狼森と笊森、盗森
小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が
この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな
ずうっと
噴火がやっとしずまると、野原や
四人の、けらを着た
先頭の百姓が、そこらの
「どうだ。いいとこだろう。畑はすぐ起せるし、森は近いし、きれいな水もながれている。それに日あたりもいい。どうだ、
「しかし
「うん。
「さあ、それではいよいよここときめるか。」
も一人が、なつかしそうにあたりを見まわしながら云いました。
「よし、そう決めよう。」いままでだまって立っていた、四人目の百姓が云いました。
四人はそこでよろこんで、せなかの荷物をどしんとおろして、それから来た方へ向いて、高く
「おおい、おおい。ここだぞ。早く
すると向うのすすきの中から、荷物をたくさんしょって、顔をまっかにしておかみさんたちが三人出て来ました。見ると、五つ
そこで
「ここへ畑起してもいいかあ。」
「いいぞお。」森が
みんなは
「ここに家建ててもいいかあ。」
「ようし。」森は一ぺんにこたえました。
みんなはまた声をそろえてたずねました。
「ここで火たいてもいいかあ。」
「いいぞお。」森は一ぺんにこたえました。
みんなはまた叫びました。
「すこし
「ようし。」森は一斉にこたえました。
男たちはよろこんで手をたたき、さっきから顔色を変えて、しんとして居た女やこどもらは、にわかにはしゃぎだして、子供らはうれしまぎれに
その日、晩方までには、もう
その人たちのために、森は冬のあいだ、
春になって、小屋が二つになりました。
そして
みんなはまるで、
そこでみんなは、てんでにすきな方へ向いて、
「たれか
「しらない」と森は一斉にこたえました。
「そんだらさがしに行くぞお。」とみんなはまた叫びました。
「来お。」と森は一斉にこたえました。
そこでみんなは色々の農具をもって、まず一番ちかい
みんなはどんどん
すると森の
急いでそっちへ行って見ますと、すきとおったばら色の火がどんどん燃えていて、
だんだん近くへ行って見ると居なくなった子供らは四人共、その火に向いて焼いた栗や
狼はみんな歌を歌って、夏のまわり
「狼森のまんなかで、
火はどろどろぱちぱち
火はどろどろぱちぱち、
栗はころころぱちぱち、
栗はころころぱちぱち。」
みんなはそこで、声をそろえて叫びました。
「狼どの狼どの、
狼はみんなびっくりして、一ぺんに歌をやめてくちをまげて、みんなの方をふり向きました。
すると火が急に消えて、そこらはにわかに青くしいんとなってしまったので火のそばのこどもらはわあと泣き出しました。
狼は、どうしたらいいか困ったというようにしばらくきょろきょろしていましたが、とうとうみんないちどに森のもっと奥の方へ
そこでみんなは、子供らの手を引いて、森を出ようとしました。すると森の奥の方で狼どもが、
「悪く思わないで呉ろ。栗だのきのこだの、うんとご
春になりました。そして子供が十一人になりました。馬が二疋来ました。
そして実もよくとれたのです。秋の末のみんなのよろこびようといったらありませんでした。
ところが、ある
みんなは、今年も野原を起して、畠をひろげていましたので、その朝も仕事に出ようとして農具をさがしますと、どこの
みんなは一生懸命そこらをさがしましたが、どうしても
「おらの道具知らないかあ。」
「知らないぞお。」と森は一ぺんにこたえました。
「さがしに行くぞお。」とみんなは叫びました。
「来お。」と森は一斉に答えました。
みんなは、こんどはなんにももたないで、ぞろぞろ森の方へ行きました。はじめはまず一番近い
すると、すぐ
「無い、無い、決して無い、無い。
みんなは、
「こいつはどうもあやしいぞ。笊森の笊はもっともだが、中には何があるかわからない。一つあけて見よう。」と云いながらそれをあけて見ますと、中には無くなった農具が九つとも、ちゃんとはいっていました。
それどころではなく、まんなかには、
子供らは叫んで逃げ出そうとしましたが、大人はびくともしないで、声をそろえて云いました。
「山男、これからいたずら
山男は、大へん
すると森の中で、さっきの山男が、
「おらさも粟餅持って来て呉ろよ。」と叫んでくるりと向うを向いて、手で頭をかくして、森のもっと奥へ走って行きました。
みんなはあっはあっはと笑って、うちへ帰りました。そして
次の年の夏になりました。平らな
それから馬も三疋になりました。その秋のとりいれのみんなの
今年こそは、どんな大きな粟餅をこさえても、
そこで、やっぱり不思議なことが起りました。
ある霜の一面に置いた朝納屋のなかの粟が、みんな無くなっていました。みんなはまるで気が気でなく、一生けん命、その辺をかけまわりましたが、どこにも粟は、
みんなはがっかりして、てんでにすきな方へ向いて
「おらの粟知らないかあ。」
「知らないぞお。」森は一ぺんにこたえました。
「さがしに行くぞ。」とみんなは叫びました。
「来お。」と森は
みんなは、てんでにすきなえ物を持って、まず手近の
「今日も粟餅だ。ここには粟なんか無い、無い、決して無い。ほかをさがしてもなかったらまたここへおいで。」
みんなはもっともと思って、そこを引きあげて、今度は笊森へ行きました。
すると赤つらの山男は、もう森の入口に出ていて、にやにや笑って云いました。
「あわもちだ。あわもちだ。おらはなっても取らないよ。粟をさがすなら、もっと北に行って見たらよかべ。」
そこでみんなは、もっともだと思って、こんどは北の黒坂森、すなわちこのはなしを私に聞かせた森の、入口に来て云いました。
「粟を返して
黒坂森は形を出さないで、声だけでこたえました。
「おれはあけ方、まっ黒な大きな足が、空を北へとんで行くのを見た。もう少し北の方へ行って見ろ。」そして粟餅のことなどは、一言も云わなかったそうです。そして全くその通りだったろうと私も思います。なぜなら、この森が私へこの話をしたあとで、私は
さてみんなは黒坂森の云うことが
それこそは、松のまっ黒な
「名からしてぬすと
すると森の奥から、まっくろな手の長い大きな大きな男が出て来て、まるでさけるような声で云いました。
「何だと。おれをぬすとだと。そう云うやつは、みんなたたき
「証人がある。証人がある。」とみんなはこたえました。
「
「黒坂森だ。」と、みんなも負けずに叫びました。
「あいつの云うことはてんであてにならん。ならん。ならん。ならんぞ。畜生。」と盗森はどなりました。
みんなももっともだと思ったり、
すると
「いやいや、それはならん。」というはっきりした
見るとそれは、銀の
岩手山はしずかに云いました。
「ぬすとはたしかに盗森に
そして岩手山は、またすましてそらを向きました。男はもうその辺に見えませんでした。
みんなはあっけにとられてがやがや
中でもぬすと森には、いちばんたくさん持って行きました。その代り少し砂がはいっていたそうですが、それはどうも仕方なかったことでしょう。
さてそれから森もすっかりみんなの友だちでした。そして
しかしその粟餅も、時節がら、ずいぶん小さくなったが、これもどうも仕方がないと、黒坂森のまん中のまっくろな
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