、科学の営みや社会全体にとって、前例のないほどの機会と可能性とをもたらしてくれた。宇宙や生命の起源、はたらき、進化などに関する着実な知識の進歩は、人類に対してその行動や思考に多大な影響を及ぼす抽象的かつ具体的な手段を提供してくれているのである。
3. 科学の進歩の応用や、人類の活動の発展あるいは拡張は、その明らかな恩恵だけだなく、環境劣化や技術災害も同時にもたらし、さらに社会的な不公平や疎外も助長した。一例を挙げれば、科学の進歩が、在来型兵器も大量殺戮型兵器も含めて、高性能兵器の生産を可能にしたのである。今や、新兵器の開発や生産に費やす財源を減少させ、軍事産業や軍事研究設備の少なくとも一部を民生に転用することを奨励すべき時である。国際連合は、永続的な平和への第一歩として、西暦2000年を「平和の文化のための国際年」、また2001年を「文明間の対話のための国際連合年」と定めた。科学者共同体は、社会における他の分野の人々とともに、この歩みに対して重要な役割を果たすことができるし、また果たさなければならない。
4. 今日、科学の分野における前例を見ないほどの進歩が予想されている折から、科学的知識の生産と利用について、活発で開かれた、民主的な議論が必要とされている。科学者の共同体と政策決定者はこのような議論を通じて、一般社会の科学に対する信用と支援を、さらに強化することを目指さなければならない。倫理的、社会的、文化的な諸問題、さらには環境、性、経済、保健衛生などの諸問題に対処するには、自然科学も社会科学も巻き込んだ、学際的な努力が不可欠である。より公正で、豊かで、持続可能な世界の実現に向けて、科学の果たす役割を強化するためには、投資の拡大、その優先順位の見直し、科学的知識の共有などを通じて、官民すべての関係者が長期的な関与をしなければならないのである。
5.国や地域、あるいは社会集団、さらには男女間の構造的な不均衡の結果、科学のほとんどの恩恵は公正に分配されていない。科学的知識は財の生産の不可欠な要素となったために、その配分はさらに不公平になってしまった。貧者(人々であれ、国々であれ)を富者から区別するものは、単に彼らの持っている財産が少ないというだけでなく、彼らが科学的知識の創造と恩恵からはなはだしく疎外されているということにあるのである。
6.国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)および国際科学会議(ICSU)のもとに、1999年6月26日から7月1日までの間、ハンガリーのブダペストで開催された「21世紀のための科学:新たなコミットメント」世界会議に出席した我々は、
7.今日、自然科学が置かれた立場や、自然科学が向かおうとしている方向や、自然科学の社会的影響や、社会の自然科学への期待を考慮し、
8.21世紀には、科学はすべての人々にとって、連帯の精神に基づいた、共有財産でなければならず、科学は自然や社会の諸現象を理解するための強力な(知識の)源泉であり、社会と環境との関係が複雑さを増す一方であるがために、科学の果たす役割は、将来、より一層大きくなることが約束されていることを考慮し、
9.特に政策形成や規範定立のために科学が果たすべき重要な役割などに関して官民が行う意思決定にとって、科学的知識の必要性が著しく増大していることを考慮し、
10.ごく幼少時から平和目的のために科学的知識に触れることは、すべての男女に備わっている教育を受ける権利の一部をなすものであり、科学教育は、人間開発、内在的な科学的能力の涵養、積極的で情報に明るい市民の育成に欠かせぬものであることを考慮し、
11.科学研究とその応用は、経済発展や、貧困からの脱却をはじめとする持続可能な人間開発に多大な恩恵をもたらし、人類の未来はかつてないほど、知識の生産、配分および利用に依存していることを考慮し、
12.科学研究は健康や社会の福祉の分野における強い推進力の一つであり、科学的知識のさらなる利用は人類の健康の質的向上にとって大きな力となることを考慮し、
13.国際化の進展と、それにおける科学的・技術的知識の戦略的役割とを考慮し、
14.発展途上国における科学的能力とインフラストラクチャーの改善によって、途上国と先進工業国との格差を軽減することが急務であることを考慮し、
15.情報・コミュニケーション革命が、科学的知識の交流や、教育・研究を発展させるための新たな、そしてより効果的な手段を提供してくれることを考慮し、
16.科学研究や科学教育にとって、公的分野に属する情報やデータへの完全かつ開かれたアクセスの必要性を考慮し、
17.科学・技術の発展に伴う社会変容の分析や、その過程における諸問題の解決の研究に果たす社会科学の役割を考慮し、
18.国際連合の諸機関およびその他の組織が開催した主要な会議や、この「世界科学会議」関連の諸会合で採択された諸勧告を考慮し、
19.科学研究や科学的知識の利用にあたっては、「世界人権宣言」に基づき、また「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」にかんがみ、人の権利と尊厳とを尊重しなければならないことを考慮し、
20.科学はその応用にあたって、個人、社会、環境、人体の健康に有害となりうるもので、人類の存続さえ危うくする恐れがあること、そして科学の貢献は平和と発展、世界の安全という大義にとって不可欠なものであることを考慮し、
21.科学者たちは他の主要な関係者たちとともに、倫理的に誤っていたり、負の効果をもたらすような科学の応用について、警告を発すべき特別な責任を有していることを考慮し、
22.科学の実践や応用は、広く一般に論議された、適切な倫理的規制の枠内で行われる必要があることを考慮し、
23.科学研究や科学的知識の利用にあたっては、我々の地球上のあらゆる種類の生命や、生命維持システムとを尊重し、保全しなければならないことを考慮し、
24.あらゆる科学活動への参加について、歴史的に男女間の不均衡が存在することを考慮し、
25.男女を問わず、障害者や原住民や少数民族などを含む社会集団(以下、「社会的不利益集団」という)が完全に参加できないような障壁があることを考慮し、
26.世界観や世界に対する理解を生き生きと伝える、伝統的な知識体系や地方的な知識体系は科学・技術に貴重な貢献ができるし、また歴史的にも貢献してきたこと、そしてこのような文化的遺産や経験的知識を保存し、保護し、研究し、助長する必要があることを考慮し、
27.科学と社会の新たな関係によって、貧困、環境劣化、不適切な公衆衛生、食料や水の確保等の緊急な諸問題、特に人口の増加に関係する諸問題に対処する必要があることを考慮し、
28.政府、市民社会、産業界の科学に対する強力な関わりと、科学者の社会の福利への同じく強力な関わりの必要性を考慮して、
以下のように宣言する。
1. 知識のための科学;進歩のための知識
編集29.科学活動の本来の機能は、自然と社会を総合的かつ全体的に問題視し、よって新たな知識を求めることにある。この新しい知識が教育的、文化的、知的な豊かさをもたらし、技術の発展や科学の恩恵を引き出すのである。基礎的でかつ問題指向型の研究の推進は、内発的な発展や進歩を遂げるために必須のものである。
30.政府は、国の科学政策を通じて、また関係者間のコミュニケーションや相互作用を助長すべき仲介者として、知識の獲得、科学者の養成、そして人々の教育のために科学研究が果たすべき役割を認めなければならない。民間が財政負担を行う科学研究は、社会経済発展にとって重要な要素となっているが、そのことは公的財政負担による研究の必要性を排除するものであってはならない。官民両部門は密接な協力を行わなければならないし、長期的な目標のための科学研究への財政支援において、相互補完的でなければならない。
2. 平和のための科学
編集31. 科学的思考の本質は、常に批判的な分析に晒されながら、諸問題を異なった視点で考察し、自然や社会の諸現象を究明しようとする能力にある。従って真の科学は、批判的で自由な思考に依存しており、このことは民主的な社会にとっての必須条件でもある。国や宗教や民族を超えた伝統を長く共有してきた科学者共同体は、ユネスコ憲章に述べられている、平和の文化の基礎である「人類の知的及び精神的連帯」を促進して行かねばならない。科学者たちの世界的な広がりをもった協力は、世界の安全にとって、そして異なった国々、社会、文化の平和的な相互作用の発展にとって、貴重で建設的な貢献をなすものであり、核兵器を含む軍備縮小へのさらなる歩みを勇気づけるものとなろう。
32. 政府と国民は、紛争の根源的な原因やその種々の影響に対処するために、自然科学や社会科学、さらに手段としての技術を利用する必要性を認識するべきである。これらに対処するための研究への投資は拡大されなければならない。
3. 開発のための科学
編集33.今日、科学とその応用は、開発にとって、かつてないほど不可欠なものとなっている。政府はあらゆる段階において、また民間部門も、経済的、社会的、文化的、そして環境的に健全な開発のために欠くべからざる基本である適切な教育・研究計画を通じて、十分でかつバランスのとれた科学的・技術的能力を育成するために、強力な支援を行わなければならない。このことは特に途上国において急務である。技術発展は確固とした科学的基礎を必要としており、安全で清潔な生産、より効果的な資源の活用、環境に一層やさしい製品などを、断固として目指すべきである。さらに科学・技術は、雇用の促進、競争力の向上、社会正義に向けた確固たる視点を持つべきである。これらの目的を達成するため、また地球上の天然資源の基盤、生物の多様性、生命維持システムなどに対するよりよき理解とその保全のために、科学・技術への投資が促進されなければならない。経済、社会、文化、環境などの諸次元を統合しながら、持続可能な開発への戦略へと向かうことを目指さなければならないのである。
34.いかなる差別もない、あらゆる段階、あらゆる方法による、広い意味での科学教育は、民主主義にとって、そして持続可能な開発を確実なものにするにあたって、基本的な必須要件である。近年、万人のための基礎教育を促進するための、全世界的な措置が講じられてきた。食料生産や保健衛生に対する、科学発展の応用に果たすべき女性の基本的な役割が十分に認識されることは不可欠である。そしてこれらの分野における科学的進歩に対する彼女たちの理解を強化する努力がなされなければならない。科学教育、科学情報、そして科学の一般への普及は、まさにこのレベルで行われなければならないのである。社会的に恵まれない集団に対しては、さらに特別な注意を払う必要がある。一般の人たちが、新たな知識の応用に関する意思決定によりよく参画できるようにするために、すべての文化の中で、また社会のあらゆる構成要素の内部において、基本的な科学の知的体系(リテラシー)や、理性的な能力・技能、そして倫理的価値に対する評価を発展させ拡げることが、これまで以上に必要となっている。科学の発展は、科学教育の促進と近代化、そしてあらゆる教育段階における科学教育の調整のために、大学の役割を特に重要なものとしている。すべての国、とりわけ途上国では、国家の優先順位を考慮に入れながら、高等教育および大学院教育における科学研究を強化する必要がある。
35.科学的能力の構築は、均衡のとれた発展を確保し、国や集団や個人に対するいかなる差別もない、人間の創造力の拡大と利用とを確保するために、地域的・国際的協力によって支援されなければならない。途上国と先進工業国との間の協力は、情報への完全で開かれたアクセス、そして公平と相互利益という原則に沿って行われなければならない。協力のためのあらゆる努力において、伝統や文化の多様性に特別な配慮がなされなければならない。科学の分野における途上国や新興工業国との協力活動を強化するのは、先進工業国の責任である。地域的、国際的協力を通して、国内の科学研究におけ必要人員を確保することは、小規模国家や後発途上国にとって特に重要である。大学などの科学関係の組織機構が存在することは、国内における人材養成、そしてその後の国内でのキャリアという意味で、本質的な要素である。これら以外にも種々の努力を講じることによって、頭脳流出を減少させ、あるいは阻止するような諸条件を整備するべきである。しかしながら、科学者の自由な移動を制限するようないかなる措置も講じられてはならない。
36.科学の進歩には、多国間事業、南・南諸国間ネットワークのような研究のためのネットワーク、すべての国々の需要に応じ、またそれらの発展を助長するような先進工業国と途上国の科学者共同体を包含する協力関係、奨学金・補助金制度や共同研究の促進、知識の交流を支援する諸計画、特に途上国における国際的に認知された科学研究センターの充実、大規模プロジェクトの共同推進、評価、出資、そしてそれらへの広範なアクセスのための国際的な取り決め、複合的な諸問題に関する科学的評価(アセスメント)のための国際委員会、大学院課程以上の人材養成推進のための国際的な措置など、政府間レベル、政府レベル、非政府レベルでの種々の協力が必要である。学際的な協力のための新たな取り組みも必要とされている。基礎研究の国際的な側面は、長期的研究あるいは特に全世界的な関心事についての国際共同プロジェクトへの支援を大幅に増加することによって強化されるべきである。この点に関しては、特に研究支援の継続の必要性に留意するべきである。これらの研究施設への途上国の科学者のアクセスは積極的に支援され、また科学的にふさわしいすべての人たちに開放されなければならない。特にネットワークを通じた情報・コミュニケーション技術の利用は、知識の自由な伝達を促進する手段として拡大されなければならない。同時に、これらの技術の利用が、さまざまな文化の豊かさや表現の手段を否定したり規制したりすることにつながるものとならないように、注意しなければならない。
37.この「宣言」に示された諸目的に対処すべきすべての国々にとって、国際的な措置と並行して、新たな条件のもとで持続可能な開発に果たす科学の役割を強化するために、まず国家的戦略、制度的枠組み、財政システムなどを確立するか、あるいは既存のそれらを手直ししなければならない。それには次のような事柄が含まれる必要がある。すなわち、主要な官民部門とともに発展するべき、科学に関する長期的な国家政策、科学教育や科学研究に対する支援策、国家革新のシステムを構成する研究・開発(R&D)組織と産業界と大学の間の協力体制の充実、危機評価や危機管理、あるいは危険防止、安全、保健衛生などに関する国立機関の創設と維持、そして投資、研究、刷新への刺激策など。官民諸部門において科学・技術的能力を強化し、官民の相互作用を助長するために、立法府および行政府は、法的、制度的、財政的基盤を整備することが要請される。科学に関する意思決定や優先度の決定は、総合的な開発計画や持続可能な開発戦略の策定の不可欠な一部として行われなければならない。この点に関して、主要債権国であるG8諸国による、途上国の債務軽減を目的とする最近の処置は、国や地域の科学・技術研究制度の強化を目的とした科学投資のための機構を創設しようとしている途上国と先進工業国による共同努力の助けとなろう。
38.知的所有権は、世界レベルで適切に保護される必要があり、またデータや情報へのアクセスは、科学の営みを理解し、科学研究の結果を社会にとっての具体的な恩恵として伝えるために不可欠なものである。知的所有権の保護と科学的知識の普及は相互支援的な関係であり、この関係を強化するべき措置が講じられなければならない。知識の公正な生産、配分そして利用に関して、知的所有権の範囲、限界、適用などについて考慮する必要がある。また、途上国の特殊な必要性や、伝統的な知識、情報、生産物に対して、慣習的・伝統的知識の保有者による情報に基づいた同意(インフォームド・コンセント)のもとに、それらを認知し、望ましい保護を与えるための国の適切な法的枠組みをさらに整備するべきである。
4. 社会における科学と社会のための科学
編集39. 科学研究の遂行と、その研究によって生じる知識の利用は、貧困の軽減などの人類の福祉を常に目的とし、人間の尊厳と諸権利、そして世界環境を尊重するものであり、しかも今日の世代と未来の世代に対する責任を十分に考慮するものでなければならない。この点に関して、すべての当事者は、これらの重要な原則に対して、自らの約束を新たにしなければならない。
40. 倫理的諸問題が適切に論議されるために、新たな発見や新たに開発された技術のすべての可能な利用や影響に関しての、情報の自由な伝達が保障されるべきである。各国は、科学の実践、科学的知識の利用や応用に関する倫理問題に対処するために、しかるべき枠組みを設けるべきである。それには、反対意見や反対者を公正で責任ある方法で扱うべき、正当な法的手続きが含まれなければならない。この点に関して、ユネスコの「科学的知識と技術の倫理に関する世界委員会」(World Commission on the Ethics of Scientific Knowledge and Technology)は、各国間の協力の手段を提供することができよう。
41. すべての科学者は、高度な倫理的基準を自らに課すべきであり、科学を職業とする者に対して、国際的な人権法典に記された適切な規範をもとにした倫理綱領が定立されなければならない。科学者の社会的責任は、彼らが高い水準の科学的誠実さと研究の品質管理を維持し、知識を共有し、社会との意思の疎通を図り、若い世代を教育することなどを要求するものである。政治当局は、科学者によるこれらの行動を尊重しなければならない。科学教育のカリキュラムには、科学倫理、歴史、哲学、そして科学の文化的影響に関する課程が含まれるべきである。
42. 科学へのアクセスの平等性は、人間開発にとっての社会的、倫理的要請であるばかりでなく、全世界の科学者共同体の力を最大限に発揮させ、人類の必要に応じた科学発展を期するためにも必要なのである。世界の人口の半数以上を占める女性が、科学的分野の職業に就き、その職責を遂行し、そのキャリアを発展させるにあたって、あるいは科学・技術の分野での意思決定への参画にあたって直面する困難については、早急に対処が必要である。また社会的不利益集団が全面的かつ効果的に参画することを阻害している諸問題についても、同じく早急に処置されるべきである。
43. 世界中の政府と科学者たちは、貧困な保健衛生や、国家間の、あるいは国内での社会集団間の衛生状態の不公平に関する複雑な諸問題に対して、保健衛生についての高度で公平な基準を設け、またすべての人びとに対する衛生管理の質の向上を目指すなどして、立ち向かわなけれならない。このことは、科学・技術の進歩を利用し、すべての関係者の堅固で長期的な協力関係を充実させ、このための諸計画を動員するような教育を通じて行われなければならない。
44. 「21世紀のための科学:新たなコミットメント」世界会議に出席した我々は、科学教育に関し、あるいは科学のもたらす利益に関するあらゆる差別を除去することを目的とした、科学者共同体と社会との対話を促進する可能性を実現するために、自らの責任の範囲内で倫理的かつ協力的に行動するために、科学の文化を強化してそれを世界中で平和的に応用するために、さらに科学的知識の人類の福祉と持続可能な平和と開発に向けた利用を促進するために、これまでに述べられた社会的、倫理的諸原則を考慮に入れながら、あらゆる努力を惜しまないことを自らに約束するものである。
45. 我々は、世界会議の資料「科学アジェンダ―行動のためのフレームワーク」(Science Agenda - Framework for Action) が、科学に対する新たな約束に関する具体的な意見表明をしており、国際連合諸機関内における、また科学の諸活動に将来関わるべきすべての当事者間における協力関係にとって戦略的指針として役立つものと考える。
46. こうして、我々は、この「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」を採択し、世界宣言で示された諸目標を達成するための手段として「科学アジェンダ―行動のためのフレームワーク」に同意する。また、ユネスコ(UNESCO)と国際科学会議(ICSU)に対して、それぞれの総会にこれら二つの文書を提出するよう要請するものである。その目的は、これら両機関がそれぞれの事業計画の中でフォーローアップ活動を策定し、実施すること、また科学における国際協調と協力との強化を目指して、すべての協力者、特に国際連合諸機関内の協力者を動員することを可能にするためである。