「紫式部日記 (渋谷栄一校訂)」の版間の差分

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 何ばかりの耳とどむることもなかりつる日ごろなれど、五節過ぎぬと思ふ内裏わたりのけはひ、うちつけにさうさうざうしきを巳の日の夜の調楽は、げにをかしかりけり。若やかなる殿上人など、いかに名残つれづれならむ。
 
 高松の小君達さへ、こたみ入らせたまひし夜よりは、女房ゆるされて、間のみなく通りありきたまへば、いとどはしたなげなりや。さだ過ぎぬるを豪家にてぞ隠ろふる。五節恋しなども、ことに思ひたらず、やすらひ、小兵衛などや、その裳の裾、汗衫にまつはれてぞ、小鳥のやうにさへづりざれおはさうずめる。
 
 臨時の祭の使ひは殿の権中将の君なり。その日は御物忌みなれば、殿、御宿直せさせたまへり。上達部も舞人の君達もこもりて、夜一夜、細殿わたり、いともの騒がしきけはひしたり。