白骨の御文

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• 底本: 国訳大蔵経編輯部 編『国訳大蔵経 : 昭和新纂』宗典部 第4巻,東方書院,昭和3-7. 国立国会図書館デジタルコレクション:info:ndljp/pid/1172261/1/315 p.589
• 書誌情報: 国訳大蔵経編輯部 編（東方書院　1932年）

御（お）文（ふみ）　　　五（ご）帖（でふ）目（め）　一六

夫（それ）、人間（にんげん）の浮生（ふしやう）なる相（さう）を、つら〳〵觀（くわん）ずるに、おほよそ、はかなきものは、この世（よ）の始（し）中終（ちうじゆ）、まぼろしのごとくなる一（いち）期（ご）なり。されば、いまだ萬歳（まんざい）の人身（にんしん）をうけたりといふ事（こと）をきかず。一（いつ）生（しやう）すぎやすし、いまにいたりて、たれか百（ひやく）年（ねん）の形（ぎやう）體（たい）をたもつべきや。我（われ）やさき人（ひと）やさき、けふともしらず、あすともしらず、をくれさきだつ人（ひと）は、もとのしずく、すゑの露（つゆ）よりもしげし、といへり。されば朝（あした）には紅顔（こうがん）ありて、夕（ゆふべ）には白骨（はくこつ）となれる身（み）なり。すでに無（む）常（じやう）の風（かぜ）きたりぬれば、すなはちふたつのまなこ、たちまちにとぢ、ひとつのいき、ながくたえぬれば、紅顔（こうがん）むなしく變（へん）じて、桃（たう）李（り）のよそほひを、うしなひぬるときは、六親（ろくしん）眷屬（けんぞく）あつまりて、なげきかなしめども、更（さら）にその甲斐（かひ）あるべからず。さてしもあるべき事（こと）ならねばとて、野（や）外（ぐわい）にをくりて、夜半（よは）のけぶりとなしはてぬれば、たゞ白骨（はくこつ）のみぞのこれり。あはれといふも、中（なか）〳〵をろかなり。されば人間（にんげん）のはかなき事（こと）は、老少（らうせう）不（ふ）定（ぢやう）のさかひなれば、たれの人（ひと）も、はやく後（ご）生（しやう）の一大（いちだい）事（じ）を心（こゝろ）にかけて、阿彌陀（あみだ）佛（ぶつ）をふかくたのみまいらせて、念佛（ねんぶつ）まうすべきものなり。あなかしこ〳〵。