独楽 (牧野虚太郎)


樹かげにひとり掟をさだめ たはむれの日日がつづく
鞭もなくそしてドリアの肌もなく
窓は肩の上にあつて道はせばめられてゐる
もえさしの祕法をとほして
海がいつしか影をもとめるとき
影をおとし むなしい一人のフォルムとなつて 鱗のやうにかさなる
ちいさな独樂
ふくよかに歸り
うたによせ
あなたはこまかな地圖をあつめて
じぶんの誕生をつくり
しろい触手をあらはにかたむけながら
にくたいのやうに動搖をささへてゐる
いつはりのあたひがとほり
かなしみの植物がとほり
せめてものロマネスクな盜みに
たたへられてなにげなく
少女のやうにあたへられ
水をもたないスチールに
その手はのび 音ををしんでさるのであらうか
署名もなく
夜にちかいするどさからも
はや波もおこらず
あなたの指にかぞへて
ニンフの戀のかたみにいくどかまねかれてゐた