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『暗闇と沈黙』
 
"Darkness and Silence."
 
("The Lone Hand"誌に掲載されたC. A. ジェフリーズによる記事から許可を得て抜粋)
 
(Extracts from an article in the Lone Hand by C. A. Jeffries, by kind permission.)
 
{{center/e}}
    
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{{gap}}人は期待します。目が見えなかったり耳が聞こえずそのため言葉を発することもできない困難を抱える子どもたちに、州のすべての支援が届くことを。人は考えます。州は、彼・彼女らがこの世界に適応して暮らしていくため必要となる特別な種類の教育を受けられるようにするだろうと。しかし恐るべきことに、この金持ちのニューサウスウェールズ州は、沈黙と暗闇の中にいる子供たちに対して何もしていません。彼らは子供たちを、ニューサウスウェールズ盲聾唖者協会として知られる個人的な慈善団体に渡すことによって、州の手の上に残されている子供たちをできるだけ速やかに取り除くのです。まるで、子供たちは何の教育も受けなくても彼らの道をよりよく歩むことができるかのように、子供たちへ教育を与える義務を両親に課す法律はなく、州は、苦しんでいる小さなものたちに対する福祉にこれっぽっちの関心も持っていません
 
 
{{gap}}One would expect that children who are afflicted with blindness or are unable to speak because they cannot hear would receive all the assistance the State could give them. One would think that the State would enable them to acquire the special kind of education they need to make them fit to earn their own living in this world.
 
 
しかし恐るべきことに、この金持ちのニューサウスウェールズ州は、沈黙と暗闇の中にいる子供たちに対して何もしていません。彼らは子供たちを、ニューサウスウェールズ盲聾唖者協会として知られる個人的な慈善団体に渡すことによって、州の手の上に残されている子供たちをできるだけ速やかに取り除くのです。まるで、子供たちは何の教育も受けなくても彼らの道をよりよく歩むことができるかのように、子供たちへ教育を与える義務を両親に課す法律はなく、州は、苦しんでいる小さなものたちに対する福祉にこれっぽっちの関心も持っていません。
 
 
But, as a matter of horrible fact, this rich State of New South Wales does nothing for its Children of Silence and Darkness. Even when they are left on its hands as State children it gets rid of them as quickly as possible by passing them on to a private charity known as the N.S.W. Institution for the Deaf and Dumb and Blind, a humane charity founded and supported practically by private people on the voluntary system. So indifferent is the State towards the welfare of those afflicted little ones, that there is no law compelling parents to educate them, as there is with children who are better able to fight their way in the world without education. 
 
 
{{gap}}「1908-9年度ニューサウスウェールズ州公式年鑑」は1901年までの数値だけを掲載していますが、そのとき州にいた聾唖者は390人、盲人が884人でした。ただしそれがすべてではない畏れがあると附記されています…
 
 
{{gap}}The "Official Year Book of N.S.W. for 1908-9" gives the figures only up to 1901, when there were 390 deaf and dumb and 884 blind people in the State; but it is stated that it is feared that the full number has not been returned....
 
 
{{gap}}...シドニーのダーリントン協会は、1861年に「聾唖及び盲目の子供たちの人生を向上させるための、実行可能な限りの教育と扶助」のため設立されました。それ以外に州内にある類似の組織は、ドミニコ会によってワラタに作られた「聾唖の子供たちへのカトリック教育の原則に則った訓練と、彼らの有益な人生のための準備を目的とした」カトリック教育機関だけです。
 
{{gap}}...聾唖の子供は、恐るべき沈黙の世界—何かを説明してくれる言葉がまったく届かない、永劫の無音の中にいます。彼は、指で「これ」や「あれ」を語る一連の記号体系を学ばなければなりません。常に彼は、ものについて語るだけではなく、それを示したり、それがどうなったのかなどを示さなければなりません。手話を学んでアルファベットを習得した後、ダーリントンの教師たちは、彼に人の唇の動きを読み、彼自身には聞こえない声で明瞭に返答する{{r|術|すべ}}を教える作業を始めます。それは恐ろしい仕事です。子供たちに、どうやって口を形づくり、強制的に空気を最後まで押し出して様々なアルファベットの文字を表現するかを、何度も何度も、さらにまた何度も、繰りかえしてみせなければなりません。
 
{{gap}}さて、そういった全てのことだけでも十分哀れなことですが、さらに恐ろしい場合もあるのです。その子供が、耳が聞こえないだけではなく、目も見えないとしたら!そしてそういう子供達もいるのです。その恐怖に満ちた{{r|惨|むご}}い悲劇を想像してみてください。目の見えない赤ん坊は、変化のない暗闇の世界に住んでいます。聞くことも見ることもできない小さな人は、沈黙の海に囲まれた闇の砂漠の中で自分がひとりぼっちなことに気づきます。彼は足元に何かを感じます。空虚の外から幽霊のような手が彼に触れてきます。しかしそれは何の音もなく、まったく姿が見えず、それが何なのかといったこと全部に何ひとつ手がかりがないのです。
{{gap}}. . . The Darlington Institution in Sydney was founded in 1861 "for the education and maintenance, and, as far as practicable, the advancement in life of deaf and dumb and blind children." The only other institution in the State of the sort is the Catholic institution at Waratah, conducted by the Order of St. Dominic, "for the instruction on the principles of Catholic education of deaf and dumb children, and the preparation of them for a useful life."
 
 
{{gap}}...聾唖の子供は、恐るべき沈黙の世界—何かを説明してくれる言葉がまったく届かない、永劫の無音の中にいます。
 
 
{{gap}}. . . The deaf and dumb child finds himself in a world of fearful stillness—one everlasting silence, through which comes no word to explain anything.
 
 
彼は、指で「これ」や「あれ」を語る一連の記号体系を学ばなければなりません。常に彼は、ものについて語るだけではなく、それを示したり、それがどうなったのかなどを示さなければなりません。
 
 
He must learn to talk on his fingers, that a certain set of signals is this thing and another that thing. Always he has to be not only told of a thing, but to be shown it, or shown how it is done.
 
 
手話を学んでアルファベットを習得した後、ダーリントンの教師たちは、彼に人の唇の動きを読み、彼自身には聞こえない声で明瞭に返答する{{r|術|すべ}}を教える作業を始めます。それは恐ろしい仕事です。子供たちに、どうやって口を形づくり、強制的に空気を最後まで押し出して様々なアルファベットの文字を表現するかを、何度も何度も、さらにまた何度も、繰りかえしてみせなければなりません。
 
 
When he has learned to talk on his fingers, and mastered the alphabet, the teachers at Darlington commence on the task of teaching him to read what people say by the movements of their lips, and to articulate in return in n voice that he himself cannot hear. It is a fearsome task; for the child has to be shown over and over and over again how to express various letters of the alphabet by shaping the mouth and forcing the air through.
 
 
{{gap}}さて、そういった全てのことだけでも十分哀れなことですが、さらに恐ろしい場合もあるのです。その子供が、耳が聞こえないだけではなく、目も見えないとしたら!そしてそういう子供達もいるのです。
 
 
{{gap}}Now, all that is pitiful enough. But think of the other horrible possibilities. Think of the child that is both blind and deaf! And there are such children.
 
 
その恐怖に満ちた{{r|惨|むご}}い悲劇を想像してみてください。目の見えない赤ん坊は、変化のない暗闇の世界に住んでいます。聞くことも見ることもできない小さな人は、沈黙の海に囲まれた闇の砂漠の中で自分がひとりぼっちなことに気づきます。彼は足元に何かを感じます。空虚の外から幽霊のような手が彼に触れてきます。しかしそれは何の音もなく、まったく姿が見えず、それが何なのかといったこと全部に何ひとつ手がかりがないのです。
 
 
Imagination reels in the effort to grasp the full horror of that awful tragedy. The blind babes live in a world of unrelieved darkness; but the little one who can neither hear nor see finds himself alone in a desert of darkness surrounded by an ocean of silence. He feels something beneath his feet; out of the void ghostly hands touch him; but there is no sound, no glimpse, no hint of what it all means.
 
 
{{gap}}目の見えない赤ん坊は、父親の肩にしがみついて音たちの間の探検に出掛け、彼の内側の反響する宇宙の中に{{r|轟|とどろ}}く、見知らぬ音に震えてぞくぞくします。彼は、生きていて、感じています。そして見ることのできない父と母から生理的快適さを供給されている限り、少なくともいろいろな刺激のある人生を幸福に生きられるかもしれません。
 
{{gap}}しかし別な赤ん坊は、永遠の沈黙と、暗闇の中で、小さな岩にしがみついています。完全に停滞したよどみの真ん中で、誰の助けもないまま生きている彼は、形のないその場所、彼自身のかけらすらもない虚空の中にいるのです。彼は、自分を苦しめる欲求と願い以外には、何も知らないのです。彼が抱えているのは生きながらの死であり、無力な赤ん坊は、「神さま、神さま、どうして僕を見捨てられたのですか?」と泣くことすらできません。
 
{{gap}}...ダーリントンに、耳が聞こえず目が見えない8才の小さな女の子がいます。3才まで、小さなアリス・ベタリッジは快活な赤ちゃんで、他の子と同じくしっかり見ることのでき、他の子と同じようによくお喋りをする子でした。そして、髄膜炎を患いました。小さなアリスは、恐ろしい痛みとひどい譫妄状態を経験した後、いつも真っ暗で、まったく音のない世界に生還したことに気付いたのです。彼女は、陽の光の思い出や、しばしば心に浮かぶ大地の音楽に苛まれました。
{{gap}}The blind babe can cling to his father's shoulder, and go out to explore among sounds, and shiver and thrill as fresh notes boom into his reverberating universe; for him there is romance and adventure and sensation among the tumbling waves of sound. He lives and feels; and, as long as his creature comfort are supplied by the unseen father and mother, can be happy and live a life that has at least variety to spice it.
 
 
{{gap}}しかし別な赤ん坊は、永遠の沈黙と、暗闇の中で、小さな岩にしがみついています。完全に停滞したよどみの真ん中で、誰の助けもないまま生きている彼は、形のないその場所、彼自身のかけらすらもない虚空の中にいるのです。彼は、自分を苦しめる欲求と願い以外には、何も知らないのです。
 
 
{{gap}}But that other babe, clinging to his little rock in the midst of eternal silence and darkness, living helplessly amidst utter stagnation, finds himself in a place without form, a void of which he is not a part. He knows not anything, only wants and yearnings that torment him.
 
 
彼が抱えているのは生きながらの死であり、無力な赤ん坊は、「神さま、神さま、どうして僕を見捨てられたのですか?」と泣くことすらできません。
 
 
His is a living death, out of which the helpless baby soul cannot even cry, "My God, my God, why hast Thou forsaken me?"
 
 
{{gap}}...ダーリントンに、耳が聞こえず目が見えない8才の小さな女の子がいます。3才まで、小さなアリス・ベタリッジは快活な赤ちゃんで、他の子と同じくしっかり見ることのでき、他の子と同じようによくお喋りをする子でした。
 
 
{{gap}}. . . At Darlington they have a little eight-year-old girl who is both deaf and blind. Up to the age of three little Alice Betteridge was a bright little baby, who could see as clearly as any other child, and tripped about chattering as other children do.
 
 
そして、髄膜炎を患いました。小さなアリスは、恐ろしい痛みとひどい譫妄状態を経験した後、いつも真っ暗で、まったく音のない世界に生還したことに気付いたのです。
 
 
Then came meningitis; and when little Alice came thorough the horrible pain, the fearful delirium, it was to find that she had died and been born again in a world where it was always dark, and which was utterly devoid of sound.
 
 
彼女は、陽の光の思い出や、しばしば心に浮かぶ大地の音楽に苛まれました。
 
 
She had tormenting recollections of the sunlight, and haunting memories of the music of the earth.
 
 
{{gap}}しかしそれらは、彼女から永遠に去ったのです。
 
{{gap}}幼く無力な子供が何を感じたか、想像してみてください。かのダンテの知性をもってしても彼女の窮境ほど恐ろしい何かを想像することはできなかったのです。彼女の幼さが、それらの恐怖、あるいはその一部でも和らげてくれていたのであれば、どんなに救われることでしょう。しかし、小さな少女が、暗闇の中にいる自分に気づいてお母さんやお父さんを呼ぼうと虚しく試みても自分の声を聞くこともできず、両親が彼女を慰め彼女の恐怖を鎮めるために、苦しみを訴える彼女の声を聞こうと努力しても聞くことができなかったであろうことは、想像に難くありません。彼女の横にまだ両親がいることさえ彼女は知ることができなかったのです。永遠の闇は彼女を打ち砕いたことでしょう。重苦しくて恐ろしい無音は彼女を怯えさせたことでしょう。これほどの孤独は言葉で言い表せないほど酷いものに違いありません。大人であれば、これほどの経験に耐えて生きていくことができずに、気が狂うか死んでしまっていたことでしょう。暗黒と無音。そして人生との唯一のコミュニケーションである幽霊のような手の感触。
 
{{gap}}But they had gone for ever.
 
 
{{gap}}幼く無力な子供が何を感じたか、想像してみてください。かのダンテの知性をもってしても彼女の窮境ほど恐ろしい何かを想像することはできなかったのです。
 
 
{{gap}}Imagination reels in the effort to understand what that poor helpless child felt. Even the mind of Dante could not have imagined anything more horrible than her plight.
 
 
彼女の幼さが、それらの恐怖、あるいはその一部でも和らげてくれていたのであれば、どんなに救われることでしょう。しかし、小さな少女が、暗闇の中にいる自分に気づいてお母さんやお父さんを呼ぼうと虚しく試みても自分の声を聞くこともできず、両親が彼女を慰め彼女の恐怖を鎮めるために、苦しみを訴える彼女の声を聞こうと努力しても聞くことができなかったであろうことは、想像に難くありません。彼女の横にまだ両親がいることさえ彼女は知ることができなかったのです。
 
 
Let us hope that infancy robbed it or some of its horror for her. But we can imagine the little girl, waking to find herself in the dark, trying vainly to call to mother or father, and unable to hear herself, or to hear her agonised parents trying to soothe her and quieten her terrors. She could not even know that they were still with her.
 
 
永遠の闇は彼女を打ち砕いたことでしょう。重苦しくて恐ろしい無音は彼女を怯えさせたことでしょう。これほどの孤独は言葉で言い表せないほど酷いものに違いありません。大人であれば、これほどの経験に耐えて生きていくことができずに、気が狂うか死んでしまっていたことでしょう。暗黒と無音。そして人生との唯一のコミュニケーションである幽霊のような手の感触。
 
 
The everlasting darkness must have crushed her; the heavy, fearful silence have terrified her. The loneliness must have been unutterably dreadful. No adult could live through such an experience: madness or death would end it. Blackness-silence; and the only communication with life, the touch of ghostly hands.
 
 
{{gap}}私は、彼女がダーリントンに来る前の生活を何も知りません。しかし、いかに愛情が注がれていたとしても、その生活は実に辛いものだったに違いありません。しかし、とうとう彼女はダーリントンにやってきて、暗闇の中の手は彼女がそれまで知っていたものとは違うことがわかりました。
 
{{gap}}その手は、彼女自身の手を取って彼女の腕の中に小さな人形を置き、彼女の指でサインを作らせました。それは手話で「人形」という単語でした。小さな女の子にはそれは何の意味も持たないものでした。そして人形は彼女から取り上げられました。彼女が同じサインを作らないと腕の中には戻ってこないのです。彼女はその人形の感触すべてに愛情を感じていたので、彼女に何かが起きたように見えました。彼女は手で体を撫でると、哀しげに微笑みました。人形は彼女自身のようなものだったのです。
 
{{gap}}Of her life till she came to Darlington l know nothing. But it must have been terrible indeed, despite all that affection could do. But at last she arrived at Darlington, and found that the hands in the darkness were different to the others she had known before.
 
 
{{gap}}その手は、彼女自身の手を取って彼女の腕の中に小さな人形を置き、彼女の指でサインを作らせました。それは手話で「人形」という単語でした。小さな女の子にはそれは何の意味も持たないものでした。
 
 
{{gap}}In her arms was placed a little doll, and the hand that placed it there took her Own hand and made a sign on the fingers. It was the word "doll" in the finger language. To the little girl it meant nothing.
 
 
そして人形は彼女から取り上げられました。彼女が同じサインを作らないと腕の中には戻ってこないのです。彼女はその人形の感触すべてに愛情を感じていたので、彼女に何かが起きたように見えました。彼女は手で体を撫でると、哀しげに微笑みました。人形は彼女自身のようなものだったのです。
 
 
Then the doll was taken away, only to be given back to her with the same sign. She felt it all over lovingly, and then something seemed to occur to her. She passed her hand over her own body, and smiled sadly. The doll was like herself.
 
 
{{gap}}人形が彼女の腕の中に置かれる時には、いつも幽霊の手が彼女の指を同じサインに作りました。ある日、彼女は手探りであの不思議な手を探りあてると、彼女の指が作らされていたサインを何度も繰り返したのです。人形はすぐに彼女の腕の中に置かれました。
 
{{gap}}それがコミュニケーションの最初の一歩でした。傷つけられていた小さな脳が目覚めたのです。そのサインは常に人形を持ってくるようでした。ある日、その暗闇の中の手が、彼女の指を人形の鼻へ導き、続けて彼女自身の鼻へ触れさせ、これまでとは違うサイン—「n-o-s-e」(鼻)を与えました。彼女は理解し、先生の顔を探し、先生の鼻を触ってそのサインを綴りました。それから髪の毛(hair)、口(mouth)、耳(ears)、頭(head)と順番にそれは続けられました。ゆっくり、本当にとてもゆっくり、小さなアリスは彼女の頭と顔から体までの場所と呼び名を教わったのです。
 
{{gap}}激しく打ちのめされていた脳は、ふたたび活発に活動を始めました。長いあいだ表現と交流を求め続け、渇望していた小さな魂は、これらのすばらしいサインとしっかり結びつきました。次から次へと彼女は学習することに熱中していきました。けれども、彼女の全面的な熱意にもかかわらず、それは小さな女の子の教師にとって長く、長く続く疲労を伴い、小さな少女にとっても、ゆっくり、ゆっくりした歩みの遅い旅でした。湾はあまりにも広大で、メッセージはとても弱々しいものだったのです。糸に通すための小さなビーズが彼女に渡されたあと、「beads(ビーズ)」という単語が綴られました。彼女は「beads」と綴ってそれらを貰いました。
{{gap}}Whenever the doll was placed in her arms the same sign was made on her fingers by the ghostly hands. One day she groped, and, finding the mysterious hand, repeated the signs it had made to her on its fingers. The doll was immediately placed in her arms.
 
 
{{gap}}それがコミュニケーションの最初の一歩でした。傷つけられていた小さな脳が目覚めたのです。そのサインは常に人形を持ってくるようでした。
 
 
{{gap}}It was the first step in communication. The little scarred brain was stirred. That sign would always bring the doll.
 
 
ある日、その暗闇の中の手が、彼女の指を人形の鼻へ導き、続けて彼女自身の鼻へ触れさせ、これまでとは違うサイン—「n-o-s-e」(鼻)を与えました。彼女は理解し、先生の顔を探し、先生の鼻を触ってそのサインを綴りました。それから髪の毛(hair)、口(mouth)、耳(ears)、頭(head)と順番にそれは続けられました。ゆっくり、本当にとてもゆっくり、小さなアリスは彼女の頭と顔から体までの場所と呼び名を教わったのです。
 
 
One day the hand in the dark passed her fingers over the nose of the doll, and then over her own nose, and gave another and different sign—n-o-s-e. She understood, and, feeling for her teacher's face, touched her nose and spelt it. Hair, mouth, ears, head, all followed in their turn; and slowly, very slowly indeed, little Alice learned the geography of her own head and face, and finally her body.
 
 
{{gap}}激しく打ちのめされていた脳は、ふたたび活発に活動を始めました。長いあいだ表現と交流を求め続け、渇望していた小さな魂は、これらのすばらしいサインとしっかり結びつきました。次から次へと彼女は学習することに熱中していきました。
 
 
{{gap}}The brain that had been so sorely smitten became active once more. The little soul that longed for expression and company fastened on to these wonderful signs with eager avidity. She became frantic to learn more and more.
 
 
けれども、彼女の全面的な熱意にもかかわらず、それは小さな女の子の教師にとって長く、長く続く疲労を伴い、小さな少女にとっても、ゆっくり、ゆっくりした歩みの遅い旅でした。湾はあまりにも広大で、メッセージはとても弱々しいものだったのです。糸に通すための小さなビーズが彼女に渡されたあと、「beads(ビーズ)」という単語が綴られました。彼女は「beads」と綴ってそれらを貰いました。
 
 
But, in spite of all her eagerness, it was long, long, weary work for the teacher, and slow, slow travelling for the little girl. The gulf was so great, the messages so weak. She was given beads to thread, and the word "beads" spelt to her. When she spelt "beads" she got them.
 
 
{{gap}}しかし、留意しておくべきことは、彼女は並外れて賢かったとはいえ、まだ単なる赤ん坊にすぎなかったということです。そして、憶えなくてはならない単語はいずれも、アルファベットについてなんの知識も持っていない彼女にとっては意味を持たない記号だったのです。
 
{{gap}}彼女と、彼女が何ひとつ知らない世界との間に横たわる大きな湾をつなぐ完全な橋が現れるのは、もっと後のことでした。彼女は、指や手首や手のひらでもっとサインを作れることを少しづつ理解しはじめ、その事実は彼女を戸惑わせたようでした。表現の出口をいつも探している自然は、その中のすべてにいくつかの規則があることを彼女に直感的に伝え、それを探し当てるように彼女を促しました。彼女は小さな箱の錠を外し、壁の外に出るために取っ手を回しました—しかし、彼女の先生は毎日、彼女が眠りから目覚めてからベッドに戻るまでの間、彼女の指にアルファベットを教えていたのですが、彼女は自分の小さな魂が切実に求めていた鍵を見つけることができずにいたのです。
 
{{gap}}彼女に人形、ビーズ、食べもの、飲み物、りんご、そして彼女が知っている全てのものをもたらすすべての記号は(彼女が知っていた事は彼女が触れたものだけだということを思い出して下さい)、神秘的で素晴らしく賢い両手が、毎日彼女が起きてからベッドに戻るまでの間、彼女に伝えたサインの組み合わせであることを、彼女は少しずつ理解しました。しかしそれは、重要な発見でした。発見した後には、時間をかけてそれを応用していけばよかったのです。彼女は人形(doll)と犬(dog)がどちらも同じ(do)というサインで始まることを知り、色々なものの始まりであるトップ(top)と花を入れるポット(pot)は、同じサイン、記号の順序を逆さにしただけだということを知りました。そのようにしながら彼女は、アルファベットとその素晴らしい使い方を学びました。
{{gap}}But it must be remembered she was only a baby, although an unusually bright one. And every one of those words was an arbitrary sign which she had to remember, for she had no idea of the alphabet.
 
{{gap}}さらに、(努力すれば)もっと素晴らしいものも得られることが彼女にはわかってきました。同じ全知全能の両手は、彼女に、表面が少し盛り上がった点に覆われた柔らかくて滑らかな素材の断片を与えました。最初のものはひとつの点で、全能の両手は最初の記号(A)を示しました。縦に並んだふたつの点は、アルファベットの二番目の字(B)でした。点は6個以上には増えませんでしたが、指で伝えることのできる全てのサインに対応する点記号があることを彼女は理解しました。
 
{{gap}}幼いアリスにはそれが何のためのものなのか理解できませんでした。でもそれは興味深いものでした。彼女は、新しい遊びを見つけたように、若い心が新しいものに示す全面的な熱意をもってそれにのめり込みました。そしてその素材のシート全体を先生が渡すと、彼女は点の中にあるサインを拾い上げて先生の指の上にそれをなぞってみせ、楽しむのです。彼女は手話を憶えた時のように、点字アルファベットを学んでいきました。一生懸命に勉強して彼女はそれを習得しました。まもなく彼女は、その限りない楽しみの中で、その滑らかな素材が彼女に語りかけてくることを発見したのです!それは彼女に猫と人形がどうやって一緒に寝たのかという素晴らしい物語を話してくれ、そして猫と犬があまり親しい友人ではなかったことも話してくれました。
{{gap}}彼女と、彼女が何ひとつ知らない世界との間に横たわる大きな湾をつなぐ完全な橋が現れるのは、もっと後のことでした。彼女は、指や手首や手のひらでもっとサインを作れることを少しづつ理解しはじめ、その事実は彼女を戸惑わせたようでした。表現の出口をいつも探している自然は、その中のすべてにいくつかの規則があることを彼女に直感的に伝え、それを探し当てるように彼女を促しました。
 
{{gap}}小さなアリスはまだダーリントンに来て3年も経っていませんが、手話とブライユ点字のどちらにも上達しました。そして彼女はたくさんのページで、彼女と同じような子供達や、世界の不思議、生と死についての物語を読んでいます。ただそれはいつも、彼女がまだ感じたことがなく、理解できないことが表現されている単語を一字ずつ追う時間のかかる作業です。
 
{{gap}}彼女はまだ沈黙の広間の中で、計り知れない暗闇に取り囲まれています。しかし世界はもう空虚でも無形でもありません。暗黒の中は彼女のような人たちでいっぱいです。彼女が手を伸ばすと、彼女の合図を理解して答えてくれる仲間をいつも見つけるのです。彼女は空虚に取り囲まれた孤独の恐ろしい島を後にして、夢中になれる面白いことや、彼女がそれについてすべて知りたいと切望するものの大きな素晴らしい宝庫に到着しました。
{{gap}}That was to come later, and would represent the completed bridge across the great gulf that lay between her and the inhabited world she had no idea of. Gradually she began to understand that she could make more signs than she had fingers, wrists and palms, and the fact appeared to puzzle her. Baffled nature, seeking always an outlet for expression, told her instinctively that there was some system in it all, and impelled her to search for it. 
 
 
彼女は小さな箱の錠を外し、壁の外に出るために取っ手を回しました—しかし、彼女の先生は毎日、彼女が眠りから目覚めてからベッドに戻るまでの間、彼女の指にアルファベットを教えていたのですが、彼女は自分の小さな魂が切実に求めていた鍵を見つけることができずにいたのです。
 
 
She had used a key to unlock a little box, turned a handle to open a way through a wall—but she could not find the key her little soul was so hungry for, though every day, when she awoke from sleep and before she went to bed, her teacher taught her the alphabet on her fingers.
 
 
{{gap}}彼女に人形、ビーズ、食べもの、飲み物、りんご、そして彼女が知っている全てのものをもたらすすべての記号は(彼女が知っていた事は彼女が触れたものだけだということを思い出して下さい)、神秘的で素晴らしく賢い両手が、毎日彼女が起きてからベッドに戻るまでの間、彼女に伝えたサインの組み合わせであることを、彼女は少しずつ理解しました。
 
 
{{gap}}Very gradually it came home to her that all these signals which would bring her a doll, beads, food, a drink, an apple, and all the things she knew (remember, she only knew of the things she had touched), were all combinations of these signs that the mysterious and wonderfully wise hands taught her every time she awoke and went to bed.
 
 
しかしそれは、重要な発見でした。発見した後には、時間をかけてそれを応用していけばよかったのです。彼女は人形(doll)と犬(dog)がどちらも同じ(do)というサインで始まることを知り、色々なものの始まりであるトップ(top)と花を入れるポット(pot)は、同じサイン、記号の順序を逆さにしただけだということを知りました。そのようにしながら彼女は、アルファベットとその素晴らしい使い方を学びました。
 
 
But it was the decisive discovery. After that it was merely a matter of application and time. She learned that doll and dog both commenced with the same signs, that the top of anything and the pot that held the flowers were the same signals or signs given in the opposite order. So she learned the alphabet and its wonderful use.
 
 
{{gap}}さらに、(努力すれば)もっと素晴らしいものも得られることが彼女にはわかってきました。同じ全知全能の両手は、彼女に、表面が少し盛り上がった点に覆われた柔らかくて滑らかな素材の断片を与えました。最初のものはひとつの点で、全能の両手は最初の記号(A)を示しました。
 
 
{{gap}}Then another and more wonderful thing (if possible) was revealed to her. The same omniscient hands gave her a piece of soft, smooth surfaced material, covered with a number of little raised dots. The first was a single dot, and the omniscient hands made the first sign (A).
 
 
縦に並んだふたつの点は、アルファベットの二番目の字(B)でした。点は6個以上には増えませんでしたが、指で伝えることのできる全てのサインに対応する点記号があることを彼女は理解しました。
 
 
Two dots, one above the other (B), were the second letter of the alphabet. There were never more than six dots, but she found that every sign she could give on her fingers had a corresponding signal in dots.
 
 
{{gap}}幼いアリスにはそれが何のためのものなのか理解できませんでした。でもそれは興味深いものでした。彼女は、新しい遊びを見つけたように、若い心が新しいものに示す全面的な熱意をもってそれにのめり込みました。そしてその素材のシート全体を先生が渡すと、彼女は点の中にあるサインを拾い上げて先生の指の上にそれをなぞってみせ、楽しむのです。
 
 
{{gap}}What it was for little Alice could not understand. But it was interesting; and it struck her as a new game, which she entered into with all the zest the young mind feels for a new thing. So, when they gave her a whole sheet of this material, she would amuse herself by picking out the signs in dots and rendering them on her teacher's fingers.
 
 
彼女は手話を憶えた時のように、点字アルファベットを学んでいきました。一生懸命に勉強して彼女はそれを習得しました。まもなく彼女は、その限りない楽しみの中で、その滑らかな素材が彼女に語りかけてくることを発見したのです!それは彼女に猫と人形がどうやって一緒に寝たのかという素晴らしい物語を話してくれ、そして猫と犬があまり親しい友人ではなかったことも話してくれました。
 
 
So she learned that there was a dot alphabet, even as there was one of the fingers. She worked hard and acquired it; and then, to her boundless delight, found that the smooth material could talk to her! It told her wonderful tales, of how the cat and the doll slept together, and that the cat and the dog were not very bosom friend.
 
 
{{gap}}小さなアリスはまだダーリントンに来て3年も経っていませんが、手話とブライユ点字のどちらにも上達しました。そして彼女はたくさんのページで、彼女と同じような子供達や、世界の不思議、生と死についての物語を読んでいます。
 
 
{{gap}}Little Alice has been less than three years at Darlington, but she has made good progress with both the finger and the Braille alphabet. And on those lotted pages she reads stories of children like herself, of the wonders of the world, of life and death.
 
 
ただそれはいつも、彼女がまだ感じたことがなく、理解できないことが表現されている単語を一字ずつ追う時間のかかる作業です。
 
 
But it is always slow work, spelling out the words letter by letter stumbling over words that represent things she does not understand, not having felt them yet.
 
 
{{gap}}彼女はまだ沈黙の広間の中で、計り知れない暗闇に取り囲まれています。しかし世界はもう空虚でも無形でもありません。暗黒の中は彼女のような人たちでいっぱいです。彼女が手を伸ばすと、彼女の合図を理解して答えてくれる仲間をいつも見つけるのです。
 
 
{{gap}}She is still in the halls of silence, surrounded by impenetrable darkness. But the world is no longer void and without form. The blackness is filled with other people like herself. Whenever she reaches out a hand she finds a companion to whom she can make signs that are understood and replied to.
 
 
彼女は空虚に取り囲まれた孤独の恐ろしい島を後にして、夢中になれる面白いことや、彼女がそれについてすべて知りたいと切望するものの大きな素晴らしい宝庫に到着しました。
 
 
She has left the horrible-island of loneliness, surrounded by the ocean of emptiness, and arrived in a g great and wonderful treasure house of things that are absorbingly interesting, and which she is anxious to find out all about.
 
 
{{gap}}新鮮なものたちに触れること、そしてあの素晴らしい指の言葉でそれらがどう呼ばれているのかを教わり、さらに素晴らしい点字のページに浮き出た点を通じてそれらについて読むことは、彼女にとって大きな喜びです。彼女のまわりには一緒に遊んでくれる同じような子供たちがいます。
 
 
{{gap}}To feel fresh things and learn what they are called in that wonderful finger language, and to read about them in those still more wonderful raised dots on the Braille page, is delightful. Around her are other children like herself, with whom she plays.
 
 
彼女のお気に入りのゲームは、おもちゃのベッドに他の子供たちを押し込んで寝かしつけることです。
 
 
Her favourite game is to put other children into a make-believe bed and smooth them down for the night.
 
{{gap}}新鮮なものたちに触れること、そしてあの素晴らしい指の言葉でそれらがどう呼ばれているのかを教わり、さらに素晴らしい点字のページに浮き出た点を通じてそれらについて読むことは、彼女にとって大きな喜びです。彼女のまわりには一緒に遊んでくれる同じような子供たちがいます。彼女のお気に入りのゲームは、おもちゃのベッドに他の子供たちを押し込んで寝かしつけることです。
 
{{gap}}授業が終わると彼女は暖かい日だまりの中に腰掛け(盲人は、まるでそこから光を吸収するかのように陽の光を愛しているように思えます)、そしてお人形さんの世話をするか、ビーズに糸を通すか、点字のページの中にいる妖精たち、小さな男の子や女の子たち、海や船、大きな都市、王様と王女様たちの物語を読むのです。
 
 
{{gap}}When the lessons are over she sits out in the Warm Sunshine (the blind seem to love the sunshine as though their pores absorbed the light from it) and nurses her doll, or threads her beads, or reads stories in the dotted pages of fairies, little boys and girls, of seas, ships, great cities, kings and queens. 
 
 
{{gap}}私が最後に小さなアリスを見たのは写真の中ででした。そこには3人の盲目の子がいて、左にいる少女はブライユ点字を朗読し、一番右の少女は、盲人独特の淋しげな微笑を浮かべながら、物語を楽しみ、一人だけ無音の中にいる小さなアリスの指にアルファベットでお話を伝えています。
 
 
{{gap}}Last time I saw little Alice was as in the photograph. The girl on the left is reading aloud from the Braille page, for they are all three blind, and the girl on the right enjoying the story, smiling sadly as the blind do, is telling it by the finger alphabet to little Alice, who alone sits in the silence.
 
 
{{gap}}そして、小さなアリスは、幸せです。
 
 
{{gap}}And little Alice is happy.
 
 
[[File:Playmates of Darkness and Silence.jpg (The Gestuer 1911) VictorianCollections.jpg|center]]