禮記/大學

• 姉妹プロジェクト：データ項目

訳は、小林一郎(1876‐1944)著『経書大講 第25巻 大學 禮記抄』平凡社、昭和15年(1940)発行NDLJP:1047122（Commonsのファイル）より抜粋。※環境依存文字の一部（「德」など）は平易化しています。

大學之道，在明明德，在親民，在止於至善。知止而後有定，定而後能靜，靜而後能安，安而後能慮，慮而後能得。物有本末，事有終始，知所先後，則近道矣。古之欲明明德於天下者，先治其國；欲治其國者，先齊其家；欲齊其家者，先脩其身；欲脩其身者，先正其心；欲正其心者，先誠其意；欲誠其意者，先致其知，致知在格物。物格而後知至，知至而後意誠，意誠而後心正，心正而後身脩，身脩而後家齊，家齊而後國治，國治而後天下平。自天子以至於庶人，壹是皆以脩身爲本。其本亂而末治者否矣，其所厚者薄，而其所薄者厚，未之有也！此謂知本，此謂知之至也。

〈訳：NDLJP:1047122/7 大學（だいがく）の道（みち）は明徳（めいとく）を明（あきら）かにするに在あ）り、民（たみ）に親（した）しむに在（あ）り、至善（しぜん）に止（とゞ）まるに在（あ）り。止（とゞ）まることを知（し）つて而（しかう）し て后（のち）に定（さだ）まること有（あ）り。定（さだ）まつて而（しかう）して后（のち）に能（よ）く靜（しづか）なり、靜（しづか）にして而（しかう）して后（のち）に能（よ）く安（やす）し、安（やす）くして而（しかう）して 后（のち）に能（よ）く慮（おもんばか）る、慮（おもんばか）つて而（しかう）して后（のち）に能（よ）く得（う）。物（もの）に本末（ほんまつ）あり、事（こと）に終始（しうし）あり、先後（せんこう）する所（ところ）を知（し）れば則（すなは）ち道（みち） に近（ちか）し。古（いにしへ）の明徳（めいとく）を天下（てんか）に明（あきら）かにせんと欲（ほつ）する者（もの）は、先（ま）づ其（そ）の國（くに）を治（をさ）む。出（そ）〔ママ〕の國（くに）を治（おさ）めんと欲（ほつ）する者（もの）は、 先（ま）づ其（そ）の家（いへ）を齊（とゝの）ふ。其（そ）の家（いへ）を齊（とゝの）へんと欲（ほつ）する者（もの）は、先（ま）づ其（そ）の身（み）を修（をさ）む。其（そ）の身（み）を修（をさ）めんと欲（ほつ）する者（もの）は、先（ま） づ其（そ）の心（こゝろ）を正（たゞ）しくす。其（そ）の心（こゝろ）を正（たゞ）しくせんと欲（ほつ）する者（もの）は、先（ま）づ其（そ）の意（い）を誠（まこと）にす。其（そ）の意（い）を誠（まこと）にせんと欲（ほつ）す る者（もの）は、先（ま）づ其（そ）の知（ち）を致（いた）す。知（ち）を致（いた）すは物（もの）を格（きた）すに在（あ）り。物格（ものきた）りて而（しかう）して后（のち）に知（ち）至（いた）る。知（ち）至（いた）りて而（しかう）して后（のち） に意（い）誠（まこと）なり。意（い）誠（まこと）にして而（しかう）して后（のち）に心（こゝろ）正（たゞ）し。心（こゝろ）正（たゞ）しくして而（しかう）して后（のち）に身（み）修（をさ）まる。身（み）修（をさ）まりて而（しかう）して后（のち）に家（いへ） 齊（とゝの）ふ。家（いへ）齊（とゝの）うて而（しかう）して后（のち）に國治（くにをさ）まる。國治（くにをさ）まりて而（しかう）して后（のち）に天下（てんか）平（たひら）かなり。天子（てんし）より以（もつ）て庶人（しよじん）に至（いた）るま で、壹（いつ）に是（こ）れ皆（みな）身（み）を修（をさ）むるを以（もつ）て本（もと）と爲（な）す。其（その）本亂（もとみだ）れて而（しかう）して末治（すゑをさ）まる者（もの）は否（あら）ず。其（そ）の厚（あつ）うする所（ところ）の者（もの） 薄（うす）くして、其（そ）の薄（うす）うする所（ところ）の者厚（ものあつ）きは未（いま）だ之（こ）れ有（あ）らざるなり。此（これ）を本（もと）を知（し）ると謂（い）ふ。此（これ）を知（ち）の至（いた）ると謂（い）ふ なり。〉

所謂誠其意者，毋自欺也，如惡惡臭，如好好色，此之謂自謙，故君子必慎其獨也！小人閒居爲不善，無所不至，見君子而後厭然，揜其不善，而著其善。人之視己，如見其肺肝然，則何益矣！此謂誠於中，形於外，故君子必慎其獨也。曾子曰：「十目所視，十手所指，其嚴乎！」富潤屋，德潤身，心廣體胖，故君子必誠其意。

〈NDLJP:1047122/10-NDLJP:1047122/11 所謂（いはゆる）其（そ）の意（い）を誠（まこと）にするとは、自（みづか）ら欺（あざむ）くこと毋（な）きなり。惡臭（あくしう）を惡（にく）むが如（ごと）く、好色（かうしよく）を好（この）むが如（ごと）くなる、此（こ）れ之（これ） を自（みづか）ら謙（けん）すと謂（い）ふ。故（ゆゑ）に君子（くんし）は必（かなら）ず其（そ）の獨（ひと）りを愼（つゝし）むなり。小人間居（せうじんかんきよ）して不善（ふぜん）を爲（な）す、至（いた）らざる所（ところ）無（な）し。君（くん） 子（し）を見（み）て而（しかう）して后（のち）に厭然（えんぜん）として其（そ）の不善（ふぜん）を揜（おほ）うて、而（しかう）して其（そ）の善（ぜん）を著（あら）はす。人（ひと）の己（おのれ）を視（み）ること其（そ）の肺肝（はいかん）を 見（み）るが如（ごと）くなり、然（しか）らば則（すなは）ち何（なん）の益（えき）あらん。此（これ）を中（うち）に誠（まこと）あれば外（そと）に形（あら）はると謂（い）ふ。故（ゆゑ）に君子（くんし）は必（かなら）ず其（そ）の獨（ひと） りを愼（つゝし）むなり。曾子（そうし）曰（いは）く、十目（もく）の視（み）る所（ところ）、十手（しゆ）の指（ゆび）さす所（ところ）、其（そ）れ嚴（げん）なるかな。富（とみ）は屋（をく）を潤（うるほ）し、徳（とく）は身（み）を潤（うるほ） す、心（こゝろ）廣（ひろ）く體（たい）胖（ゆたか）なり。故（ゆゑ）に君子（くんし）は必（かなら）ず其（そ）の意（い）を誠（まこと）にす。〉

《詩》-{云}-：「瞻彼淇澳，菉竹猗猗。有斐君子，如切如磋，如琢如磨。瑟兮僩兮，赫兮喧兮。有斐君子，終不可諠兮！」「如切如磋」者，道學也；「如琢如磨」者，自脩也；「瑟兮僩兮」者，恂慄也；「赫兮喧兮」者，威儀也；「有斐君子，終不可諠兮」者，道盛德至善，民之不能忘也。《詩》-{云}-：「於戲前王不忘！」君子賢其賢而親其親，小人樂其樂而利其利，此以沒世不忘也。

〈NDLJP:1047122/13詩（し）に云（いは）く、彼（か）の淇（き）澳（いく）を瞻（み）れば菉竹（りよくちく）猗猗（いい）たり。斐（ひ）たること有（あ）る君子（くんし）、切（せつ）するが如（ごと）く磋（さ）するが如（ごと）く、琢（たく）するが 如（ごと）く磨（ま）するが如（ごと）し。瑟（しつ）たり僴（かん）たり、赫（かく）たり喧（けん）たり。斐（ひ）たること有（あ）る君子（くんし）、終（つひ）に誼（わす）〔ママ〕るべからずと。切（せつ）するが 如（ごと）く磋（さ）するが如（ごと）しとは學（がく）を道（い）ふなり。琢（たく）するが如（ごと）く磨（ま）するが如（ごと）しとは自（みづか）ら修（をさ）むるなり。瑟（しつ）たり僴（かん）たりとは 恂慄（しゆんりつ）するなり。赫（かく）たり喧（けん）たりとは威儀（ゐぎ）なり。斐（ひ）たること有（あ）る君子（くんし）終（つひ）に諠（わす）るべからずとは盛徳（せいとく）至善（しぜん）、民（たみ）の忘（わす） るること能（あた）はざるを道（い）ふなり。詩（し）に云（いは）く、於戯（ああ）前王（ぜんわう）忘（わす）られずと。君子（くんし）は其（そ）の賢（けん）を賢（けん）として其（そ）の親（しん）を親（しん）と し、小人（せうじん）は其（そ）の樂（たのし）みを樂（たのし）みて其（そ）の利（り）を利（り）とす。此（こゝ）を以（もつ）て世（よ）を沒（ぼつ）するまで忘（わす）られざるなり。〉

《康誥》曰：「克明德。」《太甲》曰：「顧諟天之明命。」《帝典》曰：「克明峻德。」皆自明也。

〈康誥（かうかう）に曰（いは）く、克（よ） く徳（とく）を明（あきら）かにす。大甲（たいかふ）に曰（いは）く、天（てん）の明命（めいめい）を顧（かへり）み諟（たゞ）す。帝典（ていてん）に曰（いは）く、克（よ）く峻徳（しゆんとく）を明（あきら）かにすと。皆（みな）自（みづか）ら明（あきら）かに するなり。〉

湯之盤銘曰：「茍日新，日日新，又日新。」《康誥》曰：「作新民。」《詩》曰：「周雖舊邦，其命惟新。」是故君子無所不用其極。

〈湯（たう）の盤（はん）の銘（めい）に曰（いは）く、苟（いやし）くも日（ひ）に新（あら）たに、日（ひ）に日（ひ）に新（あら）たに、又（また）日（ひ）に新（あら）たなりと。康誥（かうかう）に曰（いは）く、新（しん） 民（みん）を作（おこ）すと。詩（し）に云（いは）く、周（しう）は舊邦（きうはう）なりと雖（いへど）も、其（そ）の命（めい）惟（こ）れ新（あらた）なりと。是（こ）の故（ゆゑ）に君子（くんし）は其（そ）の極（きよく）を用（もち）ひざる所（ところ） 無（な）し。〉

《詩》-{云}-：「邦畿千里，惟民所止。」《詩》-{云}-：「緡蠻黃鳥，止于丘隅。」子曰：「於止，知其所止，可以人而不如鳥乎？」《詩》-{云}-：「穆穆文王，於緝熙敬止！」爲人君，止於仁；爲人臣，止於敬；爲人子，止於孝；爲人父，止於慈；與國人交，止於信。

〈詩（し）に云（いは）く、邦畿（ほうき）千里（り）惟（こ）れ民（たみ）の止（とゞ）まる所（ところ）と。詩（し）に云（いは）く、緡蠻（めんばん）たる黄鳥（くわうてう）、丘隅（きうぐう）に止（とゞ）まると。子（し）曰（いは）く、止（とゞ） まるに於（おい）て其（そ）の止（とゞ）まる所（ところ）を知（し）れり。人（ひと）を以（もつ）て鳥（とり）に如（し）かざるべけんや。 NDLJP:1047122/16詩（し）に云（いは）く、穆穆（ぼく〳〵）たる文王（ぶんわう）は於（あゝ）緝熙（しふき）にして敬止（けいし）すと。人（ひと）の君（きみ）と爲（な）りては仁（じん）に止（とゞ）まり、人（ひと）の臣（しん）と爲（な）りては敬（けい）に 止（とゞ）まり、人（ひと）の子（こ）と爲（な）りては孝（かう）に止（とゞ）まり、人（ひと）の父（ちゝ）と爲（な）りては慈（じ）に止（とゞ）まり、國人（こくじん）と交（まじ）はりては信（しん）に止（とゞ）まる、〉

子曰：「聽訟，吾猶人也，必也使無訟乎！」無情者不得盡其辭，大畏民志。此謂知本。

〈子（し） 曰（いは）く、訟（うつたへ）を聽（き）くことは吾（われ）猶（な）ほ人（ひと）のごとし、必（かなら）ずや訟（うつたへ）無（な）からしめんかと。情（まこと）無（な）き者（もの）は其（そ）の辭（ことば）を盡（つく）すことを 得（え）ず、大（おほい）に民（たみ）の志（こゝろざし）を畏（おそ）れしむ。此（これ）を本（もと）を知（し）ると謂（い）ふ。〉

所謂脩身在正其心者，身有所忿懥，則不得其正；有所恐懼，則不得其正；有所好樂，則不得其正；有所憂患，則不得其正。心不在焉，視而不見，聽而不聞，食而不知其味。此謂脩身在正其心。

〈NDLJP:1047122/18 所謂（いはゆる）身（み）を修（をさ）むるは其（そ）の心（こゝろ）を正（たゞ）しくするに在（あ）りとは、身（み）に忿懥（ふんち）する所（ところ）あれば則（すなは）ち其（そ）の正（せい）を得（え）ず。恐懼（きようく）する所（ところ） あれば則（すなは）ち其（そ）の正（せい）を得（え）ず。好樂（かうらく）する所（ところ）あれば則（すなは）ち其（そ）の正（せい）を得（え）ず。憂患（いうくわん）する所（ところ）あれば則（すなは）ち其（そ）の正（せい）を得（え）ず。心（こゝろ） 焉（こゝ）に在（あ）らざれば視（み）れども見（み）えず、聽（き）けども聞（きこ）えず、食（くら）へども其（そ）の味（あぢは）ひを知（し）らず。此（これ）を身（み）を修（をさ）むるは其（そ）の心（こゝろ） を正（たゞ）しくするに在（あ）りと謂（い）ふ。〉

所謂齊其家在脩其身者，人之其所親愛而辟焉，之其所賤惡而辟焉，之其所畏敬而辟焉，之其所哀矜而辟焉，之其所敖惰而辟焉。故好而知其惡，惡而知其美者，天下鮮矣！故諺有之曰：「人莫知其子之惡，莫知其苗之碩。」此謂身不脩不可以齊其家。

〈所謂（いはゆる）其（そ）の家（いへ）を齊（とゝの）ふるは其（そ）の身（み）を修（をさ）むるに在（あ）りとは、人（ひと）其（そ）の親愛（しんあい）する所（ところ）に之（ゆ）き て辟（たと）ふ。其（そ）の賤惡（せんを）する所（ところ）に之（ゆ）きて辟（たと）ふ。其（そ）の畏敬（ゐけい）する所（ところ）に之（ゆ）きて辟（たと）ふ。其（そ）の哀矜（あいきよう）する所（ところ）に之（ゆ）きて辟（たと）ふ。其（そ） の敖惰（がうだ）する所（ところ）に之（ゆ）きて辟（たと）ふ。故（ゆゑ）に好（この）みて其（そ）の惡（あ）しきを知（し）り、惡（にく）みて其（そ）の美（よ）きを知（し）る者（もの）は天下（てんか）に鮮（すくな）し。故（ゆゑ）に 諺（ことわざ）に之（こ）れ有（あ）り、曰（いは）く人（ひと）其（そ）の子（こ）の惡（あ）しきを知（し）ること莫（な）し、其（そ）の苗（なへ）の碩（おほい）なるを知（し）ること莫（な）しと。此（これ）を身（み）修（をさ） らざれば以（もつ）て其（そ）の家（いへ）を齊（とゝの）ふべからずと謂（い）ふ。〉

所謂治國必先齊其家者，其家不可教而能教人者，無之。故君子不出家而成教於國：孝者，所以事君也；弟者，所以事長也；慈者，所以使眾也。《康誥》曰：「如保赤子」，心誠求之，雖不中不遠矣。未有學養子而後嫁者也！一家仁，一國興仁；一家讓，一國興讓；一人貪戾，一國作亂。其機如此。此謂一言僨事，一人定國。堯、舜率天下以仁，而民從之；桀、紂率天下以暴，而民從之。其所令反其所好，而民不從。是故君子有諸己而後求諸人，無諸己而後非諸人。所藏乎身不恕，而能喻諸人者，未之有也。故治國在齊其家。《詩》-{云}-：「桃之夭夭，其葉蓁蓁；之子-{于}-歸，宜其家人。」宜其家人，而後可以教國人。《詩》云：「宜兄宜弟。」宜兄宜弟，而後可以教國人。《詩》-{云}-：「其儀不忒，正是四國。」其爲父子兄弟足法，而後民法之也。此謂治國在齊其家。

〈NDLJP:1047122/20-NDLJP:1047122/21 所謂（いはゆる）國（くに）を治（をさ）むるには必（かなら）ず先（ま）づ其（そ）の家（いへ）を齊（とゝの）ふとは、其（そ）の家（いへ）教（をし）ふべからずして而（しかう）して能（よ）く人（ひと）を教（をし）ふる者（もの）は之（こ）れ 無（な）し。故（ゆゑ）に君子（くんし）は家（いへ）を出（い）でずして教（をしへ）を國（くに）に成（な）す。孝（かう）とは君（きみ）に事（つか）ふる所以（ゆゑん）なり。弟（てい）とは長（ちやう）に事（つか）ふる所以（ゆゑん）な り。慈（じ）とは衆（しう）を使（つか）ふ所以（ゆゑん）なり。康誥（かうかう）に曰（いは）く、赤子（せきし）を保（やす）んずるが如（ごと）しと。心（こゝろ）誠（まこと）に之（これ）を求（もと）むれば、中（あた）らずと 雖（いへど）も遠（とほ）からず。未（いま）だ子（こ）を養（やしな）ふことを學（まな）んで而（しかう）して后（のち）に嫁（か）する者（もの）は有（あ）らざるなり。一家（か）仁（じん）なれば一國（こく）仁（じん）に興（おこ） り、一家（か）讓（じやう）なれば一國（こく）讓（じやう）に興（おこ）り、一人（にん）貪戻（たんれい）なれば一國（こく）亂（らん）を作（おこ）す。其（そ）の機（き）此（かく）の如（ごと）し。此（これ）を一言（げん）事（こと）を僨（やぶ）り、一 人（にん）國（くに）を定（さだ）むと謂（い）ふ。堯（げう）舜（しゆん）は天下（てんか）を率（ひき）ゐるに仁（じん）を以（もつ）てして民（たみ）之（これ）に從（したが）ふ。桀（けつ）紂（ちう）は天下（てんか）を率（ひき）ゐるに暴（ぼう）を以（もつ）てして 民（たみ）之（これ）に從（したが）ふ。其（そ）の令（れい）する所（ところ）其（そ）の好（この）む所（ところ）に反（はん）すれば民（たみ）從（したが）はず。是（こ）の故（ゆゑ）に君子（くんし）は諸（これ）を己（おのれ）に有（いう）して而（しかう）して后（のち）に諸（これ） を人（ひと）に求（もと）め、諸（これ）を己（おのれ）に無（な）くして而（しかう）して后（のち）に諸（これ）を人（ひと）に非（ひ）とす。身（み）に藏（ざう）する所（ところ）恕（じよ）ならずして、能（よ）く諸（これ）を人（ひと）に喩（さと） す者（もの）は未（いま）だ之（こ）れ有（あ）らざるなり。故（ゆゑ）に國（くに）を治（をさ）むるは其（そ）の家（いへ）を齊（とゝの）ふるに在（あ）り。詩（し）に云（いは）く、桃（もゝ）の夭夭（えう〳〵）たる、其（そ）の 葉（は）蓁蓁（しん〳〵）たり。之（こ）の子（し）于（ゆ）き歸（とつ）ぐ、其（そ）の家人（かじん）に宜（よろ）しと。其（そ）の家人（かじん）に宜（よろ）しくして、而（しかう）して后（のち）に以（もつ）て國人（こくじん）を教（をし）ふべ し。詩（し）に云（いは）く、兄（けい）に宜（よろ）しく弟（てい）に宜（よろ）しと。兄（けい）に宜（よろ）しく弟（てい）に宜（よろ）しくして、而（しかう）して后（のち）に以（もつ）の國人（こくじん）を教（をし）ふべし。詩（し） に云（いは）く、其（そ）の儀（き）忒（たが）はず、是（こ）の四國（こく）に正（せい）たりと。其（そ）の父子（ふし）兄弟（けいてい）たること法（のつと）るに足（た）り、而（しかう）して后（のち）に民（たみ）之（これ）に法（のつと）る なり。此（これ）を國（くに）を治（をさ）むるは其（そ）の家（いへ）を齊（とゝの）ふるに在（あ）りと謂（い）ふ。〉

所謂平天下在治其國者，上老老而民興孝，上長長而民興弟，上恤孤而民不倍，是以君子有絜矩之道也。所惡於上，毋以使下；所惡於下，毋以事上；所惡於前，毋以先後；所惡於後，毋以從前；所惡於右，毋以交於左；所惡於左，毋以交於右。此之謂絜矩之道。《詩》-{云}-：「樂只君子，民之父母。」民之所好好之，民之所惡惡之，此之謂民之父母。《詩》-{云}-：「節彼南山，維石巖巖。赫赫師尹，民具爾瞻。」有國者不可以不慎，辟則爲天下戮矣。《詩》-{云}-：「殷之未喪師，克配上帝。儀監于殷，峻命不易。」道得眾則得國，失眾則失國。是故君子先慎乎德。有德此有人，有人此有土，有土此有財，有財此有用。德者本也，財者末也，外本內末，爭民施奪。是故財聚則民散，財散則民聚。是故言悖而出者，亦悖而入；貨悖而入者，亦悖而出。《康誥》曰：「惟命不于常！」道善則得之，不善則失之矣。楚書曰：「楚國無以爲寶，惟善以爲寶。」舅犯曰：「亡人無以爲寶，仁親以爲寶。」《秦誓》曰：「若有一介臣，斷斷兮無他技，其心休休焉，其如有容焉。人之有技，若己有之；人之彥聖，其心好之，不啻若自其口出。實能容之，以能保我子孫黎民，尚亦有利哉！人之有技，媢嫉以惡之；人之彥聖，而違之俾不通。實不能容，以不能保我子孫黎民，亦曰殆哉！」唯仁人放流之，迸諸四夷，不與同中國，此謂唯仁人爲能愛人，能惡人。見賢而不能舉，舉而不能先，命也；見不善而不能退，退而不能遠，過也。好人之所惡，惡人之所好，是謂拂人之性，菑必逮夫身。是故君子有大道，必忠信以得之，驕泰以失之。生財有大道。生之者眾，食之者寡，爲之者疾，用之者舒，則財恒足矣。仁者以財發身，不仁者以身發財。未有上好仁而下不好義者也，未有好義其事不終者也，未有府庫財非其財者也。孟獻子曰：「畜馬乘，不察於雞豚；伐冰之家，不畜牛羊；百乘之家，不畜聚斂之臣。與其有聚斂之臣，寧有盜臣。」此謂國不以利爲利，以義爲利也。長國家而務財用者，必自小人矣。彼爲善之，小人之使爲國家，菑害竝至。雖有善者，亦無如之何矣！此謂國不以利爲利，以義爲利也。

〈NDLJP:1047122/24 所謂（いはゆる）天下（てんか）を平（たひら）かにするは其（そ）の國（くに）を治（をさ）むるに在（あ）りとは、上老（かみらう）を老（らう）として民（たみ）孝（かう）に興（おこ）り、上長（かみちやう）を長（ちやう）として民（たみ）弟（てい）に 興（おこ）り、上（かみ）孤（こ）を恤（うれ）ひて民（たみ）倍（そむ）かず。是（こゝ）を以（もつ）て君子（くんし）は絜矩（けつく）の道（みち）有（あ）るなり。上（かみ）に惡（にく）む所（ところ）は以（もつ）て下（しも）を使（つか）ふこと毋（なか）れ。 下（しも）に惡（にく）む所（ところ）は以（もつ）て上（かみ）に事（つか）ふること毋（なか）れ。前（まへ）に惡（にく）む所（ところ）は以（もつ）て後（しりへ）に先（さき）んずること毋（なか）れ。後（しりへ）に惡（にく）む所（ところ）は以（もつ）て前（まへ）に 從（したが）ふこと毋（なか）れ。右（みぎ）に惡（にく）む所（ところ）は以（もつ）て左（ひだり）に交（まじ）はること毋（なか）れ。左（ひだり）に惡（にく）む所（ところ）は以（もつ）て右（みぎ）に交（まじ）はること毋（なか）れ。此（こ）れ之（これ）を 絜矩（けつく）の道（みち）と謂（い）ふ。詩（し）に云（いは）く、樂只（らくし）の君子（くんし）は民（たみ）の父母（ふぼ）と。民（たみ）の好（この）む所（ところ）は之（これ）を好（この）み、民（たみ）の惡（にく）む所（ところ）は之（これ）を惡（にく）む。 此（こ）れ之（これ）を民（たみ）の父母（ふぼ）と謂（い）ふ。詩（し）に云（いは）く、節（せつ）たる彼（か）の南山（なんざん）、維（こ）れ石（いし）巖巖（がん〳〵）たり。赫赫（かく〳〵）たる師（し）尹（ゐん）、民（たみ）具（とも）に爾（なんぢ）を膽（み）る と。國（くに）を有（たも）つ者（もの）は以（もつ）て愼（つゝ）しまざるべからず。辟（へき）なれば則（すなは）ち天下（てんか）の戮（りく）と爲（な）る。詩（し）に云（いは）く、殷（いん）の未（いま）だ師（もろ〳〵）を喪（うしな） はざるや、克（よ）く上帝（じやうてい）に配（はい）せり。儀（よろ）しく殷（いん）に監（かんが）みるべし、峻命（しゆんめい）易（やす）からずと。衆（しう）を得（う）れば則（すなは）ち國（くに）を得（え）、衆（しう）を失（うしな） へば則（すなは）ち國（くに）を失（うしな）ふを道（い）ふなり。 NDLJP:1047122/26-NDLJP:1047122/27 是（こ）の故（ゆゑ）に君子（くんし）は先（ま）づ徳（とく）を愼（つゝし）む。徳（とく）あれば此（こゝ）に人（ひと）あり、人（ひと）あれば此（こゝ）に土（ど）あり、土（ど）あれば此（こゝ）に財（ざい）あり、財（ざい）あれ ば此（こゝ）に用（よう）あり。徳（とく）は本（もと）なり、財（ざい）は末（すゑ）なり。本（もと）を外（ほか）にし末（すゑ）を内（うち）にし、民（たみ）を爭（あらそ）はしめて奪（うば）ふことを施（ほどこ）す。是（こ）の 故（ゆゑ）に財（ざい）聚（あつ）まれば則（すなは）ち民（たみ）散（さん）じ、財（ざい）散（さん）ずれば則（すなは）ち民（たみ）聚（あつ）まる。是（こ）の故（ゆゑ）に言（げん）悖（もと）りて出（い）づれば亦（また）悖（もと）りて入（い）り、貨（くわ）悖（もと）り て入（い）れば亦（また）悖（もと）りて出（い）づ。康誥（かうかう）に曰（いは）く、惟（こ）れ命（めい）常（つね）に于（おい）てせずと。善（ぜん）なれば則（すなは）ち之（これ）を得（え）、不善（ふぜん）なれば則（すなは）ち之（これ）を 失（うしな）ふを道（い）ふなり。楚書（そしよ）に曰（いは）く、楚國（そこく）は以（もつ）て寶（たから）と爲（な）すこと無（な）し、惟（た）だ善（ぜん）以（もつ）て寶（たから）と爲（な）すと。舅犯（きうはん）曰（いは）く、亡人（ぼうじん）は 以（もつ）て寶（たから）と爲（な）すこと無（な）し、仁（じん）親（しん）以（もつ）て寶（たから）と爲（な）すと。秦誓（しんせい）に曰（いは）く、若（も）し一个（か）の臣（しん）あらんに、斷斷（だん〳〵）として他（た）の技（ぎ）無（な） く、其（そ）の心（こゝろ）休休（きう〳〵）焉（えん）として其（そ）れ容（い）るゝ有（あ）るが如（ごと）く、人（ひと）の技（ぎ）あるは己（おのれ）之（こ）れ有（あ）るが若（ごと）く、人（ひと）の彦聖（げんせい）なるは其（そ）の心（こゝろ） 之（これ）を好（この）み、啻（たゞ）に其（そ）の口（くち）より出（いだ）すが若（ごと）くなるのみならず、寔（まこと）に能（よ）く之（これ）を容（い）れ、以（もつ）て能（よ）く我（わ）が子孫（しそん）黎民（れいみん）を保（やす）ん ぜば、尚（こひねが）はくは亦（また）利（り）あらんかな。人（ひと）の技（ぎ）あるは媢疾（ぼうしつ）して以（もつ）て之（これ）を惡（にく）み、人（ひと）の彦聖（げんせい）なるは之（これ）に違（たが）ひて通（つう）ぜざ らしめ、寔（まこと）に容（い）るゝこと能（あた）はず、以（もつ）て我（わ）が子孫（しそん）黎民（れいみん）を保（やす）んずること能（あた）はずば、亦（また）曰（ここ）に殆（あやふ）いかな。 NDLJP:1047122/30 唯（た）だ仁人（じんじん）は之（これ）を放流（はうりう）し、諸（これ）を四夷（い）に迸（しりぞ）けて、與（とも）に中國（ちゆうごく）を同（おな）じうせず。此（これ）を唯（た）だ仁人（じんじん）能（よ）く人（ひと）を愛（あい）し能（よ）く人（ひと）を 惡（にく）むことを爲（な）すと謂（い）ふ。賢（けん）を見（み）て擧（あ）ぐること能（あた）はず、擧（あ）げて先（さき）んずること能（あた）はざるは命（まん）（慢）なり。不善（ふぜん）を 見（み）て退（しりぞ）くること能（あた）はず、退（しりぞ）けて遠（とほ）ざくること能（あた）はざるは過（あやまち）なり。人（ひと）の惡（にく）む所（ところ）を好（この）み、人（ひと）の好（この）む所（ところ）を惡（にく） む。是（これ）を人（ひと）の性（せい）に拂（もと）ると謂（い）ふ。菑（わざはひ）必（かなら）ず夫（そ）の身（み）に逮（およ）ぶ。是（こ）の故（ゆゑ）に君子（くんし）は大道（たいだう）あり。必（かなら）ず忠信（ちゆうしん）以（もつ）て之（これ）を得（え）、 驕泰（けうたい）以（もつ）て之（これ）を失（うしな）ふ。財（ざい）を生（しやう）ずるに大道（たいだう）あり。之（これ）を生（しやう）ずる者（もの）衆（おほ）く、之（これ）を食（くら）ふ者（もの）寡（すくな）く、之（これ）を爲（つく）る者（もの）疾（と）く、之（これ）を 用（もち）ふる者（もの）舒（じよ）なれば則（すなは）ち財（ざい）恒（つね）に足（た）る。仁者（じんしや）は財（ざい）を以（もつ）て身（み）を發（おこ）し、不（ふ）仁者（じんしや）は身（み）を以（もつ）て財（ざい）を發（おこ）す。未（いま）だ上（かみ）仁（じん）を好（この） みて下（しも）義（ぎ）を好（この）まざる者（もの）は有（あ）らざるなり。未（いま）だ義（ぎ）を好（この）みて其（そ）の事（こと）終（を）へざる者（もの）は有（あ）らざるなり。未（いま）だ府庫（ふこ）の財（ざい） 其（そ）の財（ざい）に非（あら）ざる者（もの）は有（あ）らざるなり。孟獻子（まうけんし）曰（いは）く、馬乘（ばじよう）を畜（か）へば鶏豚（けいとん）を察（さつ）せず。伐冰（ばつぴよう）の家（いへ）は牛羊（ぎうやう）を畜（か）はず。 百乘（じよう）の家（いへ）は聚斂（しうれん）の臣（しん）を畜（やしな）はず。其（そ）の聚斂（しうれん）の臣（しん）有（あ）らんよりは寧（むし）ろ盜臣（たうしん）あれと。此（これ）を國（くに）は利（り）を以（もつ）て利（り）と爲（な）さ ず、義（ぎ）を以（もつ）て利（り）と爲（な）すと謂（い）ふなり。 NDLJP:1047122/33 國家（こくか）に長（ちやう）として財用（ざいよう）を務（つと）むる者（もの）は必（かなら）ず小人（せうじん）に自（よ）る。彼（か）れ之（これ）を善（よ）くすと爲（な）して、小人（せうじん）に國家（こくか）を爲（をさ）めしむれば、 菑害（さいがい）並（なら）び至（いた）りて、善（ぜん）なる者（もの）ありと雖（いへど）も亦（また）之（これ）を如何（いかん）ともすること無（な）し。此（これ）を國（くに）は利（り）を以（もつ）て利（り）と爲（な）さず、義（ぎ）を 以（もつ）て利（り）と爲（な）すと謂（い）ふなり。〉

四書

大學 | 中庸 | 論語 | 孟子 |

この文書は翻訳文であり、原文から独立した著作物としての地位を有します。翻訳文のためのライセンスは、この版のみに適用されます。
原文:
翻訳文: