破れた靴下 (牧野虚太郎)


アパートの屋上にはアスピリンがほしてある
戀愛は大聲で齒を磨くに初まるとの事
コップをわることを覚えた若い詩人諸君よ
ために咽喉を透明なシャボンで洗ひ給へ

猿のなやみは三本の毛に止まるのですが
ハンカチイフ・パアテイは目下開催中である
むかれたリンゴの皮だけを殘して
後はパラフィン紙に包みたいと思ひますよ

神妙なカリカチュアは天国行チィケットである。
所で我等が教授連は朝風呂が大好きで
プレンソーダの如く變装を好むべきだつたのですが
やむなくネクタイ一つをして
水晶細工のサムライ達の直線を駈け上つた

シャボンが木の葉の樣に馳ける
一つ公開ラブレター朗読会をやつたら
さしづめ階段は感覚の最低でありませう。

破れた靴下が破れたシステムを覗いてゐる
教会の鼠はあまりにおしやべりな存在である
ために牧師はブリキの樣におとなしかつた

反對し給へ、晴雨計に分別を与へたまへ
若い詩人諸君
この樣に時勢は低空飛行を試みてゐるが
インクの道は木の葉の道ではないだらうか
派手な幼稚園といふ意味に於て
僕等は
ガラスの道を音たてずに歩く習慣をやめよう